3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

65章 魔人戦・前編

 今まさに最後の隔壁が破られようとしていた。

 【奴が最深部に侵入したら皆さんと敵を転移します、ご武運をお祈りします!
 来ます!! 3,2,1、0!!】

 身体を押し付けられるようなプレッシャーを感じる。転移の影響だ。

 『ふん。こねずみが最後まで小細工を弄しおって』

 ワタル達の前には漆黒の鎧を纏い、鋭い目つき、緑の鱗を持つ皮膚、
 腰には2本の刀をもつ、竜人が立っていた。

 『お前らが忌々しい勇者ご一行か。バルタザール様復活のためにここに生け贄として捧げよう』

 今までの敵と比べて圧倒的な力と、そして知性を感じさせる。
 ビリビリと空気が張り詰めるようだ。

 「いざ、尋常に勝負!! ワタル イチノセ参る!!」

 刀相手にテンションが天元突破したワタルが暴走した!
 緊張状態だった全員が動き出すきっかけを作ったので結果オーライ!

 『蹴散らしてくれるワ!!』

 抜刀と同時に斬撃がワタルに迫る、
 ワタルは魔法盾二枚を前方に展開さえ射線から身体は避ける、
 慢心はしない。そしてそれは無駄ではない、

 バキバキ

 二枚重ねられた魔法盾を斬撃が一部抜いてきた、ワタルの頬を血筋が垂れる。
 今の一撃でワタルは冷静にならざる追えなかった、
 我ながら自分の成長した能力には自信があった。
 今回強力な力をその身に宿してなお、その防御を突破された。

 「強いぞ、引き締めてかかれ!」

 思わず声が出た、すでにリク、クウは左右から、バッツが正面から打ち込んでいた。
 両刀にて左右からの攻撃を弾き、バッツの振り下ろしを十字受けから弾き返した。
 一瞬でやりきった竜人の能力と技術に一同は感心すらしていた。

 「それでも負けるわけにはいきません!! ミリオンアクアシュート!」

 数えきれない水弾が竜人へ迫る。ただの水弾ではない超高速で回転し超高圧をかけられた水だ、
 ウォータカッターは分厚い鋼鉄さえ切り刻む。

 「重力収束」

 回避を阻害するために重力操作をワタルが仕掛ける。

 「ミラージュスクリーン」

 カレンは竜人の視覚を狂わせる、上下左右を反転させ、一瞬の混乱を作り出す。

 『ぬ、こしゃくな! 龍殻骸殻ドラゴンスキン

 竜人の外皮がボコっと肥大する、水弾があたり削っていく、
 全ての水弾があたりボロボロの竜人、しかしバラバラと表皮が剥がれ落ちる。
 幾つかの傷を作るもその影響は殆ど無い。

 『今度はこちらから行くぞ!』

 竜人が地面を蹴り飛び出してくる、カレンの幻影はすでに突破レジストされている。
 狙いはカイだ!
 バッツが横から突っかける。

 『邪魔だ!』

 両手剣の横払いを片手の刀で弾く、逆側からクウも斬りかかる、しかしもう片方の刀に阻まれる。
 あえてタイミングをずらしてリクの渾身の一撃がバッツの背後から振るわれる!

 『ぬぅ!』

 十字受け、両手を塞いだ!

 「弧月双」 クウが直ぐにその隙を衝く!

 「グランザッパー!」 バッツも合わせる、回避が出来るタイミングではない、

 ワタルもすでにカイトの間に入り突進を止めると同時に槍術を放つ、

 「百花乱舞!!」 リクの背後から生き物のように無数の突きが竜人を襲う!


 「ぐわっ!」「きゃっ!」

 クウとリクが何かに弾き飛ばされ地面に転がされる。
 ワタルの突きも両刀にて阻まれてしまった。
 一部は身体を捉えたが龍鱗に阻まれ決定打にはならなかった。

 「な、何が……」

 バッツが身体を支えながら起きる。バッツとクウをはたき落とした正体は竜人の尾であった。
 ベチンベチンと不愉快さを表すように地面を叩きつける。
 クウもふらつきながらも立ち上がる、もし鎧がなければ致命傷になっていただろう。

 『羽虫どもがちょこまかと、いつまで自由にさせると思うな!』

 二刀+尾の打撃。攻撃も防御も強化されたことを意味する。
 ワタルはバッツとクウの回復を行うために竜人の前に躍り出た。

 『わざわざ殺されに来たか!!』

 双頭の蛇が襲い掛かるがごとく熾烈な攻撃がワタルに襲い掛かる、
 ワタルは冷静に最大サイズの盾を用いて防御に徹する。
 2枚の魔法盾は完全に防御に、手元の盾だけは水刃を用いて積極的に攻勢に用いる。
 自ら持つ武器でけん制攻撃をしかけ隙にパイルバンカー改・水刃を絡める。
 ワタルが今切れる最強のカードの一つだ。
 それでも竜人の防御は抜けない、それどころかワタルは魔法盾を幾度となく失い、
 反動ダメージを積み重ねてしまうことになる。
 ワタルの決死の攻撃のおかげでバッツ、クウのダメージは完全に回復できた。

 『しつこい奴らだ、忌々しい』

 「くそっ!! まるで決定打に結びつかない!!」

 ワタルたちも竜人もお互いに決め手に欠けていた、
 いや、竜人の攻撃がワタルたちに直撃すればダメージはワタルたちのほうが大きく、
 有利なのはむしろ竜人側だったのだが、頭に血が上りその事実に気が付くことがなかった。
 このまま戦っていればいずれ竜人が勝っていたかもしれなかった。

 『龍脈の力さえ手に入れれば貴様らなど無視をしてもかまわなかったのだ!!
 この異空間から脱出するためには貴様らの邪魔があっては難しい……
 忌々しいやつらだ!!』

 その竜人の言葉にワタルは気が付いてしまった。
 自由に戦うために作られた異次元、逆を返せばここでは何をやっても実世界に影響は少ない。
 現代世界の科学技術を用いてやりたい放題やってもいいんだ、と。

 「みんな、今から酷いことをする。
 ある理論を理解していないと防ぎようがない、だから絶対に俺の前には出ないでくれ」




 


 

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