3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

134章 ワンサイドゲーム

 ワタル達が自分たちの体に起きた異変を認識したことにより、
 より積極的な攻勢に出ることが可能になっていく。
 相手の攻撃を見えるということは回避も最小限で行うことができ攻撃に転じられる場面も増えていく。
 攻防において優位に立てるのだ。

 『ちょ、ちょっと待って。待って。なんか、だんだん一方的になってないか?』

 『あいつらゼッテー許さねぇ、なんだこれ、無理無理無理』

 「恨みはないんだけど、手も抜けないからここで倒されて?」

 リクは容赦のない攻撃を加えながら最高に悪そうな笑顔をうかべる。

 「無理とかいいながら見事に捌いてますね」

 『待って待って、可愛い顔してエグいんだよ魔法が、超きつい、無理無理!』

 かなり一方的に攻撃する形になっている。
 紙一重でしのぎ続けている4魔将は流石だが流石に分が悪い。
 それくらい女神の盾メンバーの状態が良すぎる、
 この間の二人と実力的な差は殆ど無いはずなのにここまで一方的になるとは誰一人予想していなかった。

 『逃げるぞ、こりゃたまらん。ちょっと楽しむつもりがとんだ目にあった』

 『逃げよう、逃げよう、逃げよう! 帰ったらあいつら絶対ゆるさねー!』

 「そう簡単には逃がす訳にはいかない、ここで少しでも魔神軍の戦力を削らないと!」

 「ワタ兄、逃さないでね」

 必死に距離を取ろうとするブトルとドミを執拗に追い立てる女神の盾、
 受ける側に逃げるという意志があるせいで防御が少しづつ疎かになっていく。

 『おい! お前ら大人数で一人を倒すとか恥ずかしくないのか!? 
 せめて一対一で戦おう! な? 悪いことは言わない』

 「ごめんねぇ、ここで倒さないと残りの二人と一緒になってくるでしょ-?
 私達も必死なの、諦めて倒されてね」

 『ちょ、まてよ! そ、そんなことはしないぜ。もうおとなしくしよっかな-』

 「ごめんねぇ」

 バッティの剣技が益々鋭さを増していく。
 ふと気が付くとブトル、ドミの距離が近くなり完全に2対7の構図になっている。
 周囲を囲まれ逃げる好きなど無いように思われた。

 『くっそ、ほんと隙がないな。強すぎだろ、こんな奴らいるのか……』

 『報告より強いじゃねーかよ、なんとかギリギリ倒せるくらいでたまんねーぜ、じゃなかったのか』

 「どうやら成長しちゃったみたいなんだよね、悪いんだけどここで倒されてくれ」

 「バッティも~こないだのお礼しなくちゃいけないから~」

 「刀の使い方はすごくためになった、ありがとう。だからさようなら」

 『なんか、お前らのほうが悪役じゃねーか』

 「もうそれでもいいから倒されちゃいなよ!」

 リクは戦斧を振り回し棍を断ち切らんばかりの勢いで攻め続ける。

 『黒竜のおっさんの攻撃だって捌ききるんだぞ、お前らの攻撃はおかしすぎる、
 崩れもしなけりゃ捌きもできねぇ、エゲツねぇ攻撃してきやがって!』

 『捌くの苦労する鋭いのがたまに来るとか言いやがって、常にの間違いだろ』

 ギャーギャーと不満をたれながらも二人は本当に見事に攻撃を防ぎ続けている。
 それでも一方的に攻撃され続けていて手傷も増えている。
 軽口を叩きながらもその心の中は焦りでいっぱいであった。

 『ドミ! ほんとどうすんだ、マジでやばいぞ!』

 『いや、正直妙案は浮かばない。やばいなこれは……』

 「まだまだ余裕そうじゃないか!」

 『いや、ほんとに逃がしてくれない? 結構マジなんだわ』

 言っていることはむちゃくちゃだがその声と表情が真剣そのものだった。
 思わず攻撃の手を緩めてしまいそうになる。

 「ワタル君、またバッツさんみたいなことになるかもしれないよ次は、きちんと倒せるときに倒しておかないといけないんだ。バルビタールからセイちゃんを助けるんだろ?」

 ユウキの冷静なアドバイスでバッツの事を鮮明に思い出す、緩みかけた攻撃はより鋭さをます。
 どんなに軽口を叩きながら戦っているとはいえ、今しているのは殺し合いなのだ。

 『くっ……こりゃ、年貢の納め時かな……』

 徐々に攻撃が深く当たり始める、刀の刀身が緩み始め攻撃を受けるのも難しくなってきている、
 棍にもダメージが蓄積されており、攻撃を受けるたびにビシビキと嫌な音を立て始める。

 『ま、やりてぇって言ったのはこっちだしな。仕方ねぇ。
 せめて少しはかっこいいとこを見せて派手に散るかぁ!!』

 ブトルは自ら棍をへし折り両の手に構える。
 息吹から最後の猛攻へとその生命をかける覚悟だ。

 『全く……バルビタール様に頂いた命をおのれの勝手で無くしてはいけませんよ』

 誰にも気が付かれることなく、唐突に第3者の声がする。
 ワタル達の目の前からブトルとドミの姿が突然に消えていた。

 「な……!?」

 『戦いに水を差すようで申し訳ないのですが、今彼らを失うと困るのですよ』

 女神の盾の囲いの外から声がする。
 全員が一斉にそちらを振り向くとブトルとドミの襟首を掴んだプロポが立っている。
 一足では届かないほどすでに距離を開けられている。

 「どういう仕掛けなんだ……」

 思わずワタルが尋ねる。
 全く油断はしていなかった、何の気配もなかった。
 それでも忽然と二人は消えてそしてあんなに遠くに現れた。

 『それにはお答えできませんが、残念ながらそちらのレディーには掴まれてしまったかもしれないですね』

 あくまで紳士にプロポはユウキに笑いかける。

 『なんにせよ、ここまでボロボロになった二人を治療しないといけません、申し訳ありませんが失礼致します』

 プロポは流れるような所作で礼をすると、来た時と同じようにその場から立ち消えていた。
 残された人々はただただ立ち尽くすしかなかった。



 

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