県立図書館のお話

ノベルバユーザー173744

揚羽は、どうすれば良いのか分かりませんでした。

古い図書館……大学入試が来年に迫るが、少しでも塾や学校の息抜きにと、訪れていた揚羽あげは

揚羽と言う名前は、本当に男の名前としては馬鹿にされるのだが、亡き曾祖父の弟が、昆虫学者を志していた事もあって、祖父が名付けてくれた。
曾祖父の弟は第二次世界大戦の時に徴兵され、向かった先で戦死していた。

曾祖父兄弟は、幼い頃からこの古い図書館が好きで、よく通いつめていた。
この図書館には博物館と美術館が現在は併設されているが、昔は同じ建物だったらしく、曾祖父の弟は昆虫の標本を見て昆虫学者を志したらしい。

「……す、すみません……脚立使います。お邪魔します……」

背後からズルズルと重い脚立を引っ張ってくる音とともに、小さく、邪魔はしませんよ……と言うニュアンスを漂わせた声がそっと聞こえる。
邪魔はしません……と言うのなら、それでいい。
揚羽は返事もせず、本から目を離さずその場にたっていた。

曾祖父弟の夢を追うわけでも、面影を探すわけでもないのに、なぜかこの図書館に足を運んでしまう。
そして、古い香りの広がる図書館の狭い本棚の間で、本を選んでは立ち読みをしていた。

背後でカタカタと言う脚立を上る音がして、本を抜き取る気配と、そして……。

ガタガタッ‼

大きな音が響き、次の瞬間、頭頂部よりも少し後ろに衝撃が走る。

「……うわぁぁ‼……くぅぅぅ……」

痛みに、うめく。
冗談じゃなく、火花が飛ぶかと思った。

怒ろうと思い振り返ると、小さい少女が背中から転落していた。
一瞬痛そうに顔を歪めたのに、すぐに正座すると、

「す、すみません。すみません。お怪我は⁉」
「何やって……」

揚羽は、一応こういいたかったのである。

『落ちてるのに、動くんじゃない‼』

その声に振り返った少女と目が合う。
すると、揚羽が頭に乗せたままの本が、自分の選んだ本だと気がつくと、真っ青になり、

「す、すみません‼いえ、申し訳ありません‼滑り落ちてしまって、申し訳ありませんで……」
「お、おい‼」

目の前で土下座と言うか頭を擦り付けんばかりに、謝罪を繰り返し始めた。

周囲には物音を聞いて人が集まってくる。
それなのに……‼

焦る揚羽の目の前に、バランスを崩したままだった脚立がゆっくり倒れていく。
それが、

ガターン‼

とすさまじい音をたてて、少女の上に落ちた‼

慌てて、揚羽は膝まづき、脚立の下から少女を引っ張り出す。

「お、おい‼……おい‼大丈夫か?」
「……」

気絶しているのか返事はない。

「何かありましたか?」

図書館の司書が、他の図書館の利用者に呼ばれ現れる。

「脚立から、彼女が落ちました‼そのあと、脚立が上に‼」
「兄ちゃんがなんかやったんやないんか?」

不審げに利用者の老人に言われ、

「違います。一応俺も被害者です。後で本を取っていた彼女が、足を滑らせたときに、頭に落ちたんですよ‼この本が‼……背中から落ちていた彼女がはっと正座すると、俺を見て『すみません‼』って、頭を下げて謝りはじめて、止めようとしたら、脚立が‼それよりも彼女が頭を打っていたり、背中を打っていたら……」

揚羽は必死に訴える。
揚羽と顔見知りの司書の黒田は、

「吉岡君。その子を一旦こちらで休ませるから手伝って。そして、元浦。ここを片付けて、本は持ってきてくれるか?」
「はい」

あとから出てきた後輩の司書に頼み、

「良いかい?吉岡君。そっと運ぶよ」
「はい」

黒田の指示に従い、少女を運んでいったのは、揚羽も入ったことのない、関係者以外立ち入り禁止の区域にある、なぜか畳の部屋にロッカーが回りをぐるっと取り囲まれた部屋。
中央にはちゃぶ台。
なのに部屋の隅には枕と毛布がある。

「えっと……ここは?」
「着替えとロッカールームと、昼休憩の部屋だよ。ここ、右に折れたでしょ?左は古書庫と、その手前は予備の本を納めておく一階から5階まで本だらけの場所でね。よく、本を探してるって取りに行くのがさっきのところ」
「あの……」
「君はここで見ていてくれるかな?転落の上にあの重い脚立が落ちたんだから、頭を打ってるかもしれない。消防に連絡するから」

背中を打っている可能性があるためと、急に吐いたりするなどの対処のために、あえてうつ伏せに寝かせた少女に毛布をかける。

「あの、名前は分かるんですか?」
「あぁ、渡邊夏蜜わたなべなつみちゃんだよ。小さいけど小学校6年生」
「小学生‼下の、児童書じゃないんですか?」
「幼稚園時代から通ってて、もう読み尽くしてるんだよ。じゃぁ、よろしく」

黒田は出ていき、揚羽は手持ち無沙汰をどうすれば良いのかと途方にくれるのだった。

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