3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

66章 魔人戦・後編

 俺は自分の持つスキルの全能力を魔人に向ける。

 『な、なんだこれは!? な、なに、なに、な、な、なにをしている貴様ら!!』

 明らかに魔人の反応が狂った。
 ワタルはまず手始めにすべての痛み、ダメージを苦痛ではなく快感にするように仕向けた。
 マイナス補正のデバフに対する耐久レジストには優れていても、
 一般的には強化バフに対する抵抗力レジストは基本的にない。
 痛みを快楽に変える、それはバフの範疇になる。

 熾烈な攻撃が全て脳天をつく快楽になる、
 これは想像以上に魔人を混乱させていた。

 しかし、ワタルの悪辣ともいえる策略はこれで終わりではない。
 つらい、苦しいことはすべて快楽になり、抵抗レジストを困難にさせる。
 この状況で彼が使うのは毒。しかし、ありふれているものだ。

 酸素。

 空気中に溢れており、生命活動に必須な化学物質である。
 しかし、酸素は猛毒だ。
 高濃度な酸素を吸い続ければ活性酸素を大量に発生させ過剰酸化作用により、
 最悪死に至る。
 ワタルがなぜこの知識を手に入れていたかというのは、
 彼の母が流行りに乗りやすい、いわゆる健康宗教信者だったのだ。
 彼の母が購入したのは高額な水素発生装置であった、
 高濃度水素が混入された水素水を飲むことで老化がとまる。
 明らかな詐欺商品に引っかかったのだ。
 活性酸素に対して水素の有効性は一部の実験で検証されてはいる。
 しかし、水素を適当に吹き込んだ水を飲めば体内の活性酸素を取り除く、
 そんな実証は全くされていない、普通に考えれば分子数の少ない水素は容易に物質を透過する。
 気体の状態の酸素を吸引するのはもしかしたら一定の効果を得る可能性はあるかもしれないが、
 水素を含んだ水を飲む、しかも水素を吹き込み保存したのちに飲む。
 馬鹿じゃないのか?

 彼はそのあたりの情報を得る機会を手に入れ、自分で調べて考えていた。
 知識として確かのものを持っていた。
 水素で健康になるかはわからなかったが、
 酸素を過剰に吸えば危険なことははっきりとわかっていた。

 魔法により過剰な酸素を魔人の周囲に集める。
 攻撃を繰り返せば呼吸は乱れる、たぶん初期のうちはいつもより疲れもなく、
 快調に動けていただろう、しかし、そのうち辛くなる、
 過剰な酸素が細胞を侵襲する。しかし、気が付けない。
 つらい、苦しい。それらは快感として伝わってくる。
 さらに動く、さらに過剰に酸素を取り込んでいく。

 突然の機能不全。
 気持ちよく体を動かしていると、快楽は相変わらず全身を包んでいるのに、
 ただ体が急に動かなくなる。
 魔人は自らの体に何が起こっているのか、まったくわからなかった。

 さらに体の自由を奪ったワタルは、簡単に、
 それでいて最高のエネルギー効率をもつ恐ろしい攻撃を考えていた。
 核爆発だ。

 理論は単純だ、原子核の破壊。ただそれだけだ。
 原子核を破壊された原子は大量の熱とエネルギーを放出する。
 同時に放射されるのが放射線だ。
 放射線は放射性物質から放出されるエネルギーの一つで様々な悪影響を生体に及ぼす、
 確率的影響、非確率的影響、細かく分けると様々な影響を生体に与える。
 防御するためには放射線に当たる時間を短くする、放射線を発する場所から距離をとる。
 放射線を遮断する。などの方法がある。
 今ワタルが行うのは遮蔽だ。
 特に鉛は放射線を効率よく遮断する。
 同時に分厚い鉛の壁を用いれば熱量も遮断できる。
 核爆発のエネルギーはその程度の壁では防ぐことができないが、
 魔法の力ですべてのエネルギーの方向を操作できる。
 ワタルたちの正面に放出してしまえばいい。ここは異次元。
 魔人を倒したらそのまま次元の狭間にこの空間ごと捨ててしまえばいい。

 快楽に悶え、動くことができない魔神との間に、厚さ10mの鉛板を魔法によって作り出す。
 魔神の周囲にウラン235を大量に精製する。
 そこに中性子をぶつける。これによって臨界に達した物質は核分裂を起こす。
 大量のエネルギーと中性子を放出し、その中性子が周囲のウランを次々と臨界へと促す、
 核爆発を起こす。
 膨大な熱量が放出され、そのすべてはワタルたちには向かわずに魔人を飲み込む。
 もしこの熱量とエネルギーに耐えていても、信じられない量の放射線を浴びることになる。

 核爆発の中心部にいた魔人は塵も残さず消え失せた。

 そしてそのままワタルたちはもとに次元へと転移する。
 今までの戦いが茶番になってしまうような、あまりにもあっさりとした結末。
 最深部に戻ったワタル以外の一行は状況が理解できずにしばらく放心状態であった。

 「たぶん、次からは異次元への転移に抵抗してくると思う。もう二度と使えないだろうなぁ」

 ワタルのつぶやきに反応するものは誰もいなかった。
 そもそも今目の前で起きたことを理解できる人間などいなかった。

 ワタル自身が放射線や放射能に対する知識を得たのは、
  やはり母親の影響だった。
 大きな地震が起き、原子力発電所に被害が及んだとき、
 その母親は自ら考えることを放棄して情報に踊らされ、
 海外への移住まで言い出した。
 あまりに常軌を逸した行動に家族は困惑した。
 そしてワタルは自ら情報を多角的に集めて、まとめ、理解した。
 その一端でそういったことへの知識を得ることができた。
 母親は、まるでみんながそう言っているかのように、放射能の比較的正しい知識を、ワタルが想定した通りに得た気になったことで、
 異常な転居熱などは終息した。
 彼も、実は結構苦労人であった。そして、なかなかの策士であった。

 【どういう理論かわからないですが、圧倒的な力で魔人を撃退したようですね、まずは勝利をお祝いいたします】

 「ただ、まともな方法ではあの化け物には勝てなかった。
 もっと強くならないといけない」

 【そのために我々はいるのです。あなた方に私の力のすべてと、龍脈の力のすべてを与えます】

 スザクは先ほどと同じように6人に通路を開き、残りの龍脈の力と聖獣の力を注ぎ込んだ。
 スザク自身も力となり吸収されていく。
 ゲンブと同じようにヒナになったスザクはダンジョンの新たな主として再誕する。
 かわいいヒナの姿だった。後に女神をメロメロにする。
 今回はきちんと最終報酬を持ち帰る。

 何よりも今回は魔神に龍脈の力を持ち返らせることもなく、
 全員が真の龍脈の力を得ることに成功した。
 そして、リクはスザクの聖獣の力を最も強く受けた。
 リクは燃え盛る鳳凰の力を手に入れて羽ばたく聖鳥のごとく神々しい聖衣へと変貌した。
 武器にまとう聖剣の力にも聖獣の加護を受け、ゲンブの斧は一段とパワーアップを果たした。
 これから先の厳しい戦いに救いの一手となりえる力を得ることに成功したのだ!

 これで魔神との戦いは一勝一敗、
 初めてきちんとした形で一矢を報いる事に成功したのだ!
 

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