TraumTourist-夢を渡るもの-

舘伝斗

1-10 苦戦

「なんだ、これは?」

 僕たちが次の町へ向けて歩き始めて数時間。
 これまで周りが平野だった街道の風景に一本の亀裂が現れる。

「地割れ?・・・見た感じどこまで続いているか見えないけど、地震でもあったのかな?それとも元から?」

「いや、元からではないじゃろう。この地割れは街道を跨いでおる・・・・・・・・。」

 ロットの言葉を聞いてこの地割れが街道を巻き込んでいることに気がつく。

「まぁ問題はこの地割れが異変の前に起きたのか後に起きたのか、だな。」

 カトラの声で僕はある種の胸騒ぎを感じる。

「僕たち以外の夢を渡る者ツーリスト。この異変の関係者?」

わたる、この際だから言っておくぞ。もし夢を渡る者ツーリストとの戦闘で相手が現実世界ホゥトルの武器を持ち、お前やお嬢様を守りながら戦えないと判断したとき、俺はこの世界ザーストでの借金回収を諦めて迷わず二人に止めを差す。
 この世界ザーストでの死=現実世界ホゥトルでの死にしないために。・・・だからお前ももし俺やお嬢様の身に危険が迫っていると感じたら、その手で俺たちを殺す覚悟をしておいてくれ。」

「僕が?」

 カトラの突然の指示に僕は困惑する。

「そうだ。悔しいがわたるとの戦闘力にはほとんど開きが無くなった。これからは俺が一方的にお前を守るんじゃなくてお前も俺を守ってくれ。お嬢様が一人にならないためにも。」

 カトラの真剣な顔を見て僕たちの心配をしているカトラの思いを知る。

「カトラ。・・・わかったよ。この3年間カトラが僕たちを守ってくれたように、これからは僕も二人を守るよ。でも、やっぱり僕は極力二人を殺したくない。」

わたる?」

 僕の言葉に訝しむカトラを他所に僕は言葉を続ける。
 僕の中では既に地割れを見て感じたある種の不安は消えたいた。

「だから、夢の世界トーラムだからってすぐに諦めるな。一人で守りながら戦う?違うだろ。今、カトラが自分で言ったんじゃないか。僕とカトラの戦闘力に開きが無くなったって。一人で守れないなら二人で。それでもダメなら三人で力を合わせるんだ。そうすれば・・・大概の相手は倒せるだろ?」

 僕の言葉にカトラとロットは面食らったような顔になる。

「あれ?僕何か変なこと言った?」

「いや、何も変じゃないぞ?カトラよ、これは一本取られたの。」

 ロットの声にカトラの真剣な顔が崩れる。

「はぁー、わたるのことをバカだバカだとは思っていたが、そのわたるより俺がバカだったとはな。・・・そうだな。諦めるなんて俺らしくない。何も俺一人で苦労する必要はなかったんだな。」

「なんだかんだ言っても、カトラは面倒見が良いからのう。」

「あ、それ分かる。毎回厳しいことを言うのは結局は僕たちのことを心配してるんだなって今の言葉で分かったしね。」

「あー、もう。うるせぇな!さっさと行くぞ!日が暮れちまう。」

 普段見せないほど顔を赤くして先に行ってしまうカトラを僕とロットは追いかけるようにして街道を進んでいく。

「そう言えば近くの町の名前って何て言うんだ?」

「カトラが言うにはセダンじゃ。」



 すぐそこに決断の時が迫っていることを知らずに。









 わたるたちが地割れを見つけた頃、セダンの町を挟んで逆方向にもセダンに向かう集団がいた。

結華ゆいかさん、もう少しでフリーグ・・・・の報告にあったセダンの町です。」

 集団の人数は5人、その先頭を行くバンダナの男が横を走る、まだあどけなさの残る女の子に声をかける。

「そう。みんな、聞いたわね?そろそろ敵の拠点に入るわ。常に周囲を警戒しなさい。情報ではセダンの町には夢の誘いアインレイダンの憤怒のウォートが一人でいるらしいわ。ここで奴らの戦力を少しでも多く削るのよっ!」

「「「「おぉー!」」」」」

(そう、少しでも敵を減らして私は戻るのよ。あの幸せな世界地球へ。)

 結華ゆいか昨日・・見た夢で、自分の告白がに届いたことを思い出し、少し照れ臭くなる。

(あの後すぐに死んじゃってキスまでしかできなかったけど、もし元の地球だったらあれ以上も・・・ってだめよ!今は大事なときなんだから集中しないとっ!)

 結華ゆいかの一人百面相を見ながら横を走っていたバンダナの男はその様子を微笑ましく思いながらも周囲の警戒は怠らない。
 自分の知覚能力がこの集団の中で、いや、自分の所属する組織の中でも飛び抜けていることに自覚を持ち、その能力を買われて今回の作戦に抜擢されたのだから気を抜くことなど出来はしないのだ。
 バンダナの男の索敵可能な距離はおよそ500メートル。
 只でさえ見通しの悪い左右の林の伏兵を気にせず走れるのはこの男の知覚能力の高さ故に伏兵を避けていることが大きい。
 他のメンバーも警戒はしているがそれは敵に対してではなく罠に対しての警戒であった。

 そんなバンダナの男が周囲に異常は感じられないなと顔をあげた瞬間、男の脳内に過去最大の警鐘が鳴り響く。

「っ!?みんな、気を付け、」

 ボヒュッ

 男の警告は最後まで言い切られることなく何処からともなく現れた金髪の男の剣の一振りによって永遠に黙らされる。

「全く、どうにもあいつの言葉に重みがねぇと思ったらこういうことだったのか。危うく騙されて一週間かけてウィダーツェンまで遊びに行くところだったぜ。」

「お前は、傲慢のアロガンか!」

 アロガンの登場にいち早く立ち直った結華ゆいかは仲間の意識を戻すために声を張って目の前の男に話しかける。

「よぉ、結華ゆいかちゃん。ダインの野郎は元気か?それとも死んだダイ?」

「ダインさんは元気よ。今もお前たちの死を届けたくてウズウズしてるわ。」

「はっ、そりゃあいい。俺たちはいつでも良いとあの剣術バカに言っといてくれ。それで、・・・お前達はどこに行くつもりだ?」

 アロガンは言葉の前半は軽い口調で、後半は殺気を無造作に放ちながら低い声で訪ねる。

「決まっている。お前たちの企みを潰えさせてもらう!みんな、先にセダンへ!ユニークの使用者を殺せ!私はこいつを倒してから追う。」

「「「おぉ!」」」

 ユイカの指示に残った3人は躊躇うことなく従う。

「そう簡単に行かせるかよっ!」

 フォンッ、ギィン!

 結華ゆいかを無視して町へ向かう3人へ向けられたアロガンの剣はいつの間にか抜刀した結華ゆいかの刀により受け止められる。

結華ゆいかちゃぁん?到達者ですらない雑魚が邪魔しないでくれるかなぁ?」

「私が前と同じかどうか試してみるか?はぁっ!」

 結華ゆいかは受け止めたアロガンの剣を弾き体を回転させつつ空いた胴へと刀を叩き込む。

 ガィィン

「くっ!」

 結華ゆいかの渾身の一撃はアロガンの胴を両断するどころか皮膚に切り傷すら付けることが出来なかった。


「あぁ?何かしたか?」

 ミキッ

 アロガンは結華ゆいかの刀を体で受け止め、出来た隙を逃さない。
 そこからは一方的な展開となる。

「おらっ!吹き飛べっ!」

 ゴォゥ

 アロガンは右に弾かれた手に力を込め、剣を小枝のように横凪ぎにする。

「きゃっ!」

 ガィンッ

「おらっ、まだまだいくぜっ!」

 ゴォッ、ブォンッ
 ギンッ、ギィィン

 一発一発が結華ゆいかの細い体を吹き飛ばす威力を持つアロガンの剛剣を結華ゆいかは衝撃の方向へ飛びながら受け止めることで刀を折らず、自分も立てないほどの怪我を負うことはなかった。
 が、次第にセダンの町が近づくにつれアロガンの剣も威力を増す。

「そらっそろそろ終われっ!"剛断"」

 ヒュガッ、キィィン

「きゃあっ!」

 ドゴゴゴン

 アロガンの最後の一振りを受けた結華ゆいかの刀はとうとう耐えきれずに折れ、結華ゆいかも町に並ぶ家を破壊しながら反対側まで飛ばされる。

「ふぅ、さて。これで結華ゆいかちゃんは良いとして、ウォートはあの3人を上手いこと殺したんだろうな?世界の要求オーダーがもう一回変わるまで待たなくちゃならねぇって言ったらぶっ殺してやる。」

 アロガンは自分の一振りに手応えを感じ結華ゆいかの死を確認することなく町の中央、他の侵入者後向かっていったであろう場所へと歩き出す。








 戌亥いぬいわたる 18歳  
 称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者・獣に認められし者・サバイバー・野生児・復讐を胸に刻む者・到達者
 Rank1 0RP 3,205円 38,860TP
「ザースト:街道」
 戦闘力  279
 生活力  32
 学習能力 7
 魔力   86
 夢力   1

 固有:密航

 技:首狩り・投擲・乱切り・一閃・属性剣・天地断

 技能:頑丈・逃げ足・自然回復(超)・簡易道具作成・隠形・気配感知・威圧・流水・危機感知・身体制御・精神制御

 魔法:2級水魔法・2級土魔法・3級召喚魔法(獣)・4級魔法同時使用(2)



 ザースト滞在時間1037日目


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