3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

91章 緊急事態

 全員との強いつながりを作ることが出来たワタルは自分たちの中に渦巻く力の脈動に驚いていた。
 今までワタルに一方的に送られていた力が円のように循環して全員を満たしていた。
 溢れ出る力に皆は身体を動かして確かめていた。

 「凄い・・・・・・すさまじい力が湧き上がってくる」

 「ワタルだけじゃない、皆の力を感じる」

 「なんか怖い感じだね、身を焼かれそうなエネルギーで」

 『本気で龍脈の力を引き出すと身体にも負荷がかかると思うから長時間はやらんほうがいいぞ』

 白虎の言うとおり龍気を開放すると以前よりも疲労感に襲われる。

 「確かに、全開でやると負荷が高そうだね」

 『その分引き出せる力は段違いになっているし、馴染んでいけばその分肉体も慣れていくさ』

 なんにせよ、強大な力を得ることが出来た一行だが、【黒】の襲来がなかったことが引っかかる。

 『もう自分では戦っても相手にならんだろうから、このダンジョンの宝はやろう』

 最深部の宝は皇子への手前いただくことにする。
 一番奥のワープポイントからダンジョン入口への転送を行う。
 ワタルは白虎から離れることを嫌がって大暴れしたがバッツによって拘束され引きずられるように連れて行かれていった。
 ワタル達がワープしていったあと心からホッとした白虎ちゃんであった。

 ダンジョンから出ると直ぐに帝国兵が迎えてくれていた。
 慌てた様子でその場で一番えらいと思われる兵士が説明してくれた。

 「女神の盾の皆様お待ちしておりました。緊急事態です、直ぐに城までいらしてください」

 そのまま馬車で城へ向かい入れられる、向かった先は皇子の待つ部屋。



 ジークフリード皇子は緊張した面持ちで一同を見回すと話しだす、その報告は驚くべき内容であった。

 「魔王の島が魔神の手に落ちた」

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 その連絡がジークフリードの耳に入ったのは女神の寝屋での四国会議の場であった。
 女神の盾のメンバーがダンジョンへ入って3日後の話だった。
 (参考までに女神の盾が大ダンジョン攻略に要した日数は一週間です)

 【一大事だ、魔王の島に【黒】が侵攻した。すでに島の大半が制圧され、魔王を含む一部の幹部が必死に抵抗している。ジークフリード皇子今からそいつらを転送させる、彼らを保護して欲しい】

 「このお声は女神様ではないのですかな?」

 【申し訳ない、我が名はアルス、女神ヴェルダンディと同じく世界を治める神の一人だ】

 【私もいます、二人の力で魔王たちを転送させます、彼らの力を魔神に利用されるわけには行きません】

 「わかりました、我が国の設備の一部を提供いたしましょう。ただ、魔王勢には自由な行動を与えることは難しくなってしまうと思います」

 【そこは我らで説得する。申し訳ないがその場を教えてくれ、現状は差し迫っている】

 「それでは私は帝国へ戻ります、3国の方々も今後警戒を怠らないようお願いします」

 【我々もジークフリード皇子を追います。今回の出来事が世界に与える影響は計り知れません、
 わが愛する子らよ用意は怠らぬように・・・・・・】

 首を垂れる3国の代表たち。皇子はすぐに帝国へとび神々の気配もそれを追うように消えていた。
 その場に残されたのは現状置かれている状態への不穏な空気だった。

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 「そういうわけで今から魔王に会ってもらう」

 あまりの展開の速さに女神の盾一行はついていくのに必死だった。
 しかし現状は悠長に時間を過ごすことを許してはくれない、
 皇子も席を立ちあがり一行を連れて歩き出す。
 場内の奥、選ばれしものしか入ることを許されない奥宮だ。

 しばらく皇子について歩くと大きな扉の前へ着く。
 警護している兵士の装備や立ち振る舞いからもこの場が重要な地点であることがうかがえる。

 「入るぞ」

 皇子は短くそう告げると二人の兵士が扉を開いていく。
 重厚な扉が音もたてずにゆっくりと開いていく、かすかな水の音と金属がぶつかり合うような音がする、剣同士がぶつかり合う音に一同に緊張が走る。

 「魔王殿は稽古中か、奥の間へ行きましょう」

 皇子の言葉からこの音が戦いの音ではなく稽古の音であることが分かり一行の間に安堵の空気が漂う。
 しかし、奥の間へ近づくにつれてその剣戟の音の重さと速さが明らかになるにつれて再び緊張感に包まれる。この音を聞いているだけでもこの扉の向こう側で戦っている人物が二人とも超一流の達人であることは疑いようもなかった。

 奥の間と呼ばれる部屋は訓練場のような造りになっていた、中央の腰ぐらいの高さまでの煉瓦で囲まれた空間で二人の人間が打合っていた。
 一人は鎧を着た兵士風の人間、もう一人が黒衣のマントを翻しながらすさまじいスピードで縦横無尽に斬りつけている、長身、長髪の女性であった。
 ひとめで女性とわかるボリューム感あふれる胸が激しく動いている。
 そして、何よりあまりに整った顔立ち、やや中性的ではあるものの間違いなく超美人だ。
 魔王と呼ばれてはいるがその姿は人間の女性そのものだった。

 しかし、ワタルは全く異なる感情を覚えていたし、
 あまりにも激しく混乱もしていた。
 いや、完全に混乱が彼の頭脳を支配していた。

 彼は思わず煉瓦の傍まで走り寄って叫んでいた。

 「結城ユウキ!!??」

 見間違えるはずがない、そこにいた魔王は間違いなくワタルの親友だった春日 結城その人であった。
 ただ決定的に異なることは、魔王と呼ばれる彼女は女性。
 ワタルの親友であった結城は男性。

 ただ、その一点を除けばワタルの目の前に立つ魔王の顔かたちは結城そのものであった。
 魔王はゆっくりと剣を納めるとワタルに向き合う。そして美しい声で話し出す。

 「ほんとだ、渉。なんだな、本当に」

 彼の疑問の答えが、魔王の口からはっきりと告げられる。
 魔王は結城なのだ。

 

 

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