最弱の英雄

皐月 遊

一章 6話 「方向音痴」

「それで、ライトはなんでこんな路地裏に居たの? 1人でなんて危ないじゃない。」

腰に手を当てアイリスは子を叱る母のように言った

「いや…アイリスも1人だっただろ…俺は道に迷ったんだよ」

「えっ…ライトも迷子なの?」

「まさか…アイリスもか?」
 
そういうとアイリスは顔を赤くし恥ずかしがりながら

「だ、だって!ここ広いんだもの!」

「確かに無駄に広いよな」

ライトがそういうとアイリスは首を縦に振る

「とにかく適当に歩いて人の居る場所に出るか、そしたら人に聞けばいいし、見慣れた場所に出ればアイリスも分かるだろ」

「そ、そうね…」

明らかにテンションが下がったアイリスにライトは首を傾げ

「どうした?」

「い、いや!何でもないの! 早くいきましょ!」

とアイリスは再びフードを被り歩き出した、ライトは彼女について行くしかなかった。

だが5分後

「なんでまた同じ場所に来るんだよ!」

「だ、だって…路地裏って景色が似てるんだもの!」

また先程の場所に戻ってきていた、アイリスはずっとライトの前を歩き「こっちね!」や「次はこっち!」と道が分かっている風な事を言いながら歩いていたのでライトは安心していたのだが

「まさか…アイリスって方向音痴?」

「うっ…」

あからさまにギクッという感じで声をあげるアイリスにライトは溜息をついて

「よし、次は俺が先頭を歩くからついて来い」

「うん…ごめんなさい…」

下を向き申し訳無さそうに言うアイリスにライトは慌てながら

「いや!そんな落ち込む事無いって!方向音痴な事以外は完璧なんだから! な?」

ライトの必死なフォローにアイリスは顔を上げて

「…ありがとう、完璧なんて言われたのは初めてよ」

少し顔を赤くして言った、その顔を見た自分も顔が赤くなっているのが分かったので、アイリスに気づかれないように前を向き

「さぁ、早く路地裏から脱出するぞ!」

「おー!」

気合いを入れて歩きだした


その5分後


「ライト…」

「本当に…申し訳ない…」

ライトはアイリスの前で体育座りをして落ち込んでいた。
あの後自信満々に自分の勘に任せて進んだところ、また先程の場所に戻ってきてしまったのだ、そのことが恥ずかしくてライトはずっと体育座りをしていた

「大丈夫よ、誰でも苦手な事はあるもの!」

「その慰めで心が痛いよ…」

「んー…でも実際どうすればいいのかしら」

「まさか俺も方向音痴だったとは思わなかったからな…」

ずっと引きこもりで外に出なかったライトは、道に迷う経験などした事が無かったのだ。

するとライトはふとここが異世界だという事を思い出し、もしかしたらとアイリスに質問した

「なぁアイリス」

「なに?」

「なんかこう…魔法みたいなのって使えるか? 」

異世界ならばもしかしたら魔法というものがあるかもしれない、という希望にアイリスは

「えぇ、使えるわよ? どうして?」

「まじか! ちなみにどんな?」

「私が使えるのは風魔法と水魔法、そして合わせ技の氷魔法が使えるわ」

「万能だな!」

そしてライトはその魔法を使ってできるかもしれない事を思いついた

「なぁ、その風魔法で俺を浮かせる事は出来るか?」

「えぇ、できるわよ? 浮かせると言うより、飛ばす感じだけど」

「ならその風魔法で俺を空にぶっ飛ばしてくれ」

「え⁉︎でもそんな事したら落下の衝撃で…」

「なら俺が落ちる前に水魔法で受け止めてくれ」

「な、なるほど…それならできるかも、でも飛ばしてどうするの?」

「あぁ、空から人のいっぱい居る場所を探す、これなら確実にここから抜け出せるはずだ」

とライトが自信満々に言うとアイリスは口に手を当て

「驚いた…ライトって意外に考えてるのね」

「だいぶ失礼だな!」

と言った後に深呼吸をして

「よし、んじゃ頼む」

「うん! 任せて」

アイリスが目を閉じ小さな声で何かをブツブツ呟くと、突然目を開け

「ウィンダー!」

と叫んだ、するとライトの足元から凄まじい風が巻き起こり、ライトは上に飛ばされた

「うわぁあああ⁉︎」

そのまま上に上がっていくと、空中でその風が収まった

「よし! 人の居る場所は……あった!」

ライトが首を右左に動かし周りを見ると、元々ライトがいた大通りが目に入った、ライトとアイリスはずっと大通りと真逆の方向を歩き回っていたのだ

「よし、方向は覚えた!後は…」

すると重力に逆らえなくなったライトの体は逆さまに頭から落下していく、そしてアイリスが見えた時にライトは叫び

「アイリス! 水頼む!」

「うん! ウォーダー!」

アイリスが叫ぶと地面から水が噴き出てライトの体を受け止める、無事に着地したライトはアイリスに向かって笑顔で

「ありがとな!おかげで方向が分かったぞ!」

「本当⁉︎」

「あぁ!こっちだ!」

さっきの方向を忘れないように急いで進むと、ようやく見知った大通りへ出る事が出来た。

「で、出れた…」

「や、やっと出れたのね…」

と2人は向い会いハイタッチをしたのだった

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