3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

151章 拳の重さ

 体をくの字に曲げるほど深々とささる拳、
 すっ、と距離を開け構えるバルビタール。
 ここで一気に終わらせることもできるがそれはしない、
 ガルゴの体の隅々に自分の怒りを一つ一つ叩きつける。
 それがバルビタールのこの戦いの意義だった。

 【ぐべぇぇぇぇぇ、おぐぇぇぇぇぇぇ……】

 吐瀉物を撒き散らかしながら悶絶するガルゴ、

 【いてぇ、オべぇ、てめ、こんなことしてぶっ殺すぞ!】

 「口喧嘩しにきたのか? お前は最強なんだろ? さっさとかかってこい」

 【お、おまえの弱っちい仲間みてーにぶっ壊してやる】

 自分から地雷を踏みに行くスタイルのガルゴ、当然バルビタールの逆鱗に触れる。
 一瞬で同じようにガルゴに肉薄する。

 【ひっ……】

 ガルゴは無造作に腕を払う、身体能力だけはとんでもない能力を手に入れているガルゴの腕払いは空気を裂き烈風を起こす。
 ただ、言ってしまえば早いだけ。重いだけ。練り上げられた武術ではない。
 4魔将もプロポもきちんと正面から戦えば相手にならないであろう。
 自分のせいで、自分が弱き存在だったから彼らは死んだ。
 目の前で戦ってみて、改めてバルビタールの心は引き裂かれそうになる。

 「すまん」

 先ほどと寸分たがわぬ部位に拳をめり込ませる。
 最初の一撃は派手に殴りつけたが、今回は空手の中断突きのように力を逃さず留める。
 派手にくの字にふっとばすような一撃ではない。

 ズン

 踏み込む足が地面を揺らす。

 【……グボォ!】

 拳を撃たれて一刻遅れてガルゴが胃液を吐き出す、もう吐くものもない、

 「シュウの拳はもっと早いぞ」

 【ぐべぇ、く、く、クソがぁ! いい加減にしろ-!!】

 ガルゴは逃げるように距離をとり滅茶苦茶にエネルギー弾を繰り出す、
 一つ一つが普通の人間なら、いやバルビタールでも喰らえば重篤なダメージを追うほどの威力。
 それが数千、数万と眼前に迫り来る。

 【これから逃れられる奴なんていねぇ!! 消し飛べぇ!!】

 着弾とともに舞い散る衝撃波、降り注ぐ光弾、その全ての隙間を舞うようにバルビタールは進んでいく、視覚能力は高いガルゴもその姿を捉えることは出来てしまう。
 そして目の前で行われていることが理解できない、見えてはいるがそれが行えることが信じられない。
 しかし、女神の盾のメンバーは特に驚きはしない。
 ここにいる全員、その程度のことが出来なければ今までの戦いを生き抜いてくることは厳しい。

 「ドミの見切りと瞬歩はもっと鋭いぞ」

 光弾の雨を物ともせずに急速に接近してくる敵、ガルゴには何が起きているか理解もできなかった。
 こんなはずはなかった、自分の思い通りになんでもなるはずだった、
 俺が悪いんじゃない、チートだ、相手がチートを使ってズルしているから、

 【卑怯だぞ! 何かしてるんだろ! こんなの、こんなの絶対おかしい!
 俺の最強のキャラが負けるはずないんだ!!】

 「これはゲームじゃないんだ、お前自身の力がそんなもんなんだろ」

 バルビタールの右手がガルゴの左頬にめり込む。
 錐揉み上に吹き飛ばされ顔から地面に叩きつけられる。

 「早く立てよ、まだまだ終わらねーぞ」

 バルビタールは悠然と構える。
 ガルゴは這いつくばるようにしたまま拳をガンガンと地面に叩きつけてる、

 【なんなんだよくそがぁぁ!! たかがMOB共が許されるかよこんなこと!
 俺は神だぞ! なんでも出来るんだ! 当たりさえすれば!】

 「自分で何もせず安全な場所で悪態をついてるだけの貴様の拳なぞ当たるはずもない!」

 【ふざけんな、ステータスはカンストしてんだぞ!
 何かしてるんだ、あいつらこそチートだろ! 【統率者】仕事しろや!!】

 「見るに耐えないな、いい加減腹に据えかねる。行くぞ、歯を食いしばれよ坊主」

 【ひ、ひぃ……】

 ガルゴが怯えた表情で子供みたいに腕を振り回し、エネルギー弾を滅茶苦茶に打つ。
 間違ってあたっても大怪我だが、稚拙な攻撃に当たるようなバルビタールではない。

 【や、やめ、あたれ、当たれよぉ!】

 雨のように降り注ぐ攻撃をすり抜けて自分を殴りつける存在が近づいてくる、
 その恐怖にガルゴの心は折れかけている。
 そんなガルゴの願いを叩き壊す一撃が脇腹にめり込む、
 今回はそれでは終わらない、すぐに顔面に叩き込まれる拳、
 止まらず逆のボディ、返す拳が顔、連続で叩き込まれる拳。
 一撃一撃が少しづつガルゴの精神をヒビを入れていく、
 デンプシーロールのように殴り続ける、倒れそうになるとアッパーで無理やり立ち上がらせる。
 最初はガルゴも必死に腕を振り回して抵抗していたが、
 ボロ雑巾のようにボッコボコにされて反撃の気力も薄れていった……

 【ぼ、ぼう……やべ……でぐだ……ざぃ……】

 「なんだ? まだ命の取り合いというレベルでもないだろ?
 お主の体は強靭で大したダメージになってないと思うぞ、俺も素手でなぐっているし……」

 【いてぇよぉ、なんで俺がこんな目に、俺は好きな様にやりたいだけなのに……】

 バルビタールの言うとおり表面的なダメージはすぐに自己治癒力で回復していく、
 しかし心が殴られるという恐怖に耐えられなかった。

 「他人に迷惑をかけて自分の好きなことをやるのはそれ相応の覚悟と逆の事が起きることを想定しないとな」

 【こんなことになるなんて、聞いてねぇよ、チクショウ、たかがゲームで、こんな目に、チクショウ……】

 ガルゴの目からぼたぼたと涙が溢れる、ただ吐く言葉は自己弁護と他者への怨嗟のみ、

 「貴様は何もわかっておらんな、すこしでも他人の痛みを知ろうとすればバカなことも止められただろうに……だが、同情はしない。我が仲間が受けた無念、思う存分ぶつけさせてもらう」

 バルビタールはもう一度構えを取る、
 ガルゴはすでに心が折れておりヒィッと怯えるように小さくなる。

 「お主は……最後まで男らしく戦わんか!! これではお主に踏みつけられた我が仲間が報われん!
 立て!! 立って向かってこい!!」

 【うう……もう嫌だ、なんで俺がこんな目に、俺は悪くないんだ、アイツがあんなもの渡さなければこんなことにならなかったんだ、そうだ、俺は悪くないんだ。もう知るか、【統率者】にアイツの事……】

 ガルゴはブツブツと呟くだけでバルビタールの叫びも届かない。
 はぁ、と一つため息をついてバルビタールが次の言葉を発しようとする。

 【下がって!】

 バルビタールはその声が聞こえると同時に女神の盾のいる場所まで吹き飛ばされる。
 離れた位置から見ている女神の盾のメンバーを含め、
 誰ひとりとして全くその存在に気が付かなかった、
 ガルゴのそばにはいつの間にか一人の白衣を着た者が立っていた。
 そしてガルゴは真っ黒な巨大なクリスタルに覆われていた。

 【こ、これは!? 助けに来てくれたのか!?
 くふふふふ……これで、これで貴様ら死んだぞ!! さぁ! 早く俺を逃がしてくれ!!】

 しかし、黒いクリスタルは少しづつ小さくなる。

 【ん? おい、早く俺を逃がすんだろ? オイ! おい! 何だよこれ!!】

 必死に内側からクリスタルを押し返す、
 それでも全く変わることなくクリスタルがどんどん小さくなっていく。

 【出せ!! 出してくれ!! やめろ、やべ、やべろぐ、ぐぅやべ、やめろぉぉぉーーー!!!】

 必死に内側から外壁の破壊を試みようとするが、クリスタルはなんの変化も見せずに静かに同じ速度で収縮を続けていく、その内側がガルゴで満たされた後も収縮は収まらない。

 ブチュ……

 ガルゴの身が形態を保つことができなくなった後も、
 クリスタルはそのままその存在自体が消滅するまで収縮を続けその場から消えた。

 残されたのは静寂と白衣の人物だけだった。



「3人の勇者と俺の物語」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く