3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

97章 合体魔法

 ストームバーニングヘルの嵐

 叫んだあとワタルは激しい気恥ずさに襲われた。
 俺は何を口走った、なぜその名前にしたし、しかもかっこ良く叫んだぞ、
 わーわー、黒歴史だ! やっちまった!

 そんなワタルの葛藤を消し飛ばすほどその魔法は凄まじかった。
 骨も残さぬ熱量、荒れ狂う暴風、すべてを切り裂く風の刃。
 それらが超高濃度でその空間を支配した。
 【黒】の魔物、暴れまわっていた青龍の抜け殻、部屋の装飾、散らばった死体。
 その全てをソレが飲み込んだ。

 「ぐ、とんでもないエネルギー・・・・・・抑えきれない・・・・・・」

 余波でさえとんでもない熱量と破壊量を持っている。
 それを抑えるユウキの表情が苦悶に変わる、

 「私も手伝う」

 「ボクも!」

 リクとクウも魔力をユウキへと供給する、
 簡単に行われているが普通の冒険者はこんなに簡単に他者の魔法に魔力を供給するなんて出来ない、
 皆の繋がりがそれを可能にしているのだ。
 余談ではあるが、女神の腕輪を通して今回のことと似たようなことが誰でも可能になっていくのだけど、それはもう少し先のお話。

 天井からマグマ化した岩が溶けて落ちて地面もグツグツと煮えたぎっている、
 魔法で守られていなければ熱波によって多大なダメージを少なくとも下層には与えていただろう。
 そのすさまじい嵐も次第に収まっていく。
 嵐の過ぎ去ったあとには何も残っていなかった。
 冷却魔法で壁や床、天井を常温まで冷やす。コンクリートで打たれたようなフラットな地面になってしまった。
 もちろんそこに生物の生き残りもそこに生物がいた名残も跡形もなく消え去ってしまっている。

 「わ、ワタル。ここまで強力だと魔法発動の準備と周囲への影響を抑えるのが大変だ。
 あまり多発はこまる」

 息も絶え絶えなユウキが苦言を呈する。
 リクもクウもぐったりとその場に座り込んでしまっている。
 ワタル達ももちろん消耗している、溢れ出る威力を暴走しないように抑えこむ、
 3人の魔力を同調させてコントロールするということは想像以上に消耗する。

 「とりあえずー一旦敵は排除できたし、少し休憩したら最深部の様子を見ないとねー」

 「そうだね、とりあえずストックの食料出すから休憩しよう」

 ストックといっても作ったのはワタルなので皆大喜びだ。
 暖かな具沢山のスープに鮭によく似た魚のフライサンドイッチ、果汁入り炭酸水、紅茶。
 小腹を絶品の料理で癒やして一息をつく。

 『さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・』

 そのまま慎重に最深部へと侵入していく。
 最深部に一同が足を踏み入れると上の大騒ぎが嘘かのように静かだった。

 『特に、なにもなさそうだな、俺の抜け殻が突破されてなかったし無事に守りきれてたようだな』

 「いえ、どうやらそう上手くは行かなそうだね」

 ユウキが指差す先、ダンジョンコアの部屋に繋がる扉が開いている。

 「龍脈はあの部屋だよな? 皆、油断するなよ」

 ワタルが皆に注意をうながすと同時に扉が開き始める。
 扉の奥からは執事のような服装をした上品な男が現れた。
 顔立ちは整っており美しいとも思えるが、大変冷たい瞳が怖さも感じさせる。
 そのままその男は何事もないかのようにワタル達へと歩を勧めてくる。
 ただそれだけの動きでも全く隙を感じさせない、なんらかの一流の技量を持つことを想像させた。

 「遅かったですね、やっと上が静かになったのでいらっしゃると思いましたよ」

 「お前は・・・・・・誰だ?」

 はっきりと分かる禍々しい力、しかも莫大な力を内包している。
 龍脈の力はこの眼の前にいる男に奪われているのは疑いようがなかった。
 その男は恭しく執事の礼を取りながら答える。

 「お初にお目にかかります勇者様ご一行。私はプロポ。魔神バルビタール様からお名前を頂いた初めての魔人にして龍脈のちからを持って作られた純粋な、あなた方が【黒】と呼ばれているものの化身でございます。以後お見知りおきを・・・・・・」

 どこまでも冷たく聞いているだけである種の恐怖を感じる話し方、わざとらしく芝居がかった所作がこの者の冷徹さを表しているように感じた。

 「そのバルビタールの腹心さんが何のようだ? 見たところこの場の龍脈の力を手に入れているようだが、それを持ち帰れば住む話だろ?」

 ワタルが代表して質問する。それに合わせて一歩前にでる。
 なにかされた時に直ぐに盾の力で皆を守れるように移動する。

 「いえいえ、バルビタール様の相手になるであろう方々をこの目で見ておこうと思いまして、バルビタール様はあなた方勇者をご自身の手で打ち倒すことにご執着なさっておりますので、今はまだ真のお力を取り戻してはおられませんが、もう間もなく。そう、もう間もなくあのお方は完全に復活されます。しかも以前よりも強力な力を得て。そのこともお伝えしようと思いまして」

 あくまで丁寧に、しかしそこには尊敬の念なんてものは1ミリもない、
 たぶん壁にでも話しているような感じなんだろう、そう思えた。

 「ここで俺らに倒されて持って帰るべき力を奪い返されるとは思わなかったのか?」

 女神の盾のメンバーに緊張が走る。
 場の空気も凍りつく。皆すでに臨戦態勢には入っている。

 「ははは、怖い怖い。怖いので私はお暇しますね。あなた方の力もわかりました。このままだとほんの数秒も持たずにバルビタール様は落胆されてしまいます。研鑽を重ねてくださいね。それでは失礼します」

 その声は、【背後から聞こえた】

 決死の覚悟で身構えていた7人と一匹、誰に気が付かれることなくプロポという魔人は素通りして扉から出て行った。
 誰ひとりとして身動き一つ、呼吸一つ出来なかった。
 パタリと扉が閉まると同時に肺が酸素を要求した。

 今この瞬間、女神の盾のメンバーの命は確実にプロポに握られていた。
 圧倒的な差だった・・・・・・
 

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