異世界でウサギダンジョン始めました
第29層 第2形態
「ダンジョンマスターには第2形態があるの!」
ボーパルがそう言ってたのはいつだったか・・・たしか、俺がどれだけ訓練しても、目に見えて強くなったりはしないのに毎日レベルが上がって飛躍的にステータスが向上するウサギ達を見てふて腐れていた時だったかな。
「第2形態になったダンジョンマスターはダンジョンコアとの間に繋がっているパスが今よりももっと強くなって、ダンジョンからダンジョンマスターへとチカラが流れ込んでいくの!」
ダンジョンコアと俺の間にはパスが繋がっている。俺が死んでもダンジョンコアから蘇生できたり、メニューからダンジョンをいじれるのも全てこのパスのおかげだ。
「第2形態になったダンジョンマスターにはダンジョンに住んでいるモンスター全員からほんの少しずつステータスを分けて貰えるの!それと、モンスター達のスキルも一部使えるようになるの!」
なにその元○玉的能力。だが、これは考えようによっては非常に強力な能力だよな。
例えば一羽からもらえるステータスが0.1%だとしても、1000羽いれば100%上乗せ。10000羽いれば1000%上乗せになるのだから。まぁ、たぶんそんなには上がらないと思うけど。ダンジョンのモンスターを増やす事は俺自身の戦闘能力の上昇にも直結してるってことが分かっただけでもこれからのダンジョン運営により力が入るな。
「第2形態でいられる時間はダンジョンマスターの素のステータスしだいなの!ダンジョンマスターが強ければ強いほど、第2形態でいられる時間が延びるの!だからしっかり訓練して、第2形態の負荷に耐えられる体を作るの!」
なるほどな。そもそもダンジョンマスターはその第2形態とかの強化状態で戦うのが前提だったんだな。
まぁ、今もちょっとふて腐れているだけで、機嫌が直ったら訓練を再開するつもりではあったんだけどさ。
「第2形態になる方法は簡単なの。ダンジョンマスターが心の底から力を望んだとき、ダンジョンはそれに答えてくれるの!生き物は自分の命が脅かされたときに真の力を発揮したりするものだけど、擬似的に不死なダンジョンマスターは自分の命が失われるだけでチカラに目覚めることはあんまりないの。ダンジョンマスターが真にチカラを求める時は大抵は自分の魂が失われそうになったときなの」
魂が失われるって・・・怖っ!魂へのダイレクトアタック!ダンマスは死ぬ!みたいな攻撃があるのか?
止めてくれ。その術はオレに効く。
「そうじゃないの。魂には精神以外にも色々な意味があるの。例えばとっても大切な家族を自分の魂って言ったりするの。何人たりともねじ曲げることの出来ない自分の信念を自分の魂だと言う人もいるの。そういった、その人にとって命と同等かそれ以上の価値があるかけがいの無いものをその人の魂と呼ぶの」
ふーん。自分の命よりも大切なものねぇ・・・なら、ボーパルやウサギ達が俺の魂だな。
「なの!あたちもじゅんの事が大好きで一番大切なの!」
やさしい過去は抱きついてきたボーパルの柔らかな体の感触と、ボーパルから香る太陽と草原の匂いを最後に溶けるように消えてゆく・・・
-------------------------------------
「じゅんにぃ?どうしたのじゅんにぃ?大丈夫?」
「きゅいぃ?」
そして、俺の意識は灼熱の怒りと、極寒の焦燥に駆られる現在に回帰した。
「あれ?ここは・・・」
辺りを見渡す。
俺がおっさんの落としたメモを読んでからそれほど時間は経ってなさそうだ。
どうやら立ったまま気絶してたみたいだな。危ない危ない。ここが戦場なら死んでたな。
「ホントにどうしちゃったのじゅんにぃ。体調が悪いならアメリアさんに頼んで休ませて貰お?ね?」
「きゅい」
「いや、その必要はないぞ」
珍しく下心抜きで俺の体調を心配してくれている燈火の頭をちょっと乱暴にぐしゃぐしゃと撫で回しながら自分の内側に意識を向ける。
俺の中で渦巻く俺以外のチカラ。壊れた蛇口の様にこちらの都合を一切考慮せず、無理やりに流れ込んでくるこのチカラの正体こそが、いつの日かボーパルが教えてくれた第2段階のチカラなんだろう。
「ちょっと、ノコちゃんを助けに行ってくる。燈火の事は任せたぞ。サクラ」
「えへへ~、へ?ちょっとじゅんにぃ?何を言って―――」
「きゅい?」
ゴゥ!と耳もとで風がなり、周りの景色が後ろに引き伸ばされるように流れていく。
わーお。とりあえず市壁を飛び越えようかといつも通りに跳躍しただけなのに、軽く城壁の倍は飛んじまったぞ。
これがモンスター達の分のステータス増加の力か・・・恐らくは筋力とか敏捷とかそこらへんが跳ね上がったんだろうな。自分のステータスは見れないから確認出来ないけど。
んー、見つけた。あのまだらなつぶつぶが氾濫したモンスターか。とりあえず向かう方向は分かったとして・・・これ落ちたら死ぬんでね?
「『桜魔法・桜召喚』」
「『桜魔法・桜操作』」
自由落下をし始めた俺の真横に突如としてピンク色の魔法陣が輝き、うちのダンジョンから召喚された万年桜の花びらがドバドバと溢れ出し、俺の体を包み込み。そのままモンスターの群れへと運んでいく。
これまたぶっつけ本番だったが、無事にサクラのスキルを使うことが出来てよかったぜ。空を飛ぶ魔法なら他にもあるけど、真っ先に頭に浮かんだのがサクラの桜魔法だったからな。とりあえずモンスターの群れの目の前まではこのままぶっ飛ぶ。
お願いだから無事に見つかってくれよノコちゃん!
-------------------------------------
「・・・様子がおかしいな」
花びらを纏い、空を飛んでオオカミの群れの目の前に着地したがノコちゃん達は見つからなかった。それに、どうにもオオカミ達の様子がおかしい。
オオカミの殆どが町のある南側とは反対方向を見ていてこっちを見ている奴がいない。
『兎隠れ』を発動していると言っても、進軍中のはずなのに後ろを向いているのは異常だ。
なぜオオカミ達がこちらに背中を向けているのか。その理由はちょっと考えればわかる。
進軍することよりも重要な物がその方向にあるから。だろう。
「・・・ッ!」
そこまで思考が及んだ瞬間に俺の全身を駆け巡った悪寒に従い。俺は1つのスキルを発動させ、その場に5つの魔法陣を展開させると、その結果を見届けることなく再び桜魔法で宙を舞った。
目指すはオオカミ達の視線の先。オオカミに見つかることを厭わずに全力でぶっ飛ぶ先には、予想通りノコちゃんとシノハさんがいた。
・・・今にも大口を開ける漆黒のオオカミに飲み込まれそうになっている2人が。
幸いにも現状のノコちゃん達には大した怪我は無さそうだ。オオカミは恐怖に震える2人の反応を楽しんでいるのかやけにゆっくりと2人に顔を近づけているが、今の速度だと間に合うかどうかはギリギリだな。
まぁ、最悪俺があのオオカミの口の中に飛び込んで暴れれば、多少は時間が稼げるだろう。そして多少時間を稼げれば後はみんなが上手くやってくれるはずだ。
「―――けて・・・」
命の危機には違いないが、それでも五体満足で生きているノコちゃん達の姿を見て安堵し、第2形態すら解けかかっていた俺の耳に、か細く震えながらも芯の通った強い言葉が・・・届いた。
もし、燈火が今日町に遊びに行きたいと言い出さなかったら。
もし、門で兵士のおっさんに呼び止められなかったら。
もし、アメリアさんの依頼で南門の防衛に参加していなかったら。
もし、南門で暴れる兵士のおっさんに遭遇しなかったら。
もし、おっさんの落とした手紙を読まなかったら。
もし、俺が助けに来るのが僅かでも遅れていたら。
もし、俺が第2形態になれていなかったら。
もし、俺にチカラを与えてくれているのが聴覚に大きなブーストの掛かるウサギでなかったら。
もし、何か1つでも歯車がズレていれば。誰にも届かずにただ消えゆくだけだった、1人の小さな少女の心からの願いは。祈りは。魂は。
何かに導かれるようにこの場へとやってきた俺へと確かに繋がった。
「ままをたすけて!」
カチリと何かが切り替わった音がした。
第2段階になり、拡張され、加速されていた俺の世界が無理やりに広がり、処理しきれなくなった脳が悲鳴をあげる。
また、比喩表現無しに体が爆発するんじゃないかと思うほどに濁流のように無理やり押し込められるチカラは逃げ場を無くし、俺の全身から湯気の様に立ち上り始める。
全身から焼き切れんばかりに訴えられる痛みに、しかし俺の心は刃の様に硬く鋭く研ぎ澄まされていく。
・・・この頃におよんで何を甘い事を考えていたんだ俺は。
自分が犠牲になって多少は時間を稼げば後はみんながやってくれる?
自己満足のためだけの自己犠牲で自分だけ脱落して大変なところは全て他人に丸投げするつもりだったのか俺は!
何のチカラもない。死んでしまったら全てがお終いの幼女が、自分の死を目の前にして、恐怖で声を震わせながらも自分の大好きなママを助けてくれと叫んでいるんだぞ!
ここで立たなきゃロリコンじゃねぇ!!
「『ラビット・ブースト』『瞬動』『ラビット・ステップ』『桜魔法・桜召喚』『チャージ』『エンチェント・パワー』『縮地』『ボーパル流格闘術・ラビットパンチ』『爆兎拳』」
無意識で漏れた言葉はたった二文字。だが、そこに込められたチカラは多く重い。
詠唱置換。ウサギ達から借りたスキルではなく、今作った俺の技術だ。
―――ズゥドム!!
「グガ―――」
空中で更に加速した俺は、今にも幼女に喰らいつこうとするただデカイだけのいぬっころの頭上へと一瞬で移動し、真下へと鋭角に軌道を捻じ曲げると、光を放つ拳でいぬっころの頭蓋を貫き。脳髄を爆破して殺した。
もちろん頭を爆発四散させてノコちゃんにトラウマを植え付けたりはしない。爆発は小規模高密度に、いぬっころの小さな頭蓋骨の内側を攪拌させるぐらいの威力だ。
いぬっころは俺の拳が頭蓋にめり込む直前に俺と目が合ったから、俺の存在そのものには気づいていたみたいだが、瞬き1つする間もなく脳味噌をミキサーにかけたジュースの様にされたから即死したな。
いや~、コイツがでかいだけの木偶の坊で助かったぜ。もし、今の俺と打ち合える程度の能力を持っていたら、俺の肉体が流れ込むチカラに耐え切れずに爆発して自滅するところだったぜ。
「ふぅ・・・」
いぬっころをぶち殺したことで流れ込むチカラが少し落ち着いた様なので、胸の中に貯まっていた熱をため息と共に吐き出しつつ、いぬっころに突き刺さったままだった右腕を引き抜いた。
うへぇ・・・”ねちょ”っていったぞ。”ねちょぉ~”って。きったねぇ・・・うわぁ・・・
俺がいぬっころから引き抜いた手をふりふりして粘液と悪臭を振り払おうと無駄な足掻きをしながらいぬっころのでかい頭から飛び降りると、目の前にポカンと目と口を丸くしたノコちゃんとシノハさんがいた。
2人ともよほど怖い思いをしたのだろう。決して離れまいと互いに強く抱きついたまま、綺麗な顔を心なしか少しやつれさせ、心ここにあらずといった表情で放心している。
「来るのが遅くなってごめんな。助けにきたぞ」
ばっちぃ方の手を後ろに隠して綺麗な左手を2人へと差し出す。
視線はノコちゃんの瞳にロックオンしながら、一応辺りの気配もチャックしているんだが、周りのオオカミ達は空気を読んでいるのか、あちらの対応に忙しいのか右往左往するだけで襲い掛かってこようという奴はいないな。
第2形態が解けかかってるから正直助かるな。
「あ・・・あ・・・」
掠れ掠れの言葉を呟いたのはどっちだったのか。
焦点が合ってなかった2人の目が左手を差し伸ばす俺の姿を捉えた瞬間。宝石の様に綺麗な瞳からポロポロと大粒の涙を零れさせ、気が緩んだらしくふらりと倒れてきたシノハさんの体を慌てて支える。
「おっとっと。大丈夫か?まぁ後は俺達に任せてゆっくり休んでてくれ」
既にすぅすぅと寝息を立てているノコちゃんと、なんとか意識を保とうと歯を食いしばっているシノハさんにそう言うと、シノハさんが体に込めていた力がふっと抜け、完全に俺に体を預けてくる。
シノハさんが頑張ったからノコちゃんは俺が辿りつくまで生きていられたんだ。ノコちゃんが頑張ったから俺はシノハさんたちを助けられたんだ。
後は任せてゆっくり眠って、起きたときには全て元通りでハッピーエンドだ。
本当は俺に任せろって言いたい所なんだが、2人の体を抱きとめた瞬間に第2形態は解けてしまって、今ここにいるのは元のウサギ1羽殺せない脆弱なダンジョンマスターでしかない。
だが、問題ない。
だって、ウサギ達のチカラを借りずとも余裕で聞こえる程に頼れる仲間の声はもうすぐそこに聞こえてきているんだから。
「じゅんにぃーーーーー!!1人で勝手に飛び出す悪い子はおしおきなんだからねーー!!おしおきとしてじゅんにぃには私と一緒にお風呂に入って、一緒のお布団で寝て、いっぱい愛してもらうんだから、死んだらダメなんだからね!うぇへへ」
「みんな突撃なのーーー!!一番にジュンを助け出して、ぎゅ~ってして、いっぱいなでなでしてもらうの!!」
「「「「「きゅいい!!」」」」」
さぁ、名前も知らないダンジョンマスターよ。前座はここまで。ここから先は互いに総力戦だ。
見た感じそっちはオオカミ主体のモンスターが1万匹以上。対してこっちはウサギが3千羽ちょい+α。
例え勝てる可能性が限りなく0だとしても、幼女を殺そうとしたお前を俺は絶対に許さない。絶対にだ!
必ずお前の首を刈り取りに行くから首を洗って待ってろよ!!
「あ!ボーパルちゃんずるい!私が一番にぎゅ~してもらうんだから!」
「む!横入りはダメなの!あたちが一番にぎゅ~してもらうの!」
「なにお!じゃあ、私はじゅんにぃにぎゅ~してから、ちゅぅ~してもらうもんね!」
「燈火は今日ずっと一緒ジュンと一緒にいたんだから今は譲るの!あたちが一番にぎゅ~して、ちゅぅ~してもらうの!!」
「「ガゥウ!」」
「「邪魔をするな!!(なの!!)」」
「「「「キャイィィン!!」」」」
・・・うん。なんか前方から巨大な砂煙を巻き上げつつ、立ちはだかるオオカミを千切っては投げ。千切っては投げながら爆走してくる子が2人ほど居るんだが・・・
ねぇ知ってる?今の俺は第2形態も解けて、ウサギにも劣るレベルのステータスしかないんだよ?むしろ第2形態の反動でまともに体を動かすことも出来ないんだよ?
そんな速度で抱きつかれたら普通に死んじゃうよ?
「「ジュン(じゅんにぃ)見つけた!!(の!!)」」
あ、うん。そうだね。2人とも満面のいい笑顔だね。100万ドルを払ってもみたいステキな笑顔なんだけど少し待とうか。俺をロックオンした瞬間第2形態の俺を軽く越える速度で加速しだしたけど、その速度は普通に致死量だから。ダンプに跳ねられるなんた生易しいレベルで肉塊になちゃうから。この世界から更にに異世界に転生しちゃう勢いだから!!
「「ジュン(じゅんにぃ)だっこ~~!!」」
「ぎぃやぁああああああ!!」
ギロチンの様に腕を広げて、弾丸の様に突っ込んでくる2人に、それでもだっこを求める幼女を避けるという選択肢は俺の中には存在しないので、俺に出来たことといえば、天使のような寝顔で眠るノコちゃんと、シノハさんをそっと地面に降ろし、全力で衝撃に備えて歯を食いしばって耐える事だけだった。
・・・あ、すいません。名も知らないダンジョンマスターさん。ちょっと味方の愛情表現で死にそうなんで一旦仕切りなおしてもらっていいですかね?ダメ?そうですか・・・
「むふふ~・・・あれ?じゅんにぃ?・・・死んだ?」
「なの!?ジュン!死んじゃダメなの!起きるの!」
無茶言うなよ・・・あぁ・・・死ぬときは・・・幼女に埋もれて・・・死にたかった・・・ぜ・・・ガクッ。
「「ジュン~~~!!(じゅんにぃ~~~~!!)」」
大丈夫。次の俺はきっと上手く幼女ハーレムを作ってくれることでしょう・・・
ボーパルがそう言ってたのはいつだったか・・・たしか、俺がどれだけ訓練しても、目に見えて強くなったりはしないのに毎日レベルが上がって飛躍的にステータスが向上するウサギ達を見てふて腐れていた時だったかな。
「第2形態になったダンジョンマスターはダンジョンコアとの間に繋がっているパスが今よりももっと強くなって、ダンジョンからダンジョンマスターへとチカラが流れ込んでいくの!」
ダンジョンコアと俺の間にはパスが繋がっている。俺が死んでもダンジョンコアから蘇生できたり、メニューからダンジョンをいじれるのも全てこのパスのおかげだ。
「第2形態になったダンジョンマスターにはダンジョンに住んでいるモンスター全員からほんの少しずつステータスを分けて貰えるの!それと、モンスター達のスキルも一部使えるようになるの!」
なにその元○玉的能力。だが、これは考えようによっては非常に強力な能力だよな。
例えば一羽からもらえるステータスが0.1%だとしても、1000羽いれば100%上乗せ。10000羽いれば1000%上乗せになるのだから。まぁ、たぶんそんなには上がらないと思うけど。ダンジョンのモンスターを増やす事は俺自身の戦闘能力の上昇にも直結してるってことが分かっただけでもこれからのダンジョン運営により力が入るな。
「第2形態でいられる時間はダンジョンマスターの素のステータスしだいなの!ダンジョンマスターが強ければ強いほど、第2形態でいられる時間が延びるの!だからしっかり訓練して、第2形態の負荷に耐えられる体を作るの!」
なるほどな。そもそもダンジョンマスターはその第2形態とかの強化状態で戦うのが前提だったんだな。
まぁ、今もちょっとふて腐れているだけで、機嫌が直ったら訓練を再開するつもりではあったんだけどさ。
「第2形態になる方法は簡単なの。ダンジョンマスターが心の底から力を望んだとき、ダンジョンはそれに答えてくれるの!生き物は自分の命が脅かされたときに真の力を発揮したりするものだけど、擬似的に不死なダンジョンマスターは自分の命が失われるだけでチカラに目覚めることはあんまりないの。ダンジョンマスターが真にチカラを求める時は大抵は自分の魂が失われそうになったときなの」
魂が失われるって・・・怖っ!魂へのダイレクトアタック!ダンマスは死ぬ!みたいな攻撃があるのか?
止めてくれ。その術はオレに効く。
「そうじゃないの。魂には精神以外にも色々な意味があるの。例えばとっても大切な家族を自分の魂って言ったりするの。何人たりともねじ曲げることの出来ない自分の信念を自分の魂だと言う人もいるの。そういった、その人にとって命と同等かそれ以上の価値があるかけがいの無いものをその人の魂と呼ぶの」
ふーん。自分の命よりも大切なものねぇ・・・なら、ボーパルやウサギ達が俺の魂だな。
「なの!あたちもじゅんの事が大好きで一番大切なの!」
やさしい過去は抱きついてきたボーパルの柔らかな体の感触と、ボーパルから香る太陽と草原の匂いを最後に溶けるように消えてゆく・・・
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「じゅんにぃ?どうしたのじゅんにぃ?大丈夫?」
「きゅいぃ?」
そして、俺の意識は灼熱の怒りと、極寒の焦燥に駆られる現在に回帰した。
「あれ?ここは・・・」
辺りを見渡す。
俺がおっさんの落としたメモを読んでからそれほど時間は経ってなさそうだ。
どうやら立ったまま気絶してたみたいだな。危ない危ない。ここが戦場なら死んでたな。
「ホントにどうしちゃったのじゅんにぃ。体調が悪いならアメリアさんに頼んで休ませて貰お?ね?」
「きゅい」
「いや、その必要はないぞ」
珍しく下心抜きで俺の体調を心配してくれている燈火の頭をちょっと乱暴にぐしゃぐしゃと撫で回しながら自分の内側に意識を向ける。
俺の中で渦巻く俺以外のチカラ。壊れた蛇口の様にこちらの都合を一切考慮せず、無理やりに流れ込んでくるこのチカラの正体こそが、いつの日かボーパルが教えてくれた第2段階のチカラなんだろう。
「ちょっと、ノコちゃんを助けに行ってくる。燈火の事は任せたぞ。サクラ」
「えへへ~、へ?ちょっとじゅんにぃ?何を言って―――」
「きゅい?」
ゴゥ!と耳もとで風がなり、周りの景色が後ろに引き伸ばされるように流れていく。
わーお。とりあえず市壁を飛び越えようかといつも通りに跳躍しただけなのに、軽く城壁の倍は飛んじまったぞ。
これがモンスター達の分のステータス増加の力か・・・恐らくは筋力とか敏捷とかそこらへんが跳ね上がったんだろうな。自分のステータスは見れないから確認出来ないけど。
んー、見つけた。あのまだらなつぶつぶが氾濫したモンスターか。とりあえず向かう方向は分かったとして・・・これ落ちたら死ぬんでね?
「『桜魔法・桜召喚』」
「『桜魔法・桜操作』」
自由落下をし始めた俺の真横に突如としてピンク色の魔法陣が輝き、うちのダンジョンから召喚された万年桜の花びらがドバドバと溢れ出し、俺の体を包み込み。そのままモンスターの群れへと運んでいく。
これまたぶっつけ本番だったが、無事にサクラのスキルを使うことが出来てよかったぜ。空を飛ぶ魔法なら他にもあるけど、真っ先に頭に浮かんだのがサクラの桜魔法だったからな。とりあえずモンスターの群れの目の前まではこのままぶっ飛ぶ。
お願いだから無事に見つかってくれよノコちゃん!
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「・・・様子がおかしいな」
花びらを纏い、空を飛んでオオカミの群れの目の前に着地したがノコちゃん達は見つからなかった。それに、どうにもオオカミ達の様子がおかしい。
オオカミの殆どが町のある南側とは反対方向を見ていてこっちを見ている奴がいない。
『兎隠れ』を発動していると言っても、進軍中のはずなのに後ろを向いているのは異常だ。
なぜオオカミ達がこちらに背中を向けているのか。その理由はちょっと考えればわかる。
進軍することよりも重要な物がその方向にあるから。だろう。
「・・・ッ!」
そこまで思考が及んだ瞬間に俺の全身を駆け巡った悪寒に従い。俺は1つのスキルを発動させ、その場に5つの魔法陣を展開させると、その結果を見届けることなく再び桜魔法で宙を舞った。
目指すはオオカミ達の視線の先。オオカミに見つかることを厭わずに全力でぶっ飛ぶ先には、予想通りノコちゃんとシノハさんがいた。
・・・今にも大口を開ける漆黒のオオカミに飲み込まれそうになっている2人が。
幸いにも現状のノコちゃん達には大した怪我は無さそうだ。オオカミは恐怖に震える2人の反応を楽しんでいるのかやけにゆっくりと2人に顔を近づけているが、今の速度だと間に合うかどうかはギリギリだな。
まぁ、最悪俺があのオオカミの口の中に飛び込んで暴れれば、多少は時間が稼げるだろう。そして多少時間を稼げれば後はみんなが上手くやってくれるはずだ。
「―――けて・・・」
命の危機には違いないが、それでも五体満足で生きているノコちゃん達の姿を見て安堵し、第2形態すら解けかかっていた俺の耳に、か細く震えながらも芯の通った強い言葉が・・・届いた。
もし、燈火が今日町に遊びに行きたいと言い出さなかったら。
もし、門で兵士のおっさんに呼び止められなかったら。
もし、アメリアさんの依頼で南門の防衛に参加していなかったら。
もし、南門で暴れる兵士のおっさんに遭遇しなかったら。
もし、おっさんの落とした手紙を読まなかったら。
もし、俺が助けに来るのが僅かでも遅れていたら。
もし、俺が第2形態になれていなかったら。
もし、俺にチカラを与えてくれているのが聴覚に大きなブーストの掛かるウサギでなかったら。
もし、何か1つでも歯車がズレていれば。誰にも届かずにただ消えゆくだけだった、1人の小さな少女の心からの願いは。祈りは。魂は。
何かに導かれるようにこの場へとやってきた俺へと確かに繋がった。
「ままをたすけて!」
カチリと何かが切り替わった音がした。
第2段階になり、拡張され、加速されていた俺の世界が無理やりに広がり、処理しきれなくなった脳が悲鳴をあげる。
また、比喩表現無しに体が爆発するんじゃないかと思うほどに濁流のように無理やり押し込められるチカラは逃げ場を無くし、俺の全身から湯気の様に立ち上り始める。
全身から焼き切れんばかりに訴えられる痛みに、しかし俺の心は刃の様に硬く鋭く研ぎ澄まされていく。
・・・この頃におよんで何を甘い事を考えていたんだ俺は。
自分が犠牲になって多少は時間を稼げば後はみんながやってくれる?
自己満足のためだけの自己犠牲で自分だけ脱落して大変なところは全て他人に丸投げするつもりだったのか俺は!
何のチカラもない。死んでしまったら全てがお終いの幼女が、自分の死を目の前にして、恐怖で声を震わせながらも自分の大好きなママを助けてくれと叫んでいるんだぞ!
ここで立たなきゃロリコンじゃねぇ!!
「『ラビット・ブースト』『瞬動』『ラビット・ステップ』『桜魔法・桜召喚』『チャージ』『エンチェント・パワー』『縮地』『ボーパル流格闘術・ラビットパンチ』『爆兎拳』」
無意識で漏れた言葉はたった二文字。だが、そこに込められたチカラは多く重い。
詠唱置換。ウサギ達から借りたスキルではなく、今作った俺の技術だ。
―――ズゥドム!!
「グガ―――」
空中で更に加速した俺は、今にも幼女に喰らいつこうとするただデカイだけのいぬっころの頭上へと一瞬で移動し、真下へと鋭角に軌道を捻じ曲げると、光を放つ拳でいぬっころの頭蓋を貫き。脳髄を爆破して殺した。
もちろん頭を爆発四散させてノコちゃんにトラウマを植え付けたりはしない。爆発は小規模高密度に、いぬっころの小さな頭蓋骨の内側を攪拌させるぐらいの威力だ。
いぬっころは俺の拳が頭蓋にめり込む直前に俺と目が合ったから、俺の存在そのものには気づいていたみたいだが、瞬き1つする間もなく脳味噌をミキサーにかけたジュースの様にされたから即死したな。
いや~、コイツがでかいだけの木偶の坊で助かったぜ。もし、今の俺と打ち合える程度の能力を持っていたら、俺の肉体が流れ込むチカラに耐え切れずに爆発して自滅するところだったぜ。
「ふぅ・・・」
いぬっころをぶち殺したことで流れ込むチカラが少し落ち着いた様なので、胸の中に貯まっていた熱をため息と共に吐き出しつつ、いぬっころに突き刺さったままだった右腕を引き抜いた。
うへぇ・・・”ねちょ”っていったぞ。”ねちょぉ~”って。きったねぇ・・・うわぁ・・・
俺がいぬっころから引き抜いた手をふりふりして粘液と悪臭を振り払おうと無駄な足掻きをしながらいぬっころのでかい頭から飛び降りると、目の前にポカンと目と口を丸くしたノコちゃんとシノハさんがいた。
2人ともよほど怖い思いをしたのだろう。決して離れまいと互いに強く抱きついたまま、綺麗な顔を心なしか少しやつれさせ、心ここにあらずといった表情で放心している。
「来るのが遅くなってごめんな。助けにきたぞ」
ばっちぃ方の手を後ろに隠して綺麗な左手を2人へと差し出す。
視線はノコちゃんの瞳にロックオンしながら、一応辺りの気配もチャックしているんだが、周りのオオカミ達は空気を読んでいるのか、あちらの対応に忙しいのか右往左往するだけで襲い掛かってこようという奴はいないな。
第2形態が解けかかってるから正直助かるな。
「あ・・・あ・・・」
掠れ掠れの言葉を呟いたのはどっちだったのか。
焦点が合ってなかった2人の目が左手を差し伸ばす俺の姿を捉えた瞬間。宝石の様に綺麗な瞳からポロポロと大粒の涙を零れさせ、気が緩んだらしくふらりと倒れてきたシノハさんの体を慌てて支える。
「おっとっと。大丈夫か?まぁ後は俺達に任せてゆっくり休んでてくれ」
既にすぅすぅと寝息を立てているノコちゃんと、なんとか意識を保とうと歯を食いしばっているシノハさんにそう言うと、シノハさんが体に込めていた力がふっと抜け、完全に俺に体を預けてくる。
シノハさんが頑張ったからノコちゃんは俺が辿りつくまで生きていられたんだ。ノコちゃんが頑張ったから俺はシノハさんたちを助けられたんだ。
後は任せてゆっくり眠って、起きたときには全て元通りでハッピーエンドだ。
本当は俺に任せろって言いたい所なんだが、2人の体を抱きとめた瞬間に第2形態は解けてしまって、今ここにいるのは元のウサギ1羽殺せない脆弱なダンジョンマスターでしかない。
だが、問題ない。
だって、ウサギ達のチカラを借りずとも余裕で聞こえる程に頼れる仲間の声はもうすぐそこに聞こえてきているんだから。
「じゅんにぃーーーーー!!1人で勝手に飛び出す悪い子はおしおきなんだからねーー!!おしおきとしてじゅんにぃには私と一緒にお風呂に入って、一緒のお布団で寝て、いっぱい愛してもらうんだから、死んだらダメなんだからね!うぇへへ」
「みんな突撃なのーーー!!一番にジュンを助け出して、ぎゅ~ってして、いっぱいなでなでしてもらうの!!」
「「「「「きゅいい!!」」」」」
さぁ、名前も知らないダンジョンマスターよ。前座はここまで。ここから先は互いに総力戦だ。
見た感じそっちはオオカミ主体のモンスターが1万匹以上。対してこっちはウサギが3千羽ちょい+α。
例え勝てる可能性が限りなく0だとしても、幼女を殺そうとしたお前を俺は絶対に許さない。絶対にだ!
必ずお前の首を刈り取りに行くから首を洗って待ってろよ!!
「あ!ボーパルちゃんずるい!私が一番にぎゅ~してもらうんだから!」
「む!横入りはダメなの!あたちが一番にぎゅ~してもらうの!」
「なにお!じゃあ、私はじゅんにぃにぎゅ~してから、ちゅぅ~してもらうもんね!」
「燈火は今日ずっと一緒ジュンと一緒にいたんだから今は譲るの!あたちが一番にぎゅ~して、ちゅぅ~してもらうの!!」
「「ガゥウ!」」
「「邪魔をするな!!(なの!!)」」
「「「「キャイィィン!!」」」」
・・・うん。なんか前方から巨大な砂煙を巻き上げつつ、立ちはだかるオオカミを千切っては投げ。千切っては投げながら爆走してくる子が2人ほど居るんだが・・・
ねぇ知ってる?今の俺は第2形態も解けて、ウサギにも劣るレベルのステータスしかないんだよ?むしろ第2形態の反動でまともに体を動かすことも出来ないんだよ?
そんな速度で抱きつかれたら普通に死んじゃうよ?
「「ジュン(じゅんにぃ)見つけた!!(の!!)」」
あ、うん。そうだね。2人とも満面のいい笑顔だね。100万ドルを払ってもみたいステキな笑顔なんだけど少し待とうか。俺をロックオンした瞬間第2形態の俺を軽く越える速度で加速しだしたけど、その速度は普通に致死量だから。ダンプに跳ねられるなんた生易しいレベルで肉塊になちゃうから。この世界から更にに異世界に転生しちゃう勢いだから!!
「「ジュン(じゅんにぃ)だっこ~~!!」」
「ぎぃやぁああああああ!!」
ギロチンの様に腕を広げて、弾丸の様に突っ込んでくる2人に、それでもだっこを求める幼女を避けるという選択肢は俺の中には存在しないので、俺に出来たことといえば、天使のような寝顔で眠るノコちゃんと、シノハさんをそっと地面に降ろし、全力で衝撃に備えて歯を食いしばって耐える事だけだった。
・・・あ、すいません。名も知らないダンジョンマスターさん。ちょっと味方の愛情表現で死にそうなんで一旦仕切りなおしてもらっていいですかね?ダメ?そうですか・・・
「むふふ~・・・あれ?じゅんにぃ?・・・死んだ?」
「なの!?ジュン!死んじゃダメなの!起きるの!」
無茶言うなよ・・・あぁ・・・死ぬときは・・・幼女に埋もれて・・・死にたかった・・・ぜ・・・ガクッ。
「「ジュン~~~!!(じゅんにぃ~~~~!!)」」
大丈夫。次の俺はきっと上手く幼女ハーレムを作ってくれることでしょう・・・
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7万
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1.3万
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1.2万
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4.8万
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1万
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2.3万
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9,711
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2.4万
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