負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

プロローグ 始まり

――どうしてこうなった。

 その問いに答えてくれる者はどこにもいない。目の前に広がるのは黒一色。洞窟と思しきこの場所には光は届かない。
 視界がダメになったためか、やけに音が鮮明に聞こえてくる。
 それが足音だと気づくのには時間はかからなかった。次第に大きくなってくる足音。その音からそれが巨大な生物であることは容易に想像できた。

――そして目の前にそいつが現れた。


――――――

 たった1人で道を歩く男子生徒がいた。
 その男子生徒の名は、高月 光助たかつき こうすけ。彼は都内に最近創立された天運学高校に通っていた。
 天運学高校の正式名称は、天才運動学習高等学校。名前の通りこの高校は学習面での天才、運動面での天才、他にも容姿端麗の生徒を優先して入学させる学校だ。つまりは天に恵まれた者たちが集まる文字通り天才達のための高校だった。

 この高校ができたのは3年前、初めは批判を受けたこの高校だが、できて1年もたたないうちに様々な部活動が全国で活躍し、全国学力テストでも全国1位を掴みとるという快挙を成し遂げた。
 それにより、ますます天運学高校の注目度はうなぎ登り。加えて人気も増していった。

 1年で、これほどの成績を叩きだしたこの高校に対する評価は上がり、公で批判をする者はいなくなった。

 そんな学校に通うこの男は、当然のようにとてつもない才能を秘めていると見なされる。この高校に入学できるということは、それに伴っなった学力を秘めているのか、はたまた運動が天才的なのかと。

 彼の詳細を述べていくと彼の中学時代の学力の実力は半分よりちょっと上くらいの学力。つまり成績面では中の上レベル程度だ。
 運動面の実力は人より運動ができない方。つまり中の下レベル。

 こういう事実が彼、高月光助のデータだった。つまり光助は決して恵まれた才能を持っているわけではないのだ。
 ではなぜそんな彼が何故この学校に入れたのか。それはこの学校の創立者の甥であるという簡単でかつ複雑な事情によるものだった。それだけの理由で光助は半ば強制的にこの学校へ入れられた・・・・・

 光助の両親は飲酒運転していた車から光助を守って他界してしまっている。なので今は叔父に養ってもらっていた。
 そしてその叔父こそが光助を学校へと入れる原因となった人物にあたる。

 平凡な学生が天才たちの集まる学校に入るとどうなるのか。それは火を見るよりも明らかだった。

 今までは自分達の足元にも及ばなかった平凡な奴らの上に立つことで優越感を覚えていた天才達は、この学校に入るとすぐさま現実を味わうことになる。何をしても勝てない相手が突然目の前に現れるのだ。

 では、その異常事態をどう克服するか。

 それを解消するのは、ごく単純な事だった。今までどおり下の人を見つけ出せばいいのだ。
 とはいっても、これは極論であり該当しない人もいることも確かであるが……

 これらの事情が重なり合い、光助は今学校でいじめを受けていた。
 加えてそのいじめが原因でストレス太りが始まり、見た目も見苦しいものとなってしまっていた。結果としてますますいじめがエスカレートしてしまった。

 そんな毎日が光助の日常だった。

 正直光助が正気でいられるのもやっとのことだった。しかし光助に自殺という選択肢はない。亡くなった両親につないでもらったこの命を無駄にはしたくない、という気持ちがあったためだ。

 そしてそんな苦難な日常は今日も続く。


 光助はいつものように遅刻ギリギリに教室へ入る。その理由は早く着いたところでいじめらる時間が増えるだけだからだ。それにいじめを行う時は先生の居ないところでというのが、奴らのポリシーのようだった。
 そのため机が無くなったり花瓶が置かれていたりというような、ドラマなどで良くありがちな目立ついたずらはしない。

「おーし、みんな席に付け」

 先生の合図にクラスのみんなは直ぐに席に着く。もちろん先生も全国の中から選抜された優秀な先生たちである。

「起立、気を付け、礼」

 このクラスの委員長である、冷沢 玲那ひやさわ れなが号令をかける。
 彼女は学業優秀、容姿端麗で、この学校でも数少ない光助の味方でもある。彼女はとても温厚な性格で、他人を見下したりひがんだりするような性格ではなかった。そのため光助をクラスメイトとして、普通に接することが出来るのだろう。
 他にも光助と会話をしてくれる人はいる。しかしそれぞれクラスが別であり、滅多に会うことは無く最近はあまり話すらしていない。
 というよりは光助が避けていた。自分がいじめられているところを見られたくないという理由と、自分と仲がいいことを見られて欲しくないからだった。

 先生が朝のホームルームを終えた。先生が教室から出て行くと、あるクラスメイトが光助を見てニヤッとするのを確認した。あいにくと委員長である玲那は先生に呼ばれてここにはいなかった。
 つまりこの教室には味方がいない。

「よし、今日も朝の運動をするか」

 そう声を発したのは山中 大将やまなか だいすけ、高身長で運動神経抜群、加えて容姿も端麗というまさに神の恩恵を受けた男だ。
 そしてその彼がいじめグループのリーダー的存在であり、クラス内でも委員長である玲那より影響力を持っていた。

 大将がゆっくりと光助に近づき、ニヤッと悪人の笑みを浮かべる。
 そして周りの生徒たちを使って光助を強引に立たせ、その背中を思い切り蹴り飛ばした。

「うぐっ」

 光助は苦しそうな声を発しながら教室に倒れこむ。
 その様子を見ていたクラスメイトから静止の声はかからず、代わりにケラケラと笑う者や、「もっとやれ」と言った助長を促す声が叫ばれていた。

「今日は、少しイライラしてんだよな」

 彼が光助を蹴った理由はたったそれだけだった。『サンドバック』、光助を表すのにちょうどいい言葉である。

「じゃ、次は俺がやってもいい?」

 続いてそう言ったのは大将のグループの一人、黒井 駿佑くろい しゅんすけだ。彼も大将と同じように高身長で容姿端麗、運動神経抜群で女子の人気者だった。
 ちなみに大将も人気者である。どうしてこんな性格が壊滅的なやつらが人気なのだろうか。光助には全く理解できない。

 そして駿佑からも蹴りを浴び悲痛な顔の光助を見て笑うクラスメイト達。人格破綻者ばかりである。
 大将も殴ったり蹴ったりして光助へ暴行を加える。その個所は主に胴体だった。
 理由は簡単。顔などを殴ればあざができた時にばれてしまうからだ。

 それから先生が来るまでの数分間、大将ら数人から暴行を受け続けて、その後授業に臨んだ。
 先ほどまで暴行を受けていた光助が授業に集中できるわけもなく、成績は下がっていく一方だ。
 そうなっていくと先生からも見捨てられることになる。
 すると大将達のいじめは、もっとエスカレートすることは目に見えていた。そのため光助は痛い身体を我慢して、授業を必死に受けていた。

 午前の授業が終わりさっそく数名の男子から弁当を買ってこいと言われる。逆らうわけにもいかず素直に買いにいった。
 もちろん自腹で。

「今日もサンキューな、明日もよろしく」

 そう言って大将達は食事を始める。光助の席を足置きにして。
 これも毎日の事なので光助はトイレに行き一人で食事を始める。いわゆる便所飯といわれているやつだ。

「いただきます……」

 そう小さくつぶやいて弁当を食べる。そうして細々と弁当食べていると近くから囁くような声が聞こえてきた。
 それらは大将達だった。
 一体何をしているのか。そう考えながらも食事をしていると、次の瞬間、上から何枚も雑巾が投げ込まれた。最悪なことにその雑巾は弁当にぶち当たってしまう。

「うっ」

 光助は思わず顔をしかめた。投げ込まれた雑巾が異様に臭かったからである。
 きっと便器などを拭いたばかりの雑巾なのだろう。
 これが入った弁当など食えるわけもなく、光助は呆然と便器に座り込んでいた。

 それから大将達がトイレから出るまで光助はずっと個室に籠っていることしかできなくなった。

 午後の授業が始まる直前まで、彼らはトイレの前に陣取っていた。そして午後の授業の鐘がなると同時に教室へ走りこむ。
 その後に出ることになる光助は、遅刻になるという寸法だった。

 案の定遅れて教室へ入るとくすくすという笑い声が聞こてくる。そして先生からは遅刻の注意を受けた。
 これでまた、先生の信頼が下がってしまった。
 このままだと先生の前でもいじめが起きても、先生が見て見ぬふりをしてしまう可能性さえ出てくる。今のところはまだ大丈夫だが。

 午後の授業も終わりすぐに教室から出ようとカバンを持って扉へ向かうが、そう簡単に逃げられはせず、肩を掴まれ後ろへ引っ張り倒さた。暴行の時間が始まってしまう。
 今回も玲那は、先生の用事で教室にはいなかった。

「何帰ろうとしてんだよ。まだ補修が残ってるだろ?」

 笑顔で大将達が光助の周りを囲み逃げ場をなくした。
 これもいつもの事だ。このまま数時間、暴行などいろいろされることは予想できる。
 そう諦めていると、いつもと違う不思議なことが起きた。

 突拍子もないことだが、地面が突然輝いたのである。

 もちろんこの学校にこのような仕掛けはない。
 クラスメイト達は驚き、ある者は教室から出ようとする。だがどういうわけか扉が開かないようだった。
 クラスメイトの一人が窓で外を見ていた。すると向かい側にある教室にいる生徒たちも慌てふためいたいた。向こうも同じ状況に陥っているらしい。

「なんなんだよ、この光は!」

 大将が、目を細めながら不機嫌そうに叫んだ。
 しかしその問いに答えられるものはいない。
 他のみんなも同じように目を細めながら呆然としていた。
 更に光は強くなっていく。しまいには目の前が見えないくらいに輝きが視界を染め上げた。

 
 目を閉じているコウスケ。だがしばらくして突然眩しさも騒がしさも感じなくなっていた。
 不思議に思いゆっくりと目を開けると、そこは教室ではなくただただ真っ白な空間が広がっていた。あまりにも不気味な空間である。

「ようこそ」

 聞き覚えの無い声がコウスケの鼓膜を震わせた。

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コメント

  • 四季

    もうちょい高校の名前を考えて見てはどうですか?

    0
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