県立図書館のお話
揚羽の衝撃
実は、揚羽は、『わたなべなつみ』と言う名前が気になっていた。
7才上の姉の立羽は、実は渡邊圭典と言う男と3年前に結婚していた。
年は、32才。
姉とは恋愛結婚だと言うが、実は再婚で、姉と結婚する3年前に前の奥さんを亡くしている。
そして、結婚したいと姉が連れてきた時に、
「娘のなつみは、死んだ前の嫁の両親が引き取っておりまして、時々会いますが、向こうの養女になることになっています」
と言っていた。
一応頭を打っているため、診て貰ったが、打ち身ともしかしたら首に痛みが残ると、湿布を貼って貰った。
この程度で診察室と言うよりも、緊急治療室にいるのは、引っ張っても離さない小さな手と、何となく離しては別れてしまいそうで寄り添っていた。
「レントゲン‼頭部損傷はないかも調べる‼」
と言う声の中、ポケットの中のスマホのバイブレーションが響いた。
険しい顔になる看護師に、頭を下げつつチェックすると、姉からの電話である。
「す、すみません。図書館から家族に連絡が行ったようで、手短に済ませます。すみません」
と断り、電話をとる。
「姉貴‼何だよ」
「何だよとは何よ‼怪我をしたって聞いたのよ。どこの病院?旦那いるから瑠璃連れて迎えに行くわ」
「……なぁ、姉貴。義兄さんの娘のなつみちゃんって、小学生だったっけ?」
「何を急に。えぇ。小学校6年生よ」
揚羽は顔をしかめる。
「なつみちゃんって、ひらがな?漢字だったら夏の海?」
「漢字だけど、珍しいの。夏に蜜柑の蜜。夏蜜ちゃんよ」
揚羽は言葉を失う。
「どうしたの?揚羽?」
唇を噛み、しばらく黙り込んでいた揚羽は、姉に残酷な事実を宣告する。
「姉貴……実は、俺は巻き込まれただけなんだけど、小学生の女の子が図書館の脚立から滑り落ちたんだ。その時に背中を打ち付けて、起き上がった子の上に、脚立が落ちてね……その子が、今、レントゲンと、頭を打っていないか検査がある。俺の手を握ってるんだ、見守ろうと思う。姉貴は来ないで」
「何でよ?あなたも怪我してるんでしょ?」
「俺は打ち身と首の捻挫」
「なら……」
立羽に低い声で告げる。
「意識をなくしている女の子の名前は渡邊夏蜜ちゃん。小学校6年生。住所は蛍池町のほたる園。漢字は、渡邊は姉貴と同じ名字。名前は夏に蜜柑の蜜……」
「な、何ですって⁉」
「姉貴も瑠璃も大事だけど。俺、今日、初対面で小さい体で倒れてる夏蜜ちゃん、ほっとけない。今も、手をぎゅって握って、離れたくないって必死に訴えてるようで、ほっとけない。それに、3年前に姉貴と結婚したいって言ってた義兄さん、言ってたよな?夏蜜ちゃんは奥さんの方の両親のもとにいってるって。それ、嘘じゃん。夏蜜ちゃん、ほたる園にいて、今怪我をしてるじゃん‼姉貴はくんな‼義兄さん呼べよ‼」
「揚羽‼待って‼ちょっと待って‼私には話がわからない着いていけないわ‼そっちに行くから‼」
「姉貴はくんな‼義兄さんにじかに話を聞かせてもらう‼じゃぁな。ここ、病院だ。電話かけてくんな‼」
電話を切ると、待っていたのか、
「お兄さん?夏蜜ちゃんを預かりますね。ちゃんと検査をしたら戻ってきますので、待合室にでも……」
「あ、はい。すみません。よろしくお願いいたします」
手が離れ、一瞬もう一度つかもうと彷徨う。
しかし、看護師は夏蜜を連れて行ってしまう。
立ちすくんでいたものの、俯き、緊急治療室を出ていくと黒田が立ち上がる。
「大丈夫かい?揚羽君」
「俺の怪我は……でも、あの……すみません。知らなかったのですが……あの子、夏蜜ちゃんは、俺の姪です」
黒田は固まる。
視線を彷徨わせ、ためらいがちに告げる。
「実は、3年前に、姉が結婚してまして……義兄は、結婚の時に『娘のなつみがいますが、3年前……つまり今から6年前ですね……妻がなくなったときに、向こうの両親が引き取っておりまして』と言っていて……、姉の結婚式にも出席してないのは複雑だろうと思ったので……会っていなかったんです。名前はなつみちゃんと聞いていましたが、漢字は知りませんでした……それに……ほたる園にいるなんて、想像も……」
顔がくしゃっと歪む。
「そ、それは、揚羽君のせいじゃないよ。お姉さんは、一緒に住みたくなかったのかな?」
「いえ、姉は保育士をしていて、今育児休暇ちゅうです。夏蜜ちゃんの事は知っていて、何度か実家……家に帰ってきたときに、『暑苦しい揚羽より可愛い女の子がいいわ。夏蜜ちゃんを引き取れたらいいのに……』と、何度か話していました」
「お父さんに伺ったときには、『妻が反対する』とおっしゃっておりましたが……」
背後からの声に、二人は振り返る。
立っているのはシスター……ほたる園は、正確には児童養護施設聖母マリア教会堂ほたる園と言い、キリスト教……カトリック宗派に属する。
「姉は反対していません‼義兄を呼びました‼きちんと話を聞きます‼待ってください‼それに、姉は、何度か義兄に娘として引き取りたいと頼んでいました‼」
揚羽は訴える。
「俺は吉岡揚羽と言います。夏蜜ちゃんの義理の叔父です。義兄は、夏蜜ちゃんはお母さん側のご両親に引き取られていると、姉と結婚すると報告の時に伝えていました。結婚式の時にあちらのご両親や夏蜜ちゃんが来なかったのは複雑なのだろうと……年は近いですが義理の叔父として会いたかったです。本当です‼うちの両親も、血の繋がりはないとはいえ、邪険に扱うどころか、会いたいと言っていました‼」
と、再びスマホが鳴り、見ると父からである。
「父さん?」
「おい、立羽から一気に捲し立てて意味がわからんのやが、お前、どこにおるんぞ?」
「駅前病院……俺の怪我は軽いんよ。父さん‼来てくれや‼夏蜜ちゃんが‼義兄さんの娘の夏蜜ちゃんが大ケガしとる‼」
「夏蜜ちゃんが?何でぞ。前の奥さんの実家におるんと違うんか?」
電話口で父、紋士郎が問いかける。
「違うんや‼義兄さん嘘ついとって、夏蜜ちゃん、蛍池町のほたる園におったんや‼怪我して大変なんや‼来てくれや‼たのむけん‼」
「解った‼圭典も連れていく‼待っとけ‼」
「うん、ありがとう」
電話を切ると、
「黒田さん、院長先生。待っていてください。父と義兄を呼びました」
と告げたのだった。
7才上の姉の立羽は、実は渡邊圭典と言う男と3年前に結婚していた。
年は、32才。
姉とは恋愛結婚だと言うが、実は再婚で、姉と結婚する3年前に前の奥さんを亡くしている。
そして、結婚したいと姉が連れてきた時に、
「娘のなつみは、死んだ前の嫁の両親が引き取っておりまして、時々会いますが、向こうの養女になることになっています」
と言っていた。
一応頭を打っているため、診て貰ったが、打ち身ともしかしたら首に痛みが残ると、湿布を貼って貰った。
この程度で診察室と言うよりも、緊急治療室にいるのは、引っ張っても離さない小さな手と、何となく離しては別れてしまいそうで寄り添っていた。
「レントゲン‼頭部損傷はないかも調べる‼」
と言う声の中、ポケットの中のスマホのバイブレーションが響いた。
険しい顔になる看護師に、頭を下げつつチェックすると、姉からの電話である。
「す、すみません。図書館から家族に連絡が行ったようで、手短に済ませます。すみません」
と断り、電話をとる。
「姉貴‼何だよ」
「何だよとは何よ‼怪我をしたって聞いたのよ。どこの病院?旦那いるから瑠璃連れて迎えに行くわ」
「……なぁ、姉貴。義兄さんの娘のなつみちゃんって、小学生だったっけ?」
「何を急に。えぇ。小学校6年生よ」
揚羽は顔をしかめる。
「なつみちゃんって、ひらがな?漢字だったら夏の海?」
「漢字だけど、珍しいの。夏に蜜柑の蜜。夏蜜ちゃんよ」
揚羽は言葉を失う。
「どうしたの?揚羽?」
唇を噛み、しばらく黙り込んでいた揚羽は、姉に残酷な事実を宣告する。
「姉貴……実は、俺は巻き込まれただけなんだけど、小学生の女の子が図書館の脚立から滑り落ちたんだ。その時に背中を打ち付けて、起き上がった子の上に、脚立が落ちてね……その子が、今、レントゲンと、頭を打っていないか検査がある。俺の手を握ってるんだ、見守ろうと思う。姉貴は来ないで」
「何でよ?あなたも怪我してるんでしょ?」
「俺は打ち身と首の捻挫」
「なら……」
立羽に低い声で告げる。
「意識をなくしている女の子の名前は渡邊夏蜜ちゃん。小学校6年生。住所は蛍池町のほたる園。漢字は、渡邊は姉貴と同じ名字。名前は夏に蜜柑の蜜……」
「な、何ですって⁉」
「姉貴も瑠璃も大事だけど。俺、今日、初対面で小さい体で倒れてる夏蜜ちゃん、ほっとけない。今も、手をぎゅって握って、離れたくないって必死に訴えてるようで、ほっとけない。それに、3年前に姉貴と結婚したいって言ってた義兄さん、言ってたよな?夏蜜ちゃんは奥さんの方の両親のもとにいってるって。それ、嘘じゃん。夏蜜ちゃん、ほたる園にいて、今怪我をしてるじゃん‼姉貴はくんな‼義兄さん呼べよ‼」
「揚羽‼待って‼ちょっと待って‼私には話がわからない着いていけないわ‼そっちに行くから‼」
「姉貴はくんな‼義兄さんにじかに話を聞かせてもらう‼じゃぁな。ここ、病院だ。電話かけてくんな‼」
電話を切ると、待っていたのか、
「お兄さん?夏蜜ちゃんを預かりますね。ちゃんと検査をしたら戻ってきますので、待合室にでも……」
「あ、はい。すみません。よろしくお願いいたします」
手が離れ、一瞬もう一度つかもうと彷徨う。
しかし、看護師は夏蜜を連れて行ってしまう。
立ちすくんでいたものの、俯き、緊急治療室を出ていくと黒田が立ち上がる。
「大丈夫かい?揚羽君」
「俺の怪我は……でも、あの……すみません。知らなかったのですが……あの子、夏蜜ちゃんは、俺の姪です」
黒田は固まる。
視線を彷徨わせ、ためらいがちに告げる。
「実は、3年前に、姉が結婚してまして……義兄は、結婚の時に『娘のなつみがいますが、3年前……つまり今から6年前ですね……妻がなくなったときに、向こうの両親が引き取っておりまして』と言っていて……、姉の結婚式にも出席してないのは複雑だろうと思ったので……会っていなかったんです。名前はなつみちゃんと聞いていましたが、漢字は知りませんでした……それに……ほたる園にいるなんて、想像も……」
顔がくしゃっと歪む。
「そ、それは、揚羽君のせいじゃないよ。お姉さんは、一緒に住みたくなかったのかな?」
「いえ、姉は保育士をしていて、今育児休暇ちゅうです。夏蜜ちゃんの事は知っていて、何度か実家……家に帰ってきたときに、『暑苦しい揚羽より可愛い女の子がいいわ。夏蜜ちゃんを引き取れたらいいのに……』と、何度か話していました」
「お父さんに伺ったときには、『妻が反対する』とおっしゃっておりましたが……」
背後からの声に、二人は振り返る。
立っているのはシスター……ほたる園は、正確には児童養護施設聖母マリア教会堂ほたる園と言い、キリスト教……カトリック宗派に属する。
「姉は反対していません‼義兄を呼びました‼きちんと話を聞きます‼待ってください‼それに、姉は、何度か義兄に娘として引き取りたいと頼んでいました‼」
揚羽は訴える。
「俺は吉岡揚羽と言います。夏蜜ちゃんの義理の叔父です。義兄は、夏蜜ちゃんはお母さん側のご両親に引き取られていると、姉と結婚すると報告の時に伝えていました。結婚式の時にあちらのご両親や夏蜜ちゃんが来なかったのは複雑なのだろうと……年は近いですが義理の叔父として会いたかったです。本当です‼うちの両親も、血の繋がりはないとはいえ、邪険に扱うどころか、会いたいと言っていました‼」
と、再びスマホが鳴り、見ると父からである。
「父さん?」
「おい、立羽から一気に捲し立てて意味がわからんのやが、お前、どこにおるんぞ?」
「駅前病院……俺の怪我は軽いんよ。父さん‼来てくれや‼夏蜜ちゃんが‼義兄さんの娘の夏蜜ちゃんが大ケガしとる‼」
「夏蜜ちゃんが?何でぞ。前の奥さんの実家におるんと違うんか?」
電話口で父、紋士郎が問いかける。
「違うんや‼義兄さん嘘ついとって、夏蜜ちゃん、蛍池町のほたる園におったんや‼怪我して大変なんや‼来てくれや‼たのむけん‼」
「解った‼圭典も連れていく‼待っとけ‼」
「うん、ありがとう」
電話を切ると、
「黒田さん、院長先生。待っていてください。父と義兄を呼びました」
と告げたのだった。
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