3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

159章 下ごしらえ

 「ここが決戦の場所かー……いいね、これなら思いっきり戦える」

 ワタル達は新大陸の平原に来ていた。
 【絶対者】との戦いの場となる新大陸。
 その広大な平原、そこが最終決戦の場になる。
 すでに追い込みは最終段階に入っている。
 【絶対者】がこの世界に到達した時点で世界を閉鎖する。
 外部からも内部からも神による干渉の一切を封じる。
 更に時限式にこの大陸周囲を結界によって閉鎖する、
 これは絶対防御ではなく移動阻害程度だ、時間をかければ突破される。
 さらにデルスの装置に【絶対者】だけを閉じ込め、この世界に対する最後の干渉によって【中央】へと送る。これが出来なければ世界全体を包んだ結界ごと【中央】へと送られる。
 それは世界の死を意味している。

 ワタル達は【絶対者】を結界内に留め置いて何としても世界を救わなければいけない。
 女神の盾のメンバーもこの7年政治的なことばかりしてきたわけではない、
 来るべき戦いに向けて、それこそ血反吐を吐くような鍛錬をしてきている。
 デルスの用意してくれたエンドコンテンツダンジョンでの、
 いつ終わるかわからない戦いに明け暮れたこともある。全てはこの日のためである。

 「ワタル君、デルスさんはなんて言ってたの?」

 「ああ、今日の13:00丁度、この地点に【絶対者】が転送してくる。
 転送と同時に世界は閉じられる。その1秒後に周囲を閉じる結界が自動発動するからその1秒間この地点に【絶対者】を足止めしてほしいそうだ。
 後は【絶対者】を行動不能にしてあの道具を使って【中央】へ送る。
 これができれば世界は救われる」

 現在の時間は12:50、デルスより与えられているタイマーなので寸分の狂いもない。
 女神の盾メンバーはこの戦いのために体内時計を完璧に揃えている。
 最後の装置による結界展開に5分必要になる、きっちり5分後に結界範囲内に【絶対者】を取り込んでいて、かつ半径10m以内に【絶対者】以外のメンバーは退避しないといけない、
 それには絶対に必要な訓練だった。

 「10分前だ! みんな、たぶんこれが最後の戦いになる。
 この一戦に世界の運命がかかっている。
 俺達の大好きなもののために俺たちの手でこの世界を守ろうぜ!」

 「子どもたちの未来の為に!」

 「私達の幸せのために!」

 「またワタルの御飯食べる」

 「ワタル様との生活を守ってみせます!」

 「まだまだかわいい服作らないとバッティ勿体無くて死ねないわ!」

 「せっかく好きになったこの世界守ってみせる」

 残り時間はあと1分。最後の刻を前に女神がすべての世界の民へと語りかける。

 【この世界に住む全ての皆さん、私はあなた達の事をいつまでも見守っています。
 愛しています】

 女神ヴェルダンディのこの世界に向ける最後の言葉はその慈愛に満ちた言葉だった。

 12:59

 13:00

 僅かに目の前の空間に歪みが生じる、

 「いっけぇー!!」

 全員が一斉にその歪みへ攻撃を放つ、移動を制限する結界が完成する一秒、それを稼ぐのだ。
 歪みに全員の攻撃が到達する前カレンの万里眼は敵の姿を捉える。
 7年間の鍛錬によって情報の共有は思念伝達によって可能となっている。
 全員が、敵、の姿を認識する。
 病的にガリガリ、目の下には深い隈が出来ている。
 色は青いと表現していいほど白い。
 黒髪、黒目、日本人的な顔立ちをしている。
 黒のロングシャツに黒のパンツ、黒のブーツとにかく肌が真っ白で服が黒い。
 モノトーンな人物だ。
 いきなりの一斉攻撃だがその全てが青白く光る障壁によって阻まれる、
 それでも攻撃の手は緩めない、
 一部障壁に損傷が起こると少し驚いたような表情をする、
 ブンッっと姿がブレる、転移ではない、超高速の移動だがカレンの万里眼はその動きを見逃さない、
 移動先の地点に牽制攻撃が集中する、それには流石に驚いたようで移動を停止せざるを得ない。

 13:00:01

 この時点で移動阻害結界が完成する。
 作戦の第一段階は成功した事になる。

 「お前が【絶対者】か!?」

 ワタルが叫ぶ。
 【絶対者】は突然の攻撃にもそこまで動揺した感じではないが周囲を伺っている。
 そして自分が置かれている状況を理解したかのように深く息を一つ吐き出した。

 「罠……にかかったってことか……」

 「そうだ! もう逃げられないぞ!」

 ワタルの再びの呼びかけに【絶対者】と思われる男はゆっくりと振り返る。
 ワタルを見る目に哀れみか優しか、そんな輝きを一瞬感じたような気がした。

 「【絶対者】か、そんな風に呼んでいるらしいな奴らは。
 自分たちこそが【絶対者】、いや支配者気取りの傲慢な奴らが……
 はぁ……お前たちが今回踊らされる哀れな人形たちか……」

 あらためて女神の盾のメンバーをぐるりと見渡し、そしてまたため息をつく。
 そこには馬鹿にしたような感じはなく、言葉通り哀れんでいるようなそんな仕草だった。

 「この世界を守るためにも、お前を捉えさせてもらう!」

 「……世界を守るため、か。あいつらはワンパターンにお前らを操るんだな」

 「何を言っているんだ? お前のせいで滅茶苦茶にされた世界が沢山あるんだぞ!
 アレス神の世界だってお前のせいで滅茶苦茶にされて、そのせいでこの世界にもガルゴみたいな奴が出てきたんだ!」

 「ガルゴ氏か……自分を神だなどと思ってしまった愚かな者の末路だ」

 「なに言ってるんだお前は!?」

 「自分たちを神だなどと称して偽りの世界を作り、虚ろな魂を生み出す。
 そんなことが許されるわけがないだろう。退屈なら死ねばいい。
 自然を壊し、生態系を破壊し、あらゆるものから搾取し続けてきたがん細胞は滅びねばならない、
 やっと訪れたチャンスなんだ、ワールドクリエイターにおける霊魂の死はあの世界での死と同意義。
 このつながりを持つ全てのがん細胞を殺す。それが俺の行動原理だ。
 犠牲者であるお前たちがなぜ奴らの味方をする?」

 ワタル達は【絶対者】の言葉が理解できなかった。
 あまりにも突飛で考えもしていなかった話すぎるのだ。

 「お、お前を捕らえねばこの世界は消滅する! なんといわれようが俺たちはお前を捕らえる!」

 「フッ……この世界が消滅する。か、お前たちは何もわかっていないな。
 俺が何もしなくたってこの世界は消滅するんだよ、それこそ神の気まぐれでな」


 
 

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