負け組だった男のチートなスキル
第十八話 ドラゴン退治
ドラゴンの放った巨大な炎は始めに光のカーテンに衝突する。見た目はとても薄いベールなのだが、思いのほか炎を受け止めきっていた。
「いくら聖域でも……」
その様子を見ていた女性がボソリと呟いた。所持者がいうのだからそうなのだろう。
その言葉通り、直ぐに光のカーテンにヒビが入り始める。炎の勢いは若干弱まったものの、コウスケが出した土の壁だけでは防ぎきれないだろう。
そして光のカーテンが粉々に砕け散り、勢いそのまま炎の塊が土の壁へ衝突する。
それと同時に激しい熱気が襲い掛かる。土がそのまま焼けているのだ。その様子を見る限り到底炎を防げるようには見えない。
「クソ、こうなったら……」
コウスケは熱気で焼ける肌の痛みに耐えながら、受け取った聖剣と思しき剣を握る。
コウスケは炎をその剣で真っ二つにする気だった。
「ファイア」
例の如く赤黒い炎が聖剣包む。
だがどういうわけか、コウスケの赤黒い炎は聖剣の周りに纏っているだけで、直接聖剣が燃え盛っているわけではない。聖剣というだけあって、他の穢れは取り除かれるのだろうか。
とはいえそんな事を考えている暇はなく、次第に土の壁はボロボロに焼け焦げてきていた。
「下がれ」
正直邪魔な女性を後ろへ下がらせる。
その後、とうとう土の壁が崩壊する。
目の前に現れる巨大な炎の塊。熱気も凄まじく目を開けているのがやっとだ。
「くらええええ!」
半ばやけくそに大きく剣を振りかぶって、炎に対して振るった。だが死の恐怖が勝ってしまいコウスケの剣は早めに振るわれ空を切る。
だが、剣を振るうと同時に聖剣を覆っていた赤黒い炎が前方へ飛んでいった。そしてその赤黒い炎とドラゴンの炎が激突し激しい熱気が巻き起こる。予想だにしなかったことだが、これで少しだけ炎の威力を弱めることが出来た。
とはいえ未だ炎はこちらへ向かってきている。先ほどの出来事でコウスケはようやく我に返る。炎を斬るなんて無謀にも程があると言うことを。
「ウォーター」
コウスケは両手を振るい魔法を発動させた。炎には水。実に簡単な対処法だ。
コウスケの前方から何十リットルもの水が現れ炎と衝突する。
高温の炎で熱せられた水は一瞬で沸騰し蒸発する。
辺りが湯気に包まれ、視界が悪化する。それでも油断せずにコウスケは水を放出し続けた。
かなりの湯気が立ち上る中、湿気は尋常じゃないほど上がり、動かなくても汗が滝のように流れる。だが、コウスケたちは焼けてはいなかった。つまり炎対水の対決は水に勝敗があがったということだ。
「助かった……」
「本当に……?」
コウスケはドッと疲れが出てグタッと肩を落とした。
対して女性の方は、未だに状況を理解出来ずにポカンとして立ちつくしていた。
「ってまだなんだけど」
コウスケは首を振ってドラゴンのいるであろう方向へ顔を向ける。
未だ湯気が立ち上っているため、ドラゴンの姿は確認出来ないが、もしかすると二度目の炎を放ってくる可能性すらあるのだ。そうなってしまえば、今度こそ絶体絶命の状況に陥ってしまう。それだけは回避しなければならなかった。
「おい美月。聖域はだせるか?」
「は、はい!」
コウスケは美月へと乱暴に尋ねた。美月は自分が名前で告げられていることを今は気づいていないようで、早速『聖域』の展開をしようとしていた。
「『聖域』展開!」
美月の聖域はコウスケのものより遥かに綺麗で範囲も広かった。これならもう一度くらいならドラゴンの炎を防げるだろう。
その時湯気の中から再び炎の塊が出現した。
今度はすぐに聖域と炎が衝突しまぶしい光を発している。コウスケの時より数倍持ちそうな聖域だったが、それでも完全には防げなさそうだ。
「グランド」
美月の前に土壁を出現させ、コウスケは炎が吐かれた方向へ走り出した。
「え!?」
美月が戸惑いの声を上げる。あの土壁だけじゃ物足りないというのだろうか。
「はぁ、ウォーター」
仕方ない、とため息を吐きコウスケは走りながら、炎の塊に水を放出した。これで少しは威力が減っただろう。あとは時間との勝負だ。
しばらく湯気の中を走っているとドラゴンの影がうっすらと浮かび上がっているのが確認できた。
そこで、コウスケは再び聖剣に赤黒い炎を纏わせ、強く握りしめた。
「そこだぁああああ!」
その影目がけて大きく聖剣を振るう。例の如く聖剣に纏っていた炎は剣から離れ、飛んでいく。
その炎は湯気に消えるが、途端にドラゴンの悲鳴が響いた。
「ギュアアアア!」
「はああああ!」
その悲鳴を聞くと同時にコウスケは一気にドラゴンの方へ駆け出す。
湯気の中からドラゴンの姿が浮かび上がる。しり込みしたくなる気持ちを抑え、コウスケは聖剣をドラゴンに振り下ろした。
再び響くドラゴンの悲鳴。必死にもがき近くの者を払いのけようとしているが、コウスケはあえてもがくドラゴンの足へとへばりつき、上へと登って行った。
『強化』を使っているとはいえ、かなりの揺れに耐るのは至難の業だった。それに『強化』のデメリットである感覚の強化によって、余計に目が回る。
目を回しながらも、コウスケは必死にドラゴンの胴体を登り、ようやく背中へと登り詰めた。だがもう気分の悪さが限界を突破し攻撃どころじゃない。
であれば、今頼れるのは一人しかいない。
「みつきいいいいいいい! いけえええええ!」
「えええええ! な、何をすればいいんですかーーー!」
ようやく炎の塊を退け、ホッとしていた美月は、コウスケの叫びを聞き焦った表情で叫び返した。
とはいったものの、コウスケにはこれといった策はなかった。せめてドラゴンの注意を引いてもらいたい。それだけだった。
なのでコウスケはその質問には返事せず、気分の悪さを解消するために黙って遠くを眺めていた。
「な、何か言ってくださいよぉ!」
美月は涙目で必死に訴えているが、コウスケはそれに返事をしない。美月に返事をする必要がなかった。
現に今この状況、コウスケの思惑通りになっている。
美月の声を聞いたドラゴンは、美月へ意識を移していたからだ。
悪い言い方をすれば美月を囮として使ったのだ。
「まぁ感謝はしてるよ」
必死な形相で逃げ回っている美月を見ながらコウスケはボソリと呟いた。
そして彼女の聖剣に炎を纏わせ、強く握りしめる。
今現在コウスケがいる位置は、ドラゴンの首の付け根付近。『強化』状態であればギリギリ脳天へと剣を突き刺せる距離だ。
「グララアアアアア!」
ドラゴンが大きく口を開け、美月へと炎を吐く準備に入った。
「今だあああ!」
コウスケはその瞬間を待っていたとばかりに叫び、そして跳んだ。
目指すはドラゴンの頭部。あと少しすれば手に持っている聖剣が脳天へと突き刺さる――その時だった。
ドラゴンは突然口を閉じ、顔を反らしたのだ。
「なっ!」
このままではコウスケの剣はドラゴンへと届かない。それだけではない。この高さから落ちれば『強化』による痛覚強化で動けなくなるほどの痛みに襲われる可能性だってあった。
そんな危機的な状況。彼女が動いた。
「――ウィンド」
コウスケの胴体に強い風が巻き起こる。
決して自然の風ではない。彼女――美月が今自分にできる最低限の魔法を唱えたのだ。
「ほんと感謝してるよ」
その風に乗りながらコウスケは美月へ薄い笑みを浮かべてて呟く。
彼女のことは前の世界で見たことはない。だが異世界人である彼女を到底許すことができないと思っていた。思っていたのだが、ここまでされてしまうと、殺してしまうには惜しいと考えてしまう。
どす黒いコウスケの心に若干の濁りが生まれた瞬間だった。
そしてコウスケの聖剣はドラゴンの脳天を貫いた。
「いくら聖域でも……」
その様子を見ていた女性がボソリと呟いた。所持者がいうのだからそうなのだろう。
その言葉通り、直ぐに光のカーテンにヒビが入り始める。炎の勢いは若干弱まったものの、コウスケが出した土の壁だけでは防ぎきれないだろう。
そして光のカーテンが粉々に砕け散り、勢いそのまま炎の塊が土の壁へ衝突する。
それと同時に激しい熱気が襲い掛かる。土がそのまま焼けているのだ。その様子を見る限り到底炎を防げるようには見えない。
「クソ、こうなったら……」
コウスケは熱気で焼ける肌の痛みに耐えながら、受け取った聖剣と思しき剣を握る。
コウスケは炎をその剣で真っ二つにする気だった。
「ファイア」
例の如く赤黒い炎が聖剣包む。
だがどういうわけか、コウスケの赤黒い炎は聖剣の周りに纏っているだけで、直接聖剣が燃え盛っているわけではない。聖剣というだけあって、他の穢れは取り除かれるのだろうか。
とはいえそんな事を考えている暇はなく、次第に土の壁はボロボロに焼け焦げてきていた。
「下がれ」
正直邪魔な女性を後ろへ下がらせる。
その後、とうとう土の壁が崩壊する。
目の前に現れる巨大な炎の塊。熱気も凄まじく目を開けているのがやっとだ。
「くらええええ!」
半ばやけくそに大きく剣を振りかぶって、炎に対して振るった。だが死の恐怖が勝ってしまいコウスケの剣は早めに振るわれ空を切る。
だが、剣を振るうと同時に聖剣を覆っていた赤黒い炎が前方へ飛んでいった。そしてその赤黒い炎とドラゴンの炎が激突し激しい熱気が巻き起こる。予想だにしなかったことだが、これで少しだけ炎の威力を弱めることが出来た。
とはいえ未だ炎はこちらへ向かってきている。先ほどの出来事でコウスケはようやく我に返る。炎を斬るなんて無謀にも程があると言うことを。
「ウォーター」
コウスケは両手を振るい魔法を発動させた。炎には水。実に簡単な対処法だ。
コウスケの前方から何十リットルもの水が現れ炎と衝突する。
高温の炎で熱せられた水は一瞬で沸騰し蒸発する。
辺りが湯気に包まれ、視界が悪化する。それでも油断せずにコウスケは水を放出し続けた。
かなりの湯気が立ち上る中、湿気は尋常じゃないほど上がり、動かなくても汗が滝のように流れる。だが、コウスケたちは焼けてはいなかった。つまり炎対水の対決は水に勝敗があがったということだ。
「助かった……」
「本当に……?」
コウスケはドッと疲れが出てグタッと肩を落とした。
対して女性の方は、未だに状況を理解出来ずにポカンとして立ちつくしていた。
「ってまだなんだけど」
コウスケは首を振ってドラゴンのいるであろう方向へ顔を向ける。
未だ湯気が立ち上っているため、ドラゴンの姿は確認出来ないが、もしかすると二度目の炎を放ってくる可能性すらあるのだ。そうなってしまえば、今度こそ絶体絶命の状況に陥ってしまう。それだけは回避しなければならなかった。
「おい美月。聖域はだせるか?」
「は、はい!」
コウスケは美月へと乱暴に尋ねた。美月は自分が名前で告げられていることを今は気づいていないようで、早速『聖域』の展開をしようとしていた。
「『聖域』展開!」
美月の聖域はコウスケのものより遥かに綺麗で範囲も広かった。これならもう一度くらいならドラゴンの炎を防げるだろう。
その時湯気の中から再び炎の塊が出現した。
今度はすぐに聖域と炎が衝突しまぶしい光を発している。コウスケの時より数倍持ちそうな聖域だったが、それでも完全には防げなさそうだ。
「グランド」
美月の前に土壁を出現させ、コウスケは炎が吐かれた方向へ走り出した。
「え!?」
美月が戸惑いの声を上げる。あの土壁だけじゃ物足りないというのだろうか。
「はぁ、ウォーター」
仕方ない、とため息を吐きコウスケは走りながら、炎の塊に水を放出した。これで少しは威力が減っただろう。あとは時間との勝負だ。
しばらく湯気の中を走っているとドラゴンの影がうっすらと浮かび上がっているのが確認できた。
そこで、コウスケは再び聖剣に赤黒い炎を纏わせ、強く握りしめた。
「そこだぁああああ!」
その影目がけて大きく聖剣を振るう。例の如く聖剣に纏っていた炎は剣から離れ、飛んでいく。
その炎は湯気に消えるが、途端にドラゴンの悲鳴が響いた。
「ギュアアアア!」
「はああああ!」
その悲鳴を聞くと同時にコウスケは一気にドラゴンの方へ駆け出す。
湯気の中からドラゴンの姿が浮かび上がる。しり込みしたくなる気持ちを抑え、コウスケは聖剣をドラゴンに振り下ろした。
再び響くドラゴンの悲鳴。必死にもがき近くの者を払いのけようとしているが、コウスケはあえてもがくドラゴンの足へとへばりつき、上へと登って行った。
『強化』を使っているとはいえ、かなりの揺れに耐るのは至難の業だった。それに『強化』のデメリットである感覚の強化によって、余計に目が回る。
目を回しながらも、コウスケは必死にドラゴンの胴体を登り、ようやく背中へと登り詰めた。だがもう気分の悪さが限界を突破し攻撃どころじゃない。
であれば、今頼れるのは一人しかいない。
「みつきいいいいいいい! いけえええええ!」
「えええええ! な、何をすればいいんですかーーー!」
ようやく炎の塊を退け、ホッとしていた美月は、コウスケの叫びを聞き焦った表情で叫び返した。
とはいったものの、コウスケにはこれといった策はなかった。せめてドラゴンの注意を引いてもらいたい。それだけだった。
なのでコウスケはその質問には返事せず、気分の悪さを解消するために黙って遠くを眺めていた。
「な、何か言ってくださいよぉ!」
美月は涙目で必死に訴えているが、コウスケはそれに返事をしない。美月に返事をする必要がなかった。
現に今この状況、コウスケの思惑通りになっている。
美月の声を聞いたドラゴンは、美月へ意識を移していたからだ。
悪い言い方をすれば美月を囮として使ったのだ。
「まぁ感謝はしてるよ」
必死な形相で逃げ回っている美月を見ながらコウスケはボソリと呟いた。
そして彼女の聖剣に炎を纏わせ、強く握りしめる。
今現在コウスケがいる位置は、ドラゴンの首の付け根付近。『強化』状態であればギリギリ脳天へと剣を突き刺せる距離だ。
「グララアアアアア!」
ドラゴンが大きく口を開け、美月へと炎を吐く準備に入った。
「今だあああ!」
コウスケはその瞬間を待っていたとばかりに叫び、そして跳んだ。
目指すはドラゴンの頭部。あと少しすれば手に持っている聖剣が脳天へと突き刺さる――その時だった。
ドラゴンは突然口を閉じ、顔を反らしたのだ。
「なっ!」
このままではコウスケの剣はドラゴンへと届かない。それだけではない。この高さから落ちれば『強化』による痛覚強化で動けなくなるほどの痛みに襲われる可能性だってあった。
そんな危機的な状況。彼女が動いた。
「――ウィンド」
コウスケの胴体に強い風が巻き起こる。
決して自然の風ではない。彼女――美月が今自分にできる最低限の魔法を唱えたのだ。
「ほんと感謝してるよ」
その風に乗りながらコウスケは美月へ薄い笑みを浮かべてて呟く。
彼女のことは前の世界で見たことはない。だが異世界人である彼女を到底許すことができないと思っていた。思っていたのだが、ここまでされてしまうと、殺してしまうには惜しいと考えてしまう。
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