3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

74章 先行投資と設備投資

 ケーレスの街に戻ってきたワタル、すでに落ち着きを取り戻した。
 あまりの動揺に敬語しか話せなくなるような失態はもうしない。

 「無事・・・・・・うん。無事にウェスティア大陸のガイオスの街へ行くことが出来ました」

 シーバスさんやギルド職員は驚きを隠せなかった。
 比較的大きな港町から大金を払って海を渡っていたのに、
 あっさりと、それも時間もかからず完全に安全に大陸間移動を可能になったのだ。
 この街にもたらされる経済効果は想像もできないほどだろう。

 「こ、これは、これから大変なことが起きますね・・・・・・」

 「女神様の力でこのような転送装置が各大陸を繋ぐ形で出来ました。
 女神の塔をクリアした冒険者限定ではありますが、輸送や人の動きは変革を遂げるでしょう」

 カレンも移動中に今後のメリットなどを考察していた結論を口にする。
 その言葉を受けてさらに冒険者ギルドの職員も興奮を隠せない。

 「大量の物資や塔をクリアできない人などは船での移動を余儀なくされますが、
 これで冒険者がいろいろな大陸を股にかけて活躍できるようになりますね!」

 直ぐに本部に連絡をしないと! と足早に出張所へ帰っていくのであった。

 「取り敢えず皆様、今日のところはこちらで宿の手配をいたしますので、
 ひとまず私の屋敷へ行きましょう」

 「実は慌ただしいのですが町長、一つ相談事が」

 もちろん相談事とは一部の土地を購入して女神の盾商会の支部を作りたいという話だ。
 取り敢えず町長の屋敷へ行き地図を広げ交渉にあたるカレン。

 「こ、こんなに広大な土地を購入されるのですか? 
 しかもその辺りは地盤もゆるく建築には向かない上に水はけも悪く、
 死に地になっているようなところですよ?」

 「今後のこの街の発展を考えて何としても地盤を作りたいのです、
 現状の相場の倍額を即金でお払いいたします」

 「な、なんと・・・・・・!」

 この街が交通の要となっても発展には長い時間がかかる、
 さらに公共事業の実施のためには先立つものが必要になる。
 この提案は確かに魅力的であった。

 「もし、この案を飲んでくれるならさらに街内部の街道の整備まで行いましょう」

 ワタルのダメ押しによって無事に土地の購入に成功した。
 ワタルは誠意を見せるためと言って早速街の内部の道を整備した。
 街の情景とマッチするようにレンガ敷きの落ち着いた作りだ。
 そのまま町の外のある程度の距離まで街道を伸ばしていく、
 街の内部はカイも手伝ってわずか1時間ほどで完了した。
 町の人々は開いた口がふさがらないほど驚いていた、子供達は大はしゃぎだ。

 そのまま購入した土地の整備にかかる。
 ゆるい土壌はしっかりとした地盤を構成して土壌改善は完璧だ!
 比較的周囲は見晴らしがよく魔物の襲撃も少ないという話だったので、
 大規模な防壁は今回作っていない。
 今後の街発展を見越して拡張性を重視した簡単な壁は設置している。

 大浴場は必須。これは絶対に譲れない。
 いつもの一軒家型と集合住宅型を少々。
 商会の店舗はしっかりと大型店舗にする、他の国との窓口となるはず、
 農地に関しては塩害が起きるほど海岸線には近くない、
 ワタルの魔法生物は優秀なのでそこら辺の心配は必要が無いのだ。

 いい加減精力剤頼りの商品展開も限度がある。
 そこで考えたのが転生系ラノベ御用達のポーション作成だ。
 今後は冒険者の冒険が活性化されていくのは間違いない、
 そうすれば当然ポーションや傷薬の需要も増していく。
 リクとカレンにお願いして複数の場所でポーションの材料となる薬草を回収してきてもらう。
 各拠点に転送できて魔法探知による薬草採取。
 そして回収してきた薬草はワタルによって品種改良され、強制発育。
 もう、なんていうか、やりたい放題だ。
 さらにカレンは調合スキルは神業ときている。
 上級ポーションまでなら素材に困ることはない。
 流石にエリクサーなどは一部魔物の素材が必要になるので量産は難しい。
 商会にも調合スキルを有するものはいるのでその辺りの育成は今後の課題だ。

 どうしても邪神がどんどん力をつける前に移動していかないといけないため、
 急速に商会として拡張しすぎている。
 いくら奴隷を確保していても教育や育成には時間がかかる。
 人材不足が問題になってくるのは時間の問題であった。

 ゲーツの参入はそういう意味では大変に助けられた、
 このまま行けば近いうちにパンクしていたのは疑う余地はなかった。
 ゲーツの情報処理能力、適材配置、状況把握能力それら全てが著しく高いレベルで共存している稀有な人材なのだ。
 それでもこのまま行くとゲーツの処理能力さえ超えてしまうのは目に見えていた。

 そんな時にパルゾイさんがワタル達の後を追ってこの街にやってきた。
 ワタルはちょうどゲーツとこの地における状況を話し合っていた。

 「ワタル様パルゾイさんがお見えですがいかがしますか?」

 「久し振りだね、いいよ会うよ。ゲーツ一緒に来てもらえる?」

 「もちろんでございます」

 真新しい応接室に入るとパルゾイが跳びはねるようにガッシリとワタルの手を掴む。

 「いやー、ワタル様は素晴らしい。これだけの奴隷をすべて虜にしてなおその手を広げておられる!
 このパルゾイ、本日もワタル様のお力になるために奴隷スクワレルモノをお連れしました!」

 「ああ、助かるよ、だんだん人手が足りなくなってきて困っていたんだ」

 「ええ、ええ、それでしたら外に馬車を止めております。どうぞ、どうぞ!」


 庭に出ると連結車のように3台の馬車が連なって止まっていた。
 一台一台が鎖で繋がれており、馬の数は合計10頭。
 かなり大型の馬車だ。

 「どうぞ、御覧ください。ワタル様は全員お救いになるでしょうが、
 一応目をお通しくださいませ!!」

 芝居じみた身振り手振りでパルゾイが合図をすると、
 従者が馬車のホロを外していく。
 それぞれ10人づつほど奴隷が収容されている。
 奴隷と言うには小奇麗にされており、不健康そうな者はいない。

 「ワタル様は必ずこうするだろうということで、私が扱う奴隷は一般の庶民以上の服飾、
 食事、休暇を与えております。もちろん、そこは商売としてきっちりといただきますので、
 ワタル様はなにも気にする必要はありません」

 「ああ、それでいいよ。うん。ありがとう」

 ゲーツがひとりひとり見聞していく。
 ゲーツは鑑定スキルも有しており、教育という特殊なスキルを持っている。
 鑑定と教育スキルを合わせてその人物の素質を見ることが出来る。
 これらが過激派な聖騎士集団を作る大切な餌になっていた、
 自分の素質を開花してくれる人物の言うことは信じたくなるのが人間だ。

 「ワタル様、何名か素質のあるものが居ます。私の直属で指導をさせていただけませんでしょうか?」

 ゲーツは滅多なことではワタルに何かを求めたりはしない。

 「うん、ゲーツが必要だと思ったらそうしてくれ。信頼している」

 「あ、ありがたき幸せ」

 あまりにストレートな言葉にゲーツの胸は高鳴った。

 ゲーツにとってワタルの役に立てることは何よりの喜びであった、
 しかし、最初が最初だっただけにどちらかと言えばワタルに苦痛を与えられることに喜びを見出している傾向があった。
 ワタルはあの異常な状態以外は一貫して優しかった。
 苦痛を望んではいるものの、繰り返し優しさを受けていることでゲーツ自身もその優しさを心地よく感じるように変わっていた。
 それに伴い、狂信者としてのゲーツの風貌、痩せこけて病的な目つきと体つきも変化が現れていた。
 ワタルの作る食事によって食の楽しみを知り、
 温泉などによる身体の活性を手に入れていた。
 仕事は多忙を極めていたが充実しており、なによりもワタルの仕事を補佐している喜びがあった。
 生活の充実は表情も豊かにする。
 初めてワタルに出会った頃のゲーツとは比べ物にならない美しさをゲーツは取り戻していた。

 ゲーツの外見は当初の骸骨のようなギラギラとした目つきの男装姿ではない、
 黒髪が艶を取り戻し綺麗に短めに整えられており、
 顔つきも病的な痩せ方から、すっとした少し影がある薄幸の美女という表現がぴったりだ。
 憂いだような表情は艶っぽく、
 一部の商会の男性から見下すような目で踏みつけてほしい人ランキング、
 カレンを抜いて一位を獲得している。
 さらに長身で健康的な体つきを取り戻し、元隠れ巨乳が今ではすでにあんまり隠れていない、
 おしりも大変女性的なラインで魅力的な素晴らしいプロポーションをしている。
 狂信者時代は肌も荒れ30を越すような印象だったが、栄養状態の改善などを受け本来の24歳の年齢にふさわしい見た目になっている。

 長々と書いたが、本来のワタルの女性の趣味三球三振ストライクバッターアウトぐらいのど真ん中なのだ。

 今も、自分の言葉に耳まで真っ赤になってうつむいているゲーツの姿に抱きつきたくなっている。
 変わった後のゲーツに逢うたびに悶えるような劣情を覚えてしまっている。
 じつはカレンや3人娘もすでにゲーツと話し合う場を設けていて、
 ゲーツの想いは理解しており、そういった関係になることを容認していた。
 ゲーツ自身が自らの立場から決してそのようなことを表に出すことはないし、
 4人も自らなにか言うことはない。
 一番仲の良いカレンはワタルにゲーツを救っても皆納得しますよ。と遠回しに伝えるにとどめている。

 閑話休題

 ゲーツは数名を直轄の部下にして教育を開始した、
 それ以外の奴隷も洗礼センノウを済ませて各地へ発っている。

 ワタル達が教皇とのやり取りや冒険者ギルドとの情報交換などで足止めを受けている中で、
 一つの機会が訪れた。
 ゲーツを含めてワタル達が会食をすることになったのだ。

 

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