3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

73章 ケーレス到着

 ヴェルテポネにおける盾の女神商会の店舗には生活必需品や食料品を中心に用意をした。
 取り敢えず生活の基盤やしばらくの蓄えを各地から用意して、
 ワタル達はケーレスへと出発準備を整えた。

 「ワタル様、この御恩は決して忘れません」

 元盗賊の中で状況説明してくれた男性、ロッソさんが代表して見送ってくれた。
 もとまとめ役だった村長は安寧な生活を得て穏やかに隠居している。
 街の皆に見送られながらワタル一行はケーレスへ出発した。
 【輝きの道】は聖都に戻ると一緒に出発した。

 最初はトラブルに巻き込まれた道中であったが、今回は少々の魔獣を撃退するだけで、
 何の問題もなくケーレスの街へ到着した。
 女神は村って言っていたけど、海沿いのそれなりの規模の街だった。

 「おっさかなおっさかなー♪」

 港町に来るとカイの機嫌がいい。かわいい。
 前の港町ではパエリアを作ったけど、ここでも何か皆に作ってあげたいな。

 「このような辺境の港町に何用でしょうか?」

 町の入口で衛兵に誰何を受ける。
 いつもどおりギルドカードと信者の証を見せる。
 この大陸で信者の証は絶大な効果がある。

 「おおお、このような高位な方々がわが町に、なにもおもてなしも出来ませんが、
 どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」

 ね?
 取り敢えず街の人達も知らないだろうから、
 町長さんにこの街の今後の重要な拠点となることを伝えないといけない。
 町長さんへの面会を求めるとすぐに先触れを出してくれた。
 そして、その日のうちに会ってくれる手はずになった。

 「これはこれは高名な冒険者様でありながら、敬虔な信者の皆様にお会いできて光栄です。
 この港町ケーレスのまとめ役をさせていただいているシーバスと申します。」

 人の良さそうな、それでいて知性を感じさせる上品な風体のおじさまだ。
 メンバーと代わる代わる挨拶をして握手をしている。
 特にカレンの時は本当に嬉しそうだった。

 「まさか、憧れの聖弓のカレン様にお目にかかれるとは、
 実は私も昔は冒険者として活動しておりまして。
 幾度と無くカレン様の口伝をお聞きし胸を熱くしたものです」

 気さくで親しげなシーバスさんとしばしの歓談を楽しみ、
 本題にはいる。この街が今後イステポネ大陸とウェスティア大陸の移動の要になることだ。

 「この町の中央には女神像がありますよね?」

 「はい、ございます。この街の象徴とも言える像でこの街が入植した時に持ち込まれたと聞いています。中央公園に祀らせていただいております」

 「実はその女神像に女神様が一つの奇跡を起こしたと神託がありまして」

 「おお、そのようなことが!? それで、その奇跡とは? 
 今のところ私のところになんの変化も届いてはおりませんが・・・・・・」

 「その奇跡を受けるには、これが必要なのです」

 腕にしている女神の腕輪を見せる。

 「各大陸にある女神の塔を攻略した冒険者に与えられるこの腕輪を持つ冒険者は、
 その女神の像の力でこの地からウェスティア大陸へと転送させることが出来るのです」

 「・・・・・・へ?」

 あまりに突飛でとんでもないことを言われて町長の思考も停止してしまった。
 その後も丁寧に説明を重ねて取り敢えず一度実践しようと言う話になった。
 ウェスティア側にはすでに教皇様経由でジークフリード皇子へ連絡済みだから、
 大きな混乱はないはず。はず。だ。たぶん。

 町長と一緒に街の中央公園にある女神像まで移動する、
 この街にはギルド支部というほどの大きな設備はないけど受付だけのギルドの出張所がある。
 今後のためにもギルド職員も同行してもらっている。
 港町らしく町中では魚介類を扱うお店も多く、潮風にのって海の薫がする。
 建物も多くないせいか広々として開放感がある。嫌いじゃないね。

 中央公園は子供達が楽しそうに遊んでいて、親がその様子を見ながらくつろいでいて、
 温かい雰囲気がワタルは気に入っていた、次のまちづくりの際には是非こういう公園を作ろう!

 その中央に女神像は祀られていた。
 大理石のような滑らかで美しい姿、この街の人達に丁寧に管理されているのだろう、
 屋外でありながらその輝きは失われていなかった。
 ワタルは石像に近づき腕輪をしている手を石像にかざした、
 石像から細かな光の粒子が少しづつワタルを包んでいく。
 そして町長やギルド職員、みんなの前からワタルの姿がフッと消えた。

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 ウェステイア大陸南東の港町ガイオス、この街にも街のシンボルとして女神像がある。
 街の中央にある大噴水の中央に設置されている。
 大噴水の中央に。

 その女神像が光りだす、ジークフリード皇子からの通達で周囲の警戒をしていた兵士に緊張が走る。
 女神像から溢れだした光が集まっていく。そしてその光から人が現れた。

 バシャーン

 ワタルの真下は大噴水周囲の水溜になっている。
 突然水上に転送されてしまったワタルはなすすべなく水の中に落下した。
 深さも膝ぐらいまでしかないので溺れたりはしないものの、
 予想外の事にしばらく固まっていた。

 「女神の盾イチノセ ワタル様ですか?」

 無言で水から上がりなんとも言えない表情で靴の中の水を出したり、
 魔法で洋服を乾かし終わった頃に兵士の一人がそう訪ねてきた。空気を読んでくれるいい人だった。

 「はい、そうです。こちらが冒険者の証になります」

 「・・・・・・確認いたしました。ようこそウェステイア帝国へ。
 ジークフリード皇子より皆様の旅の自由は保証されております」

 「ありがとうございます、皇子にもどうか宜しくお伝えいたします。
 いずれ帝都へ向かいますのでその時に改めてご挨拶をさせていただきます。
 今は取り敢えず一旦イステポネへ戻り、パーティメンバーと共に改めてこちらへご挨拶に伺います」

 「わかりました。その・・・・・・次いらっしゃるまでに対応はしておきます」

 その出来る兵士さんは泉の方へ視線をずらして申し訳無さそうにそう告げた。

 ワタルは無事に転送を終えた報告にイステポネへ戻る。
 先ほどの動揺にうろたえなかった自分自身を心のなかで褒めながら・・・・・・

 

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