3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

80章 【黒】を斬る

 落ち着いて周囲をみわたすと黒の被害にあった死体が何体も散乱している。
 すでに数体は立ち上がりこちらにジリジリと近づいてきている。

 「くそ!!」

 ワタルは集落を包み込むほど巨大な竜巻を起こし、建物や遺体を一箇所に集めてそのまま炎にて処理をする。このままにしておけば、どんどん【黒】に侵食された死体を創りだしてしまう。
 動き出す前の死体はその死を汚されることなく灰にして送る。

 風に抵抗して今残っている【黒】の獣人は6体、背後の熊はカレンの魔法で一体倒されて最後の一体。
 村の跡地に更地が広くできているので視界は確保できている。

 「皆! 獣人は6体、まだ動きは鈍いが注意しろ! 先ずは熊を全力で倒して挟み撃ちを避けるぞ!」

 ワタルの指示に従いリクとクウ、カイリは熊に全力で攻撃を仕掛ける。
 ワタルは獣人達が邪魔にいかないように盾役として壁になる。
 獣人は基本的に人族よりも運動能力に優れている場合が多い、
 改めて獣人を観察する、犬? 狐? 鼻先が長く耳はピンと立っている。
 眼は細くややツリ目だ。すでに正気を保っておらず黒目はどんよりと濁っており、
 口も開いたままダラダラと唾液を垂れ流している。
 身体には痛々しい傷が残っている、そこを中心に紋様がその手足を四肢に伸ばしている。
 操り人形のようにズルズルと動いている。
 紋様の範囲が大きいほど動きがいい、時間をかけていると状況は悪化するとワタルは予想する。

 ワタルはすでに準備をしていた。
 土魔法で獣人と自分の間の地面の下方に空間を作り出している、圧縮した土で壁を覆う。
 ここに落としてマグマ攻撃、女神の塔でアルス神に怒られた戦法だ。
 落下と同時に重力魔法で地面に叩きつける!
 ワタルが盾を構えて慎重に牽制をしていると獣人達が動き出す。
 足並みはバラバラだ、足元に気が付かれないように魔法で細かく突くことも忘れない。
 5体、あと1体と考えた時【黒】に大きく侵食されていた1体が急速に距離を詰めてくる。
 ワタルは直ぐに罠を発動させる。

 急激に発生した下方向のGに地面は崩れ、地下の罠への口を開ける。
 まだ罠の範囲にいなかった1体と急速に接近してきた1体はギリギリ飛びのいて避けた、
 直ぐに土魔法と火魔法を融合させて灼熱のマグマを罠エリアに作り出す。

 飛びのいた1体が着地と同時に飛びこんでくる。その強力な踏み込みで地面がえぐれている、
 弾丸のように迫る敵に魔法盾を展開するが、一枚をカウンターに使う。
 ガイン!! 魔法盾に爪を叩きつけようとしていたところにカウンターのパイルバンカーが肩口にえぐり込む、肩口から胸に深々と突き刺さるが出血はない。
 高速で回転する水がそのまま傷を切り開いていく、すぐにワタルはその傷口めがけて魔法を放つ!

 「弾けろ!!」

 急激に圧縮した空気を膨大な熱エネルギーを送り込み圧縮を解く、
 強烈な熱波が傷口を中心に破裂する。
 吹き飛ばされた獣人は肩から腕を吹き飛ばされる。
 傷口からは血液の代わりに【黒】の触手が、なくした身体を探すように蠢いている。

 「ワタル!」「ワタ兄!」「こちらは終わりました、加勢します!」

 そのタイミングで3人が加勢にくる、これで状況は5分以上。

 「GUROOOOROOOROOOOOO!!」

 「な、何の声だ!?」

 突然重低音の唸り声が聞こえてきた、

 「ワタ兄アレ!?」

 なんと罠から這いずりだしてくる奴がいる、すでに炭化していたりグズグズだが【黒】が数体の獣人の身体を繋ぎあわせて這い上がってくる。

 「ちぃ!! 上にいる2体をまかせる、俺はアイツの始末をする!」

 這い上がろうとする地面ごとマグマの中に叩き落とす、
 さらに大量のマグマを操作しその塊を包み込む。
 ジュウジュウと嫌な匂いが広がるが【黒】の触手が周囲の壁にその手を伸ばしていく、

 「させるかよ! さっさと成仏させてあげてくれ!! 真・龍槍咆哮羅漢撃!!」

 龍気を纏った渾身の一撃をマグマの中にぶち込む、螺旋状の龍の光がマグマごと【黒】を貫く!
 伸びた触手がボロボロと崩れていく、マグマの操作をやめると、そこには何も残っていなかった。

 直ぐに残り二体の戦闘に加勢に行く、リクとクウが打ち合っていてカレンが補助している。
 リクが動きが鈍かった方を完全に押し込んでいる、

 「カレン、クウとそいつに当たれ! 俺はリクとこっちをやる!」

 「はい!!」

 最初の身体を引きずっていた時に比べると大分動けるようになってしまっている。
 すでに身体のほとんど、特に四肢は全て【黒】に飲まれている。

 「リク、【黒】の部分を切る。よく見ておけ!」

 ワタルは武器を斧に変える。リクの戦斧と素手で打ち合える【黒】を、斬る。
 静かに、ブレることなくまっすぐと、力を全て打ち合う部分にのせるようなイメージで、

 ドサリ

 ガキンガキンと打ち合っていたのが嘘かのように静かに斧は身体に吸い込まれていき、
 腕が落ちる。

 「燃えろ」

 魔法と龍気をミックスさせて腕に放つ、小さいがとんでもないエネルギーを込めた火の玉は腕を飲み込み腕とともに消える。

 「やってみる」

 リクは脱力して構える、流石、一目見て今の技の重要な点を理解している。
 力づくでは絶対に【黒】は切れない。切るんじゃなくて斬るんだ。
 慣れないと無防備になってしまうけど、今までの戦いを戦い抜いてきたリクなら問題無いだろう。
 腕を切り落とされた事実をまだ良く理解していない【黒】は盾に無駄な攻撃を続けている。

 ゆらり

 と、リクの身体が動く。【黒】が振り回す爪は早い、それに比べるとゆっくりと動く、
 ゆっくりと見えるだけで、実際には一瞬で【黒】の脇をすり抜けている。

 ずるり

 【黒】は気がついていなかった。自分の身体が真っ二つにされていることを、
 それほど静かで鋭い一閃だった。
 2つにわかれたからだがぼとりぼとりと左右に別れて倒れていく、
 ワタルは獣人を送るように炎で遺体を包み込んだ。

 「流石だねリク、さぁ、最後だ」

 クウ達が相手をしている【黒】はその強力な高速機動を活かして戦っている。
 全てを見事にいなしているクウは流石だ。

 「リク、見てたよ。私も負けられないワタ兄も見ててね」

 防御に徹していたのは無駄なすきを与えてワタル達への妨害などに行かせないためだった、
 リクはギアを一つ上げてそれだけで【黒】の速度の上をいく。

 「行く!」

 一声を発すると一瞬クウの身体がぶれたように見えた、高速移動から一転して完全に静止する。
 あまりの速度差に目が追いつかなかった。
 クウに突っ込んでいく黒、そのままクウの身体をすり抜けた!
 着地してもう一度飛びつこうとする【黒】は盛大にコケた。
 その高速機動を支えていた両足はクウのよって切り落とされていた。

 「真・龍技百花繚乱」

 クウの剣の煌めきが花びらのように獣人を包んでいく。
 死を送る手向けの華のように美しく包み込んでいく、細切れに消えていく【黒】、
 生を汚された獣人が浄化されるようにワタルには見えたような気がした。

 「周囲に生命反応、動く反応も見られません。
 結界内部の今日は取り除けたと想います」

 「・・・・・・外の人たちに説明しないとね・・・・・・」

 ワタル達は重い足取りで結界の外を目指す。


  

 

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