負け組だった男のチートなスキル
第四十三話 長耳族のお姫様
「長耳族長って、もしかしなくても偉い人だよな?」
「は、はい、そうです」
もう一度確認するコウスケ。だが事実は変わらない。
「まぁ、とりあえずここから出るか」
ここで立ち話をしていると、追手との距離が縮まってしまいかねない。
コウスケは成り行きで出会ってしまった少女の手を引き、洞窟を進んでいった。いざという時に交換材料になるかもしれないし、ここで死なれても、この洞窟に実質的に閉じ込めたのは自分であるから目覚めが悪いという理由からだった。
「何時からここに?」
「えっと……ずっとここにいたから」
「時間の経過が分からないと」
「すいません」
以前のコウスケも洞窟内で時間の経過が分からなくなったことはあり理解は出来る。だが少女の方は答えられない事による罪悪感からか、声のトーンを落として謝った。
この程度で謝られても困るというのが本音である。
「じゃあ、誰に連れ去られたとかは?」
「ま、魔人族の男でした」
「……なるほどな」
思わず言葉を詰まらせたコウスケ。自分も魔人族の容姿を持っている。つまり誘拐犯と思われても仕方がない状況にいるのだ。
今はまだ周りが暗く、互いの容姿は確認しあえていないはずなので、少女は落ち着いているが、今隣にいる男が魔人族だと知ってしまえばどんな行動に出るか分からない。本当に厄介な事だった。
しかもこの少女を誘拐した人物は、あの魔獣を操っていた魔人の男の事だろう。つまりあの追手たちは里の騒ぎを聞きつけて来たのではなく、はなからこのお姫様を捜索中だったというわけだ。それなのにコウスケは、先ほどの魔人の男の死体に余計な小細工をしてしまった。そうなるとまわり回って、コウスケに誘拐の罪がかけられてしまいかねない。里の虐殺はあの死体が行ったと判断された場合だが。
そして一番最悪な事態は、どちらの罪もコウスケに被らされることだった。現に今、誘拐されたお姫様が隣にいる。現行犯と思われても仕方がない状況だ。
「なぁ、今からここに助けが来る。俺は訳があって一緒にはいられないんだけど――」
だから、ここで置いて行って良いか? と尋ねようとした所、少女がギュッとコウスケの手を握りしめ叫んだ。
「いや! だってあの人たちは助けなんかじゃないもん」
「どういうことだ?」
「あの人の中に私を連れ去った魔人の仲間がいるの」
少女の言うことに信憑性はなかった。だが何故か納得してしまう自分がいる。彼女がまるで嘘を言っているように思えなかったからだ。
「どうして分かる?」
「だって……」
「勘だとか言わないよな?」
もし女の勘だとでも言われようなら、無視して歩き去ってやる。
「違う……けど、お母さんに言っちゃダメって言われてて……」
どうやら彼女には秘密な力があるらしい。多分珍しいスキルでも持っているのだろう。コウスケのように。
「分かった。なら時が来たら教えてくれ」
「はい、きっと」
そう口では言いながらコウスケは鑑定をした。
名前 ミュエル・カナアウス
種族 長耳族
レベル 20
スキル 心理看破 魔法適正 真眼力
「どうしました?」
突然黙り込んだコウスケに対して不思議そうな声音をミュエルは発した。
コウスケが驚きのあまり声が出ないのは仕方のないことだった。何だこのスキルは。
どれも見たことがなく、しかも勇者と言われても疑われないほどチートと思われる名前のスキルばかりだった。作り甲斐がある。
「何でもない。それにしてもいつまで続くんだか」
「そうですね」
元々話が得意ではないコウスケに、消極的なミュエル。そんな二人の間で話が長続きするわけがなかった。
しばらく気まずい空気流れるも、歩みは進めていく。流石にこの空気には耐えられる自信はなかった。
「あの、そういえば名前は何て言うんですか?」
そこにミュエルから質問が飛ぶ。そういえば名前を名乗らせておいて自分は名乗っていなかった。
「あぁ、コウスケだ」
「コウスケさん」
ここでは敢えて偽名は使わなかった。どうせバレるのなら嘘をつくメリットはない。
    その本名を噛みしめるように言葉を繰り返すミュエル。
そんなに呼んでも何もないのだが。今回は変な名前だと指摘されずに済んだので良しとしよう。
「この国の名前ではないですよね?」
「あ、あぁ」
少し冷や汗をかきながら返事をする。まだ異世界人だと言っても魔人族だと思われても不味い状況で、
どう答えるか非常に迷うところだった。どちらにせよ戸惑わせることは間違いない。
「どこの出身の方なんですか?」
ミュエルから再び質問が飛ぶ。彼女もこの沈黙に耐えられなかったのだろうか。もしそうなら年上(だと思う)として情けない気持ちになる。
しかも、その質問もまた困った内容だった。
「えぇっと、ずっと遠くの国なんだけど」
遠くということは間違いではないが、国というよりは世界が違います。と言いたいところを堪える。
「遠い国ですか? えぇと、アリウス王国? でしたっけ」
「アリウンス王国ね」
「あぁそうでした。私、地理は苦手なんです」
この流れでなんとか出身の国を断定して答えなくて済みそうだ。
「あ、外が見えてきましたよ」
ミュエルが言う通り先に月明かりのようなほのかな明かりが見えていた。前方から風が吹いているのも感じるので外なのは間違いなさそうだ。問題は、そこに誰もいないかどうかだ。
「少し様子を見てくる」
コウスケはミュエルの前より前に出て先に様子を見に行った。もしものことがあるといけないからだ。
「『強化』」
強化を発動し周りの音という音を聞き分ける。今のところはミュエルから発せられる音以外は自然の音しかない。絶対安全だとは言い切れないが、ここでクヨクヨしていれもしょうがない。
ミュエルに大丈夫だと手振りをして呼び寄せる。だがミュエルは一歩も動かなかった。
一体どうしたのか。という具合に首を傾げるコウスケ。一向に動こうとしないミュエル。
少し変な間を置いた後、コウスケは思い出した。
「あ……」
慌てて髪を触る。そういえばミュエルは魔人族に攫われたのだ。その魔人族が助けに来るなんて怪しいし、裏があるのではと疑うのは当たり前だ。
すると、どういうわけかミュエルが近づいてきた。諦めたのだろうか。
「すいません。まさか魔人族の方だとは思っても見なかったので」
「なら、どうして近づいてきた?」
「分かるからです」
「心理看破だっけか?」
「え?」
「……あ」
コウスケは思わず口を開いた。
これは彼女から知らされた情報ではない。自分が勝手に除いた情報なのだということを。
「どうして知ってるんですか?」
「……すいません」
真顔でミュエルに見つめられる。光が照っているので今ではミュエルの顔つきがくっきり目に映る。
他人の顔を評価するなんておこがましいが、ミュエルは目鼻立ちがスッキリしており、長耳族を表しているように輝く銀色の長い髪がたなびいていた。
「良いですけど……次からはちゃんと言ってくださいよ? でないとコウスケさんを犯人って言いますから」
「はい、そうします」
今日の所は初犯のため許されることになった。笑顔で怖いことを言うミュエル。いつの間にか立場が逆転していた。いつもなら一人で行くコウスケなのだが今回はそうはいかない。
コウスケはミュエルを使って冤罪回避のために、ミュエルはコウスケを使って母親の元へ帰るために。見事に二人の利害は一致していた。
事実、逆らえないコウスケは次からはちゃんと了承を得てステータスを見ることを心に決めた。
「は、はい、そうです」
もう一度確認するコウスケ。だが事実は変わらない。
「まぁ、とりあえずここから出るか」
ここで立ち話をしていると、追手との距離が縮まってしまいかねない。
コウスケは成り行きで出会ってしまった少女の手を引き、洞窟を進んでいった。いざという時に交換材料になるかもしれないし、ここで死なれても、この洞窟に実質的に閉じ込めたのは自分であるから目覚めが悪いという理由からだった。
「何時からここに?」
「えっと……ずっとここにいたから」
「時間の経過が分からないと」
「すいません」
以前のコウスケも洞窟内で時間の経過が分からなくなったことはあり理解は出来る。だが少女の方は答えられない事による罪悪感からか、声のトーンを落として謝った。
この程度で謝られても困るというのが本音である。
「じゃあ、誰に連れ去られたとかは?」
「ま、魔人族の男でした」
「……なるほどな」
思わず言葉を詰まらせたコウスケ。自分も魔人族の容姿を持っている。つまり誘拐犯と思われても仕方がない状況にいるのだ。
今はまだ周りが暗く、互いの容姿は確認しあえていないはずなので、少女は落ち着いているが、今隣にいる男が魔人族だと知ってしまえばどんな行動に出るか分からない。本当に厄介な事だった。
しかもこの少女を誘拐した人物は、あの魔獣を操っていた魔人の男の事だろう。つまりあの追手たちは里の騒ぎを聞きつけて来たのではなく、はなからこのお姫様を捜索中だったというわけだ。それなのにコウスケは、先ほどの魔人の男の死体に余計な小細工をしてしまった。そうなるとまわり回って、コウスケに誘拐の罪がかけられてしまいかねない。里の虐殺はあの死体が行ったと判断された場合だが。
そして一番最悪な事態は、どちらの罪もコウスケに被らされることだった。現に今、誘拐されたお姫様が隣にいる。現行犯と思われても仕方がない状況だ。
「なぁ、今からここに助けが来る。俺は訳があって一緒にはいられないんだけど――」
だから、ここで置いて行って良いか? と尋ねようとした所、少女がギュッとコウスケの手を握りしめ叫んだ。
「いや! だってあの人たちは助けなんかじゃないもん」
「どういうことだ?」
「あの人の中に私を連れ去った魔人の仲間がいるの」
少女の言うことに信憑性はなかった。だが何故か納得してしまう自分がいる。彼女がまるで嘘を言っているように思えなかったからだ。
「どうして分かる?」
「だって……」
「勘だとか言わないよな?」
もし女の勘だとでも言われようなら、無視して歩き去ってやる。
「違う……けど、お母さんに言っちゃダメって言われてて……」
どうやら彼女には秘密な力があるらしい。多分珍しいスキルでも持っているのだろう。コウスケのように。
「分かった。なら時が来たら教えてくれ」
「はい、きっと」
そう口では言いながらコウスケは鑑定をした。
名前 ミュエル・カナアウス
種族 長耳族
レベル 20
スキル 心理看破 魔法適正 真眼力
「どうしました?」
突然黙り込んだコウスケに対して不思議そうな声音をミュエルは発した。
コウスケが驚きのあまり声が出ないのは仕方のないことだった。何だこのスキルは。
どれも見たことがなく、しかも勇者と言われても疑われないほどチートと思われる名前のスキルばかりだった。作り甲斐がある。
「何でもない。それにしてもいつまで続くんだか」
「そうですね」
元々話が得意ではないコウスケに、消極的なミュエル。そんな二人の間で話が長続きするわけがなかった。
しばらく気まずい空気流れるも、歩みは進めていく。流石にこの空気には耐えられる自信はなかった。
「あの、そういえば名前は何て言うんですか?」
そこにミュエルから質問が飛ぶ。そういえば名前を名乗らせておいて自分は名乗っていなかった。
「あぁ、コウスケだ」
「コウスケさん」
ここでは敢えて偽名は使わなかった。どうせバレるのなら嘘をつくメリットはない。
    その本名を噛みしめるように言葉を繰り返すミュエル。
そんなに呼んでも何もないのだが。今回は変な名前だと指摘されずに済んだので良しとしよう。
「この国の名前ではないですよね?」
「あ、あぁ」
少し冷や汗をかきながら返事をする。まだ異世界人だと言っても魔人族だと思われても不味い状況で、
どう答えるか非常に迷うところだった。どちらにせよ戸惑わせることは間違いない。
「どこの出身の方なんですか?」
ミュエルから再び質問が飛ぶ。彼女もこの沈黙に耐えられなかったのだろうか。もしそうなら年上(だと思う)として情けない気持ちになる。
しかも、その質問もまた困った内容だった。
「えぇっと、ずっと遠くの国なんだけど」
遠くということは間違いではないが、国というよりは世界が違います。と言いたいところを堪える。
「遠い国ですか? えぇと、アリウス王国? でしたっけ」
「アリウンス王国ね」
「あぁそうでした。私、地理は苦手なんです」
この流れでなんとか出身の国を断定して答えなくて済みそうだ。
「あ、外が見えてきましたよ」
ミュエルが言う通り先に月明かりのようなほのかな明かりが見えていた。前方から風が吹いているのも感じるので外なのは間違いなさそうだ。問題は、そこに誰もいないかどうかだ。
「少し様子を見てくる」
コウスケはミュエルの前より前に出て先に様子を見に行った。もしものことがあるといけないからだ。
「『強化』」
強化を発動し周りの音という音を聞き分ける。今のところはミュエルから発せられる音以外は自然の音しかない。絶対安全だとは言い切れないが、ここでクヨクヨしていれもしょうがない。
ミュエルに大丈夫だと手振りをして呼び寄せる。だがミュエルは一歩も動かなかった。
一体どうしたのか。という具合に首を傾げるコウスケ。一向に動こうとしないミュエル。
少し変な間を置いた後、コウスケは思い出した。
「あ……」
慌てて髪を触る。そういえばミュエルは魔人族に攫われたのだ。その魔人族が助けに来るなんて怪しいし、裏があるのではと疑うのは当たり前だ。
すると、どういうわけかミュエルが近づいてきた。諦めたのだろうか。
「すいません。まさか魔人族の方だとは思っても見なかったので」
「なら、どうして近づいてきた?」
「分かるからです」
「心理看破だっけか?」
「え?」
「……あ」
コウスケは思わず口を開いた。
これは彼女から知らされた情報ではない。自分が勝手に除いた情報なのだということを。
「どうして知ってるんですか?」
「……すいません」
真顔でミュエルに見つめられる。光が照っているので今ではミュエルの顔つきがくっきり目に映る。
他人の顔を評価するなんておこがましいが、ミュエルは目鼻立ちがスッキリしており、長耳族を表しているように輝く銀色の長い髪がたなびいていた。
「良いですけど……次からはちゃんと言ってくださいよ? でないとコウスケさんを犯人って言いますから」
「はい、そうします」
今日の所は初犯のため許されることになった。笑顔で怖いことを言うミュエル。いつの間にか立場が逆転していた。いつもなら一人で行くコウスケなのだが今回はそうはいかない。
コウスケはミュエルを使って冤罪回避のために、ミュエルはコウスケを使って母親の元へ帰るために。見事に二人の利害は一致していた。
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