3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

145章 絆

 悪魔という形容があまりにしっくりと来る異形に変化したガルゴ。
 体を確かめるように動かしている。
 しばらくすると目を閉じて空を見上げるように考えこむ、

 【クソジジイども、めんどくせぇ事しやがって。これをどうにかするのは時間がかかるな。
 しょうがねぇ、まずは邪魔な虫ども潰してからゆっくりとだな……】

 狂ったような雰囲気から落ち着きを取り戻しているように見える。
 空中でバサッと翼をひとつ羽ばたかせるとゆっくりと地に降りてくる。

 黒珠に飲み込まれた巨大なクレータの手前に降り立つ、
 首や肩をゴキリゴキリと鳴らし自分の思い通りに体が動くことを確認する。

 【悪くない体だな、しかし、コイツも諦めが悪いな……
 もう邪魔だな中で精神こころを殺そうかと思ったけど潰したほうが早いな】

 ガルゴが大きく息を吸い込むとペッと何かを吐き出す。
 水晶球のような小さな宝石が地面に撃ち込まれる。
 その美しい水晶は床に当たる寸前でふわふわと空中に浮かぶ、
 その光は弱々しく今にも消えてしまいそうだがその輝きは強い意志さえ感じられる不思議な光を放っていた。
 その波動を感じ取ったのか、今までピクリとも動くことのなかったプロポがガバッと目をさます。

 『バルビタール様!!』

 4魔将もその言葉にすぐに反応する。

 【ほほう、虫どもは仲間に擦り寄らねば生きていけねーからな、
 正解だよ。お前らの飼い主の魂だ。
 まぁ、それも今から俺に潰されるためだけに存在するんだがなぁ】 

 プロポ達が感じたバルビタールの気配に向けてガルゴが足を引き、踏み潰さんとしている。
 5人は動いた。
 女神の盾のメンバーでさえも反応しきれない刹那の瞬間に全員が動いていた。

 自分たちが生まれた理由は今この瞬間のためにあったんだ。
 全員の心のなかにはそんな不思議な考えが生まれていた。
 自分を産んでくれたバルビタール様を助ける。
 こんな幸せなことはなかった。

 大好きな、大切なバルビタール様。
 セイ様と幸せにこの世で静かに暮らしていただきたい。
 私達の望みはただそれだけです。
 お与え頂いたこの生命、今、お返しいたします。

 プロポはいち早く空間を抜けてバルゴに肉薄する、
 4魔将も一気に距離を詰める。
 女神の盾と戦っていた時よりも早く、彼らの限界を超えた速度で自らの主を守るために駆ける。

 【ふん……無駄だ】

 ガルゴは振り上げた足を振り下ろす、プロポや4魔将が何をしてその踏みつけは防げない、
 徒労に終わりバルビタールの魂は砕かれる。
 ガルゴは確信していた。自分以外の全てがゴミで自分の邪魔なんてできないことを。

 プロポは自らの全身を次元固定して盾となる。
 もちろんそんなことをすればプロポの女神の盾によって拾い上げられた命は【停まって】しまう。
 それでもプロポは迷うことはなかった。
 4魔将にも迷いはない、全員が思うことは一つ。バルビタールを助けたい。それだけであった。
 プロポからの干渉をすべて受け入れる、4魔将の肉体も固定されその生命の時間を止める。
 その生命の代償にあらゆる外界からの干渉を拒絶する強固な盾と自らを変える。

 【とんだバカどもだな、せっかく永らえた命を自分から捨てに来るんだからよ】

 プロポの命を賭した特攻を、ガルゴは薄氷でも踏むようにあっさりと踏み潰していた、
 プロポの背後でバルビタールの魂を守るドニ、シュウ、ペント、ブトル。
 その想いを踏みにじるかのごとく全員がガルゴの一撃でその身を砕かれている、
 ただの踏みつけの一撃だがその破壊力は凄まじく、
 受けた部位がまるで大砲の直撃を受けたかのように吹き飛んでいる。
 次元を固定してもガルゴには関係ない、干渉して消滅させる。ただそれだけだった。
 全員助からない、一目でそれがわかってしまう、そんな一撃だった。

 『間に合った……』

 プロポがつぶやく。生きていられるはずもなく、声を発することなど出来るはずもなかったが、
 確かに安堵の声が聞こえた。
 しかしその表情に苦痛などはなく何もかもに満足したような笑みであった。
 彼らは彼らの望む結果をつかみとったのだ、彼らの全てをかけて、
 自分たちの命以上に願うバルビタールの幸せのその最初の扉をこじ開けることができたのだ。

 『バルビ……タール様……お幸せに……』

 光の粒になって消えていく5人の気持ちを代弁するような呟き、
 ワタル達の耳にもハッキリと聞こえたような気がした。

 彼ら5人の文字通り命をかけた行為の結晶はセイが抱くウサギの上に浮いていた。
 小さいが確かな輝きを放つ結晶がウサギの体に吸い込まれていく。

 ウサギの体にぽたぽたと水滴が落ちる、
 セイの瞳からいつの間にか涙がこぼれていた。

 ガルゴが一歩踏みつけた。
 ただそれだけの行動の中に5人の人生が濃縮された時間がつめ込まれていた。
 一般人であるセイに超高速で起きた今の出来事を正確に理解できたわけではないが、
 目の前に現れた結晶の儚い輝きを見て自然と涙がこぼれてきたのだった。

 『馬鹿者どもが……』

 ウサギの口から哀しい呟きが溢れる……
 セイの涙がウサギの目をつたい溢れる、それはまるでバルビタール自身の涙のようにも見えた。






 

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