負け組だった男のチートなスキル
第四十八話 三人組
「えっと……」
コウスケは頭をポリポリと掻きながら目の前で必死に頭を下げる二人を見ていた。まさかここまで怖がられるとは予想以上だ。起きるタイミングを間違えてしまったようだ。
「もういいから……」
「「すいませんでした!」」
そんなコウスケの言葉さえも遮って謝り続ける男たち。見た目からは年齢が推し量れないものの、態度から考えるとまだ成熟した大人とは言い難い。
「いいって……言ってんだろ!」
『強化』を使い地面に足を打ち付け叫んだ。
ドスンと思いのほか凄まじい音を奏でた足音に辺りが静まり返る。
しまった、これでは逆効果だ。
無音の時間がしばらく流れた。
その責任は取るように、咳ばらいをしてコウスケは口を開いた。
「突然大きな音を立ててすまなかった」
「い、いえ、こちらこそ」
物怖じした表情のままドランが答える。ある程度の肝は据わっているようだ。
「俺の名前はコウスケ、見ての通り魔人族だ」
正確に言えば異世界魔人族なのだが、ただでさえ他種族と関わっていない彼らに異世界人、しかも変化して変な種族になっている自分の正体を明かしてしまうと混乱して再び面倒くさいことになることは目に見えている。なのでここでは彼らの予想を上回らないように身長に自己紹介をした。
「あ、ご丁寧にどうも。僕はドラン・エドロンと言います。こっちは」
「アービス・ガリュウ」
二人もコウスケに続いて自己紹介を行う。
「後さっき逃げたのは、ヨハナと言います」
ドランにアービス、ヨハナ。
とてもじゃないが今まで出会ってきた人達の名前全て覚えられるほどコウスケの脳みそは万能ではない。異世界に来た初めの頃は、外国風の名前に珍しさを感じて覚えやすかったのだが、そろそろ同じような響きの名前が増えてきて覚えられる気がしない。
とはいってもあだ名をつけられるほどのネーミングセンスもコウスケは持ち合わせていない。つまり今は素直に覚えるしかなかった。
「えっと、ドランにアービス、ヨハナね」
「はい、コウスケさん」
今のところは覚えられるが、何か強烈な思い出がないといつ忘れるか分からない。もう出会って早々謝られるという強烈な出来事があったのでしばらくは大丈夫だろうが。
「あの、コウスケさんはどうしてここに?」
ドランからそう質問が飛ぶ。
「信じてもらえないと思うが、迷子になってな」
「迷子ですか?」
ドランが首を傾げてコウスケを見た。隣のアービスは怪訝そうな顔だ。
「ああ、森を抜けれたまでは良かったんだけどなぁ」
そう何気なくコウスケは発言をした。だが彼らにとってはそれすらも驚くネタになるようで、表情からそれが伝わってきた。
「え、エルフ族の領地を横断してきたんですか!?」
「しかも魔人族なのに!?」
彼らの中の情報は少し古いようだった。少し前の長耳族は排他的であったかもしれないが、今は少しずつ改善していっている。とはいえ未だその思想は根強く残っており、それが原因でコウスケはこんな災難に巻き込まれているのだが。
「色々あってな」
「凄いですね、あのエルフ族と友好関係を築けるなんて」
「すげえ」
なぜか羨望の眼差しで見られるコウスケ。実際は彼らに思われているほど凄いことではないのだが、今はそれを利用させてもらうことにする。マイナスイメージよりもプラスイメージに思われる方がいいに決まっているからだ。
「どうやってエルフ族と仲良くなれたんですか?」
ドランかそう言った質問が飛んだ。ただの好奇心によるものなのだろうが、今のコウスケにとっては尋問とも思えるほど言いにくい質問だ。
下手に適当に答えても疑いを招く。逆に思いつきで具体的に答えても、もしドランたちが長耳族と会った時や会った人がある人を知っていた場合、その情報が嘘だとバレてしまうのは不味いからだ。
「あー……具体的に言えば人助けかな?」
「なるほど」
なんとか絞り出して答えた。まあ間違ってはいないはずだし印象も良いはずだ。間違っても人殺しをした末なんて言えるわけもない。
「おい、そろそろ出て来いよ」
そこでアービスが後ろの岩場に声をかけた。
「う、うん」
そこから出てきたのは先ほど逃げていったヨハネだった。もちろん『超感覚』を発動していたコウスケは当然気づいていたし、アービスがコウスケを警戒しているのも何となく感じていた。そのアービスがヨハネを呼んだということは、少なくともアービスにとっての警戒対象からは脱することが出来たということだ。
「さ、先ほどは逃げても、申し訳ありません」
「い、いや大丈夫だから」
土下座しかねない勢いで頭を下げるヨハネに苦笑いを浮かべながら返答するコウスケ。まだ怖がられているということなのだろう。
「おいおいコウスケさんを困らせんなよ」
「ごめん」
このまま頭を上げそうにないヨハネにコウスケが困っているところで、アービスが助け舟を出してくれた。それによってようやく顔を上げるヨハネ。だが相変わらず謝っているのは変わらない。
そんな彼に慣れているのだろう。ドランやアービスは特に変わった反応はしなかった。
「そういえばコウスケさん、迷子なんですよね?」
「ああ、建物一つ見えなくてな」
「それなんですけど、僕たち小人族の領地は、土地が少ないので地上では過ごしていないんですよ」
ドランの言葉にコウスケは納得する。道理で今まで人気はおろか人工物さえなかったわけだ。
しかも山岳地帯でろくに町の面積も取れないはずなのでドランの言うことはもっともだった。
「例えばここに隠し通路があります」
ドランは少し離れた山肌に触れた。するとそこには小さな窪みがあるのが確認できた。
そんな小さいもの、知っていないと気付くことが出来ない大きさだ。
「ここをこうして」
ドランは呟きながら、その窪みに手をかざして色々良く分からない指の動きをした。
そうして開いていく空洞。
「おぉ」
思わず感動して声を発するコウスケ。この世界でオートマチックな仕掛けを見たのは初めてかもしれない。
「小人族はこんな感じのことが得意なんです」
「まぁ、俺らは落ちこぼれだけどな……」
ドランの後に続く、アービスの小さな呟き。確かドランは族長の息子だと言っていた気がするのだが、落ちこぼれというのはどういうことなのだろうか。
だが初対面の人にそこまで深くツッコム訳にもいかずコウスケは口を閉ざしたままだ。
その呟きはドランにも聞こえていたようで、気まずそうに口を開いた。
「と、とりあえず僕たちの秘密基地にご案内したいと思っているんですけど」
「秘密基地?」
「はい、この入り口がそうなんです」
ドランは先ほど開いた穴を示して言った。やはりあの中には広い空間が広がっているようだ。他の人々もこのように隠された地下や壁内に入って暮らしているのだろうか。
「入っていいのか?」
「ええ、ここであなたを見捨てることは出来ません」
「で、でも、他種族を入れていいのかな?」
「今更俺らを気にする奴なんていねえさ」
ヨハネは何か気になることがあったようだが、アービスの言葉によってしぶしぶ引き下がった。
多少気にはなるが、中に入れるのであれば断る理由はない。
「じゃあ遠慮なく」
「どうぞどうぞ」
「少し狭いけどな」
そうしてコウスケは三人の秘密基地の中へお邪魔することになった。
コウスケは頭をポリポリと掻きながら目の前で必死に頭を下げる二人を見ていた。まさかここまで怖がられるとは予想以上だ。起きるタイミングを間違えてしまったようだ。
「もういいから……」
「「すいませんでした!」」
そんなコウスケの言葉さえも遮って謝り続ける男たち。見た目からは年齢が推し量れないものの、態度から考えるとまだ成熟した大人とは言い難い。
「いいって……言ってんだろ!」
『強化』を使い地面に足を打ち付け叫んだ。
ドスンと思いのほか凄まじい音を奏でた足音に辺りが静まり返る。
しまった、これでは逆効果だ。
無音の時間がしばらく流れた。
その責任は取るように、咳ばらいをしてコウスケは口を開いた。
「突然大きな音を立ててすまなかった」
「い、いえ、こちらこそ」
物怖じした表情のままドランが答える。ある程度の肝は据わっているようだ。
「俺の名前はコウスケ、見ての通り魔人族だ」
正確に言えば異世界魔人族なのだが、ただでさえ他種族と関わっていない彼らに異世界人、しかも変化して変な種族になっている自分の正体を明かしてしまうと混乱して再び面倒くさいことになることは目に見えている。なのでここでは彼らの予想を上回らないように身長に自己紹介をした。
「あ、ご丁寧にどうも。僕はドラン・エドロンと言います。こっちは」
「アービス・ガリュウ」
二人もコウスケに続いて自己紹介を行う。
「後さっき逃げたのは、ヨハナと言います」
ドランにアービス、ヨハナ。
とてもじゃないが今まで出会ってきた人達の名前全て覚えられるほどコウスケの脳みそは万能ではない。異世界に来た初めの頃は、外国風の名前に珍しさを感じて覚えやすかったのだが、そろそろ同じような響きの名前が増えてきて覚えられる気がしない。
とはいってもあだ名をつけられるほどのネーミングセンスもコウスケは持ち合わせていない。つまり今は素直に覚えるしかなかった。
「えっと、ドランにアービス、ヨハナね」
「はい、コウスケさん」
今のところは覚えられるが、何か強烈な思い出がないといつ忘れるか分からない。もう出会って早々謝られるという強烈な出来事があったのでしばらくは大丈夫だろうが。
「あの、コウスケさんはどうしてここに?」
ドランからそう質問が飛ぶ。
「信じてもらえないと思うが、迷子になってな」
「迷子ですか?」
ドランが首を傾げてコウスケを見た。隣のアービスは怪訝そうな顔だ。
「ああ、森を抜けれたまでは良かったんだけどなぁ」
そう何気なくコウスケは発言をした。だが彼らにとってはそれすらも驚くネタになるようで、表情からそれが伝わってきた。
「え、エルフ族の領地を横断してきたんですか!?」
「しかも魔人族なのに!?」
彼らの中の情報は少し古いようだった。少し前の長耳族は排他的であったかもしれないが、今は少しずつ改善していっている。とはいえ未だその思想は根強く残っており、それが原因でコウスケはこんな災難に巻き込まれているのだが。
「色々あってな」
「凄いですね、あのエルフ族と友好関係を築けるなんて」
「すげえ」
なぜか羨望の眼差しで見られるコウスケ。実際は彼らに思われているほど凄いことではないのだが、今はそれを利用させてもらうことにする。マイナスイメージよりもプラスイメージに思われる方がいいに決まっているからだ。
「どうやってエルフ族と仲良くなれたんですか?」
ドランかそう言った質問が飛んだ。ただの好奇心によるものなのだろうが、今のコウスケにとっては尋問とも思えるほど言いにくい質問だ。
下手に適当に答えても疑いを招く。逆に思いつきで具体的に答えても、もしドランたちが長耳族と会った時や会った人がある人を知っていた場合、その情報が嘘だとバレてしまうのは不味いからだ。
「あー……具体的に言えば人助けかな?」
「なるほど」
なんとか絞り出して答えた。まあ間違ってはいないはずだし印象も良いはずだ。間違っても人殺しをした末なんて言えるわけもない。
「おい、そろそろ出て来いよ」
そこでアービスが後ろの岩場に声をかけた。
「う、うん」
そこから出てきたのは先ほど逃げていったヨハネだった。もちろん『超感覚』を発動していたコウスケは当然気づいていたし、アービスがコウスケを警戒しているのも何となく感じていた。そのアービスがヨハネを呼んだということは、少なくともアービスにとっての警戒対象からは脱することが出来たということだ。
「さ、先ほどは逃げても、申し訳ありません」
「い、いや大丈夫だから」
土下座しかねない勢いで頭を下げるヨハネに苦笑いを浮かべながら返答するコウスケ。まだ怖がられているということなのだろう。
「おいおいコウスケさんを困らせんなよ」
「ごめん」
このまま頭を上げそうにないヨハネにコウスケが困っているところで、アービスが助け舟を出してくれた。それによってようやく顔を上げるヨハネ。だが相変わらず謝っているのは変わらない。
そんな彼に慣れているのだろう。ドランやアービスは特に変わった反応はしなかった。
「そういえばコウスケさん、迷子なんですよね?」
「ああ、建物一つ見えなくてな」
「それなんですけど、僕たち小人族の領地は、土地が少ないので地上では過ごしていないんですよ」
ドランの言葉にコウスケは納得する。道理で今まで人気はおろか人工物さえなかったわけだ。
しかも山岳地帯でろくに町の面積も取れないはずなのでドランの言うことはもっともだった。
「例えばここに隠し通路があります」
ドランは少し離れた山肌に触れた。するとそこには小さな窪みがあるのが確認できた。
そんな小さいもの、知っていないと気付くことが出来ない大きさだ。
「ここをこうして」
ドランは呟きながら、その窪みに手をかざして色々良く分からない指の動きをした。
そうして開いていく空洞。
「おぉ」
思わず感動して声を発するコウスケ。この世界でオートマチックな仕掛けを見たのは初めてかもしれない。
「小人族はこんな感じのことが得意なんです」
「まぁ、俺らは落ちこぼれだけどな……」
ドランの後に続く、アービスの小さな呟き。確かドランは族長の息子だと言っていた気がするのだが、落ちこぼれというのはどういうことなのだろうか。
だが初対面の人にそこまで深くツッコム訳にもいかずコウスケは口を閉ざしたままだ。
その呟きはドランにも聞こえていたようで、気まずそうに口を開いた。
「と、とりあえず僕たちの秘密基地にご案内したいと思っているんですけど」
「秘密基地?」
「はい、この入り口がそうなんです」
ドランは先ほど開いた穴を示して言った。やはりあの中には広い空間が広がっているようだ。他の人々もこのように隠された地下や壁内に入って暮らしているのだろうか。
「入っていいのか?」
「ええ、ここであなたを見捨てることは出来ません」
「で、でも、他種族を入れていいのかな?」
「今更俺らを気にする奴なんていねえさ」
ヨハネは何か気になることがあったようだが、アービスの言葉によってしぶしぶ引き下がった。
多少気にはなるが、中に入れるのであれば断る理由はない。
「じゃあ遠慮なく」
「どうぞどうぞ」
「少し狭いけどな」
そうしてコウスケは三人の秘密基地の中へお邪魔することになった。
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