TraumTourist-夢を渡るもの-

舘伝斗

1-3 ギルド

 森から出て歩くこと3分。
 何でこの3日間気がつかなかったんだというほど近くに大きい街が存在していた。

「・・・。」

「んー?どうしたんだわたる。こんなデカい街に今まで気づかなかった自分の間抜けさを噛み締めてんのか?」

 僕が予想した以上に大きい街を前に立ち止まっていると、変化に気づいたカトラがニヤニヤと迫ってくる。

「よく言いおるわ。わたるが獣と戦っている間中ずっと周囲に認識阻害の効果のある結界を張って、わたるが街の方へ行かないようにしておったくせに。」

「やっぱりお前かカトラー!!」

「くっくっく。やっぱりわたるもお嬢様と同じくからかいがいがあるなー。」

 カトラはそれだけ言うと慣れたように街の入り口に立つ兵士に声をかける。

「おぉ、兄ちゃんか。なんだ?そっちの二人は見ない顔だな。あぁ、兄ちゃんが言ってた、昔人見知りが原因で死にかけた女の子といたいけない少女から金を巻き上げる碌でなしか。」

「おい、カトラ。今なにか聞き捨てならない言葉を聞いたんだがお前は僕たちをどういう風に説明したんだ?僕はいたいけない少女から金を巻き上げたことなんかないぞ?ロットだって人見知りで死にかけたことなんてないよな?」

 僕がロットに声をかけるとロットは顔をそらす。
 その顔は少し赤くなっていた。

「おい、ロット。まさか。」

「言わんでくれ。」

「・・・。おっちゃん、この子はそうらしいですけど僕のは嘘ですからね?というかこの男の言うことを無闇矢鱈に信じないでください。」

「んん?おかしいな。俺の記憶が正しければ完済まで2500年も掛かる借金をしてたと思うんだが?」

「ぐっ、それは・・・」

「完済まで2500年!?そりゃー兄ちゃん一体何仕出かしたんだよ。」

「く、まぁ色々ありまして。」

「はぁー、それでこの街か。」

「この街に何かあるんですか?」

わたる、この街にはな、ギルド支部があるんだ。」

「そうだぞ。今のままじゃ2500年掛かるって言っても特級ギルド員にでもなれるなら10年掛けずに返せるぞ?ま、相応の実力が求められるがな。」

「そんじゃ、そろそろ入っていいか?」

「あぁ、引き留めて悪かったな。ギルドは街に入って真っ直ぐ行ったら見える赤い屋根の建物だ。ようこそ、ベヴォーナへ。」

 僕が街に入ると目の前に広がるのは賑やかな露天やその呼子たち。

「賑やかじゃのう。」

「そうだな。」

 ロットの言葉に僕も腑抜けた返事しかできずにいた。

「おい、そんなとこで時間食ってないでさっさとギルドに行くぞ。」

 カトラの声に僕とロットは慌てて後を追う。



 露天の並ぶ大通りを行くこと数分。
 目の前に門で兵士が言っていた赤い屋根の建物が見えてくる。

「ここがギルドか。なぁ、そういえば何でギルドに来たんだ?兵士のおっちゃんが金は稼げるって言ってたけど金ってTPに換算できないだろ?」

「別に金を稼ぐためにギルドに入る訳じゃねぇよ。さっきの兵士が言ったように特級ギルド員ってのは実力が必要だが稼げるんだ。
 そんで夢を渡るものツーリストにはお前みたいにTPを躍起になって稼ぐ奴より世界共通である金を稼ごうとする俗物が多い。
 しかも夢を渡るものツーリストはステータスがある分この世界の住民より総じて実力が高い。
 つまり特級ギルド員の多数が俺らと同じ夢を渡るものツーリストって訳だ。」

「そういうことなんだ。・・・それで、金を稼ぐ必要ないのに何で僕たちはギルドに来たんだ?」

 僕の言葉にカトラはこれだから馬鹿は、といった風にため息をつく。

「いいか、わたる。俺たちがTPを稼ぐ方法ってのは?」

夢の世界トーラムで長生きすることだろ?」

「他には?」

「他?うーん?」

「カトラの狙いは夢を渡るものツーリスト同士での決闘、じゃな?」

 悩む僕より先にロットが答える。

「正解。わかったか、わたる夢を渡るものツーリストは大体が俗物だ。金が好きだし、自分より力が上の奴が居ることを快く思わない。ま、全員ではないけどな。
 そこで、だ。そんな奴らが新顔の夢を渡るものツーリストが特級ギルド員という同じステージに立ったら当然排除しようとするだろ?何て言ったって俺たちはこの世界で殺しても例外はあるが基本的に死なないんだから。で、お前はそいつら相手に決闘で勝ちまくってTPを巻き上げようってことだ。」

「確かに。それなら2500年無駄にするより遥かに有意義だな。でも何度も夢の世界トーラムに来ている人たちに僕は実力で勝ることができるのか?」

「ん?あぁ、そこは大丈夫だろ。わたるが付けている蓄積の指輪がない限りは夢の世界トーラムで上昇したステータスは目覚めると元に戻るからな。
 スキルと戦闘経験だけは引き継げるから特級ギルド員になるまでにわたるはそこを磨けばいいさ。簡単だろ?」

「まぁ勝てる可能性があるのはわかった。あれ?でもカトラってこの世界に来た時点で戦闘力200だって言ってなかったっけ?」

「俺は、というかズィノバー家は特殊だからな。体質で夢の世界トーラムで増加したステータスの1割りくらいを毎回引き継ぐことができるんだ。」

「はぁー、結構それってズルいな。」

「何言ってんだよ。わたるは100%引き継げる蓄積の指輪を持ってるだろ。しかも料金はツケで。」

「まぁそれはそうなんだけどさ。」

「のぅ、入り口でウダウダやってんと早く入らんか?そろそろ日が傾きそうじゃぞ?」

 話し込んでいた僕とカトラに待つのが退屈になってきたのかロットが口を挟む。

「すいませんね、お嬢様。どうにも物分かりの悪い男がいたようで。」

「うるせーよ。」

 僕たちはようやくギルドへ入っていく。



 ギルドの中はよく物語で聞くような酒場と併設されたものではなく、学校の体育館二つ分くらいの広さの部屋の壁に沿ってに事務カウンターが20近く設置されている完全に手続きのみの造りになっていた。
 扉がいくつかあってそこに訓練所、試験会場、会議室1、2、解体場、ギルド長室と書かれた6つの扉があった。

 今は一日の報告をする時間帯なのか相当混んでいたが、20もカウンターが有るため満員ということはなかった。
 まぁ綺麗所がいるカウンターは列ができていたが。

 そんな中、僕たちはおばちゃんが受付している空いてるカウンターに行く。

「あら、可愛いお連れさんね。ギルドへようこそ。本日はどんなご用件ですか?」

 おばちゃんは人当たりの良さそうな柔らかな笑みを浮かべて僕たちを迎える。

「3人分のギルド加入の手続きを頼みたいんだが。」

 代表しておばちゃんとカトラが話す。

「おやおや、このお嬢ちゃんもかい?言ってはなんだけれどまだ早くないかい?」

 3人分と聞いておばちゃんは目を丸くする。
 まぁ僕も見た目10歳の女の子がギルドに加入しに来たら同じような反応をするだろうけど。

「大丈夫なのじゃ。わらわは魔法が使えるからのう。」

 そういって胸を張るロット。
 するとおばちゃんは更に目を丸くする。

「まぁまぁ、こんなに若いのに魔法が使えるなんて優秀なんだねぇ。じゃあ3人分の書類を用意するから少し待っててね。」

 そういうとおばちゃんは机の引き出しから書類を引っ張り出す。

「はいよ、じゃあここに名前と種族、年齢を書いてくれるかい?代筆は・・・いらなそうだね。」

 僕たちは差し出された書類に必要なことをサラサラと書いていく。

「うん、不備はないね。じゃあこれがギルド証だよ。初回発行は無料だけど無くしたら再発行料金の1000円貰うから無くさないようにね。」

 そういって差し出されたのはドッグタグのようなものだった。
 そこには名前と5という文字が書かれている。

「じゃあギルドの説明に入ろうかね。ギルド員は5~1級、そして特級があって4級までが初心者、2級までが中級者、それ以降が上級者ってなってる。
 2級からは昇格に試験があるからね。昇格は基本的にこれまでこなしてきた依頼の難易度や数で判断するけど中には実力で一気にいくつかランクが上がる人もいる。魔法を使えるならロットちゃんは言えば3級には上がれるかね。どうする?実力の確認のために試験を受けとくかい?」

 カトラはおばちゃんの言葉を聞くと僕の方を見る。

「あぁ、じゃあ序でに全員分の実力を図ってもらおうかな。」





 戌亥いぬいわたる 16歳  
 称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者
 Rank1 0RP 3,205円 0TP
「ザースト:ベヴォーナ」
 戦闘力  39
 生活力  11
 学習能力 5
 魔力   5
 夢力   1

 固有:密航

 技:首狩り・投擲

 技能:頑丈・逃げ足・自然回復(小)・簡易道具作成・隠行

 魔法:5級水魔法



 ザースト滞在時間3日目


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