やがて救いの精霊魔術
7 問題児が問題児たる由縁
「……」
その事に関する反論はできなかった。
勢いで着いてきてしまったが自分は精霊と戦えない。出来る事と言えば人払いの結界を張る位で、その役目すらも今終わってしまった。
つまり今自分がここにいても足手まといになるだけだ。茜は巻き込まないようにとオブラートに包んだ様な言い方をしてくれたがつまりはそういう事。
わがままという言葉の意味は分からなかったが、とにかく今の自分の立ち位置を理解できてしまった以上引くしかないのかもしれない。
「……悪い」
「ううん、いいんだ。元々一人でやるつもりだったし。それにね」
茜は言いにくそうに言う
「折角友達になったのに幻滅されたくないから。一人の方が寧ろ助かるんだ」
幻滅。それは精霊を殺せない自分に対して精霊を殺す所を見せる事だろうか?
……とりあえずそれは大丈夫だと伝えるべきだろうか? 別に精霊を殺す所を見せられたからと言って自分は幻滅したりしないと、そう伝えるべきだったのだろうか?
だけど結局その幻滅されたくない理由も聞けず、何かを伝えることもできなくて。
眩い光と共に何もない空間から精霊が現れる。
「……ッ」
黄色の長い髪をポニーテールにまとめた、おおよそ女子高生程の少女。
そういう姿をした人ならざる存在……精霊。
「行って! 土御門君!」
「……っ! 悪い!」
言われて後方を警戒しながらその場から走り出す。
そうしながら茜がそうしたように呪符から日本刀の魔装を取りだす。護身用だ。
そしてその間注意を向ける視界の先で繰り広げられているのは、精霊の使う力と人間の使う魔術がぶつかり合う異能バトル。
そこに自分が入る余地はない。
だから自分は逃げだしている。
……それでも。
「……クソッ!」
それでも逃げだしたくはないから近くの建物の陰に隠れる形で踏みとどまった。留まってしまったというべきか。
女の子を一人で戦わせている。女の子一人に精霊を殺す重圧を背負わせている。その二重の責任感。それが彼をこの場に留まらせた。
だけど実際近くにいるだけで足手まといなのは目に見えて分かっている。自分は戦えないのだから。
……では、どうするべきなのか。
それを考え答えが出ず立ち尽くしていたその時、ポケットに入れていたスマートフォンが着信音を鳴らした。
「くそ、誰だこんな時に……」
そう言いかけるが、連絡を入れてきた相手を見てこんな時だからこその電話なのだと気付く。
兄貴。そう画面に知るされた相手もまた、精霊と戦う存在なのだから。
それを確認してすぐに電話に出る。
するとこちらが何か言いだす前に陽介が叫んだ。
『よかった出たか! 単刀直入に聞くぞ! お前今宮村と一緒か!』
別に誠一から宮村茜という女の子と遊びに行くという馬鹿正直な話を陽介にした記憶はない。だから恐らくは霞経由か何かで自分達が知り合いという事を知ったのだろう。
そしてどうやら陽介は宮村茜の居場所を知りたいらしい。
「違う、一緒だった。アイツは今精霊と交戦――」
「最悪だクソ!」
陽介は声を荒げる。
まるで今の事態が本当に最悪だと言わんばかりに。
そして陽介は声を荒げて誠一に言う。
「いいか誠一。無理はするな。だが可能なら宮村を止めろ! その場から無理矢理にでもその場から連れだして逃げろ!」
「おい、それってどういう――」
「アイツを精霊と戦わせちゃ駄目なんだ!」
「駄目ってなんでだよ! 見た所普通に戦えなさそうな感じじゃなかったぞ!?」
今更倫理的な話を陽介がするとは思えない。だとすれば考えられるとすれば茜が精霊と戦える様な実力を持ち合わせていないという事になるが、茜がああして一人で戦おうとしているのを見るとそれも違うのではないかと思う。
だとすれば一体どういう事なのか。
「それは後だ。悠長に話してる時間はねえ! とにかく頼む! でないと下手すりゃ今度は検査入院じゃ済まなくなる!」
「……ッ!」
言われて初めて茜と出会った日の事を思いだす。
茜は検査入院という形であの場所に居た。
それがこうして精霊と戦った事による結果なのだとすれば。
そしてそうなるに至った理由が霞の言う問題児である所以なのだとすれば。
確かに宮村茜は今とても危険な状態にあるのかもしれない。
「……分かった、やってみる」
誠一はそう言って頷く。
「よし、頼むぞ。俺らも今から現場に向かう。逃げだせなきゃ最悪それまで持ちこたえろ! 分かったな!」
そう言われて通話が切られた。
そして携帯をしまい、緊張をほぐすように息を整えてから刀を握る。
「……よし」
一言気を絞めるように呟いて再び茜の元へと走り出した。
自分は精霊と戦えない。正確に言えばまともに攻撃できない。
だけど攻撃を防ぐ事ならできる。単純な防御。まともな攻撃とは言えない、致命傷を与えられない様な牽制的な攻撃。それだけできれば宮村を連れて逃げる事位は出来るかもしれない。
だけど視界の先に広がっていた光景を見て思ったのは単純な疑問。
宮村茜に本当に加勢が必要なのかという事。
視界の先で宮村が魔術を行使しようとしているのが見えた
それがどういう効力のある魔術なのかは誠一には分からなかったが、それでもそれがかなり高度で規模の大きい上級の魔術である事はなんとなく理解できた。
そんな術を行使できる魔術師が、直感的にそこまで強くないように見える精霊に負ける筈がない。
だけどそう認識した時点でもう一つ疑問が生まれてくる。
(なんであの程度の相手にあんな術を使ってんだ?)
あれだけの術を使えるならば、もっと手軽な術をうまく行使できる実力を兼ね備えている筈だ。
それに術を使うために必然的に隙ができる。規模が大きい高度な術なら尚更だ。故に魔術師はそうした術を使う際、仲間に援護してもらう必要があるのに、茜にはそれがない。それ無しで術を組み立て、その間宮村は必死に精霊の攻撃を躱し続けている。
それは言ってしまえば自殺行為に等しい戦闘スタイルだ。
どうぞ殺してくださいと言っている様で、正直こうして自分が戻ってくるまで倒れていなかった事が
不思議で仕方がない。
そんなだから、いつ何が起きてもおかしくはない。
「み、宮村!?」
その場所に到達する前に、精霊が至近距離で放った術が茜に直撃した。
腹部に掌底の様な形で術を叩き込まれた茜は、地面を何度もバウンドしながらこちらの方に転がってきて……誠一の目の前で血塗れで倒れていた。
「お、おい宮村! しっかりしろ宮村!」
茜の前にしゃがみ込み、声を掛けるが反応はない。息はあるが完全に意識を失っている。
「何してんだよ宮村……ッ」
目の前で何が起きていたか分からなかった。
何故宮村があんな戦い方をしていたのかも。そうした先で何がやりたかったのかも。
だけど分かった事が一つ。
宮村茜が問題児である所以。
その片鱗が此処にある事だけは理解できた。
その事に関する反論はできなかった。
勢いで着いてきてしまったが自分は精霊と戦えない。出来る事と言えば人払いの結界を張る位で、その役目すらも今終わってしまった。
つまり今自分がここにいても足手まといになるだけだ。茜は巻き込まないようにとオブラートに包んだ様な言い方をしてくれたがつまりはそういう事。
わがままという言葉の意味は分からなかったが、とにかく今の自分の立ち位置を理解できてしまった以上引くしかないのかもしれない。
「……悪い」
「ううん、いいんだ。元々一人でやるつもりだったし。それにね」
茜は言いにくそうに言う
「折角友達になったのに幻滅されたくないから。一人の方が寧ろ助かるんだ」
幻滅。それは精霊を殺せない自分に対して精霊を殺す所を見せる事だろうか?
……とりあえずそれは大丈夫だと伝えるべきだろうか? 別に精霊を殺す所を見せられたからと言って自分は幻滅したりしないと、そう伝えるべきだったのだろうか?
だけど結局その幻滅されたくない理由も聞けず、何かを伝えることもできなくて。
眩い光と共に何もない空間から精霊が現れる。
「……ッ」
黄色の長い髪をポニーテールにまとめた、おおよそ女子高生程の少女。
そういう姿をした人ならざる存在……精霊。
「行って! 土御門君!」
「……っ! 悪い!」
言われて後方を警戒しながらその場から走り出す。
そうしながら茜がそうしたように呪符から日本刀の魔装を取りだす。護身用だ。
そしてその間注意を向ける視界の先で繰り広げられているのは、精霊の使う力と人間の使う魔術がぶつかり合う異能バトル。
そこに自分が入る余地はない。
だから自分は逃げだしている。
……それでも。
「……クソッ!」
それでも逃げだしたくはないから近くの建物の陰に隠れる形で踏みとどまった。留まってしまったというべきか。
女の子を一人で戦わせている。女の子一人に精霊を殺す重圧を背負わせている。その二重の責任感。それが彼をこの場に留まらせた。
だけど実際近くにいるだけで足手まといなのは目に見えて分かっている。自分は戦えないのだから。
……では、どうするべきなのか。
それを考え答えが出ず立ち尽くしていたその時、ポケットに入れていたスマートフォンが着信音を鳴らした。
「くそ、誰だこんな時に……」
そう言いかけるが、連絡を入れてきた相手を見てこんな時だからこその電話なのだと気付く。
兄貴。そう画面に知るされた相手もまた、精霊と戦う存在なのだから。
それを確認してすぐに電話に出る。
するとこちらが何か言いだす前に陽介が叫んだ。
『よかった出たか! 単刀直入に聞くぞ! お前今宮村と一緒か!』
別に誠一から宮村茜という女の子と遊びに行くという馬鹿正直な話を陽介にした記憶はない。だから恐らくは霞経由か何かで自分達が知り合いという事を知ったのだろう。
そしてどうやら陽介は宮村茜の居場所を知りたいらしい。
「違う、一緒だった。アイツは今精霊と交戦――」
「最悪だクソ!」
陽介は声を荒げる。
まるで今の事態が本当に最悪だと言わんばかりに。
そして陽介は声を荒げて誠一に言う。
「いいか誠一。無理はするな。だが可能なら宮村を止めろ! その場から無理矢理にでもその場から連れだして逃げろ!」
「おい、それってどういう――」
「アイツを精霊と戦わせちゃ駄目なんだ!」
「駄目ってなんでだよ! 見た所普通に戦えなさそうな感じじゃなかったぞ!?」
今更倫理的な話を陽介がするとは思えない。だとすれば考えられるとすれば茜が精霊と戦える様な実力を持ち合わせていないという事になるが、茜がああして一人で戦おうとしているのを見るとそれも違うのではないかと思う。
だとすれば一体どういう事なのか。
「それは後だ。悠長に話してる時間はねえ! とにかく頼む! でないと下手すりゃ今度は検査入院じゃ済まなくなる!」
「……ッ!」
言われて初めて茜と出会った日の事を思いだす。
茜は検査入院という形であの場所に居た。
それがこうして精霊と戦った事による結果なのだとすれば。
そしてそうなるに至った理由が霞の言う問題児である所以なのだとすれば。
確かに宮村茜は今とても危険な状態にあるのかもしれない。
「……分かった、やってみる」
誠一はそう言って頷く。
「よし、頼むぞ。俺らも今から現場に向かう。逃げだせなきゃ最悪それまで持ちこたえろ! 分かったな!」
そう言われて通話が切られた。
そして携帯をしまい、緊張をほぐすように息を整えてから刀を握る。
「……よし」
一言気を絞めるように呟いて再び茜の元へと走り出した。
自分は精霊と戦えない。正確に言えばまともに攻撃できない。
だけど攻撃を防ぐ事ならできる。単純な防御。まともな攻撃とは言えない、致命傷を与えられない様な牽制的な攻撃。それだけできれば宮村を連れて逃げる事位は出来るかもしれない。
だけど視界の先に広がっていた光景を見て思ったのは単純な疑問。
宮村茜に本当に加勢が必要なのかという事。
視界の先で宮村が魔術を行使しようとしているのが見えた
それがどういう効力のある魔術なのかは誠一には分からなかったが、それでもそれがかなり高度で規模の大きい上級の魔術である事はなんとなく理解できた。
そんな術を行使できる魔術師が、直感的にそこまで強くないように見える精霊に負ける筈がない。
だけどそう認識した時点でもう一つ疑問が生まれてくる。
(なんであの程度の相手にあんな術を使ってんだ?)
あれだけの術を使えるならば、もっと手軽な術をうまく行使できる実力を兼ね備えている筈だ。
それに術を使うために必然的に隙ができる。規模が大きい高度な術なら尚更だ。故に魔術師はそうした術を使う際、仲間に援護してもらう必要があるのに、茜にはそれがない。それ無しで術を組み立て、その間宮村は必死に精霊の攻撃を躱し続けている。
それは言ってしまえば自殺行為に等しい戦闘スタイルだ。
どうぞ殺してくださいと言っている様で、正直こうして自分が戻ってくるまで倒れていなかった事が
不思議で仕方がない。
そんなだから、いつ何が起きてもおかしくはない。
「み、宮村!?」
その場所に到達する前に、精霊が至近距離で放った術が茜に直撃した。
腹部に掌底の様な形で術を叩き込まれた茜は、地面を何度もバウンドしながらこちらの方に転がってきて……誠一の目の前で血塗れで倒れていた。
「お、おい宮村! しっかりしろ宮村!」
茜の前にしゃがみ込み、声を掛けるが反応はない。息はあるが完全に意識を失っている。
「何してんだよ宮村……ッ」
目の前で何が起きていたか分からなかった。
何故宮村があんな戦い方をしていたのかも。そうした先で何がやりたかったのかも。
だけど分かった事が一つ。
宮村茜が問題児である所以。
その片鱗が此処にある事だけは理解できた。
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