負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

第五十二話 坑道内

 あれから数日、銃、盾、槍の使い方を4人で考えては、実践するという微笑ましい日常が続いた。もうこれで信頼関係は築けたところだろう。

「ドラン、一つお願いがあるんだが」
「何でしょうか?」

 コウスケがここに来た理由はただ一つだ。

「お前の父親、族長に会わせてほしい」

 長耳族の包囲網が出来上がる前に、自分の人脈を広がらせることだ。
 それには族長クラスの地位の人と繋がりを持つ必要があった。ドランも族長の息子という結構な立場にあるのだが、どうやら小人族は世襲制ではないようだし、加えてドランの待遇もすこぶる悪い。これでは大したアドバンテージにはならないと踏んだのだ。

「……父にですか」

 ドランの顔色はあまり良くなかった。勘当されたという間柄ではないとは思うが、やはり小人族として負い目を感じるところがあるのだろう。

「見返すチャンスかもしれないだろ?」
「どういうことですか?」

 コウスケの言葉にドランは顔を上げた。
 何も口から出まかせを言ったわけではない。

「お前の武器の凄さを俺が証明してやる」

 すっかり頼れる兄貴肌的なキャラクターになってしまっているコウスケ。
 そうせざる得ない理由があるが故のキャラ作りなのは否定できないが、嫌々ながらやっている訳でもなかいコウスケだった。どこかで誰かの上に立ってみたいという願望が眠っていたのかもしれない。

「……分かりました。頼んでみます」

 ドランは少し悩んだ素振りを見せたが、コウスケの事を信用してくれた。コウスケにはそれよりも族長に会う方が目的なので多少の罪悪感は抱いてはいたものの、それはそれとして割り切っていた。

「コウスケさんはここで待っていてください」

 ドランはそう言って秘密基地から出ていった。アービスとヨハネによると、小人族の町ドリウスに他種族が入ること自体あまり例がない。そのため魔人族であるコウスケを何も報告しないで入れると下手に騒ぎが起きてしまいかねないと判断したのだそうだ。

「ドラン、大丈夫かなぁ」
「族長はどんな人なんだ?」

 ヨハネの弱気の呟きに反応したコウスケは、二人に質問を飛ばした。
 気難しい人でないことを祈るのみだ。

「えっと……」
「族長様は心の広い方だからきっとコウスケさんとも会ってくれるはずさ」
「それならいいが」

 そんな会話を交わしてしばらく経った。時計がないためどのくらいの時が進んだかは分からないが、結構な時間が経過したはずだ。

「遅くないか?」
「だよなぁ」

 アービスと顔を見合わせて頷く。まさか拘束されたなんてことはないだろうな。

「少し様子を見に行って来てくれるか?」
「任された!」
「え? ぼ、僕も?」

 コウスケの言葉にアービスが元気の良い返事をし、ヨハネを引っ張る形で外に出ていった。

「念には念をだな」

 一人になったコウスケは、もしここが奇襲された時の事を考えて、ヨハネの試作品である銃一丁を道具袋に入れ、懐には短剣を忍ばせていつでも対処できるように準備した。



「……遅い」

 アービスらが出て行ってかなり経った。だが誰も帰ってこない。
 不測の事態があったと考えるのが常であるが、もしそうなら小人族数名がこちらに攻め入って来てもおかしくないはず。しかしそれすらもここには来なかった。つまりそれとは別の事態が現在進行形で進んでいる可能性がある。


「行くしかないか」

 このままここで指をくわえて待ちぼうけなど、今のコウスケには我慢ならなかった。厄介ごとがあるなら進んで排除していく。それが今の彼の生き方だ。
 だがある問題があった。

「どこに行けばいいんだ……」

 気合いを入れて外に出るには出たが、コウスケはドランたちからドリウスへの入り口を教えてもらっていない事に気づく。つまりどんなに頑張っても、地下都市であるドリウスには入り口を見つけない限りは入れないのだ。

「……はぁ」

 せっかく膨らんだやる気がしぼんでいく。気合いで地下都市への入り口を血眼になって探すなんて面倒なことはしたくない。
 そこら辺の壁をぶち壊せば入り口が現れるかもしれないが、そんな事をすれば破壊行為をしたとして罰せられる可能性さえあるので、やりたい衝動を必死に抑えつけた。

「仕方ない、か」

 探すなんて面倒なことはしないが、このまま何もしないというのも時間の無駄な気がしたコウスケはある場所へと向かった。
 その場所というのも、先日、魔物を退治した坑道である。そこならもしかするとドリウスに繋がる通路があるかもしれない。それに魔物が出ることは分かっているので、それら相手に銃を使った戦闘方法の練習も出来る。まさに一石二鳥だ。

 そうしてたどり着いた坑道入り口。あの時は夜だったので人気がなかったが、今は昼だ。そのため坑道内にはいくつかの人の気配があった。
 念のために『超感覚』を発動させるコウスケ。坑道内に突然他種族が現れればパニックになってしまうかもしれない。小人族を配慮して行動しなければならない。
 それに静かに後をつければドリウスへの道が分かるかもしれない。
 そうしてコウスケはゆっくりと坑道内に入っていった。

 坑道内は相変わらず薄暗く湿気も高い。先日と全く変わらない坑道だ。
 違うところと言えば、時々響き渡る人の声や作業場らしい硬い物同士が当たる音など小人族が活動している音が聞こえてくるくらいか。

「……にしても」

 いくら人がいるとはいえ、その音に何か少し違和感を感じるコウスケ。もちろん小人族がどういう風に炭鉱で働いているかは分からないが、それを踏まえても少し変だった。
 人の怒鳴り声が響く、それ自体は変ではない。だがそれが何回も何回も感覚を空けずに続いている。加えて、何かの唸り声や金切り声、地鳴りに近い恐らく足音が坑道内に響いていた。

「魔物か?」

 悲鳴を上げているのは魔物の声に近い。坑道内に魔物がいるのは把握済みだ。だがそれにしては声の数が多い。

「まさか……」

 その時コウスケの額に冷や汗が流れた。
 坑道に入ってからずっと聞こえる地鳴りのような音。それが足音だということは分かっていた。だがてっきりそれらの足音は小人族のものだと思っていたが、実はそうではないとしたら。

「くそっ!」

 全身に『強化』を施して、坑道を走り抜けるコウスケ。
 あれがもし人の足音ではないとしたら、そこに広がる光景は絶望に染まっている。

「抑えろー!」
「うわ、来るなあ!」
「クソ! こんなの多すぎる……」

 小人族の叫び声が聞こえてくる。

「……なんだこれは」

 コウスケは目の前に広がる真黒な光景に声を漏らす。
 それは、おびただしいほどの魔物が同じ方向に向けて、一斉に行進している現場だった。
 そう、このずっと続く地鳴りのような音は、大量の魔物の足音だったのだ。

 今の所、小人族は目の前の魔物に集中しておりコウスケの姿は見られていない。今なら見なかったことにして立ち去ることが出来る。
 そう悪魔のごとき囁きが聞こえた。

「本来ならそうしてるんだけど」

 そう呟いて足を前に運ぶ。
 今のコウスケにある選択肢は前に進むしかないのだ。生憎後ろに下がるなんて選択肢は、長耳族に追われているため選べない。

「これなら長耳族の方がマシかもな」

 苦笑いを浮かべて槍を取り出す。

「いくか」

 覚悟を決めた面持ちでコウスケは魔物の群れへ飛び込んだ。

「負け組だった男のチートなスキル」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く