異世界でウサギダンジョン始めました

テトメト@2巻発売中!

第52層 洗脳完了


襲うでも逃げるでも無くただジッとこちらを見つめてくる10対の瞳からは単純な命の危機というだけでは無く、理解する事のできないという不気味さを醸し出しており、ただモンスターが出てくるよりも何倍もの見えない恐怖を与えてくる。
そんな深淵からこちらを覗いているかの様な不気味な瞳に見竦められた俺は他の3人と同じ様にピシリと体を硬直させ・・・

グッ!と闇の向こうに居るみんなに親指を立てて見せた。もちろん前にいるカモ・・・もといお客様には見えないように。
ナイスタイミングだぜみんな!まぁ、俺と燈火でタイミングを調整してたからしくじる事は殆ど無いはずなんだけどね。それでもよくやった!この調子で残りも頼むぜ!

さてさて、ちらりとモニターで伺ったお客様2人の顔色は面白い様に青くなっていってるが、まだ絶望のどん底って訳じゃ無いのは俺達と、レンタルしていたラビットナイトの存在があるからだろう。
このタイミングでの複数エンカウントは最悪だが、一層で出てくる雑魚モンスターぐらいならこの距離でこれだけ人数がいればなんとかなるかもってな。
といわけでまずはその幻想をぶち壊す。

「「「わ~!」」」
「「「がお~!」」」

ずるっ
っと滑った音がしたのは俺の足元だったか、燈火の足元だったのか。
闇の中から現れた体長1mぐらいの悪魔っ娘幼女の群れが両手を掲げて威嚇のポーズをとりながら気の抜ける声をあげている。
いやいや、確かに冒険者達を精一杯威嚇してやってくれとはお願いしたけどさ!それじゃあただかわいいだけじゃん!もう大好き!ぎゅってしてお持ち帰りしたい!

・・・ところで燈火さん?なんでいきなり俺の足を踏んづけてるんですかね?いくら燈火が幼女だからって踵に全体重を乗せてグリグリされるとそれなりに痛いんですが・・・ただの八つ当たりだから気にしないでって?さいですか・・・

まぁ、燈火のかわいらしい嫉妬はともかく、問題はリリス達に強者の迫力的な物が無いことだよな。実力はなかなかにあるんだけど、演技がここまで微笑ましいとこれを見てビビッてくれる人なんて・・・

「り、リリリリリリスだよお姉ちゃん!リリスだよねお姉ちゃん!?」
「あ、あぁ・・・間違いない・・・リリスが10体・・・お、俺達の冒険もここまでか・・・はは・・・」

・・・うん?モニターで見えるお客様の顔が青を通り越して蒼白になってるな。如何にもこの世の全てに絶望したって感じで・・・え?あれで?あのお遊戯会レベルの大根演技で?

・・・

全て計画通りだな!さっすがリリス!

「お客様!早く逃げますよ!こっちです!」
「・・・む、無理だ・・・」

金縛りにでもあった様にその場で動かないお客様を無理やり揺すって再起動させると、女装魔法少年の方のお客様が搾り出す様にそう言った。

「り、リリスは魔法に長けた悪魔だ。飛行魔法が得意で遠距離狙撃もしてくる。背中を見せたらお終いだ・・・」

うん。知ってる。そういう人選で選んだし。

「それに私も今はちょっと走れないかも・・・」

こっちは剣士の女性の発言だな。それも知ってる。きっかけは偶々だけど、ラビットシャーマン達の呪術で増幅してるからな。だから凄く漏れそうな気分がして実は漏らせないというね。若干拷問要素入ってるよねこの呪術。まぁ、呪術なんて大体そんなもんか。

「更に俺は足が遅い!致命的に!」

お、おう。それは知らなかった・・・
というか、そんな自信満々に言い切るほど足が遅いのか。致命的に。

「ついでに言えばスタミナも無い!!」
「・・・なんでそんなに誇らしげなの、お姉ちゃん・・・」

まったくだな・・・実は余裕なんじゃないのか?この兄妹・・・

「とにかく、この数のリリス相手にこの場に居る全員で逃げたところで上手く逃げ切れる確率は0に限りなく近いんだ。それぐらいなら・・・」
「・・・逃げられる可能性の低い人私とお姉ちゃんが囮と足止めをするって事だね」
「が、がお~?」

全身から冷や汗を垂れ流しつつ決死の覚悟を決めようとしているお客様と、がおーのポーズのまま固まって次何をするばいいのか分からず、必死に仲間内でアイコンタクトを交わしているリリスの温度差がやべぇ。
それにしてもリリスはかわいいなぁ~。燈火のダンジョンにはフェアリーとかも居るらしいし、今度遊びに行こう。そうしよう。

「ごめんね燈火ちゃん達。罠に嵌った私達を助けるためにこんなことになっちゃって・・・でもね。みんなが助けに来てくれてすっごく嬉しかったよ!ありがとう!」
「あぁ。それに俺達が巻き込んどいてアレだが・・・単なる無駄死にじゃない。誰かを守るためにこの命を使えるんだ。こんなに嬉しい事は無い」

あれ?もう締めに入ってる感じ?どうみても人生の最後を綺麗に纏めようとしてるよね?
なんか、絶望を通り越してスッキリとした顔してるし、覚悟完了って感じ。
でもそうは問屋が卸さないんだよな~。この場合の問屋がなに屋さんなのかは知らないが、ここまで仕込みをしているんだ。お客様にはバッチリ生き残って歩く広告塔としてバリバリ働いて貰わないとな。

「きゅい・・・」
「?ウサちゃん・・・?」

静かな・・・だが、しっかりと通る声で小さく鳴いたラビットナイトがぽてぽてと歩みだし、お客様の前に立つと、キッ!とリリス達を睨みつけて仁王立ちをする。
その小さな背中にはハッキリとした強い意志が宿っており、言葉が通じなくとも「ここは私に任せて早く行け」とラビットナイトが告げている事が感じ取れる・・・

・・・なにせラビットシャーマンの呪術で幻聴を聞かせているからな。ナイス演出!

「っ!ダメだ!ウサギちゃんも一緒に逃げ・・・」

「きゅい!」
「あ―――」

ラビットナイトが自分達の尻拭いのために、死地に1人残ろうとしているのに気づいた女装少年がラビットナイトを止めようと手を伸ばすがあっさりとかわされ、カウンターで伸びた足が女装少年の頭を揺らして昏倒させた。
ちょ、ちょ~っとやりすぎじゃないか?と思い、急いでぶっ倒れている女装少年を抱え上げると、その瞳には確かに理性の光があるのが見えた。
お、おう。意識を奪わずに体の自由だけを奪ったのか・・・どんな達人技だよ・・・

「う、ウサちゃん・・・」

女装少年を俺に預けたラビットナイトは再びリリスと睨みあいを始め、俺が抱える女装少年の状態に気づいた剣士の女性が動揺で揺れる瞳をラビットナイトに向けている。よし、もう一押しで落ちそうだな。

「ラビットナイト・・・いいんだな?」
「きゅい」

「・・・分かった。マスターとして命じる。ラビットナイト、リリスの足止めをして俺達がダンジョンから脱出するための時間を稼げ!」
「っ!店長さん!あっ・・・」

殊更に冷酷に聞こえるように冷たい声音で命令した俺へと非難するような視線を向けた剣士の女性だが、俺の顔を見た瞬間にその顔は驚愕と悲しみに染まった。
なにせ振り返った先で見た俺の表情はこんな命令を出さなければならない自分に対する無力さと怒りに塗れてる様に見えただろからな。
自分の声音や表情を変えて感情を演出するだなんて事は幼女と仲良くなるのにうってつけの技術だからな!勿論マスター済みだぜ。リリス達のお遊戯会に気づけなかった剣士の女性じゃ見抜く事はまず無理だろうな。

「行くぞ。ラビットナイトの最後の願いを無駄にしたくないなら今は走るんだ」
「っ!分か・・・た。ウサちゃん!絶対。絶対外でまた会おうね!約束だからね!!」

「きゅい・・・きゅきゅいきゅい?」

ぶわっと滂沱の涙を流しながらの剣士の女性の叫びにチラリとだけ振り返ったラビットナイトが返事を返す。
勿論具体的な意味は伝わらないが、言葉のニュアンスで言えば「別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」って感じの事を言ってた。ラビットナイトさんや~。それ死亡フラグやで~。まぁ、状況的にはピッタリだけども。

「じゅんにぃ、じゅんにぃ」
「ん?どうした燈火」

女装少年を抱えなおし、地面をタップしてラビットシャーマンに剣士の女性に掛けていた呪術をゆっくり解くように指示を出して、さぁ走るか!ってタイミングで燈火が服の裾をちょんちょんと引っ張って小声で話かけてきた。
幼女にそんなかわいい声の掛けられ方をしたら答えるしかないじゃないか!・・・というのは1割冗談として、お客様の警戒心を下げるという幼女の素晴らしい性質を活かす為に付いてきていた燈火だが、幼女らしくない行動をしないために黙っていたはずなのに急に声をかけてきたと言う事は何か状況が急変したのか?基礎スペックは俺よりも燈火の方が圧倒的に高いからな。もしかしたら俺が気づいていないだけでなにかヤバイ事態が進行している可能性も―――

「じゅんにぃ。私も抱っこ・・・」

うん。危険なんて全くなかったな。ただ、燈火の報告を聞こうと身を屈めた俺の耳元で囁かれた燈火の甘い吐息に俺の体が震えたぐらいで。
非常に可愛らしくてグッドなんだが、それ今じゃなきゃダメか?今結構忙しいんだが・・・え?どうしても今がいい?しょうがないにゃぁ・・・

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「・・・よし。ここまで逃げればひとまず安心だな」
「そう・・・だね」

勝手知ったる自分のダンジョンいえと言う事で最短距離をダッシュで抜けた俺達は十分程でダンジョンから脱出することに成功した。
だが、まぁ。実時間は数分だが、剣士の女性が感じていた体感時間はもっと長そうだがな。何せ最初の角を曲がり、ラビットナイト達の居た方向からドッカンバッカンと激しい戦闘音が聞こえてきたんだからな。
その戦闘音は非常に激しくて、まるでわざと音を立ててるみたいに逃げる俺達の背中に襲い掛かってきており、デカイ爆発があるごとに、剣士の女性はビクリと身を竦ませていた。しかもその戦闘音は俺達が脱出する少し前からパッタリと止んでいる。
徐々に爆発音が減っていってるならともかく、急にパタリと戦闘音がしなくなったという事はつまり・・・
と、考えているのであろう剣士の女性の表情は悲痛だ。尿意はもう治まったようで様で、体調は万全だろうに最初に会ったときの様な溌剌さはまったく感じられず、しんなりと萎びた花を思わせるへこみようだな。まぁ、これで元気溌剌だったらちょっと困るわけだが。

「・・・お店で少し休憩されていきますか?お茶ぐらいしかありませんが・・・」
「ううん。今日はもう宿に帰るよ・・・お姉ちゃんを運んでくれてありがとう」

ん~、この場合無理に引き止めるのもおかしい・・・のか?幼女以外の気持ちはよく分からんし分かろうとする気も無いが・・・まぁ、帰りたいと言うのなら準備を手伝ってやろう。
女装少年は小さなバッグを背負ったまんまだが、剣士の女性は背負っていた荷物をダンジョンで投げ捨てていたので、空いた背中に女装少年を乗せる。
あれから少しは体が動くようになったようで、背負われた女装少年はゆっくりと動いてその小さな顔を剣士の女性の首筋へと擦り付けるように長い金髪の中へと埋めている。流石の俺でも、この状況で顔を隠したい理由を邪推したりはしない。ちなみに俺の背中に張り付いて首筋に顔を擦り付けている燈火の心中は確実に邪心塗れだ。間違いない。

「・・・それじゃあ私達はこれで。お世話になりました・・・」
「・・・ぐすっ」

ダンジョン内ではまだマシだったんだが、外に出て気が緩んだからかお客様の声は今にも消え入りそうなほどか細くなっている。
それじゃあ最後の仕上げといきますか!

「・・・ぃ・・・」
「・・・」
「ぁん・・・はっ!あ、あれ?じゅんにぃ何か聞こえない?」

クライマックスだというのにシナリオを完全に忘れて匂いを嗅ぐのに夢中になっていた燈火のお尻をぺちぺちして再起動させ、若干セリフが棒読みになったがお客様達を踏みとどまらせて振り返らせる事に成功した。
本当に諦めて、割り切ってしまっていたのならば立ち止まりはしなかっただろう。歩みを止め、振り向いたのはそこに一縷の希望を見たから。もしかしたら。そんなことあるわけない。それでも。と。
お客様が希望を求めるならば。奇跡を求めるならば。それが俺達の利益になるのならば。あなたのその願い。叶えましょう。

「きゅ・・・い・・・!」
「ウサ、ちゃん・・・?」
「ウサギちゃん!!」

ダンジョンの入り口からゆっくりゆっくり出てきたのは満身創痍のラビットナイトだ。トレードマークのウサミミは片方が千切れ、滴る血で全身を染めながらも左足を引きずりつつ、ゆっくりと、だが確実にこちらへ向けて歩みを止めずに向かってくる。

・・・幻術だと分かってても痛々しい姿だな。今度リリス達に演技指導をしてもらった方がいいかもな。いや、そんな機会はもうないか。

「・・・お客様。これをラビットナイトに」

呪術、幻術、魅了、その他諸々で感情を増幅され、もはや言語にならない言葉泣き叫びながらラビットナイトに抱きついているお客様に解呪ポーションを渡しておく。
最初の方は物理系のウサギばっかりだったんだが、最近になってこの手の状態異常攻撃を得意にするウサギが急増してきたんだよな。ん~、丁度燈火が来た辺りから増え始めたかな?

・・・いや、たまたまだよな。偶然時期が一致しただけで、別に燈火が何かしてる訳じゃ・・・無いと否定しきれないのが悲しいところだな。

「うさ、ウサちゃんこれ飲んで・・・」
「ウサギちゃん・・・!」
「きゅい、きゅい・・・」

ラビットナイトを絞め殺すんじゃないかという勢いで抱きしめていたラビットナイトに解呪ポーションを飲ませると幻術が解除され、ラビットナイトが万全な様子に戻る・・・いや、もともと怪我はしてなかったんだけどな。

「ウザザ~!ヴぇ~!びょがっだ~!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
「ぎゅ、ぎゅぃぃ・・・」

一瞬で致命傷が回復した(様に見える)ラビットナイトへと再び抱きつき泣き叫ぶお客様。その表情に浮かぶのは、安堵と喜びと深い親愛だ。
うむ。洗脳マッチポンプ完了っと。
ぶっちゃけウサギを買わせるだけなら精神汚染系スキルを持ってるウサギを使えば余裕なんだが、たんなる洗脳だと、時間経過やふとしたきっかけで直ぐに解けちゃうらしいんだ。さっき使った解呪ポーションを使ったりな。
だが、世の中にはなかなか解けない精神汚染の仕方がある。・・・と、燈火に教えてもらった。

・・・う、うん。燈火は博識だなぁ。さすがだなぁ(目逸らし)

それで、解けにくい洗脳の方法だが、元々ある感情の増幅が一番手軽で効果的らしい。
例えば、嫌いな相手やどうでもいい相手を好きになるように洗脳するのは大変だし解けやすいが、好きな相手を大好きや愛してるに昇華させる分には被験者の体や魂に馴染みやすいため効きやすく、解け難いという事だ。
その中でももっとも効きやすいのは、大きな感情が発生した瞬間。その瞬間に増幅することができれば相手の体は湧き出てきたその感情を自然な自分の感情だと認識して取り込むので解ける事はほぼ無くなるそうだ。だから今すぐ私に惚れ直してと燈火が迫ってきて―――いや、これは今は関係ないか。

「あらら、すっかり仲良しだな・・・なぁ、ラビットナイト。お前この人達と一緒に行きたいか?」
「「―――!?」」
「きゅい!」

「そうか・・・なら行ってこい!」
「「―――!?」」
「きゅい!」

突然の状況の変化に泣きはらして真っ赤になった目を白黒させて驚くお客様を置き去りにして、ラビットナイトのマスターをお客様2人に変更する・・・俺の影に隠れてるテイマーラビットが。

「え、あの・・・え?これは・・・」

「ん~、初回サービスって事で1つ。他のお客様には内緒でお願いしますね?それともお嫌でしたか・・・?」
「きゅい・・・」

目に見えてしょんぼりするラビットナイト。その愛らしい姿にすっかり骨抜きにされているお客様に抗う術など・・・ない。

「う、ううん!とんでもない!私ウサちゃんの事大大だ~いすきだよ!!ね!お姉ちゃん!」
「あ、あぁ。でもお金が・・・」

おっきい方のバッグを投げ捨ててきたもんなぁ。そりゃあ金欠だよな。もっとも、投げ捨てられたバッグはこっちで回収してるから今度来た時にでも返すけどね。いらないし。

「いえ、今回は代金は結構ですよ。ラビットナイトを連れて街を歩いてもらうだけで、うちのお店の宣伝になりますからね」

本当はこれが本題なんだが、ここは茶目っ気を見せて冗談っぽく言っておこうか。その方が恩に着てくれそうだしな。

その後も何度もお礼を言ったり、腰が抜けて立てなくなったお客様を介抱したりでなんだかんだ時間を掛けてやっと帰ってくれた。
いや~・・・本当に疲れた!まさかここまで面倒くさいとは思わなかった。急いでボーパル成分を補給しなくては干からびる・・・

と言う訳で後片付けを放り投げて燈火を抱えて全力ダッシュで家に帰った。
店番もマッチポンプももう絶対やらねぇ・・・俺はボーパル達といちゃいちゃ暮らせればそれでいいんだっ!!後は頼んだ!!







・・・後日。とあるギルマスの叫びが町中に木霊することになるが、この時の俺は知ったことでは無かった・・・
いや、別に時期とか関係なく知ったこっちゃないけどね。

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