3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

153章 満たされて飢える

 「ふぅ~……ほんとにワタル君の入れてくれる紅茶は美味しいわね、私がいつも入れている物とは思えないわ」

 飲みかけの紅茶をソーサーに戻しながら【統率者】ジュラはワタルの入れた紅茶を絶賛する。

 「ワタルの作るお菓子もおいしい」

 「ワタ兄このクッキーもっと食べたい」

 「まだあったはず、お、あるね。でもこれでもうおしまいだよ」

 アイテムボックスから焼きたてのクッキーが大皿に乗って出される。
 一斉に手が伸びる。
 突っ伏しながらもヴェルダンディとアレス神もその手を伸ばしてくる。

 「あら、ふたりともそろそろいいかしら本題に入っても?」

 「……はい」

 「……ボクになんて気にせずどうぞ……」

 まだ二人は完全にダメージからは回復できてはいないが、
 なんとか声が耳に入るくらいまでは回復していた。

 「最初にあなた方全てに【統率者】として謝罪します。
 ガルゴの目に余る行動を、把握していたにも関わらずある程度放置をして、
 あまつさえあなた方の世界に意図的に隙を作り誘導したこと。
 これは許される行為ではない。本当に申し訳ありませんでした」

 深々とあたまを下げるジュラ。

 「頭を上げて下さい、お話をまずは聞かせて下さい、正直何が何やら……」

 ワタルを含め女神の盾のメンバーはまだ自分たちに何が起きているのかほとんど理解できていない、
 ユウキとワタルは薄っすらと可能性ぐらいは考えられてはいたのだが、確信にはいたらない。
 その予想があっていると自分たちの存在がどういうものかつきつけられてしまう、

 「私とアレスはすでに別の【統率者】の方から説明を受けています。
 仕方ないと思います、これから私達の世界の人々を頑張って幸せにしていきます」

 急にキリッとして力強く発現するヴェルダンディ、しかしすぐに顔を真赤にして下を向いてしまう。

 「ありがとう。それではあなた達が一番疑問に思っているところからお話しましょうか」

 「この世界の成り立ちについて……ですね」

 この世界が神のゲームで、自分たちはNPCノンプレイヤーキャラである可能性だ。

 「あなたちの予想は半分正解ですね。しかし、ゲームなどではありません。
 あなた達一人ひとりは人間、この世界に生きるすべての生物は生命として生きているのです」

 「あなた方神が我々を作られたのですか?」

 「私達が作るのは一番最初の環境だけ、この世界を作っているのはあなた方世界の住人達です」

 「そ、そうです、皆様は自分たちの手で自分たちの世界を創りだしたのです」

 「そうです、そうです」

 ヴェルダンディとアルスが絞りだすように続く。そしてさらに言葉を繋ぐ、

 「しかし、そうは思わぬ神もいるのです……」

 「自らの世界の生命を生命とも思わず、自分のおもちゃのように扱う、そんな神もいるのです」

 「【統率者】は世界を蔑ろにする神を取り締まってきました。
 今では神の世界にルールが出来ているのです。
 神は世界の観察者であること、
 神は自らの世界に住むものを蔑ろにすることを禁じる、
 それぞれの神はお互いを尊敬し、互いの世界に害をなすことを禁じる。とね。
 細かな規定はたくさんありますが、これが基本的な考え方です」

 「そもそもなぜあなた方神はそのような力をお持ちなのですか?」

 「うーん……まぁ、簡単に言えば私たちは技術などがはるかに進んだ世界に生きていて、
 すべてが満たされてしまったんだよね」

 「衣食住の全ては何をせずとも手に入り、娯楽は飽和、天災さえもコントロールし、
 病で死ぬこともない、死しても変わりの肉体で生まれ変わり、望む能力も手に入る。
 そんな状態でいるとどうなると思いますか?」

 「つ、つまらなそうですね……」

 「そう、あまりの退屈さに心が死ぬんです」

 「無気力症候群、何もせず、それでも死ぬことはなくただ生きている。
 そんな人間が増えてしまったのです」

 「そこに現れたのが【統率者】の長であるデルス様です。
 あの方の作られた『世界ワールドクリエイターる』
 それが我々の世界に希望の光を見せてくれたのです」

 「救われたのですあの方のもたらした世界に……」

 「だからこそその大切な世界を大事にする。それは当然のことなのです」

 ヴェルダンディもアルスもワールドクリエイターに救われた一人だったのだろう。
 自分のことのようにキラキラとした目でその功績を誇らしげに話す。

 「しかし、ここにいるような神だけではなかったのです、
 自らの作った創造物は自分の好きなように扱っていい、
 むしろ虫けらのように殺すことに楽しみを見出してしまう神もいたのです」

 ヴェルダンディーが憎々しげにテーブルに拳を叩きつけながら早口で話す。

 「そういった輩に不正なプログラムを与える集団が現れ始めたのは、
 そういった問題が表在化して規則ができはじめた頃でした。
 【統率者】に連なる私も、その毒牙にかかってしまいました。
 その結果デルス様は大層心を痛め、システム開発のためにもう長いこと篭もられているのです」

 「その集団の手がかりが今回つかめるかもしれない、そういうことですね」

 ユウキは話の内容から今回の事件との関連性を予想して自分の考えを告げる。

 「そう、いままで一切の痕跡もなく活動している【絶対者】と呼ばれる者たちの、
 爪の先ほどの痕跡、しっぽを掴むことが出来そうなのです。
 ほんの少しの痕跡でも掴めればいくらお互いが進んだ技術を持っていようが、
 こちら側にいる数が違います。必ず本丸にたどり着くことができるはずです!」

 興奮気味なジュラは一気に紅茶を飲み干す。

 「一旦休憩にしましょう。お茶を入れます。
 もしよければキッチンをお借りしてもいいですか?
 そろそろお腹もすいてきませんか?」

 そのワタルの提案でみんなの腹の虫が一斉に雄叫びを上げる。

 「それでは、不肖私がこの腕を振るわせていただきます」

 わざとらしく礼をしながらワタルがキッチンへと移動する。
 1LDKのような作りだがキッチンに入るとレストランのキッチンのような空間に通じていて、
 ワタルは驚愕した。

 「申し訳ないけど、君の力を存分に発揮してもらえるよう、いじらせてもらった。
 監視していてもたまらないほどだった君の腕前、心の底から楽しみにしているから!」

 今まで見せていないような上気した表情がジュラの人間らしい素顔に見えた。
 ワタルは3人の神たちに食による喜びを味わってもらうために全力を尽くそうと心に決めた。









 

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