3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

129章 均衡

 『おお、すげぇなペントが傷を負ってるぞ! ほんと楽しませてくれるなぁ!』

 ショウとの戦いは未だに最初にワタルが受けたダメージだけ。
 お互いにお互いの攻撃力は理解しており、当然それを受けるわけにはいかない。

 「ワタルきゅん、ちょっとバッティ前のめりになるから万が一の時は回復よろしくね」

 「治せるレベルにしてくれよ!」

 にやっとバッツは笑い行動を攻撃に傾けていく、
 一撃一撃をより重く、より早く、より深く、より正確に。
 バイセツが積み上げてきた物に自分の積み上げたものを掛けあわせていく。
 その一撃は精度をあげ練度をあげてきた。
 バッツは努力を人に見せず飄々としているが、誰よりも真面目で実直なのだ。
 皆の攻撃はショウの持つ巨大な手甲によっていなされている、
 球に近い形状が刃筋をそらしすべらしずらされる。
 ワタルも含めて女神の盾のメンバーは【黒】の装甲でさえ紙のように切り裂く。
 それでも手甲を切れないのはショウの技術だ。
 球は芯を捉えればいい、それを微妙にずらすことで攻撃をそらしている。
 恐ろしいほどの技術なのだ。
 バッツが行うのはそれを上回る、ずらすなんて余裕を与えない一撃だ。
 バッツが攻撃に集中してしばらくすると今まで滑るようにいなされていた攻撃に変化が現れる。

 ガィンン

 手甲とバッツの剣がぶつかり合い音を立ててお互い弾き合う。

 『ぬおっ!?』

 ショウは驚きを隠せなかった、自分自身の能力にそれだけの自信を持っていた。
 それを破られても湧き上がる感情は悔しさではなかった、相手への純粋な尊敬だった。

 『やるねぇ、挑戦者の気分だ、完成して生み出されてしまったからこんな気持ちになれるとはなぁ、
 感謝しかねぇよ!!』

 ショウもこのまま受けに回ることは危険と判断して前に出てくる。
 両の腕から鋭い、命に届く一撃が何発も何発も女神の盾に襲いかかる、
 少しでもかすれば二の太刀をかわせなくなることは間違いない、
 ギリギリをかすめていく攻撃に全員恐怖を感じているが、同時にギリギリのリスクを楽しんでいる自分がいることに気がついていた。
 バッツの動きを習ってリクもシュウの手甲を何度か弾いている。
 もちろん攻め手に回ったことも影響しているが、少しづつお互いの攻防が拮抗していく。
 バッツは特に攻撃にリスクを負っており、あわやという状況も出てきてしまっている。
 その分その攻撃によって逆に相手の体勢を崩し、攻撃することに成功している。

 『フハハハハハハ!! いいぞいいぞ! これが痛みか!!
 凄いなお前らは俺を産んでくれただけでなくて世界を広げてくれる!
 楽しいなぁ! 楽しいなぁ!!』

 心から楽しんでいる歓喜の声、一切の嘘のないその発言に清々しい表情。
 ワタル達はショウという男を好ましいとさえ思っていた。

 「こっちはドーピングまでして全力全開なのに、未だにまともな傷一つつけられない!
 とんでもない強さだな!」

 『よくゆーぜ! こっちは必死なのに3人でボコりやがって!
 しかもこっちは手傷負ってるのにかすりもしねーじゃねーか!』

 「かすったら死んじゃうじゃん! ぎりぎりで避けるだけでも命が縮むよ!」

 リクの言葉にニヤリと笑みを浮かべるシュウ。
 まじりっけのない正真正銘の殺し合いをしているはずだが、
 もしかしたらはためには子供同士が嬉しそうにじゃれあっている。
 そういう風に写ってしまうほど殺しあっている者同士が楽しんで戦っていた。

 シュウだけではない、ペントと戦っているメンバーも同じように感じていた。

 クウはムチの動きにだいぶ慣れてきていた、
 それでも避けたはずの攻撃が背後から襲ってきたり、急な変化をしてきたり、
 ギリギリの攻防が続いていた。

 「どうすればこれだけの攻撃をコントロール出来るのか……」

 『妾自慢の攻撃をすべて防いでおいてよく言うのぉ』

 「物理攻撃であれだけ複雑な動きをしながらすべての魔法攻撃まで迎撃して逆撃までしてくる、
 とんでもない実力を秘めていますね」

 『綺麗な顔してエグい魔法を仕掛けてきよって、こっちの苦労を教えてやりたいものじゃ』

 軽口を交わしながらも超高速戦闘を仕掛け続けるクウ、それを見事に防いでいるペント。
 相手の隙をいかにして作るか、そしてそれを突くかを実践し続けているカイ、ユウキ、カレンの3人。
 4人の相手をしながら未だに細かな手傷は負っているものの致命的なダメージを生じずに耐えている、 
 しかも反撃も繰り出して4人に一切の余裕を作らないペントもまたすごかった。

 「ぐふ……!」

 拮抗が崩れたのはショウと対峙していたバッツだった。
 バッツの振り下ろした大剣を会心の受けてをショウが見せ見事にいなし、
 体勢を崩されてしまいその隙に蹴りを合わされてしまい横腹にその一撃を受けてしまったのだ。
 すぐにリクとワタルが猛攻をかけて追撃は免れたがダメージは深刻だった。

 「こ、これぐらい、ゴブ……」

 尋常ではない吐血を飲み込み必死に立ち上がろうとするが力が入らない、
 ワタルも治療に向かうわけにもいかなかった、

 『よくやったぜ、ほんと。けどこっちも殺らなきゃ殺られるからなぁ!!』

 今まで前掛かりな攻撃で攻防のバランスをとっていたバッツが離脱してしまったことで、
 一気に攻撃の主導権をシュウに握られてしまう。
 倒れたバッツに追撃を仕掛けていくようなことはしなかったことがシュウの複雑な心境を表していた。

 「バーーーーッツ!!」

 ワタルはなんとかしてバッツの治療に向かいたかったがシュウの猛攻がそれを許さなかった、
 リクも必死に反撃に転じようとするが焦りは動きを散漫にして攻撃の精度を欠いてしまっていた。

 「だ……大丈夫だから、あんま恥ずかしい戦いをすんなガキども……」

 おびただしい吐血をしながら声を絞り出す、
 しかしその声はワタルたちに届かない、
 バッツは自分の体を認識していた、
 右側肋骨粉砕骨折、骨片が肺に大量にささり、肝臓、腎臓、脾臓は部分破裂、腸管も挫滅していた。
 致命傷なのは間違いない。即死してもおかしくないダメージだった。
 龍気と闘気に満たされた肉体が『死』を一時的に遅らせている。そういう状態だった。

 『攻撃が、雑になってるぜ。終いだ』

 すこし寂しそうに戦いの終わりを告げる。
 大ぶりになったリクの攻撃を完璧に捌いてカウンターを放つ、頭部を直撃する回避は不可能だ。

 「リクーー!!」

 無駄とはわかっている、わかっているがワタルは魔法盾をすべてリクを守る形に展開する、
 紙のように砕かれてしまうことは頭ではわかっていても、出来ることの中で限界の選択肢だ。

 シュウの拳とワタルの盾が交差する、
 永遠とも思える一瞬だった。

 

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