3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

おまけ1 二人の苦悩

 ダンジョンでの戦いでは敵の的になる可能性がある。
 バイセツの身体は薄っすらと発光している。
 メディアスもただの小動物だ。
 女神の加護のないダンジョンで何か有れば足手まといにしかならない。
 二人はダンジョンでの同行を辞退した。

 『まだまだ心配じゃが、カレン氏が居れば自ずと成長していくじゃろ』

 「そうですね、戦闘中は優秀な冒険者ですからね」

 『成長の早い弟子を見ている時ってのは指導者としてこれほど嬉しいことはない。
 しかし、成長が早いものはあっという間に飛び立ってしまうのう……』

 「ウォルもあっという間に私達の手から飛び立ちましたからね」

 『あの4人には魔神との戦いなどではなく普通の生活を遅らせたかったのぉ……』

 「お互いに天国には行けないですね、罪深い人生になってしまいました」

 世界を救うつもりで、違う世界を巻き込んでしまった……
 さらに、子供達を戦いに巻き込んでしまった。
 二人はいつもそのことに心を割いていた。

 夜眠りについた二人が気がつくと、
 以前の姿で立っていた。 
 どちらが上か下かもわからないような不思議な空間、
 何もない場所に立っていた。

 「これは……」

 「あら、バイセツその姿は久しぶりね」

 「メディアスも久しぶりじゃなその姿。相変わらず美しいな」

 「バイセツはずいぶん口が達者になったわね」

 にこりと微笑むメディアスは美しかった、

 【すまぬな、このような場所に呼び出して】

 聞き覚えのある声が空間に響き渡る。我が世界の神アルス神の声じゃ。

 【そして二人には酷いことを言わねばならん、今一度死んではもらえないだろうか?】

 「はい」

 「仰せのままに」

 【何も聞かんのだな?】

 「なんとなくは分かっております、カレン氏のことでしょう」

 【うむ、そのとおりだ。勇者との繋がりは出来たが、あの者では魔神との戦いには耐えられん、
 しかし、適任ではある。さらに因果のいたずらか、同じく資格を持つものが彼らの仲間となるだろう】

 「魔法食い……でしたっけ?」

 【そうだ。その者もこの世界における聖剣の担い手となれる素質がある。
 しかし、聖剣の力を宿すためには一度死なねばならない。
 生きたまま聖剣の力を宿せばその力によって魂も焼きつくしてしまう。
 それに、我らは魔神の力と知恵を見誤っていた。魔神は大量の眷属を産み、
 周囲の小動物や魔物を吸収して少しづつ力を蓄えるかと思ったのだが、
 どうやら現状の持てる力のすべてを砂漠の龍脈の力を喰うために注ぎ込んだようだ。

 龍脈は聖なる大地の力の集合体だ、それを利用するには時間はかかるが、
 その巨大なエネルギーを得ることができれば、
 10年と考えていた復活も1・2年短くなるだろう。
 龍脈は残り5箇所、ノーザンラクト黒竜が守りし地黒龍の巣、
 ウェスティア王都地下永遠の監獄最深部、イステポネ大神殿神の与えし試練の場最深部、
 魔王城最深部、それにサウソレス砂漠の大迷宮最深部。
 この全てを手に入れられてそのエネルギーを利用されては復活の時はすぐ訪れる。

 しかし今の彼らでは次の敵には勝てない。そこでお主らの力を借りたい。
 我が世界で魔神と戦い続けた叡智を、
 あのカレンというエルフと、新たに現れる仲間に与えて欲しい】

 「ふむ、儂の技が再び魔神を倒すために活かされる。そのためなら我が生命喜んで使いましょう、
 儂はすでに死んだ身。アルス様に助けられた命、お使いください」

 「私は悔いていました、あの子たちをこの戦いに巻き込んだこと、この世界を巻き込んだこと。
 それを救うためならこのメディアス、すべてを捧げます」

 【ありがとう。お主ら3人は我が世界の誇りだ。そもそも我があの世界に関われぬよう誓いを立てておったことで魔神に好き勝手させてしまった、その結果他の世界にまで、ヴェルには償いきれぬ貸しを作ってしまった。それなのにあの美しく優しい女神は共に戦ってくれれば良いと言ってくれた。
 我はその言に報いる。魔神と戦う力をあの二人に与える。お主らの力、借りさせていただく】

 「ははっ」

 「御心のままに……」

 【いくら最下層にいるゲンブ殿と修行をしてもすでに成長しきった二人では成長は望めないだろう、
 彼らの人としての因果を一度断ち切る。残念ながら魔神の眷属、いやアレだけの力だ使徒だな、
 その戦いにおいてほぼ確実に死ぬ。その時にゲンブ殿のお力も借りて、
 二人の中に聖剣の力とお主ら二人の力を取り込む。我が協力できる限界じゃ。
 世界設定セカイノコトワリがこれ以上の介入を許してくれん、すまん】

 「次のダンジョン攻略にはアルス神のお言葉が有ったと同行させてもらうかのぉ」

 「彼らに隠し事をしないといけませんね、また罪を重ねてしまう」

 「ワタルは甘いからのぉ、切羽詰まらないとわれらを犠牲にはできんじゃろ仕方がない。
 ところで儂が入る男とはどんな奴なのじゃろう……」

 【ふむ、一度見ておくがいい。魔剣を自由自在に使いかなりの使い手だ】





 その後二人は目を覚ます。
 バイセツは犬の姿。
 メディアスはフェレックの姿で。

 二人は短い時間だが教え子への隠し事に心をまた悩ますことになる。

 もう一つ

 『あの変態の中に入るのかぁ……』
 「あの変態の中に入るのね……」

 二人は苦悩することになった。




 

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