3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

124章 イステポネ北部の戦いその1

 イステポネ北方の街カルヂュイ。
 現在対魔神軍最前線になっている。
 女神の張った結界を利用して絶対防御を敷いて魔神軍の上陸をギリギリで防いでいた。
 しかし人的な限界は着実に近づいていた。

 「よし、交代だ」

 「司長どの!? 先ほど休まれたばかりでは?」

 「15分ほど寝た、お主ももう半日貼り続けているだろ、さぁ交代だ」

 「いけません、もう1週間まともに休んでおられないではないですか!?」

 「眠れんのだよ、自分が寝ている間に何かあったら悔やんでも悔やみきれん。
 大丈夫だ、女神の盾商会のコイツがあるでな」

 そう言って取り出したのは女神の盾商会特製のバイアングの実。
 本来の使用方法とは違う別の使用方法がある。
 スタミナUP,精力回復の副産物として魔力自然回復力増強と疲労回復能力だ。
 高濃度なバイアングの実を取ることで無茶な戦闘行為も可能になる。
 もちろんあとでどーーーーんと疲れが来る。

 「……一眠りしたらすぐに戻ります。あまりご無理をなさらないでください」

 「ゆっくりしてこい」

 入れ替わった男はこの防壁が限界に近いことを誰よりも理解していた。
 魔神軍の攻撃は段々と力を増しており、それを防ぐ壁を維持する人員に限界が来ていた。
 自分が無理をしてなんとか引き延ばしているが、すでに男の体は食事も受け付けないほどにダメージが蓄積していた。大量のバイアングの実を粉にして水に溶き無理やり流し込み吐き気を我慢する。
 そんな無茶をして男は戦っていた。
 しかし、それも本当に限界が来ていた。

 「おいおい、今日はやけに敵さん元気だな」

 「ぐあ……」

 急速に魔力を持っていかれ、意識を失う人間が出てくる、もちろん人数が減れば残った人間への負荷が増大する。

 「おいおいおい、なんだよあれは?」

 目の前に絶望を背負って巨大な魔物が現れる。
 漆黒のゴーレム、その大きさは3階建ての建物ぐらいある、それが今にもその巨大な鉄槌を振り下ろさんとしてる……
 アレが振り下ろされれば結界は必ず破綻する。
 その時結界を維持している人間は皆反動で命を落としてしまうだろう、
 それだけ圧倒的な敵の姿であった。

 司長と呼ばれた男は無意識に胸元のロケットを掴んでいた。
 中には彼の妻と愛娘の姿を描いた絵が入れられていた。
 心のなかで家族に謝罪をして目を閉じる。


 「……?」

 衝撃が訪れることはなかった。
 恐る恐る目を開けるとゴーレムの前に浮遊している人達がいる、
 一人は彼もよく知った人だった。

 「ヴェルス教皇猊下……」

 真っ二つになり海へと落ちていくゴーレムの姿と絶対的な危機に訪れてくれた教皇の姿に彼は涙を抑えることが出来なかった。

 そんな街の様子を確認している暇は教皇と女神の盾のメンバーにはなかった。
 もうすでに結界はボロボロだ。
 今一刀のもとに斬り伏せたモンスターの攻撃を受けていたら結界は崩壊していたであろう。

 「本当にギリギリじゃったな」

 「間に合ってよかった……ユウキの提案がなければ間に合わなかった、ありがとうユウキ」

 「理論的には可能だからね、やっぱり一番早い移動は空だよね」

 女神の盾と教皇がここまで高速で移動したのは簡易飛行機だ、飛空艇といったほうがいい。
 魔法で浮かせて前方の空気を後方へ転移してそれを推進力にするというなかなか危険なシロモノだ。
 抵抗がなく魔法のコントロール次第ではとんでもない速度を出せる。
 ユウキは皆の魔力を完全にコントロールして手足のように操っていた。
 それを現代日本の兵器などにうまく転用していく。
 そして、世にも恐ろしい兵器を作る。

 「それじゃぁ、使っちゃうよ-」

 なぜかテンションが上がっているユウキ。

 「それ俺がやった核爆発とかとは違うんだよね?」

 「違うよ-単純な魔力の爆発だよ。そのあと相転移させて純粋なエネルギーにして別次元へ収納して少しづつ……」

 「ストーップ、それ長いよね。時間がないからやっていいから」

 「えー、まぁいいや。これだけ敵がいれば実験にもぴったりだ」

 「え? 実験??」

 「発射!」

 敵でうめつくされた前方の海にミサイルが飛んで行く。
 ユウキ提案の魔力相転移ミサイル。
 細かな仕組みは置いておいて、魔力による巨大な結界を作り内部のエネルギーを餌に相転移を起こし膨大なエネルギーを一点に集中させ爆発させる。
 その爆発のエネルギーは結界を通して別次元に送られ循環するエネルギーとして再利用可能。
 彼女の理論ではそういうものになるはずだった。

 魔神軍の大群の数メートル上空に飛来したミサイルが光を発する。
 球形の巨大な魔法陣が展開する。眼前にいる魔神軍の大半を包み込む。
 内部の魔力が一気に中央に集中する。

 カッ

 凄まじい光量が発せられる。
 事前に絶対に直接見るなと言われているのでカレンが街の人達を守るために空間にサングラスのような結界を張っている。

 「うおっまぶし」

 その結界を通してもものすごい光だ。
 魔法陣結界がドドドドドドドと振動する。

 「だ、大丈夫だよね?」

 「ああ、凄いよ。ものすごいエネルギーを感じる想像以上だよ」

 「ねぇユウキ? あの中どうなってるの?」

 「そうだな~、鉄がとかが一瞬で蒸発するような状態って言えばわかるかな?」

 「え?」

 リクはユウキの発言を正確に理解は出来なかった、鉄が蒸発するという事象が起こることが信じられなかった。

 「とんでもない事が起きているのね……」

 普段から鉄の鋳造などもしているバッツはその凄さだけは理解していた。
 魔法陣の振動がどんどん強くなっていく。

 「こ、これ。大丈夫だよね?」

 「うーん、想像以上に凄いなぁ。想定の100倍以上強度をもたせてたけど、ギリギリかなぁ……」

 「ユウキ、ギリギリってダメだったらどうなる?」

 クウが珍しく動揺しながら聞く。

 「うーん。はは、この大陸半分ぐらい無くなっちゃうかも」


 とんでもないことをサラッっと言い出すユウキ。
 なぜか楽しそうだ。
 まだ戦いは始まったばかりだ。

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