負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

第十六話 身体(チカラ)

 ステータスを見た限りでは、『更新』なんていうスキルはなかったと記憶していた。だが確かに気絶する前にそういう言葉を聞いたという記憶はあった。
 であればなぜ、今は『更新』というスキルがないのか。
    それについてはいくつか憶測が出来た。一つはレベルが初期化されたことによるスキルスロットオーバーの可能性。もう一つは消費スキルという名前だ。
 コウスケにしてみれば後者ではないかと考えていた。何故な、消費スキルの、消費という意味が一回きりというニュアンスがあるのではないか。それに加え、あの時の声は装備するか問わずに、有無を言わせず使用を宣告したことを考えると、何らかの条件化で自動的に発動するスキルなのではと考えついた。
 コウスケの場合は、種族の変化によるものだろう。
 ならば、今のコウスケの容姿はもしかすると全く別人になっている可能性があるのでは、と思い立つ。決して自分の顔が好きというわけではないが、少なからず思い入れは持っている。それに世間的に差別されている種族の容姿が反映されてしまうと、色々と困ることが出てくるだろう。キィンクが言っていたように、この世界では平気で人種差別がされている節があるからだ。

「と言っても、暗いし鏡もない」

 コウスケはボソリと呟いた。現にこの暗さでは輪郭などは分かるのだが、さすがに細かな色までは判別できない。なので今最低限自分の状態がわかるのは、部位の有無程度だ。
 少し魔人という表記に怖くなって、頭を触ってみたコウスケだったが、幸いにも角などは生えていなかった。それだけは心底良かったと言うべきか。

 とりあえずこれ以上考えていても答えは出ないと判断し、これからのことについて考えることにした。これからのことと言っても、洞窟から出る方法なのだが、コウスケの感覚が当たっているなら、このどこまでも続く洞窟の通路は段々と下っているように感じる。まさか洞窟が宙に浮いているわけもなく、下っていっているということは、行き着くのは出口ではなく深部である。つまりこのまま進んでいっても出口にはたどり着けなず、逆に出口から遠ざかってしまうのだ。とはいえ、ここで立ち止まるという選択肢はコウスケにはなかった。行く末が深部だろうときっとそこには何かがある。何もなくても、別の道が見えてくるはずだ。そう考えていたのだ。

 だがそもそもこの洞窟が未だに良く分かっていない。町の中にある洞窟だとするならば、コウスケが今まで出会ってきた、強大な魔物が平気でたむろしているわけがない。そんな魔物がいるなら、パニックにならないよう一刻も早く国が処分するだろう。
 ならば、この洞窟は町の外。つまりコウスケが勇者達に殺されかけた草原を含む場所に存在する洞窟ということになる。であれば、助けはまず来ないと考えるほうが良いだろう。もし人が訪れるなら、その人はきっと、命知らずか、無知な人、犯罪者、またはレベル上げのために来る修行者だ。
 コウスケの願いとしてみれば、修行者を希望したい。だがそもそも人が来る可能性が低い中で、ピンポイントでそんな人が来るなんて確立は、相当低いだろう。
 そんな来るかも分からない人、希望にすがるより、自分で道を切り開くほうが現実的だ。と考える。

 以前のコウスケなら、きっと一度は儚い希望にすがっていただろうが、一度死に掛けた今のコウスケは直ぐに現実を見つめ、力強い一歩を踏みしめ進んでいく。
 それもこれも、全ては復讐というどす黒い感情と、生きるという唯一無二の生物的本能によるものだ。

 表面上は復讐という狂気に落ちていないコウスケだが、それはあくまでその対象が目の前にいないからだ。まだ完全に狂気には呑まれていなかった。コウスケには命を繋いでくれた両親。奴らを見返すための環境に転移し、かつチート級のスキル、そして腕を失っても生きながらえることの出来た運命に少なからずの感謝の気持ちがかすかに心の中を照らしていた。だがきっと、奴らを目にしたその時にはどうなっているか、コウスケ本人にも分からない。

「そういえばレベル……」

 ここまで来る過程でいくつかの魔物を殺した。なのでレベルがいくつか上がったのだ。
 そこでステータスを開き、スキルスロットが増えたのを確認したうえで、先ほど外した鑑定スキルを再び装備した。コウスケのスキル上鑑定スキルが肝になるため、一刻も早く付け直したかったのだ。
 鑑定スキル装備した瞬間に魔物が現れた。それは以前、死闘を繰り広げたあの恐竜型の魔物だった。

「グオオオオオオ!」

 以前感じた恐怖はほとんどなかった。むしろあの時の自分と今の戦闘能力の比較が出来るという高揚感の方が勝っていた。

「確か、ファイクラウルスだったか?」
「ガアアアアアア」

 もちろんコウスケの問いにその魔物は答えず、威嚇をするだけだ。
 余裕の笑みを浮かべるコウスケだったが、一つ問題があった。あの時と比べてこの通路はかなり狭いという点だ。狭いということは、避けるのは困難で、あの魔物と真っ向勝負をすることになる。
 そんな危機的状況の中でもコウスケは笑みを絶やさない。

「……最高じゃねえか」

 そう呟きコウスケは飛び込んだ。

 まずコウスケは『強化』を全身に施した。ちなみに先ほどまで持っていた骨は既に折れてしまい捨ててしまっている。ということは今のコウスケの攻撃手段は素手だ。もちろん『強化』状態では痛覚が増すということは忘れてはいない。だが、それでもコウスケは素手でその魔物相手に立ち向かっていった。

 魔物がコウスケの飛び出しと同時に大きく口を開く。
 その口目掛けてコウスケは、手を伸ばす。そのまま魔物の口目掛けて攻撃をするかに思われたがそうではなかった。

「ファイア」
「ギャアアアア!」

 魔物の口にあの赤黒い炎を放つ。明るくはなくてもしっかりと物を燃やすその炎は魔物に対して効果は抜群だった。増してや口の中という脆い部分だ。効かないわけがない。
 口の中が焼け爛れた魔物にコウスケは追撃を食らわせる。次こそ拳を。

「痛っ」

 重く鈍い音と共にコウスケの拳が魔物の腹にめり込む。
 魔物は相変わらず熱さと痛みに苦しんでいるため、反撃はままならない。

「ファイア」
「グアアアアア!」

 めり込ませた拳の状態のまま、再び魔法を放つ。残念ながら体内に拳は到達していなかったので、燃えたのは表面だけだ。
 そこでようやく魔物が反撃をしてきた。痛みより目の前の敵を倒すことが生命維持に重要だと判断したのだろう。だが時既に遅し。コウスケはトドメの一撃を魔物へと繰り出す。
 もちろんあの死闘で得たこの魔物の弱点部位へ。

「名づけて……ファイア蹴り」

 ダサいネーミングだと思いながらも、コウスケはそう呟いて足に火の魔法を発動させ、そのまま右脇腹へ蹴りを入れた。
 あの死闘が嘘のように、決着は呆気ないものだった。
 それにしてもあれだけ魔法を使ったのに未だ元気なままだった。それもステータスにあった「異常」の表記道理なのかもしれない。

「強くなったのか、経験のお陰か……」

 どっちかは分からないが、確実に強くなっている実感を得たコウスケは自信を抱いた。
 そして、いつものようにお食事を済ませて先へ進んだ。


 洞窟の通路をある程度進むと、ある広い空間に行き着いた。
 コウスケが始めに目覚めた空間より遥かに広い。そしてこの空間は明らかに人の手が加えられたものだった。それは空間の天井が今までのゴツゴツとしたものが全くなくなり、更には何らかの模様が入っている。加えて、この空間の壁にはいくつもの浅い穴が掘られており、その穴一つ一つに小さな光を放つ鉱石がはめられていた。
 ここが一体何をするための場所かは定かではないが、一つだけ言える事がある。それはこの空間は確実にコウスケを歓迎していないということだ。その証拠に、この空間の中央に佇む巨大な存在。

「ドラゴン……」

 それは、爬虫類のような鱗と目に、鋭い牙と爪、極めつけは大きな翼。そうその存在はまさしくファンタジーの物語にしか出てこないドラゴンそのものだった。

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