3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

177章 新世界

 【中央】によるアナウンスが続いている。
 内容はみんなで話し合い決めた内容だ。
 デルスは早く【真・世界樹】を起動したくてうずうずしている。

 「丁寧に説明するからってこんなに長い演説にしなければよかった……」

 「デルスに問い合わせも多数来てるぞー」

 「それは自動応答プログラムに任せる。【中央】のプログラムが丁寧に問答してくれている。
 そんなことより、もう起動していいかな?」

 「ダメだと思うよー僕は」

 「エイベスだって早く動かしたいだろ?」

 「まだ説明終わって納得しない人が多数派だったら中止だって話し合ったじゃないか」

 「え、そんなこと言った? だって完成してるんだよ? 中止とかありえないよ」

 「デルス、君がちゃんと皆の意思を尊重するって……」

 「言ったかなぁ……あー、早く動かしたい……」

 ケイズがワタルに救いを求めるように目配せをしてくる。
 ワタルはやれやれと言った具合に準備を始める。
 デルスをごまかすのは胃袋を攻めるのが一番。

 「デルスさん、まだ時間はかかりますから軽食でもいかがですか?
 僕らのいた世界の中華料理っていう形式で飲茶っていうんですが」

 テーブルの上には点心が広げられている。見た目にも美しく食べる宝石なんて言われている。
 ワタルの奥様たちもすでに席について飲茶を堪能している。

 「おお、これは……そうだね、焦っても仕方ないからね」

 デルスもそそくさと席に着く。

 「ワタル殿、感謝する」

 ケイズが小さな声で耳打ちする。
 その後ケイズとエイベスも小躍りしながら飲茶に夢中になっていた。
 そして気がついたら演説も終盤に差し掛かってきた。

 『以上のように我ら【中央】による皆さんの健康に関する責任は今後もしっかりと背負っていきます。
 ワールドクリエイターの使用についても皆様の意見をきちんと尊重いたします。
 この放送後皆様の意思をお聞きします。その結果をもって【中央】としての決断を致します。
 どのような結果になろうとも皆様の生活に不利益がないよう、以前の生活はきちんと保証いたします。
 それでは皆様のご意思を教えてください』

 「【中央】経由の意思決定は早いからいいよね。たぶん10分もかからない」

 「有効回答数97.853%、受け入れるが7割超えているね」

 「よし、起動しよう!」

 「「まった!」」

 エイベスもケイズも息ぴったりである。

 「更に詳しい問答を求めている人たちへの対応は順次行っているから待ちなさい」

 エイベスのプログラム達による個別訪問? と言っていいかは分からないが個別に説明を受けている。
 高速空間で行えば何ヶ月にも渡る説得も一瞬だ。

 「基本的にほぼ全員の同意が得られたと回答を受けました。デルス、Goです!」

 「よし! 【真・世界樹】起動!!」

 デルスは力強くコンソールを叩きつける。
 同時に【真・世界樹】へエネルギーが供給され旧【世界樹】との統合がなされていく。
 急速に強化される情報処理能力、世界が今一つに生まれ変わっていく。

 「システムオールグリーン、移行率50%を超えています。
 全て想定の範囲内」

 「安全域を広く取りすぎたぐらいだね使用率1%以下だね……」

 「いやいや、世界統合なんてとんでもないことするんだどれだけ安全域をとっても足らないよ」

 ものすごく興奮している3人をよそにイマイチ今起きていることの凄さがわからない女神の盾のメンバーはワタルが用意してくれたシャーベットや冷菓に舌鼓を打っている。

 「移行率80%を超えました。未だ問題なし」

 「ワールドクリエイター全世界共有されました、引き続き現世界線との統合を行っていきます」

 「世界線融合を確認、問題なし。各世界の保全も完了」

 「それでは僕の世界との統合を開始していきます」

 「システムオールグリーン、GOです」

 「世界線の統合を観測、問題ありません」

 「システム使用領域2%問題なし」

 「各世界の安定を確認」

 「相互保全システム順調に稼働、統合率100%これで統合は完成です」

 「全てのシステム問題なし。ミッションコンプリート!!」

 うおーーーーーっっと抱き合う3人。今この瞬間世界の統合という歴史的快挙は成し遂げられた。

 「あ、終わりました? 無事終わったみたいですね。おめでとうございます。
 あっちに記念のケーキ用意してますんで」

 ワタルが3人に声をかける。
 ワタル達女神の盾のメンバーにとって世界が同一化してもなんの自覚もない、
 帰ろうと思えば魔法でぽぽーんと世界間を飛び回っているのもあまり特別な気持ちも持ってない。
 ワタルのケーキの魔力にまんまと引き寄せられた3人は、
 喜びをぐっと溜め込んでたっぷりと最高のケーキを堪能する。

 「今でも興奮で手が震えるよ……」

 デルスは自らの行った偉業に興奮を隠せない、

 「そもそも論でワールドクリエイター自体がオーパーツレベルの代物なんだよね、
 ほんとに謎だらけだったよ自分で触ってみても」

 「だいたい見れば解析できる自信があったが、全く理解できなかった……」

 エイべスもケイズも完全にお手上げのようだ。
 デルスにこの仕組をもたらした発想の神はもしかしたらさらに高次の神なのかもしれない、
 ふとそんなことを考えてしまうワタルであった。

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