3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

67章 思いで

 魔神の使徒との戦いに勝利した一行は最深部の宝を手に入れ、
 転送装置にてダンジョン入口まで戻ってきた。
 聖鳥のヒナをほあーほあー言って持って帰ると言って聞かないリクを引きずり出しての帰還だ。

 ワタルは気分が晴れなかった。
 地球で日本での嫌な思いでを思い出してしまったからだ。
 彼の母親による、奇行とも取れる数々の行動を……

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 彼が中学に上がって学を得るまでは地獄であった。
 学校に怒鳴り込んできて毒を食わせるのかと喚き散らす。
 成長期の子供に炭水化物は毒だと一切食べさせない。
 砂糖も毒、お菓子は毒、コンビニは毒、毒、毒、毒、彼の世界には毒があふれていた。
 友達の家に遊びに行けば怒鳴りこんできて毒を食わせるのかと喚き散らす。
 友達からも、その家族からも、教師からも、周囲の大人からも距離を取られた。

 家に友達が来ても、漫画もなければゲームもない、一切の娯楽がない。
 それどころか何もなかった。断捨離断捨離とぶつぶついいながら家を徘徊する化物。
 笑い話なのは、その母親はタバコを吸い、酒を飲む。

 笑うしかない。

 父親は空気だったし多忙であった。日本を世界を飛び回り、家にいることは殆ど無かった。
 そのことがどれだけ異常で滑稽か、それを教えてくれたのは中学で知り合った親友。

 春日カスガ 結城ユウキだった。
 彼は中学生とは思えないほど博識であった。
 彼の両親は共に研究者だった、かたや歴史、かたや生物。
 両親は彼をいろいろなところに連れだした。
 様々な場所でたくさんの発見をして、考察して、ロマンを想像した。
 様々なものに触れることで知る喜び、考える喜びを知った。

 結城の目の前には一人の男の子がいた。
 その目は光を失って、何物にも何者にも触れないように、自分は居ない者のように振舞っていた。
 結城は直感した。
 彼は知らない。この世界がいかに素晴らしいかを知らないのだ。と。

 結城は積極的にワタルと関わりを持った。
 渉は怖かった。誰かふれあうことでまた母親がその温もりを壊しに来る。

 「渉遊びに行こう!」「渉あれ知ってるか食べられるんだぜ」「渉ほら、釣ってきた魚食べようぜ」

 結城は渉が欲しくて欲しくてたまらない自由を与えてくれた。
 そして何より、結城は渉の母を、手なづけたのだ。
 中学生とは思えない幅広い知識、そして、渉の母を一目見てその人間性を理解していた。

 空っぽ。

 自分で考えることをせず、どこかの誰かが言ったことを妄信的に信じる、
 何もない人間であることを。
 あとは、彼女が必要そうに思える情報に見せかけて、
 こちらに都合のいいことを信じさせればいい。
 健康宗教を利用して金儲けをしている奴らの方法と同じことをしたのだ。
 渉は結城からその方法を叩きこまれた。
 こうして中学3年間を経て、渉は普通の人間になった。
 ずっと呪いのように纏わりついていた母の呪縛を取り去った。

 そして高校に入り彼は一人暮らしを始めた。
 早い時期から一人で生活をしている人間のほうが成功者が多い。
 そんな感じの方便だったと思う。
 彼は真の自由を手に入れた。

 しかし、中学卒業目前に突然結城がいなくなった。
 両親の関係で海外へ移住することはだいぶ前から決まっていた。
 しかし、結城は渉にそれを告げなかった。
 このままでは渉は結城に依存してしまう。
 そうならないように少しづつ自分の足で立てるように大切に見守り、
 今、手を離す時だと。そう手紙に書いてあった。

 渉は泣いた。涙が枯れるんじゃないかというぐらい、
 何度も手紙を読んだ。
 そして、自分の足で立ち上がった。

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 封印していた様々なことを急にいろいろと思い出してしまった。
 自分が考えている以上にあの頃のことは自分をいまだに縛り付けているんだな、
 ワタルは、剣と魔法のファンタジーな異世界で、
 そんなことに縛られている自分が少しおかしくなった。

 「ワタルー? どうしたのこんなところで一人で」

 ワタルはイステポネの領地に作られた農作地の前に立っていた。
 ダンジョン攻略の様々な手続きなどを終え、家に帰りゆっくりと風呂に入り、
 今月夜の下、ここに立っていた。
 ダンジョンをでてからワタルの様子が少しおかしいことは皆気がついていた。
 ただ、妙にそれを触れてほしくなさそうな気配がして皆そっとしていた。

 リクは持ち前の真っ直ぐさでワタルの元へやってきた。
 今日の担当がリクだったというのも、運命だったのかもしれない。

 「ちょっと、昔のことを思い出してね」

 ワタルは自然とそう言えた。
 他の人だったら「ははっなんでもないよ!」と誤魔化していたかもしれない。
 リクだったからそう言えた。

 「そっかぁ、結構旅も長くなってきたからね」

 「そういえば、そうだね。振り返るとあっという間のような気もするけど、
 時間は経過しているんだね」

 「ワタルはこの戦いに巻き込まれて、迷惑?」

 リクの質問は意外だった。ワタルは直ぐに「全然そんなことないよ」と返すつもりだった。
 実際には思いのほか長い時間考えてしまった。

 「うーん、絶対に迷惑だなぁって感情はない、それは絶対」

 「良かった、セイを救う旅に巻き込んだから、凄い気になってた」

 「そんな事考えてたのか、大丈夫。俺も君たちの友達は助けたいよ」

 リクの頭をくしゃくしゃとする、リクは嬉しそうにワタルを見上げてエヘヘって笑った。

 「良かった。ありがとうねワタル、ボクは君に逢えて嬉しい……」

 ワタルは撃ちぬかれた。
 完全に撃ちぬかれた。
 耳が熱くなるのがわかる、顔も真っ赤だろうな。
 胸が高鳴る。やばい、ドキドキが伝わるんじゃないか?

 リクはそっとワタルの手を握った。
 ワタルは心臓が今度は止まってしまうかと思った。
 そういうことはしていたが、今再び、いや、ここで恋に落ちたのかもしれない。

 そっとリクは目をとじる。
 ワタルはドギマギしながらくちづけを交わした。
 心を交わした本当の意味でのファーストキスを……


 翌朝、ワタルは清々しい朝を迎えることが出来た。隣には幸せそうに眠るリク。
 ワタルの悩みはリクのおかげですっきりと霧散していた。


 朝食の席でのリクに対するワタルの、微妙な変化に気がついた残り3人が、
 危機感を持ったのはまた別のお話。

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