負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

第二十五話 犯人探し

 コウスケはあの後、マリーと執事の老人を説得し、調査に出かけているところだ。久しぶりに夜ゆっくり出来る時間が持てたというのに手放してしまう自分に呆れかえっている、がしかし面倒くさいことになる前に手を打つことは大事だと言い聞かせて、今の活力にしていた。

「とはいったものの……」

 自分から名乗り出たからには、犯人が見つかりませんでしたでは済まされない。失敗すれば返って疑われる可能性すらある。
 だが残念なことに手がかりはあの羊皮紙に書かれた手紙一枚だ。加えて調査に役立ちそうなスキルは持ち合わせていない。要するに、もうすでに詰みかけているのだ。

「まずは手紙か」

 老人から受け取った手紙の内容は以下の通りだ。

『辺境伯レイモンドは我々が身柄を拘束した。無事に返して欲しくば、身代金100000M又は令嬢マリーの身柄との交換を要求する。期限は明日の朝、森の入り口で行う。憲兵を呼んだり、間に合わなかった場合には、辺境伯の命はないと思え。バンク盗賊団』

 といった内容だった。だからコウスケは日が昇るのを待たず、今調査を開始しているのだ。
 ちなみに、バンク盗賊団というのは、かなり前からこの近辺で活動をしている盗賊団だそうで、荷馬車を狙ったり、女、子供などを攫うなどの悪行を行っているそうだ。だが、近頃はその活動を活発化させ、やることもエスカレートしていっているそうで、国の憲兵から目をつけられ始めているという。付け足すと、憲兵から目をつけられているにも関わらず未だに残っており、しかも辺境伯の誘拐なんてことを出来るということは、かなりの力を持っている盗賊団だということが分かる。

「厄介だな」

 そんな相手とやりあわなければならないなんて、かなり面倒くさい。しかも他人のためにだと考えると尚更だ。
 愚痴をこぼしながらコウスケは、まず聞き込み調査――なんてするわけもなく、森へ向かった。受け取り場所が森であることと、奴らのアジトが森にあるという情報が老人からもたらされたからだ。
 森と一言で言っても、かなり広い。何せ国境にまたがって生い茂っているのだ。なのでコウスケみたいに、ロイヒエン王国からの迷子も時々出るそうだ。もちろん逆もある。

 まず森に着いたコウスケがすることは『超感覚』の発動だった。
 夜のため、音はほとんど聞こえない。つまり奴らの音が聞こえやすくなる。他の五感は当てにならないため、目を閉じて音に集中した。

 カサカサと風で木の葉っぱが揺れ動く音が響き渡る。今のところ自然以外の音は見つからない。一つ例外はあるが……
 このままでは埒が明かないと判断したコウスケは、森の奥へと進んだ。
 一層と暗みを増す森の中。

「はぁ、使いたくはないが……」

 ボソリと呟き、コウスケは『超感覚』を解除して『強化』を聴覚に施した。しかしコウスケはこのスキルを出来れば使いたくなかった。その理由は、今回対峙するであろう盗賊団の情報に関係していた。その情報というのも、奴らは爆弾を多用するという情報だ。爆弾ということは、強烈な光に音、それに範囲攻撃であることは間違いない。つまり、避けられない攻撃であるのだ。ということは『強化』の天敵ともいえる。音で耳は壊れ、光で目はつぶれる。しまいに爆風で痛覚強化ときたら、戦闘不能になる自信しかない。
 だが今はそれらの懸念よりも、奴らを見つけることが先だ。

「見つけた」

 その作戦が功を奏して、コウスケの耳は不自然な草のさざめきを捉えた。人数までは分からないが、人である可能性は高い。少なくとも二足歩行の動物だ。
 コウスケは息を潜めてゆっくりとその生き物の方向へ移動する。今すぐ襲うとアジトが分からないばかりか、人質の命の危険さえあるからだ。そして一定の距離まで近づくとそれが人であると確認できた。目を『強化』して見たからだ。

 コウスケはしばらくその人影との一定の距離を保ち、ついていった。

「洞窟か……」

 その人影が消えていった場所である。洞窟といえば、嫌な思い出しかない。いっそのこと洞窟に入らずに魔法を放ち続ければ、全滅出来るのだろうが、それでは人質をも焼き殺すことになるためボツだ。
 最近物騒なことが良く思い浮かぶ。
 コウスケはそんな自分に苦笑しながら、洞窟内へ進んでいった。

「兄貴、俺ら大丈夫なんすかね?」

 中から聞こえてくる人の言葉。

「大丈夫に決まってんだろ。俺らは今まで生き残ってきたんだぞ?」
「そうっすけど……」
「なぁにビビってるんだよ、ここには親分も兄貴もいるんだぞ、もし憲兵が来ても負けはしねえさ」
「そうっすね!」

 洞窟内には数人ほどいるようだった。だが話に出てくる人の名前を考慮すると、また別の部屋が奥にあるか、別のアジトがあるか、どちらかだろう。
 ならば、ここで出て皆殺ししても、そこに人質の辺境伯がいなければ元も子もない。やはり引き渡し時間まで待つしかないのかもしれない。 
 とりあえず今は情報を得るため、盗賊たちの会話を盗み聞きすることにした。

「でも今回ばかりは結構ヤバくないっすか?」
「まあな……でもあのお方の命令だからな」
「何者なんすか?」
「さあな、でも俺ら盗賊団を成り上げたのはあのお方のお陰なのは変わりねえ」
「あー、そろそろ見回り行ってきます」
「そうだな、じゃあ俺は人質の様子でも見に行くか」

 洞窟の中からこちらの方へ近づいてくる足音。もう隠れることはしない。たった今その理由がなくなったからだ。
 人質がこの洞窟の中にいるなら、もう待つ必要はない。

 そして一人が洞窟の中から出てきた。

「はぁ……信じられねえっすねぇ、まさかあの辺境伯を……うぐっ」

 コウスケはその盗賊を後ろから襲い掛かり、いわゆる裸絞、チョークスリーパーの形を取って盗賊の首を絞めた。
 本来なら一思いに殺してしまいたかったのだが、そうできない理由がある。主に後ろの……
 人を殺したことがなかったなんて甘い理由ではない。別の話だ。

「だ、誰だ」
「……さぁ?」

 盗賊は苦しそうに呻き、ジタバタと抵抗するが、念のためにと『強化』を施した腕力に勝てるわけもなく、あっさりと落ちた。
 まずは一人目だ。しかも幸いなことに顔を隠す系の盗賊だった。つまり服装を拝借すれば一時的には変装し奴らの中に紛れられるかもしれない。

 早速身ぐるみを剥ぎ、そのまんま着る。
 その後洞窟へ入った。

「お、戻ってきたか」

 コウスケに話しかける者がいた。盗賊である。

「あ、はい」
「なんだ? 少し大きくなったか?」
「え、そうですかね」
「もしや……」

 疑うような目つきでコウスケへ詰め寄る男。思わず冷や汗が浮かぶ。

「お前、一人で何か食ったな?」
「え……? あ、はい、すいません」
「やっぱりかぁ、まあ最近でかい仕事しかしてねえから、食事にはありつけてねえんだよなぁ」

 男は勝手な思い過ごしをしてくれたようだった。

「今日の所は内緒にしてやるよ、なにせ大仕事の最中なんだからな」
「ありがとうございます」
「じゃあ持ち場に着け」
「はい」

 持ち場がどこかは分からないが、適当に空いてる場所へ移動した。

「おいおい、お前はここだろ? 寝不足か?」
「すいません」
「全く……しっかりしろよ。下手するとあのお方に爆ぜさせられるぞ」
「は、爆ぜ? あ、はい気を付けます」

 爆ぜさせられるなんて初めて聞く単語だが、とりあえず頷いておいた。ちなみにコウスケは喉に『強化』を施しているため、声真似は結構似ているはずだ。

 その後は、洞窟内を見渡して次の部屋へ続く道を確認したり、人数を把握したりなど情報を集め、隙が生まれるその時を待っていた。
 どのくらいの時が経っただろうか。寝不足だったのだろう。ほとんどの盗賊がウトウトとし始めた。

「兄貴、少しトイレ行ってきていいっすか?」
「んあ? ああ、行ってこい」

 寝ぼけ眼の盗賊へそう声をかけた後、コウスケは奥へと続く道へ素早くかつ静かに向かった。途中、疑うような目線を向けてくる者には、仕方がないので物理的に眠らせた。

 洞窟の奥は、その前の部屋よりは狭いところだった。だが人は先ほどの部屋より負けず劣らない。ここで見つかると厄介なことになりそうなので、しっかり注意して進んでいく。

 とりあえず人を確認して分かったことは、奥にいる鎖で縛られているのが人質の辺境伯で、近くで踏ん反り返っているのがこの盗賊団のボスと思われた。他にも盗賊はいるが、どいつもその盗賊にへこへことしていることからそう判断した。

「おい、もうすぐ朝だ。野郎ども仕事の準備だ」
「はい!」

 コウスケは内心とても驚いていた。まさかそれほど時間が進んでいるとは思ってなかったからだ。
 まずいとは思いながらも下手なことは出来ない。ここで騒ぎを起こせば四方八方から攻撃を受けてしまいかねない。
 仕方なくコウスケはもと来た道を引き返すことにした。

「げへへ、早くあのマリーとかいう女を俺の物にしてえなぁ」

 ボスらしき人物のそういった声が背後から聞こえてきた。はなからお金ではなくマリーが目当てだったのだろう。
 その声を耳で聞きながらコウスケは不敵な笑みを浮かべていた。

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