3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

76章 いざウェスティア大陸へ

 各地、商会の地盤整備、人員整備、物資の運用。
 各種国家間の連絡、ギルド関連の仕事、料理。
 一通りの事にめどが付いたワタル達は、とうとうウェスティア大陸へ旅立つ。

 「向こうへ着いたら直ぐに浮遊魔法をかけること、なんなら浮遊魔法をかけてからいこう」

 みんな向こうで何かあったことは察したが、それをワタルに聞く人は居ない。みな空気を読むのだ。

 シーバスさんや町の人々に送られてワタル達は今、海を渡る。
 ケーレスの街で公共事業に従事したワタル一行と女神の盾商会のメンバーは信頼を勝ち取り、
 不足しがちだった農作物を供給したり、地域住民との交流は大変うまく行っていた。
 これもゲーツのお陰である。

 そのゲーツも晴れて奴隷から開放された、ワタルとの確かな繋がりを手に入れ、
 奴隷としての繋がりが必要なくなったためゲーツも受け入れてくれた。
 ゲーツがワタルとの繋がりによって発現した能力の数々は、
 商会全体にとって強力な助けとなった。その分仕事も増えたが、
 ゲーツの手によって覚醒した何名かの従業員がゲーツの片腕として各地の統括を行えるようになると、
 全体的な落ち着きを取り戻し組織としての完成度は高まっていった。

 女神の奇跡、転移の光がワタル達を包み込み始める。
 ワタル達女神の盾のメンバーが女神像から出る光りに包まれ消えるまで、
 町の人々は別れを惜しむ声援を送り続けていた。

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 ウェスティア大陸港町ガイオス。
 大噴水に格子状のカバーがつけられたのは一つの事故の結果であった。
 そのお陰で女神の盾の一同は無事にウェスティア大陸の地に足を踏み入ることが出来た。

 「お待ちしておりました。女神の盾ご一行の皆様。早速ですが分隊長のもとまでご足労願います」

 一同は兵士に迎えられ駐屯地へ迎え入れられた。
 すでに皇子に連絡してあり、このことは織り込み済みであった。

 「ようこそウェスティア大陸へ女神の盾の皆様」

 立派な体躯をしたスキンヘッドの口ひげのいかつい男がワタル達を迎えてくれた。

 「ウェスティア帝国でも冒険者と同じように女神の塔攻略を、軍で正式に採用しており、
 人的な力が飛躍的に向上しました。凄いものですなー女神様のお力というやつは!
 私自身ももう伸びしろはないと思っていましたが、まだあるものですな!」

 カラッカラと人懐っこく笑う隊長にワタルは好感をもった。

 「ところで、これから帝都へ向かわれると思うのですが、一つお願いがあるのですが。
 ウチラの隊のやつに稽古をつけてもらえんでしょうか?」

 「稽古ですか?」

 「お恥ずかしい話、その塔のせいなのです。皆急に強くなったことでどうにも緩んでいるというか、
 調子に乗っておるんですわ。そこで皆様に活を入れていただこうかと」

 「面白そう! ワタルやろう!」

 「ワタ兄、私もやりたい、自分がどれくらいか知りたい」

 「私は魔道士の方とお話などをしてみたいです」

 「どうやら皆様も乗り気なようですが、いかがですか?」

 屈強な軍部を持つというウェスティア軍と手合わせできるというのは得るものも大きいだろう。

 「わかりました、未熟者ではありますが、是非よろしくお願いいたします」

 こうしてワタル達はウェスティア軍南西部統括部隊との合同演習を行うことになった。
 隊長はランタス、ウェスティア軍において百識千武のランタスと言えば知らぬものは居なかった。

 軍部の訓練は一行にとってもいろいろと学ぶことが多かった、
 対人戦の経験が極端に少ない若い4人はこの訓練で力押しだけではない戦い方を学ぶことが出来た。
 魔術に関してはカイの能力と軍部の魔術師の能力が、はっきり行って大人と子供ぐらいの差があったので、魔術の根本的な概念を話すという形になっていた。
 カレンやワタルも同じかそれ以上の使い手と知った軍部は絶対に女神の盾と事を起こさないように軍内部に徹底するようになる。

 「それでは、訓練の仕上げとして模擬戦でもいたしましょうか」

 「いいね! 一番手はボクが行くよ!」

 「そしたらこちらからは、ドズル! お前が一番手だ!」

 ドズルと呼ばれた男は2mはありそうな巨躯を持ち、獲物は同じくバトルアックス。
 ふたりとも模擬戦用の木斧に布を巻いたものではあるが、本気で振るえば大怪我もあり得る。
 そんなことは二人共一考にもしなかった。

 「始め!!」

 合図とともにリクが駆ける。一瞬で距離を詰める、ドズルも動じず横薙ぎで牽制する、
 恵まれた体躯による膂力だけで振るう高速の横薙ぎ、
 リクも身体からは考えられないほど強い力を持っているが、
 いかんせん体重がない。
  ないとはいっても鍛えているせいで同年代の女性にくらべ、ウワナニスルヤメロ

 ------少々お待ち下さい-------

 体重がなければ強い力を受ければ吹き飛ばされてしまう。
 美少女戦士リクはそれを技術で受ける、
 力がかかる瞬間に振られるスピードよりもほんの少し遅いスピードで少しづつ受けていく、
 打ちつけた方は不可解な現実に直面する、強い衝撃がその手に伝わってくるはずなのに何もない、
 振るう斧は停められ、その衝撃もなくまるで壁を押しているかのような感覚を覚える。

 「まいった・・・・・・」

 ドズルは一流の戦士だった。一流の戦士だからこそ今自分がやられたことを正確に理解した。
 それと同時に自分とリクとの間にどれだけの差があるのかも理解してしまったのだ。

 「いい打ち込みだったよ! 今度は自分の獲物でやろう!」

 無邪気なリクの笑顔に高い壁、しかし、目指すべき頂きを示された。

 「ああ、いずれ必ずその域にまで達してみせる」

 力強い握手を交わす。彼にとって今まで並ぶものの居ない剛力が一切通用しない相手に出会えたことは幸せであった。その後研鑽を重ね帝国最強の斧と呼ばれる日もそう遠くはなかった。

 訓練場は騒然となった、ある程度以上の使い手達はリクの圧倒的な能力に驚愕し、
 それ以下の者達は無類の強さを誇るドズルがあんな小さな美少女に負けたのだ。

 「それでは2戦目、バッツ殿とドム! 前へ!」

 「はぁい」

 「おう!」

 二戦目は一戦目のような圧倒的な技量を見せるのではなく、冒険者としての経験の長いバッツによる、
 まさに指導のような戦いになった。

 「ほらほら、足元がお留守よー」

 「ぬっ! くっ!」

 「剣を受けたらその力を利用して構え直さないと疲れるし遅いわよーほらほら」

 大型の両手剣を軽々と扱うバッツに一方的に責められる、受けるだけで精一杯だ。
 さらに無理な動きの連続は疲労を蓄積していく。
 そしてバッツの動きについて来れなくなり対応しきれなくなっていく、

 「ま、参った・・・・・・」

 「もっと剣の動きは円を意識して動かすといいわよ」

 体力尽き果て膝を着いたドムに手を貸すバッツ、沸き起こる拍手。
 相手の全力を出させて、それでいて指導も交える。実力差を見せつけた。
 バッツはなんだかんだといって大変世話焼きなのでこういったところも優しいのだ。

 「それでは第三試合クウ殿、キーマ、前へ!」

 「はーい」

 「ふっ・・・・・・」

 キーマと呼ばれた剣士はこの部隊に所属されて2年の新兵であったが、
 その剣の才能は比類なきものなしと言われている。すでに光速のキーマなんて呼ぶ人もいる。

 「顔は狙わないで置いてあげるよ、子猫ちゃん」

 そのせいで、ちょっと、いや、かなり天狗になっていた。
 クウは普段の二刀流ではなく片手剣で相手をしていた。
 キーマの剣撃は光速の名に恥じぬスピードだ、

 「どうしたのかな子猫ちゃん、攻撃してきてもいいんだよ?
 避けるので精一杯かな?」

 彼からすれば自分の光速の剣撃をギリギリで危なっかしく避けることしか出来ない、
 そう写ってしまっていたんだろう。その曇った目にはクウの剣を見切ることなど出来ない。
 彼は自分が攻撃されているのにも気がついていなかった。
 クウのやったことに気が付き始めた周囲からクスクスと笑いが起きる。

 「完成。あなたにぴったり」

 クウの一言で大爆笑が起きた。
 キーマの背中側の肌着が【木剣によって】綺麗に切り抜かて文字を描かれていた。

 『ナルシスト』

 ギリギリでキーマの攻撃を避けるふりをしながら、
 文字通り目にも留まらぬ剣撃でそれを作り上げていた。
 そもそも木剣を用いて布を切り裂くこと自体がとんでもないことで、
 冷静であればその異常な実力に気がつけるはずのなのだが・・・・・・ 

 「お、おのれー!!」

 キーマは激高してしまった。まじめにやればクウの相手になどなるはずもない、
 ボッコボコにされて転がされるだけであった。

 「ここまでとはなー、お前らこれでわかったろ。上には上がいる。
 天狗になるなんて100年早いぞ!」

 ランタスは兵士たちに激を飛ばす。
 兵士たちも先ほどまでの笑い顔が一気に引き締まり、
 自らの甘さを反省している様子だった。

 「それでは最後にワタル殿、一手ご教授願えるかな?」

 ランタスがワタルの前に鉄剣を放り投げ、地面に突き刺さる。
 鉄剣同士の戦いは当たりどころが悪ければ命にかかわる。
 隊長としての覚悟の表れであった。

 「こちらこそお願いいたします」

 ワタルは鉄剣を握り構えを取る。
 本来は盾を使うことを基本戦闘スタイルにしているが、
 今のワタルは剣士としても超一流だ。

 軽く剣同士を合わせてお互いに距離を取る。
 ただそれだけでその場に緊張した空気が満ちていく。
 最初に動いたのは以外にもランタスの方だった、
 ランタス自身はすでにわかっていたのだ、ワタルと自分では圧倒的に力の差があることが。
 ランタスは自分の持つ最高の技を全力で放つ、

 無双三段

 高速で喉、心臓、喉を突くランタスの得意技。
 鍛え上げられた高速の動きに受けた方はまるで3箇所同時に攻撃されたかのように錯覚してしまうほどだ、加えて殺気によるフェイントを絡めることで虚実の認識が不確かになるまさに一斉攻撃。
 初見でこれを避けた人間は剣聖とも呼ばれるジークフリード皇子だけだった。

 (獲った)

 まるで反応できずにいるように、ランタスの眼をしてそう思わせるほど静かだった。
 ランタスの剣技がワタルを捉える、しかしランタスの持つ剣にはワタルを打ち伏せた感触はつたわらず、気がついた時には目の前に居たはずのワタルの姿はどこにもなく、背後から首筋に鉄剣をつきつけられていた。

 「・・・・・・まいった」

 その場にいる人間で今のワタルの動きが見えたのは2人だけ、
 クウとバッツただ二人だけであった。









 

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