負け組だった男のチートなスキル
第五十三話 魔物大発生
「はあっ!」
魔物の群れの後ろから攻撃するコウスケ。ほとんど坑道内が魔物で覆われるという、目に全く優しくない光景にうんざりしながら槍を振るっていた。
一つ幸運な事といえば、魔物の背後から叩いているのでコウスケには全く攻撃が及ばないというところか。あくまで魔物の進む方向は、剣を持って戦っている小人族たちのいる方向なのだ。
仮に気づいた魔物がいたとしても、坑道内いっぱいに魔物が広がっているので、その魔物は振り返ることさえ困難な状況、つまりコウスケはほぼ無防備な魔物を殺しているだけだった。
「気持ち悪いのは変わりねえけど」
地球時代の時は基本的に虫は苦手だった。もちろん蜘蛛も例外ではなく、大きい奴なんてもってのほかだ。
だがそれよりも大きい蜘蛛が目の前で群がっている。物凄く意気を失う光景だった。
「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア――」
狂ったように呪文を念仏のように唱える。物理攻撃か魔法攻撃、どちらが効果的で効率的なのかは定かではないが、ただ単にもう槍で刺すなんて気持ちの悪いことは御免だった。
「お、おい、あそこに誰かがいるぞ」
「本当だ! 誰かがまわり込んだのか?」
流石に赤黒い炎を上げたせいで、向こう側の小人族に気づかれた。というよりは気づかせた。
「良かった、まだ希望はあるぞ!」
「よっしゃあ!」
何やら士気が高まった様子の小人族たち。本当にいっぱいいっぱいだったことが伺える。その期待に応えるように、コウスケは魔法を放ち続けるが、数が多すぎてキリがない。
しかもこのままのペースで魔物が流入し続けると、恐らくあの防衛線はもたないだろう。
今、コウスケが後方で魔物の流入を断ち切ってはいるものの、残ったあの数をあれだけの人数で対処できるわけがなかった。坑道内が狭いこともあって小人族は数を費やせないのだ。だがそれだけではない。人員を増やせない理由があと一つある。
「ッち」
手から火を噴きながらコウスケは悪態をついた。いくらなんでもこれほど魔物が多く群れているのを見たことがない。まるで魔物の巣の中にいるみたいだ。
「巣か……」
確か、蜘蛛の中には地中にも暮らすタイプがいたはずだ。それはあくまで地球上の蜘蛛の話ではあるが、こちらの世界の蜘蛛にも同じ性質を持っている蜘蛛がいたっておかしくない。
小人族が地下空間を広げていく過程で、その巣への入り口を開いてしまったとしたらどうか。それならこれだけの数の魔物も理由が付く。
「ファイア」
答えを導き出せたとは言っても、この場でその答えを採点してくれる人はいない。少なくともあそこで健闘している小人族たちの元へ行ければ、その答えを知っているかもしれないが、いかんせん数が多すぎて辿りつける気がしない。
「うわあああ!」
小人族の方で叫び声が上がった。見ると一人の小人族が体勢を崩している。そのままでは蜘蛛共に咬みちぎられるだろう。周りの人も目の前の相手に手一杯で対処出来そうになかった。
「はっ!」
無視することも出来たが、あの攻防戦で一人でも欠けようものなら、たちまち崩壊しかねない。そうなってしまえばコウスケが何のために頑張っているのかが分からない。小人族の誰かがこの状況を伝えてくれるものがいなければ何も意味がないのだ。
そのためコウスケは手に持っていた槍をその小人族たちの所へ投擲した。
狙い通り、倒れた小人族に襲い掛かろうとした蜘蛛に命中する。それを確認したのち直ぐに手元に戻した。
小人族は口を開けたままコウスケの方を見つめていた。そんなことをしている暇があるなら直ぐにでも立ち上がって戦ってほしいのだが。
もう気持ちが悪いから近距離をしない、と言っていられなくなった。小人族の防衛線も限界で、さらにはコウスケのさらに後ろからも魔物がゾロゾロと近づいてきたからだ。このままでは挟撃されてしまう。
近くで蜘蛛を殺すより、周りを蜘蛛に囲まれる方が地獄だ。
「ウォーター」
結構な勢いの水がコウスケの周りから放出される。量が量なので結構な魔力が持っていかれた感覚がするが、今はそんなことを考えている場合ではない。
すっかり辺りは水浸しになっていた。
「少し下がってろ!」
向こう側の小人族へ大声で告げる。
「あ、ああ」
困惑した様子だったが、ただならぬ状況を感じたのか、小人族たちは後ろの方へ下がっていってくれた。
「仕上げだ」
『強化』を施した状態で槍を天井に投げ、その槍は天井に突き刺さった。
それを確認した後、コウスケは跳躍しその槍を掴んで、片方の手を下に向ける。
「ライトニング!」
放ったのは雷魔法だ。これもひと際強く放出した。
少し倦怠感を覚えるが気にするほどではない。
響き渡る魔物の叫び声と焦げた臭い。水が電気を通しやすくすることは周知のことで、コウスケはそれを利用したのだ。
「成功か」
コウスケは下に広がる地獄絵図を見て呟いた。真黒の焼け焦げた蜘蛛たちがそこらへんに倒れている。間違っても美味しそうなんて思うわけがない。
小人族たちは唖然としながらこちらを見ている。
「後は……」
軽やかに地面に降りたコウスケは、後ろを振り向き地面に手を触れる。
「グラウンド」
土を盛り上げて坑道を防いだ。これでしばらくは魔物の侵攻は防げるはずだ。
「あ、やべぇ」
立ち上がったコウスケに襲い掛かったのは立ち眩みだった。
ただの立ち眩みだったら良い。だがこれは恐らくあれだ。
「魔力枯渇……」
先ほどよりもひどい倦怠感が襲い掛かってきていた。目まいに倦怠感。それらの症状が当てはまる原因と言えばそれしかなかった。
とはいえ魔力枯渇になったことは過去一回しかない。あの時は全く魔力がなかった時期だ。
だがそれもコウスケ自身の魔力量が増えた今では滅多に起こり得ないと思っていたのだが、今回の魔法の連発はその魔力量をもってしても使い切ってしまうほどの量だったようだ。
せめて小人族と話をするまでは意識を保っていたかったが、それは厳しいと判断する。すでに意識が朦朧とし始めていたのだ。もう立っていられないほどに。
「最後……」
残る一匹の蜘蛛がいた。あの壁から逃れた一匹なのだろう。だがその一匹でも油断は出来ない。
コウスケは今出せる最大の力で槍をその蜘蛛へ投げた。
『強化』を施していたかいあって、体勢、体調が悪い状態でも蜘蛛に命中し、絶命させることが出来た。
だがもう限界だ。
「おい、しっかりしろ!」
小人族が駆け寄ってくる。いつの間にか近くに来ていたようだ。
だがもう返事するのも億劫だった。
ゾロゾロと駆け寄ってくる小人族。奥に結構な人数がいたようだ。
「こいつ……魔人族じゃないか?」
一人の小人族がコウスケの正体に気づいた。これは賭けでもある。ここで拘束、又は殺されるか、命の恩人として介抱されるかのどっちかだ。
「――と、いって――」
既に意識が朦朧としているコウスケには、もはや言葉を認識することさえ難しかった。
多少の不安を抱きながらも逆らうことの出来ないこの感覚。
コウスケの意識はまどろみの中へ消えていった。
魔物の群れの後ろから攻撃するコウスケ。ほとんど坑道内が魔物で覆われるという、目に全く優しくない光景にうんざりしながら槍を振るっていた。
一つ幸運な事といえば、魔物の背後から叩いているのでコウスケには全く攻撃が及ばないというところか。あくまで魔物の進む方向は、剣を持って戦っている小人族たちのいる方向なのだ。
仮に気づいた魔物がいたとしても、坑道内いっぱいに魔物が広がっているので、その魔物は振り返ることさえ困難な状況、つまりコウスケはほぼ無防備な魔物を殺しているだけだった。
「気持ち悪いのは変わりねえけど」
地球時代の時は基本的に虫は苦手だった。もちろん蜘蛛も例外ではなく、大きい奴なんてもってのほかだ。
だがそれよりも大きい蜘蛛が目の前で群がっている。物凄く意気を失う光景だった。
「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア――」
狂ったように呪文を念仏のように唱える。物理攻撃か魔法攻撃、どちらが効果的で効率的なのかは定かではないが、ただ単にもう槍で刺すなんて気持ちの悪いことは御免だった。
「お、おい、あそこに誰かがいるぞ」
「本当だ! 誰かがまわり込んだのか?」
流石に赤黒い炎を上げたせいで、向こう側の小人族に気づかれた。というよりは気づかせた。
「良かった、まだ希望はあるぞ!」
「よっしゃあ!」
何やら士気が高まった様子の小人族たち。本当にいっぱいいっぱいだったことが伺える。その期待に応えるように、コウスケは魔法を放ち続けるが、数が多すぎてキリがない。
しかもこのままのペースで魔物が流入し続けると、恐らくあの防衛線はもたないだろう。
今、コウスケが後方で魔物の流入を断ち切ってはいるものの、残ったあの数をあれだけの人数で対処できるわけがなかった。坑道内が狭いこともあって小人族は数を費やせないのだ。だがそれだけではない。人員を増やせない理由があと一つある。
「ッち」
手から火を噴きながらコウスケは悪態をついた。いくらなんでもこれほど魔物が多く群れているのを見たことがない。まるで魔物の巣の中にいるみたいだ。
「巣か……」
確か、蜘蛛の中には地中にも暮らすタイプがいたはずだ。それはあくまで地球上の蜘蛛の話ではあるが、こちらの世界の蜘蛛にも同じ性質を持っている蜘蛛がいたっておかしくない。
小人族が地下空間を広げていく過程で、その巣への入り口を開いてしまったとしたらどうか。それならこれだけの数の魔物も理由が付く。
「ファイア」
答えを導き出せたとは言っても、この場でその答えを採点してくれる人はいない。少なくともあそこで健闘している小人族たちの元へ行ければ、その答えを知っているかもしれないが、いかんせん数が多すぎて辿りつける気がしない。
「うわあああ!」
小人族の方で叫び声が上がった。見ると一人の小人族が体勢を崩している。そのままでは蜘蛛共に咬みちぎられるだろう。周りの人も目の前の相手に手一杯で対処出来そうになかった。
「はっ!」
無視することも出来たが、あの攻防戦で一人でも欠けようものなら、たちまち崩壊しかねない。そうなってしまえばコウスケが何のために頑張っているのかが分からない。小人族の誰かがこの状況を伝えてくれるものがいなければ何も意味がないのだ。
そのためコウスケは手に持っていた槍をその小人族たちの所へ投擲した。
狙い通り、倒れた小人族に襲い掛かろうとした蜘蛛に命中する。それを確認したのち直ぐに手元に戻した。
小人族は口を開けたままコウスケの方を見つめていた。そんなことをしている暇があるなら直ぐにでも立ち上がって戦ってほしいのだが。
もう気持ちが悪いから近距離をしない、と言っていられなくなった。小人族の防衛線も限界で、さらにはコウスケのさらに後ろからも魔物がゾロゾロと近づいてきたからだ。このままでは挟撃されてしまう。
近くで蜘蛛を殺すより、周りを蜘蛛に囲まれる方が地獄だ。
「ウォーター」
結構な勢いの水がコウスケの周りから放出される。量が量なので結構な魔力が持っていかれた感覚がするが、今はそんなことを考えている場合ではない。
すっかり辺りは水浸しになっていた。
「少し下がってろ!」
向こう側の小人族へ大声で告げる。
「あ、ああ」
困惑した様子だったが、ただならぬ状況を感じたのか、小人族たちは後ろの方へ下がっていってくれた。
「仕上げだ」
『強化』を施した状態で槍を天井に投げ、その槍は天井に突き刺さった。
それを確認した後、コウスケは跳躍しその槍を掴んで、片方の手を下に向ける。
「ライトニング!」
放ったのは雷魔法だ。これもひと際強く放出した。
少し倦怠感を覚えるが気にするほどではない。
響き渡る魔物の叫び声と焦げた臭い。水が電気を通しやすくすることは周知のことで、コウスケはそれを利用したのだ。
「成功か」
コウスケは下に広がる地獄絵図を見て呟いた。真黒の焼け焦げた蜘蛛たちがそこらへんに倒れている。間違っても美味しそうなんて思うわけがない。
小人族たちは唖然としながらこちらを見ている。
「後は……」
軽やかに地面に降りたコウスケは、後ろを振り向き地面に手を触れる。
「グラウンド」
土を盛り上げて坑道を防いだ。これでしばらくは魔物の侵攻は防げるはずだ。
「あ、やべぇ」
立ち上がったコウスケに襲い掛かったのは立ち眩みだった。
ただの立ち眩みだったら良い。だがこれは恐らくあれだ。
「魔力枯渇……」
先ほどよりもひどい倦怠感が襲い掛かってきていた。目まいに倦怠感。それらの症状が当てはまる原因と言えばそれしかなかった。
とはいえ魔力枯渇になったことは過去一回しかない。あの時は全く魔力がなかった時期だ。
だがそれもコウスケ自身の魔力量が増えた今では滅多に起こり得ないと思っていたのだが、今回の魔法の連発はその魔力量をもってしても使い切ってしまうほどの量だったようだ。
せめて小人族と話をするまでは意識を保っていたかったが、それは厳しいと判断する。すでに意識が朦朧とし始めていたのだ。もう立っていられないほどに。
「最後……」
残る一匹の蜘蛛がいた。あの壁から逃れた一匹なのだろう。だがその一匹でも油断は出来ない。
コウスケは今出せる最大の力で槍をその蜘蛛へ投げた。
『強化』を施していたかいあって、体勢、体調が悪い状態でも蜘蛛に命中し、絶命させることが出来た。
だがもう限界だ。
「おい、しっかりしろ!」
小人族が駆け寄ってくる。いつの間にか近くに来ていたようだ。
だがもう返事するのも億劫だった。
ゾロゾロと駆け寄ってくる小人族。奥に結構な人数がいたようだ。
「こいつ……魔人族じゃないか?」
一人の小人族がコウスケの正体に気づいた。これは賭けでもある。ここで拘束、又は殺されるか、命の恩人として介抱されるかのどっちかだ。
「――と、いって――」
既に意識が朦朧としているコウスケには、もはや言葉を認識することさえ難しかった。
多少の不安を抱きながらも逆らうことの出来ないこの感覚。
コウスケの意識はまどろみの中へ消えていった。
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