3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

56章 踊る聖騎士

 ワタル達が聖騎士からの奨励会招待状は拠点に届けられた。

 「ここが勇者の盾ワタル イチノセ氏のご領地でよろしいか?」

 聖騎士の清掃である純白の鎧に身を包んだ神経質そうな人物は門番にそう告げた。

 「これを」

 目的の地であることを確認したその人物は一通の手紙を門番へ手渡した。
 純白の封筒に金地の刺繍、上等なものとひと目でわかる作りだ。
 門番はすぐにイステポネの領地代行である、オオカミ族のラルフと犬族のリザのもとへ、
 その招待状を持ち込んだ。
 二人は聖騎士に注意する必要があることを知らないためにそのまま主の元へその招待状を提出する。
 なぜか一同が微妙な顔をしたことに疑問を持ったが、御役目を果たし控えることにした。

 「早速来たね。え~なになに……」

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 A級パーティ女神の盾リーダーワタル イチノセ殿

 この度女神の代行として神聖なる【神の与えし試練の場】の攻略を目指されるということで、
 我ら聖騎士からささやかながらの奨励の意を込めて宴を催す運びとなりました。
 明日14時 第三訓練場へ来られたし
 パーティメンバー全員の参加を心より期待する。
 領地の住民も話をしたら喜んで手伝ってくれるそうで、
 今も一緒に準備をしてくれています。
 当日会場で逢うことを楽しみにしています。

 聖騎士団9番隊 副隊長 ゲーツ=バニング

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 「ワタル様すぐに領地の使用人に確認を取ります」

 「すまない、お願い」

 カレンはすぐにラルフとリザに領内の人員の確認を指示した。
 その結果、犬族のロポムが聖騎士と一緒に準備に当たっているということがわかった。

 「つまりこれは、脅迫状ね」

 バッツはその手紙の入っていた封筒をクルクルと息を吹きかけて回している。
 ワタルの顔は怒りで少し熱を帯びていた。
 彼にとって奴隷や保護した子供達は護るべき家族なのだ、
 その家族に手を出したものを絶対に許すことは出来ない。
 彼の心中はその怒りに満たされていた。

 「教皇様には悪いけど、振りかかる火の粉は徹底的に潰す」

 「許せない、人質なんて聖騎士の名に恥じないのかしら」

 カイも怒りに身を震わせている。

 「狂信者とはそんなものです」

 誰が言うよりも説得力のある人の一言でその場の皆が納得した。
 同時に救えないことも一人を除いて全員理解していた。

 「ところで聖騎士に手を出してボクら平気なのかな?」

 「平気じゃぞ」

 「へ? うおっ!! 教皇様!?」

 突然教皇が部屋に現れた、その姿はボヤーッとしていてはっきりしない、
 魔法による立体映像ホログラムみたいなものだ。

 「利用するようで悪いが、このようなことを企む輩を一網打尽にするいい機会じゃ。
 後のことは心配するな。思いっきりやってやるのじゃ!」

 他でもない教皇の許しを得た一行に迷いは無くなった。
 狂信者な聖騎士達は触れてしまったのだ、逆鱗に。


 「ようこそいらしてくれた女神の盾のご一行」

 周囲の聖騎士と異なり深紅のマントをつけた痩せこけた黒髪の人物が挨拶をする。

 会場は戦闘訓練を行う敷地、ワタル達が中へ入ると背後の扉をいそいそと聖騎士達が閉め、
 閂をかける。逃がすつもりは毛頭ないようだ。
 もちろん、ワタル達も逃げるつもりは皆無だ。

 「ワタル様ー!」

 会場の一席からポロムが無邪気に手を振って立ち上がりワタル達に駆け寄ってこようとする。
 先程挨拶をした聖騎士が右手を上げると、ポロムは両脇を聖騎士に持たれて持ち上げられる。
 遊んでもらえていると思ったか最初は笑顔だったポロムも周囲の様子の変化に困惑の表情になる。
 そしてそのまま用意された椅子に座らされ、左右から聖騎士により押さえつけられる。
 ポロムの表情は恐怖に包まれる、そして背後へ抜刀した聖騎士が立つことにより、
 その恐怖は最大になる。ワタルは慈愛に満ちた目でポロムに大丈夫。と語りかける。
 ポロムも今にも泣き叫びそうな恐怖がそれで救われる。
 大丈夫だ、ワタル様ならボクを必ず救ってくれる。彼は心の底から信じている。

 「これは随分な歓迎で恐縮いたします」

 ワタルは溢れ出んばかりの怒気を隠して丁寧に対応する。

 「いえいえ女神様に選ばれた崇高な勇者のご一行をもてなすのは、
 我ら女神の元に集いし聖騎士の努め。当然のことであります」

 「御為ごかしはそれぐらいにして、本題はなんだ?」

 ワタルが普段では考えられないような冷たい声でそう問う。

 「軽く、そう、軽く勇者様のお力を我ら負傷の身に教えていただきたく存じます、
 偶然にもこちらの会場にはそれぞれの武を競う場があります。
 是非そこで女神様がお選びに成った勇者のお力を見せていただきたいのです。」

 「ワタル様のお力などお見せする必要はない、私が相手をしよう」

 「そうだよボクたちでもいいじゃん」

 「我々は勇者の力を見たいのです」

 二人の提案を遮り、全く感情のこもらない冷たい台詞を吐く。
 その人物が再び右手を上げるとポロムの背後に立つ騎士が剣を振りかぶる。

 「くっ、卑怯な!?」

 「卑怯? なんのことでしょう? 女神に選ばれし勇者様のお力を知りたい、
 我ら女神の信徒からしたら、なんの疑問がありましょうか?
 我らは女神様への絶対の信頼を寄せ、女神様のためにその身の全てを投げ出し、
 血反吐を吐くような修行に耐えこの聖騎士の座を手に入れたのだ。
 それなのにどこの馬の骨とも分からない輩が女神の勇者?
 そんなこと、認められんのだよ!!」

 目が血走り、皮膚から血の気が引いていく。明らかにこの人物はまともな精神状態ではない。

 「さぁ、ワタル様どうぞ壇上へ、我らがツルギ ゲゴスが相手をいたしましょう」

 ゲゴスと呼ばれた男が壇上へ上がる、肉体は巨体、
 筋肉に浮き出る血管が異常なほどの拍動をしており、
 その肉体を覆う鎧は無残にボロボロになっており、
 兜から漏れる呼吸音と唸り声のような声が周囲に響く。
 獲物は巨大な棍棒、その姿は人と言うよりは魔物に近い。

 「ごはーーーーーー、グルルル、ゴハーーーーーー」

 「これは、バーサーカー!? 禁薬と禁呪を使っているな!?」

 「ほほう、さすがはカレン様。ゲゴスは女神様の信者としてその身命を捧げる覚悟でございます」

 しかし、その異形な相手を前にしてワタルは恐怖を感じていなかった。
 メンバーに目を走らせ今後の行動を促す。
 メンバーも静かに首を縦にふる。

 「やれ!! ゲゴスぅ!! 女神の勇者などと曰う不敬者を殺せぇ!!」

 すでにそこに聖騎士としての威厳も格式も失った金切り声でゲーツは開始の号令を放つ。
 それと同時にゲゴスの腕が物理法則を無視したかのように高速で振り下ろされる。
 巨大な棍棒がまるで爪楊枝のように軽々と振るわれる。
 ドガァ!! と闘技台に巨大なクレーターを作る。
 ワタルは本来その棍棒が振り下ろされるはずだった場所にそのまま立っていた。

 「な!?」

 周囲の聖騎士も何が起きたのかわからなかった。
 ワタルは盾のなめらかな曲線を優しく棍棒に沿わせて落下地点をずらしただけだ。
 その動きは最小限、ほんの少しの力と技術だけだ。
 ゲゴスは避けられたことに疑問も感じず、まだ立っている相手に棍棒を振るう。
 横薙ぎに空気を切り裂くほどの勢いで振りぬく、
 あいつ、死んだな。周囲の聖騎士は誰しもがそう思った。
 しかし現実はちがう。音もなく棍棒は盾に防がれていた。
 これも技術だ、インパクトの瞬間に棍棒の速度と力をサッカーのトラップのように吸収したのだ。

 「ば、馬鹿な!? あいつは最弱のはず!!」

 ゲーツがそう考えたのは仕方なかった。鑑定結果をカレンが偽装したのだ。
 この会場に入るとき、魔法によって巧妙に隠されていたが全員に鑑定をかけられていた。
 バッツはひと目でそれを見抜き、逆にそれを利用するためにカレンと一芝居を打った。
 つまり女神に選ばれた勇者は聖剣の戦士に守られるだけの存在。
 砂漠の町で知られているワタルの実力はそこまで高くない。
 ギルドへ報告されている実力も他の3人に比べると明らかに低いのだ。
 それを裏付けるような鑑定結果にゲーツは心のなかでほくそ笑んでいた。
 そして勇者が弱いということを大衆の、といっても自分の息の掛かった聖騎士だが、
 大衆の前で晒すことが今回の目的だった。

 「そ、そうか!! 流石女神様の盾、おい! 貴様!! 盾を使わず正々堂々とその身にて戦え!!」

 正々堂々、どの口がそれを言うのか、
 しかし、パルムを狙う剣がより高々と振り上げられる。
 いい加減ワタルはこの茶番に苛々していた。
 次の一撃で終わらせる。

 「わかった」

 ワタルは両手をだらりと下ろし盾をもつ左手を後手に回した。

 「はーーーっはっっはっは!! それでいい!! それでいいんだ!!!
 潰されろ!!!! ツブサレテシマエーーーーーーーーー!!!」

 狂ったように笑い出すゲーツ、その笑い声を合図かのように、
 再びゲゴスの高速の棍棒が振り下ろされる。
 殺った!! 会場の誰しもがそう思った。

 「ぐぼぁ!!」

 痛みを感じないバーサーカー化したゲゴスの身体が、
 ワタルの拳によって”く”の字に曲がっていた。
 ワタルはあの高速の振り下ろしが目前に迫ってから一足で懐に潜り込み、
 ボディーブローを叩き込んだ。

 「な、なんだとーー!!!!?? し、しかし、ヒャハハハハハハ動いたな、
 動きやがったな!!!! 殺れーーーーーー!!!!!!」

 盾を使うなと言われただけだが、そんな理屈はすでにゲーツには通用しない。
 狂った狂信者から狂った号令が発せられた。

 

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