3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

170章 旅立ち

 一通り食事もすんでワタルの創るフルーツシャーベットに舌鼓をうった一同は本題に入る。

 「これからどうしようか……」

 デルスもお手上げである。
 まだ【中央】に対する情報公開は行っていない。
 別になんのおとがめのもないのでしてもいいんだけど、
 まぁ混乱が起きるのは間違いない。
 それらに対する責任を取れるのか?
 どのような形で情報を伝えるのがいいのか?
 マスターの世界に行くのか?
 話し合わなければいけない事は山ほどある。
 さらに言ってしまえば、このメンバーで話し合っても答えは出ない。
 この世界の人間はデルスとケイズ、しかもケイズは【絶対者】という悪名を持っている。
 残りのメンバーはデルスの作ったゲームの中の人だ。

 「あの、とりあえず少しで広い見解を聞くためにヴェルダンディさんとアルスさんを呼ぶのはどうでしょう? あと、【中央】がこの世界の行政機関みたいなものですし、その人がいないとやはりどうしようもないんじゃ?」

 そんな理由もあってワタルの提案は受け入れられる。
 時間も時間だったのでとりあえずこの日は解散となった。
 バルビタールはわざわざセイのもとへ帰っていった。愛妻家の鏡である。
 バッツも馴染みのお店に帰っていった。
 あ、あの世界を覆う結界は必要が無いということで開放された。
 この世界に住む人たちに害がなければ問題ない。あまりにあっさりとしていて拍子抜けになった。
 デルスは【中央】とな話し合い中に考えたことの構想を形にするということで自分の家に帰っていった。ケイズも一緒にくっついていくらしい。
 結果としてワタル達は妻達と久々の時間を過ごすことになる。
 転移魔法で預けている子どもたちのもとへ到着する。

 「あ! パパだー!!」

 子どもたちは久々の全員が集まったことに狂喜乱舞している。
 期せずして訪れたゆったりとした時間、ワタル達は家族での時間を思う存分楽しめることになった。
 そしてその何物にも変えられない時間を過ごすことでこの世界が何も変わらないことを願っている自分の気持に気がつくことになった。
 たとえ世界の裏側で自分が気が付かないことが行われていても、
 現状ある幸せを維持できればそれでいいんじゃいないか?
 そういう考えが浮かんでくることは何もおかしいことはなかった。
 久々の両親が全員揃っているのに子どもたちは大はしゃぎ、
 お風呂で泳いでベッドで大騒ぎ、でも今日くらいはと親たちもニッコリとその喧騒も楽しんで、
 子どもたちの電池が切れるまで一緒になって過ごしました。

 「ふふ、さすがに皆ぐっすりね」

 「あー、流石に疲れた。テンション高いんだもんワタルが興奮させるから……」

 「ワタ兄いると甘いからいう事聞かない……」

 「ワタル様は本当に悪いことはちゃんと叱ってくださいます。
 しかも私達が言うよりも子どもたちは胸に刻みつけてくれます」

 「ほんと、みんないい子に育ってくれて。ワタル君は父親なんだね」

 「ま、さすがのワタル様もお疲れなのでしょう。きょうはあのままそっとしておきましょう」

 ベッドをくっつけて15人の子どもたちがごちゃごちゃと寝ている真ん中で幸せそうな笑顔をうかべるワタル。妻達は夫の幸せな時間を大切に守ってあげているのでした。

 翌朝。ワタルは子どもたちを起こさないように起床して全員の朝食を作る。
 子どもたちの大好きなパンケーキだ。
 ワタルが作るパンケーキは奥様たちにも大人気でワタルは皆の喜ぶ顔を思い描きながら、
 楽しそうに朝食の準備に取り掛かっていた。
 途中ゲーツ、カレン、ユウキ、カイと起床してきて朝食の準備を手伝っていく。
 テーブルに広げられる大量のパンケーキとトッピングのクリームやフルーツ、
 ベーコンエッグやウインナー、テーブルの上にテーマパークのようにワタルの世界が広がる。

 「すごーーーーい!!」

 「パパ大好き!」

 「パパスゲー!」

 もちろん子どもたちのテンションはMAX振り切れてみんなで奪い合うようにみるみるテーブルの上がきれいになっていく。

 「もう、食べられない」

 「俺5枚食べたもんね!」

 「俺なんて6枚食べたもんね!」

 「ぐぬぬぬ……」

 子どもたちの成長をワタルはニコニコと見渡している。

 「みんな、聞いて欲しい。
 パパはみんなとの幸せを守るために少し遠いところを見てくる。
 たぶん今回は危険はないと思うけど、またお利口にしてくれるかな?」

 ワタルの心は決まっていた。
 まずはマスターと呼ばれている存在と会ってみてそれから考える。
 それしかない。

 「パパ、また行っちゃうの?」

 「今度は危なくないの? すぐ帰ってくる?」

 子どもたちの破壊力は絶大でもうどこにも行きたくなくなる。

 「大丈夫だよ、今度の旅はある偉い人とお話してくるだけ。
 危ないことはしないし、そんなに長くはかからないよ」

 「そーだよ! それにパパすっげーつえーから誰と戦ったって負けねーよ!」

 「そーだそーだ! ママ達だっているんだ! 誰が来たって負けないよ!」

 子どもたちはうんうんとうなずき合っている。
 一人がワタルに飛びついて抱っこをせがむと全員が飛びついてくる。
 よちよちと歩いている子供もワタルのズボンの裾をひっしと掴んで見上げてくる。
 それだけでワタルは少し涙が出そうになっていた。

 ワタルは【中央】の世界の家にもどる。
 たぶん最後になるであろう大きな旅に出発するために……

 

 
 

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