負け組だった男のチートなスキル
第五話 戦闘経験
次の日の朝、起きたら荷物もまとめてゲンジュたちがいなくなっていた――ということはなかった。
いささか今までの生活のせいで不信感が拭えないでいる。早めに直していかないと精神的に疲れてしまう。
その代わりにコウスケはゲンジュに荒々しく起こされた。
どんな起こし方か。それは布団を取り上げるといった、いわば王道の起こし方なんて生易しいものではない。
ベットごと持ち上げるという、何とも大胆なそして規格外の起こし方だ。
「もうちょっと、穏やかに起こせないんですか?」
「なーに甘っちょろいこと言ってんだよ、俺は二度寝する奴を見るのが嫌いなんだよ。それに昨日どんだけ素振りしてきたんだ」
「あー、かなりやっちゃいました」
薄目でゲンジュはコウスケを呆れた顔をし、コウスケは苦笑いを浮かべた。
そんな会話を交わしながら、キィンクと合流し朝食をとる。
「それでお前はこの後どうすんだ?」
「えっと、まずは戦闘の経験を積まないといけないと思ってますね」
「だろうな、逃げ足だけじゃ勝てないもんな」
昨日のことを思い出したのか、ゲンジュは笑みをこぼしながら話していた。
反対に、コウスケは、昨日のことを思いだし、ブルッと体が震えた。
そして相変わらずなんの表情も変えないキィンク。
いや少し眠そうな顔をしていた。
「じゃ、俺がいろいろ教えてやるか?」
「いいんですか? よろしくお願いします、ですけど、俺のステータスが低すぎて倒せるかどうか……」
「ん? どのくらいなんだ?」
「レベル1でおまけに初期ステータスが最低ランクです」
「……冗談だよな?」
ゲンジュが冗談だと思うのは、無理がない。
いくら平凡のステータスだとは言っても、他の人々は平凡なりにレベルを上げることによって、ステータスを上げている。
それに比べて、コウスケはレベル1。
自分で思っては何だが、ゴミの中のゴミである。
「まぁ勇者落ちしたほどだもんな、それにまだレベル1だろ?」
「はい、そうですけど」
「ならこれから頑張れば良いじゃねえか、そこまで落ち込むなよ」
「ありがとございます」
ゲンジュに慰めらた。キィンクに背中を叩かれた。コウスケは立ち直って二人の後をついていく。
そこは昨日ひどい目にあった、外だ。
「まずは打ち合いでもしてみるか」
ゲンジュはコウスケへ向き合って剣を構えた。
「早速ですか!?」
「いいじゃねえか、頭で理解するより体で覚えたほうが手っ取り早い」
ゲンジュはそう言うと、直ぐにコウスケへ剣を近づけた。
慌ててコウスケも刀を抜き、迫る剣にギリギリぶつけた。
「いてて」
「そんなんで痛がってちゃ、魔物なんて倒せねえぞ」
思っていた以上に手のひらに衝撃が来る。
これがぶっつけ本番じゃなくて良かったと心底思った。このまま実践に挑んでいたらと思うとゾッとする。
その後ずっとキィンクの見つめる中、二人は打ち合っていた。
「はぁはぁ」
「いい準備運動だったな」
「準備運動レベルじゃないんですが」
すっかりクタクタに疲れたコウスケ。
その様子を見て、呆れた表情のゲンジュは休憩を挟んでくれた。
休憩後には早速魔物退治に出かける。
今は昨日みたいに丸腰ではなく装備を身に付けており少しだけだが余裕もある、と思いたい。
そんなことを考えていると、昨日と同じイノシシ型の魔物が現れた。
「安心しろ、俺たちが手本を見せてやる」
ゲンジュとキィンクがコウスケの前に立ち、戦闘態勢に入る。
そして狩りが始まった。
「す、すごい」
コウスケは思わず感嘆の声をもらす。
結果は一撃。
ゲンジュが向かってくるイノシシに対して横に跳び、イノシシの体を横から切り裂いて終了だった。手慣れてはいるだろうが、それにしても凄いと思うしかない。
「ま、こんなもんだな」
「すごいです、初めて尊敬しました」
「そうだろそうだろ……って、今、何気にひどいこと言わなかったか?」
「気のせいですよ、普通にすごかったです」
「ならいいけどな、じゃ、次はお前がやってみろ」
「え!? 無理ですって」
一度戦いを見せてもらっただけでさっそく実戦というのは、いささか難易度が高すぎるのではないだろうか。全く自分が出来るイメージが湧かない。
「大丈夫だって、あいつは魔物の中でも簡単に倒せる方なんだよ、当たれば痛いが、攻撃は単調だし、カウンターを狙っていけば倒せるさ」
「全然安心できないんですけど」
「……大丈夫」
キィンクにまでも大丈夫だと言われ、しぶしぶ前線に出る。脳筋と思われるゲンジュではなく、冷静な観察をしているはずのキィンクに言われればそれは信じるしかないからだ。
だが魔物はすぐに現れることは無く、その間しばらく雑談をした。
「お前、痩せれば顔はいいと思うぞ?」
「好きでこんな体系じゃないですよ……」
「そうだろうな、でもここでの生活を続ければ太れないだろうよ」
ゲンジュが言う事は一理あった。
毎日危険と隣り合わせのこの世界では、当たり前だが太る方が難しいはずだ。
ということは太っているコウスケはそれだけで贅沢者という烙印が押されているに等しいのだろう。
そんなことをコウスケはそう思いながら、自分のおなかを触る。
「おっと、話はここでいったん終わりだな」
ゲンジュが、緊張した面持ちで前を見つめる。
そこにはイノシシ型魔物がいた。コウスケはゴクリと唾を飲む。
「俺と同じように動けばいいだけだ、もし一撃で仕留められなくても同じように動き続けろ」
「わ、分かりました」
ゲンジュのアドバイスに対して、コウスケは緊張した面持ちで頷く。
その面持にゲンジュが苦笑いを浮かべているのが分かるが、今はそれに対応する余裕さえない。
そして魔物がこちらに向かってきた。
「うぉっと」
ゲンジュがやっていたようにコウスケは横に跳んだ。
そこをイノシシが通り抜けようとし、その体に向けて刀で斬りつける。やはり一撃では倒せなかった。
だが浅いとはいえ傷を負わすことは出来た。
それに怒り狂ったのか、再びイノシシは何も考えずに突進をしてきた。
先ほどと同じように横に跳び退き、刀を振り下ろそうとするが、そこで先ほどと違うことが起きた。
それは通り過ぎるはずのイノシシが通り過ぎずに、コウスケの目の前で立ち止まっていたのだ。それを見てゲンジュも驚く。
なぜ普段と違う行動をしたか。
その理由は単純な事だった。先ほどのコウスケが攻撃を加えたことによって、最後まで走りきれなかったということだけだ。
しかしこの偶然によって、コウスケの身に危険が及ぶ。
「逃げろ!」
ゲンジュがコウスケに対して叫ぶ。
すでにイノシシは走り出すモーションをして、コウスケの目の前で今にも走り出しそうだ。
加えてコウスケは刀を上に振り上げたままであり、突き刺す攻撃はできない。
「くそっ、なら、これでどうだ!」
コウスケが勢いよく刀を振り下ろす。
それと同時にイノシシも走り出す。
コウスケの刀とイノシシの脚力、この二つの早い方が勝負をつける。
そして決着がついた。
イノシシの脳天にコウスケの刀が突き刺さっている。対してコウスケの腹にはもたれ掛かるようにイノシシの頭があった。
危機一髪だ。
「あ、危なかったー」
「瞬時に刀を逆手に持ち替えたか、なかなかやるな」
「……おめでとう」
あの時コウスケは、本能で間に合わないと思い、咄嗟に刀を逆手に持ち替えて、刃を下に向ける握り方に変えたのだ。成功したのは偶然以外の何物でもないが、結果としてコウスケの刀が早かったためイノシシを倒すことが出来た。
すると脳内に何かの音が聞こえてきた。
「ん? 何の音だ」
「あー、たぶんそれはレベルアップの音だな」
「レベルアップ!? 早くないですか?」
「だって今の魔物、レベル1で倒すような奴じゃないからな」
「え、なんでそんな危険な奴と戦わせてるんですか!」
「でも倒したから良いだろ」
ゲンジュはコウスケの言い分には気にも留めず、満足そうに笑みを浮かべた。
そんなゲンジュに不満げなコウスケは、しぶしぶステータスを確認した。
「ステータス」
名前 高月光助
種族 異世界人
レベル 2
体力 まだまだ
魔力 まあまあ
攻撃力 武器さえあれば
防御力 我慢
敏捷力 なし
スキル〈技能創造〉 隠蔽
今見て気づいたことは、武器を装備したことによって補正らしきの力が付いていたことだった。特に顕著なのは攻撃力の欄だろう。
丸裸だったなら、未だ悲惨なステータスになっているはずだ。
「少しはマシになったかも……あぁ敏捷性が」
「そりゃあレベル1から10まではいわゆる成長期ってやつで、かなりの成長が見込める……ん? どうした、浮かない顔だな」
「他のステータスはましになったんですけど、敏捷性だけ上がっているように思えなくて」
「そりゃあ……なぁ」
ゲンジュとキィンクはお互いに顔を合わせた後、コウスケのおなかを見た。
「やっぱそうですか……なら痩せれば上がりますか?」
「たぶんな、何せ太った奴のステータスなんて見たことがない」
「できるだけ早くやせられるようにしますよ」
コウスケは心の中で絶対に痩せてやるという、ダイエットの目標を立てた。昔は痩せていたのだ、出来ないわけはない。
レベルが上がりステータスが増えたのはいいが、一つ残念なことがあった。
それはスキルスロットが増えなかったことである。
試しに鑑定スキルをイメージしてみたが「スキルスロットに空きがありません」と、脳内アナウンスを受けたのだ。
「ま、いつかは上がるよな」
コウスケは小さな声でそう呟いて、先に歩いているゲンジュとキィンクを追いかけた。
今日はこれで終わりのようだ。
「ゲンジュさん、なんか自分のために時間を割いていただいてありがとうございます」
「気にするなって、俺らも少し気分転換がしたかっただけだ」
「そういえばゲンジュさんたちはこの町の人なんですか?」
「いや違うな、というよりこの町に住んでいる人は、出回っている人に比べると想像以上に少ないからな、あれはほとんど観光客みたいな人たちだろうよ」
「そうだったんですか」
正直その情報を聞いてホッとした。
他の町でもあんなに人がいたらコンプレックスに加え、人混みで困っていたところだ。
それに神が言っていた人不足っていうのも嘘に感じるところだった。ここが特別だという事か。
「じゃ、今日はこの辺にして宿に帰るか」
「分かりました」
ゲンジュの言葉にコウスケとキィンクはうなずいて後ろをついていき、宿に戻った。
宿に戻ると、昨日のようにキィンクと別の部屋に入りベットに倒れ掛かる。
今日は初魔物討伐に加え、初レベルアップ。自分にしてみればなかなかいい出だしだ。後はスキルスロットと……体型だ。がんばるか。
コウスケはこれからの目標を思いながら眠りについた。
いささか今までの生活のせいで不信感が拭えないでいる。早めに直していかないと精神的に疲れてしまう。
その代わりにコウスケはゲンジュに荒々しく起こされた。
どんな起こし方か。それは布団を取り上げるといった、いわば王道の起こし方なんて生易しいものではない。
ベットごと持ち上げるという、何とも大胆なそして規格外の起こし方だ。
「もうちょっと、穏やかに起こせないんですか?」
「なーに甘っちょろいこと言ってんだよ、俺は二度寝する奴を見るのが嫌いなんだよ。それに昨日どんだけ素振りしてきたんだ」
「あー、かなりやっちゃいました」
薄目でゲンジュはコウスケを呆れた顔をし、コウスケは苦笑いを浮かべた。
そんな会話を交わしながら、キィンクと合流し朝食をとる。
「それでお前はこの後どうすんだ?」
「えっと、まずは戦闘の経験を積まないといけないと思ってますね」
「だろうな、逃げ足だけじゃ勝てないもんな」
昨日のことを思い出したのか、ゲンジュは笑みをこぼしながら話していた。
反対に、コウスケは、昨日のことを思いだし、ブルッと体が震えた。
そして相変わらずなんの表情も変えないキィンク。
いや少し眠そうな顔をしていた。
「じゃ、俺がいろいろ教えてやるか?」
「いいんですか? よろしくお願いします、ですけど、俺のステータスが低すぎて倒せるかどうか……」
「ん? どのくらいなんだ?」
「レベル1でおまけに初期ステータスが最低ランクです」
「……冗談だよな?」
ゲンジュが冗談だと思うのは、無理がない。
いくら平凡のステータスだとは言っても、他の人々は平凡なりにレベルを上げることによって、ステータスを上げている。
それに比べて、コウスケはレベル1。
自分で思っては何だが、ゴミの中のゴミである。
「まぁ勇者落ちしたほどだもんな、それにまだレベル1だろ?」
「はい、そうですけど」
「ならこれから頑張れば良いじゃねえか、そこまで落ち込むなよ」
「ありがとございます」
ゲンジュに慰めらた。キィンクに背中を叩かれた。コウスケは立ち直って二人の後をついていく。
そこは昨日ひどい目にあった、外だ。
「まずは打ち合いでもしてみるか」
ゲンジュはコウスケへ向き合って剣を構えた。
「早速ですか!?」
「いいじゃねえか、頭で理解するより体で覚えたほうが手っ取り早い」
ゲンジュはそう言うと、直ぐにコウスケへ剣を近づけた。
慌ててコウスケも刀を抜き、迫る剣にギリギリぶつけた。
「いてて」
「そんなんで痛がってちゃ、魔物なんて倒せねえぞ」
思っていた以上に手のひらに衝撃が来る。
これがぶっつけ本番じゃなくて良かったと心底思った。このまま実践に挑んでいたらと思うとゾッとする。
その後ずっとキィンクの見つめる中、二人は打ち合っていた。
「はぁはぁ」
「いい準備運動だったな」
「準備運動レベルじゃないんですが」
すっかりクタクタに疲れたコウスケ。
その様子を見て、呆れた表情のゲンジュは休憩を挟んでくれた。
休憩後には早速魔物退治に出かける。
今は昨日みたいに丸腰ではなく装備を身に付けており少しだけだが余裕もある、と思いたい。
そんなことを考えていると、昨日と同じイノシシ型の魔物が現れた。
「安心しろ、俺たちが手本を見せてやる」
ゲンジュとキィンクがコウスケの前に立ち、戦闘態勢に入る。
そして狩りが始まった。
「す、すごい」
コウスケは思わず感嘆の声をもらす。
結果は一撃。
ゲンジュが向かってくるイノシシに対して横に跳び、イノシシの体を横から切り裂いて終了だった。手慣れてはいるだろうが、それにしても凄いと思うしかない。
「ま、こんなもんだな」
「すごいです、初めて尊敬しました」
「そうだろそうだろ……って、今、何気にひどいこと言わなかったか?」
「気のせいですよ、普通にすごかったです」
「ならいいけどな、じゃ、次はお前がやってみろ」
「え!? 無理ですって」
一度戦いを見せてもらっただけでさっそく実戦というのは、いささか難易度が高すぎるのではないだろうか。全く自分が出来るイメージが湧かない。
「大丈夫だって、あいつは魔物の中でも簡単に倒せる方なんだよ、当たれば痛いが、攻撃は単調だし、カウンターを狙っていけば倒せるさ」
「全然安心できないんですけど」
「……大丈夫」
キィンクにまでも大丈夫だと言われ、しぶしぶ前線に出る。脳筋と思われるゲンジュではなく、冷静な観察をしているはずのキィンクに言われればそれは信じるしかないからだ。
だが魔物はすぐに現れることは無く、その間しばらく雑談をした。
「お前、痩せれば顔はいいと思うぞ?」
「好きでこんな体系じゃないですよ……」
「そうだろうな、でもここでの生活を続ければ太れないだろうよ」
ゲンジュが言う事は一理あった。
毎日危険と隣り合わせのこの世界では、当たり前だが太る方が難しいはずだ。
ということは太っているコウスケはそれだけで贅沢者という烙印が押されているに等しいのだろう。
そんなことをコウスケはそう思いながら、自分のおなかを触る。
「おっと、話はここでいったん終わりだな」
ゲンジュが、緊張した面持ちで前を見つめる。
そこにはイノシシ型魔物がいた。コウスケはゴクリと唾を飲む。
「俺と同じように動けばいいだけだ、もし一撃で仕留められなくても同じように動き続けろ」
「わ、分かりました」
ゲンジュのアドバイスに対して、コウスケは緊張した面持ちで頷く。
その面持にゲンジュが苦笑いを浮かべているのが分かるが、今はそれに対応する余裕さえない。
そして魔物がこちらに向かってきた。
「うぉっと」
ゲンジュがやっていたようにコウスケは横に跳んだ。
そこをイノシシが通り抜けようとし、その体に向けて刀で斬りつける。やはり一撃では倒せなかった。
だが浅いとはいえ傷を負わすことは出来た。
それに怒り狂ったのか、再びイノシシは何も考えずに突進をしてきた。
先ほどと同じように横に跳び退き、刀を振り下ろそうとするが、そこで先ほどと違うことが起きた。
それは通り過ぎるはずのイノシシが通り過ぎずに、コウスケの目の前で立ち止まっていたのだ。それを見てゲンジュも驚く。
なぜ普段と違う行動をしたか。
その理由は単純な事だった。先ほどのコウスケが攻撃を加えたことによって、最後まで走りきれなかったということだけだ。
しかしこの偶然によって、コウスケの身に危険が及ぶ。
「逃げろ!」
ゲンジュがコウスケに対して叫ぶ。
すでにイノシシは走り出すモーションをして、コウスケの目の前で今にも走り出しそうだ。
加えてコウスケは刀を上に振り上げたままであり、突き刺す攻撃はできない。
「くそっ、なら、これでどうだ!」
コウスケが勢いよく刀を振り下ろす。
それと同時にイノシシも走り出す。
コウスケの刀とイノシシの脚力、この二つの早い方が勝負をつける。
そして決着がついた。
イノシシの脳天にコウスケの刀が突き刺さっている。対してコウスケの腹にはもたれ掛かるようにイノシシの頭があった。
危機一髪だ。
「あ、危なかったー」
「瞬時に刀を逆手に持ち替えたか、なかなかやるな」
「……おめでとう」
あの時コウスケは、本能で間に合わないと思い、咄嗟に刀を逆手に持ち替えて、刃を下に向ける握り方に変えたのだ。成功したのは偶然以外の何物でもないが、結果としてコウスケの刀が早かったためイノシシを倒すことが出来た。
すると脳内に何かの音が聞こえてきた。
「ん? 何の音だ」
「あー、たぶんそれはレベルアップの音だな」
「レベルアップ!? 早くないですか?」
「だって今の魔物、レベル1で倒すような奴じゃないからな」
「え、なんでそんな危険な奴と戦わせてるんですか!」
「でも倒したから良いだろ」
ゲンジュはコウスケの言い分には気にも留めず、満足そうに笑みを浮かべた。
そんなゲンジュに不満げなコウスケは、しぶしぶステータスを確認した。
「ステータス」
名前 高月光助
種族 異世界人
レベル 2
体力 まだまだ
魔力 まあまあ
攻撃力 武器さえあれば
防御力 我慢
敏捷力 なし
スキル〈技能創造〉 隠蔽
今見て気づいたことは、武器を装備したことによって補正らしきの力が付いていたことだった。特に顕著なのは攻撃力の欄だろう。
丸裸だったなら、未だ悲惨なステータスになっているはずだ。
「少しはマシになったかも……あぁ敏捷性が」
「そりゃあレベル1から10まではいわゆる成長期ってやつで、かなりの成長が見込める……ん? どうした、浮かない顔だな」
「他のステータスはましになったんですけど、敏捷性だけ上がっているように思えなくて」
「そりゃあ……なぁ」
ゲンジュとキィンクはお互いに顔を合わせた後、コウスケのおなかを見た。
「やっぱそうですか……なら痩せれば上がりますか?」
「たぶんな、何せ太った奴のステータスなんて見たことがない」
「できるだけ早くやせられるようにしますよ」
コウスケは心の中で絶対に痩せてやるという、ダイエットの目標を立てた。昔は痩せていたのだ、出来ないわけはない。
レベルが上がりステータスが増えたのはいいが、一つ残念なことがあった。
それはスキルスロットが増えなかったことである。
試しに鑑定スキルをイメージしてみたが「スキルスロットに空きがありません」と、脳内アナウンスを受けたのだ。
「ま、いつかは上がるよな」
コウスケは小さな声でそう呟いて、先に歩いているゲンジュとキィンクを追いかけた。
今日はこれで終わりのようだ。
「ゲンジュさん、なんか自分のために時間を割いていただいてありがとうございます」
「気にするなって、俺らも少し気分転換がしたかっただけだ」
「そういえばゲンジュさんたちはこの町の人なんですか?」
「いや違うな、というよりこの町に住んでいる人は、出回っている人に比べると想像以上に少ないからな、あれはほとんど観光客みたいな人たちだろうよ」
「そうだったんですか」
正直その情報を聞いてホッとした。
他の町でもあんなに人がいたらコンプレックスに加え、人混みで困っていたところだ。
それに神が言っていた人不足っていうのも嘘に感じるところだった。ここが特別だという事か。
「じゃ、今日はこの辺にして宿に帰るか」
「分かりました」
ゲンジュの言葉にコウスケとキィンクはうなずいて後ろをついていき、宿に戻った。
宿に戻ると、昨日のようにキィンクと別の部屋に入りベットに倒れ掛かる。
今日は初魔物討伐に加え、初レベルアップ。自分にしてみればなかなかいい出だしだ。後はスキルスロットと……体型だ。がんばるか。
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