異世界でウサギダンジョン始めました

テトメト@2巻発売中!

第27層 ダンジョンの氾濫

 
「・・・ちょっと詳しく説明してもらいますか」
「はい。もちろんです」

アメリアさんがにっこりと微笑んで席を促すので再び着席した俺の股の間に燈火が座り、燈火の膝の上にサクラが座って、燈火に万歳をさせられたり、耳をツンツンされて遊ばれてる。
そんな風に弄られながらも、サクラは耳をピクピクさせるだけで嫌がる様子は無く、おとなしく燈火のオモチャになってる。
でも、燈火さん。隙あらば俺のまたぐらに手を伸ばそうとするのはやめて貰えませんかね?幼女のおしりが触れているだけでもヤバイのに、直に刺激されたら椅子から立てなくなっちゃうんで。

と、まぁ。味方であるはずの燈火と水面下で争いながら、アメリアさんがいかに今回の氾濫が危険なのかを熱弁しているのを聞いてるうちにダンジョン氾濫については凡そ分かった。
だって、同じような話を何回も繰り返すんだもん。明らかな時間稼ぎ乙!まぁ、お陰でダンジョン氾濫の概要は分かったからいいけど。

要約すると、ダンジョンの氾濫は定期的に起こるダンジョン同士の戦争のようなもので、ダンジョンから濁流の如く溢れたモンスターが、他のダンジョンへと侵入し、モンスター同士で争いあう謎の現象の事らしい。普段はダンジョンから出ないモンスター達が一斉にダンジョンの入り口から溢れ出す様子からダンジョンの氾濫と呼ばれているそうだ。

・・・うん。ごめん。やっぱりその現象ご存知でしたわ。むしろアメリアさんより詳しかったですわ。

んで、まぁ。氾濫時のモンスターは基本的に相手のダンジョンへと特攻していくんだけなんだけど、氾濫中のモンスターは平時よりも凶暴度が増している事が多く、移動の途中にある町やら村やら人間やら家畜やら作物やらをついでの様に食い尽くしていくらしい。
しかもダンジョン同士のぶつかり合いが地上で起こった場合は被害がヤバイ事になるとかなんとか・・・

ダンジョンの氾濫はいつ起こるのかはさっぱり読めないので、一種の災害認定されてるみたいだな。
んで、んで、今回氾濫したダンジョンはこの町のすぐ近くにある動植物系のダンジョンで、1万を越えるモンスターの大群がこの町の近くを通る予定らしい。そして通るついでに襲ってくるだろうと。迷惑な話だな。

まぁ、ダンマスの観点から言えば、確かに動植物系なら遠征での食料の確保は大事だろうけどなぁ。今から攻め込むのに味方を喰うのもアレだし。空腹で敵ダンジョンに挑むのもな。というか、自分のダンジョンでお腹いっぱい食べてから出発すればいいだけの話じゃ・・・ま、まぁ。野良ダンジョンのダンマスは本能に忠実な奴ばっかりらしいし、しょうがないのかね?
だからといって町を襲うのはどうかと思うけど。まぁ、俺には関係無いな。

降りかかる火の粉は払うけど、消化活動まで手伝う気は無い。だって、俺生後1ヶ月だよ?事務職のおっさんどころかウサギにも劣る弱者だよ?戦闘なんてムリムリ。

・・・どうでもいいけど、さっきから最高責任者であるはずのギルドマスターのおっさんがアメリアさんの背後で鼻ちょうちんを作りながら居眠りしてるのが凄く気になる。
本物の鼻ちょうちんなんて始めてみた。割ってみたい気もするけど触りたくないな。ばっちぃ。

「くぅ・・・じゅんにぃ・・・」すやすや
「きゅっぷぃ・・・」すやぁ

そして俺の手もとにも夢の国に旅立っている子が2人ほど。
俺を背もたれにして体を預けて寝ている燈火と、燈火の膝の上で丸くなっているサクラだな。
今日は沢山歩いてお買い物したもんな。疲れたんだよな。よしよし。

「―――ということなのです。ですのでジュン様にもどうかお力を貸していただけないでしょうか。当然相応の報酬もご用意させていただきますので、どうかお願いいたします」

あ、寝ている2人を愛でている間にアメリアさんの演説が終わったみたいだな。
幼女といちゃいちゃしてる俺に頭を下げて、手を貸してくださいとお願いしている。後ろで上司がふんぞり返って鼻ちょうちん作ってるのに。

・・・なんかアメリアさんが凄くかわいそうになってきた・・・

「ん、そうですね・・・俺は冒険者でも兵士でも無いですからね。危ないと思ったら直ぐに逃げますよ。それに、なるべく敵が来ない場所に配置してくれんなら・・・まぁ」

自分で言っててアレだけど、敵前逃亡を宣言する兵士とかいらねぇよな。連携を邪魔する障害でしかねぇ。

「本当ですか!ありがとうございます!」

アメリアさんは俺の消極的賛成の言葉を聞くと、ガバッと顔を上げて、ほっとした表情を浮かべた。

・・・え?マジで?

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「あ~、面倒くさい」
「むぅ。じゅんにぃが安請け合いしちゃうからでしょ!折角のらぶらぶデートだったのにぃ!」
「きゅい?」

らぶらぶデート・・・?デートはともかく、らぶらぶ要素なんてあったっけ?まぁいっか。燈火がらぶらぶだって言うんなら、らぶらぶなんだろう。燈火の中ではな。

「へいへい。今度なんか埋め合わせするからさ。不貞腐れんなよ~」
「えっ!本当!?」

ぷにぷにのほっぺたを風船の様に膨らませながら、プィッとそっぽを向いて、私怒ってますってかわいくアピールしていた燈火が、急に上機嫌になって今にもスキップしそうになってる。
燈火さん。いくらチョインといえど、チョロすぎませんかね?まぁ、機嫌が直ったならいっか。

「むふふ~。じゅんにぃに何してもらおうかな~。1日私の言う事を何でも聞くっていうのはどうかな?」
「いや、デートの埋め合わせにしては重過ぎないか?」

燈火の言いなりとか、何されるか分からない恐怖が・・・

「なに言ってるの!じゅんにぃ!らぶらぶデートの埋め合わせなんだよ!?らぶらぶな上にデートなんだよ!?あのらぶらぶデートの埋め合わせなんだよ!?今日のデートは一生に一度しか訪れないんだよ!?それを台無しにした埋め合わせなんだから一生言う事を聞くぐらいは当然なんだよ!?それなのに優しい私は1日だけでいいって言ってるんだよ!?らぶらぶデートの埋め合わせに1日なんでもいう事を聞くぐらい当然でしょ!?」(洗脳中)
「言われてみればそうだな」(洗脳完了)

よく考えたら幼女の言いなりだなんてご褒美以外のなにものでもないじゃないか。俺は一体なにを悩んでいたんだ。

「離せぇええええええ!!」
「きゅい?」

アメリアさんに配置された南門。俺たちのダンジョンがある方向の門へと近づくと、何やら怒声が聞こえてきた。
まさか、アメリアさんの話が長すぎて既に戦闘が始まってしまったのかとも思ったが、どやらそうじゃないみたいだな。
それに戦闘が始まるとしても、モンスターが来るのは逆の北門からだしな。どこを目指しているのか知らんが、うちのダンジョンの近くに向かってるみたいなんだよな。まったく。勘弁して欲しいぜ。

まぁ、それはともかく、怒声が響く南門へと近づいていくと、大きな扉がぴっちりと閉じられている門と、その手前でちょっとした人だかりが出来ているのを見つけた。
どうにも聞き覚えのある声だと思っていたら、騒いでいるのはやっぱり兵士のおっさんだ。名前は忘れたけど、ノコちゃんのお父さんだ。
私服姿で腰に剣だけをぶら下げて、鎧姿の他の兵士に取り押さえられている姿は同じ兵士にはとても見えないけどな。

「離せぇ!俺は!俺は行かなきゃならないんだ!!俺が行かなきゃ妻が!娘が!!離せよぉおおおお!!」

掠れた声で泣きながら叫ぶおっさんと、そのおっさんを沈痛な表情で歯を食いしばりながら取り押さえる同僚の兵士達。
周りを囲む他の兵士や冒険者らしき人達も、一様に、苦々しく表情を歪め、中には目から涙を零している人までいるが、誰もおっさんを助けようとはしない。それがおっさんを助ける事になるから・・・

「あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁ・・・」

ついにおっさんの体力も限界に達したのか、既に言語として成り立っていない獣の様な慟哭は深い悲しみを纏ったまま徐々に消えてゆく。
それと同時に力の緩んだ右手に握りしめられていた1枚のメモが地面へと転がり、風のイタズラか、俺の足元へと転がってきた。
ぐしゃぐしゃになった可愛らしいメモ用紙には、お手本を見ながら頑張って写したのだろう。幼女神ちゃんがくれた翻訳機能を使ってもギリギリ読めるぐらいの拙い文字が書かれていた。

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ぱぱ へ

ままと いっしょに おはなばたけに いってきます

                  しのこ より

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「ッ!」

その手紙を読んだ瞬間。俺もおっさんと同じ様にその手紙を握りつぶした。

・・・気が変わった。

町がモンスターに襲われたとしても、何とかなるだろうと軽く考えていた。
自分はこの町の住人じゃないから関係ないからと、甘く考えていた。

だが、だがな。

名も知らぬダンジョンの主よ。お前が何の罪も無い幼女を殺すと言うのならば!

「・・・よろしい。ならば戦争だ!」

俺の全力を持ってお前を叩き潰そう!!


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