3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

133章 4魔将戦第二ラウンド

 ドミは二本差しを構え二刀流の構え。
 ブトルは棍が得物のようだ。

 『ここでいいけど、後ろの兵隊共に下がらせろ-多分その辺りだと巻き添え食らうぞ-』

 やはり紳士的だ。
 この二人も悪逆非道の徒ではなさそうに思える。

 「わかった、少し時間をくれ」

 『もうやれるとわかった以上別に急がねーぜ、万全で戦ってくんねーとつまんねーからよ』

 あのデ、巨漢の男ブトルもなかなか気持ちのいいことを言う。

 「なぁ、お前たちの目的って何なんだ?」

 『うん? 目的? あんま考えたことねーな-バルビタール様も今は自由にしていていいって言われたから暇つぶしにここまで来たけどな』

 『ここの戦いは面白かったぞ、実力に劣る人間が我らの軍を手玉に取って。
 優れた将が率いてるんだろうな。うちの軍はあまり複雑なこと理解できないからなぁ』

 「ああ、タイラー提督だな。素晴らしい智将だが戦っても強いぞ」

 『ただなぁ、俺らと戦える人間はそうはいないぞ。
 やっと本気で戦える奴がいたってそりゃーショウなんかははしゃいで困った。
 しかし、あいつの腕どうやったんだ? 俺でもあんなの無理だぞ、いやいや、言うなよ!
 これから楽しませてもらわねーとなー!』

 『噂によると二刀の神速の剣士がおるんだろ? 楽しみじゃのぉ』

 ほんとに楽しそうに話す二人にやはりどちらかと言えば好感を持ってしまう。

 「ところで、そのバルビタールさんは今何をしてるんだ?」

 『バルビタール様は今の体から本来の体に近い肉体に移動する準備だなぁ、
 セイちゃんに怒られて乗り移るのは辞めたから新しい体を作られたのだ』

 「怒られたぁ!?」

 『いやぁ、あのセイっておなごは強くてなぁ、すでにプロポなんて配下になりそうな勢いだぜ』

 どういうことになっているかさっぱりわからなかった。

 『よーし、これだけ場所取れりゃ-平気だろ』

 『存分に戦おうじゃないか』

 いろいろと聞きたいことがあるが、今は目の前の戦いに集中しないといけない。
 いざ戦いの構えを取ると4魔将の二人からは並々ならぬ気配を発している。

 「それじゃー、いざ尋常に」

 「『勝負!!』」

 まるで時代劇のような宣言と同時に戦場にいる9人の姿が消える、
 周囲で見ていた人間の目には確かに消えたように見えた。
 そして同時に響く剣撃の音、影が交差し火花を散らす。
 常人の世界と逸脱した戦闘が開始された。

 『おお、お主か!? 早いなぁ! 鋭いなぁ!! 心躍るなぁ!!』

 「まったく、よく喋る」

 喋りながらも双刀から繰り出される攻撃は苛烈を極める。
 クウは執拗にドミから狙われるので自然とドミ相手になっている。
 バッツもバイセツの技術を持ってドミにあたっている。
 ユウキは二人を補助する側にまわっている。
 ブトルの相手はリク、カイ、ワタル、カレンがしている。

 ドミの動きのすべてをクウは真剣に見つめていた。
 その動きのすべてが自らの戦いの糧になる、そういう気がしていた。
 バッツもその心には感嘆しかなかった、
 自らの持つバイセツの知識・技術と照らしあわせても素晴らしい使い手、美しささえ感じていた。

 「凄いわねぇ、生まれてすぐその戦い方を身に着けていたの?」

 気安く話しかけながらも打ち込む鋭さは衰えることはない、それは受ける方も同じだ。

 『まぁ、そのせいで個人的な感慨もなくてなぁ。こんな感じに存分に振るえることもなくてつまらんもんよ』

 「こっちからしたらずるい。そんな力をいきなり手に入れるとか」

 『そんなこと言われてもなぁ、儂もお主らみたいに苦労して手に入れたって言えたほうが燃えるんだがな』

 「そうしたら、少しは楽しませてあげないと、ね!!」

 バッツの大剣が唸りを上げる、速度重視な刀の一振りと互角に渡り合える大剣使い。
 この世界を見渡してそんな人間離れをしたことが出来るのはバッツだけだ。

 『くっ! ずるいぞ! なんでその重さの攻撃をその速度で!!』

 「なんかねー、死にかけたらバッティ強くなっちゃったの」

 「どっかの漫画みたいね」

 ユウキは呆れたようにそうつぶやく。
 事実バッツの動きは大怪我前以上に見えた。
 しかし、もう一つおかしな点があった。

 「私も実は体が動く」

 皆二人の会話を聞いていて自分も何故かそうなんだよなぁと思っていた。
 バッツが死の淵から舞い戻ってパワーアップしたことが、
 全員のパワーアップにつながっているという不可思議な事が起きていたのだ。
 バッツの臨死やリクの臨死体験を夢で強引に追体験させられた事によることなのだが、
 その事実に気がつける人間は当然ながら誰もいなかった。
 そしてもう一つ新たな能力も手に入れていた。

 『お前らいくらなんでもギリギリで攻撃を避けすぎじゃないか?
 まさか俺の攻撃が見えてるのか??』

 ブトルが困惑してしまうほどワタル達は見事にブトル達の攻撃を回避していた。
 ワタル達は妙に見えているのだ。

 「なんかわからないけど、俺達絶好調らしい」

 『ずるいぞ! きつすぎて楽しむどころじゃねーじゃねーか!
 ショウもペントも嘘つきやがって!!』

 ブトルの棍術と体術もその体型からは想像もつかないほどの俊敏さを誇っている。
 ドミの剣術もペントたちに劣ることはなく、鋭さで言えば優っている攻撃も多い、
 それにもかかわらずワタル達はその攻撃を完璧に見きって対処していた。
 無意識化で共有した体験によって、全員が臨死の集中力を手に入れてしまっていたのだ。

 4魔将にとってはワタル達が見た夢は予想外の悪夢であった。


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