3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

44章 覚醒勇者

 バッツとカレンが目を覚ます。
 表情から察するにどういう状況かはわかっていそうだ、

 「ワタル様……申し訳ございません」

 「謝るなカレン! 二人の決意への侮辱になるぞ!」

 目頭が熱くなるが我慢だ、

 「二人共、キツイと思うが踏ん張ってくれ。
 この戦いでは生きろ。これが命令だ」

 「はい」

 「わかった」

 カレンが変態モードに入らなくてよかったなとか締まらないことを思う。

 オニを封じ込めていた甲羅に亀裂が走る。
 ありがとう、ゲンブ。

 「GYAAAAAAAOOOOOOAAAAAAAA!!!!!」

 咆哮とともに甲羅がはじけ飛ぶ、地面に落ちた甲羅は細かな粒子となって消えていく。
 大層お怒りだ、だが、俺らの怒りはそんなもんじゃねぇぞ!

 「奴の武器は破壊した、ただあの拳骨もかなりやばい、油断するなよ!」

 身体が熱い、体中に力が漲っているのがわかる。
 オニを見ると魔神の根が全身にはびこっているのがわかるようになっていた。
 それと同時に【種】の場所も。
 鳩尾、こいつの種はそこにある。
 それをぶち抜けば勝利だ。
 問題はこいつの硬ってぇ外皮だ。
 しかし、ヒントはすでに得られている。こいつの身体にもそれをやってやればいい。

 「カイ! 俺と一緒にこいつを限界まで燃やしてやろうぜ!」

 リクやクウの武器にも炎を宿らせる。細かな原理は分からないが、出来ると思ったからやった。

 「それでぶった斬ってやれ!」

 炎って言っても赤いチンケな炎じゃない、青い炎だ。
 カイは風魔法と火魔法を利用して高熱を有する魔法を作る。
 俺はもっと効率よく化学を併用する。
 炎の燃焼には酸素を送り込めばいい、空気中の酸素を送り込み、しかも延焼範囲を限界まで絞り込む。
 熱エネルギーの放出も魔法でコントロールして逃さない、
 さすがのオニも悶え苦しんでいる。
 外に逃さないからクウもリクも攻撃出来る、一石二鳥。
 上手に焼けましたー、ッてな具合で充分温まったろ。

 「よっしゃ! キンキンに冷やしてやる!!」

 武器へ冷気を纏わすのは万が一武器が壊れると困るからやめておく、
 同じ要領でカイと俺で急激に冷やす!!

 ん?

 待てよ?

 これ、絶対零度とか生み出せるのか?
 もしそうならどんな敵だろうが無敵じゃないか!?
 俺は極限まで温度を下げる、イメージだ。
 イメージ上ではこれ以上に下がらないはずまで下げた魔力をオニへ向けて放つ。

 バキャン

 空気が凍った。
 周囲の水蒸気が一気に氷結する、範囲は限定しているけど、室内の温度が一気に下る。

 オニは完全に止まっている。
 俺は慎重に石を打ち込む。

 オニの形の氷の彫刻はバラバラに成って消滅……はしなかった、
 体表はボロボロだ、禍々しい痣が気持ち悪く蠢いている、
 レジストってやつか、そりゃそうか。これが通用するなら全部絶対零度でおしまいだからな、
 そう上手くはいかない。
 だが、ダメージは絶大!

 「決めるぞ!!」

 オニはそれでも動く、腕を振り襲いかかる、だがダメージで動きが悪い、
 斬りつければ容易に皮膚を切り裂く、強靭な皮膚はボロボロだ!

 「奴の鳩尾に魔神の種がある、ぶち壊すぞ!!」

 檄を飛ばす。
 カレンの矢もザクザクと突き刺さる、リクの斧が右の腕を切り飛ばす、
 クウが顔に斬りつけ片目を奪う。カイの風魔法が左膝に大きくえぐる。
 オニが立っていられなくなり膝をつく、巨体が激しく膝をついたことで抉られた足が耐えられず、
 曲がってはいけない方向へ折れる。
 それでもオニは残った右足で立ち上がり、右腕で俺らに襲いかかる。
 その振り払う腕は力強さを失っていない、油断なんてしてる暇はない!

 「そこだぁ!!」

 狙いすまして右腕をパイルバンカーで弾く、奴の胸が目の前に晒される!

 「うおおおおおおお!!!!」

 鳩尾に剣を突き出す、バイセツから受け継いだ剣技を俺の身体がなぞる!
 さらに魔力で剣を超音波振動させる、オニの鳩尾に深々と剣が刺さる、

 バキン

 手応え有り! 一気に剣から魔力を爆発させる!
 結果、オニの腹部に巨大な穴ができた、漆黒の紋様は断末魔のように蠢き、
 そしてその巨大な穴に一瞬で吸い込まれた。
 糸の切れた人形のようにオーガの身体が倒れ、そしてグズグズと崩れていき、
 灰のように消えていく、残ったのは中空に浮かぶ黒い珠。

 「とどめだー!!」

 俺は袈裟斬りにその珠を斬る。
 半月状にボトリと下半分が落ちる。

 【グえァ!! ヲのれ小動物共がァ!!】

 残った半分の珠が形を崩し、しかも喋り出した!

 「諦めろ、お前はおしまいだ!」

 【ククククク……調子ニ乗りヲって、わシナど、バルビタールさマのひとカけラにすぎヌ】

 上空へ浮かんでいく珠、逃がすかよ。風魔法で位置を固定してやる。

 「逃がすかよ、バルビタールに伝えろ、必ずセイを助けに行くってな!」

 【かんゼんに調子にのりおって、だからこんな手にヒっかかるのだ】

 「なに!?」

 俺はその欠片を斬りつけ、魔法で消し炭にする。

 「とっさに斬り捨ててしまったが、何のことだ?」

 バタン!

 音に反応してそちらを見ると奥の部屋に繋がる扉が開いた、
 誰が!? 周囲を見ても全員がいる。
 しまった、あの落ちた方の欠片か!!
 あいつがわざとらしく喋ったのもゆっくりと上昇したのも、
 下に落ちた欠片から皆の意識を逸らすための演技か!?

 クウが一番早く反応して扉へ向かっている、俺も全速力で扉へ向かう。

 「気をつけろ!!」

 クウへ叫ぶ、しかし、部屋へ飛び込むとクウは悔しそうに立ち尽くしていた、

 「ワタ兄、やられたよ」

 部屋に満ちていた龍脈の強大な力を感じなかった、
 しかもその力を利用して俺らに挑むのではなく、
 完全に逃げの一手を打たれた。
 周囲をスキャンすると天井に小さな穴が穿たれていた、
 龍脈の力で無理矢理にダンジョンに亀裂を作ったようだ。

 その後探索をするとさらに奥にダンジョンコアと呼ばれる物があった。
 ダンジョンの最深部にあるダンジョンの心臓部、これを破壊するとダンジョンは死ぬ。
 俺達の目標はダンジョンの破壊ではない。
 ダンジョン最深部の宝箱、今まで誰も到達することのなかったこの宝箱が目の前にある。

 「俺達の力で、ここまで来たわけじゃない……これを開ける資格はない」

 俺の言葉に一同は納得してくれた。
 また来るぜ!
 と、帰路につこうとすると動く気配がある。
 こんなところにモンスターが?
 気配の元をさぐる。
 それはダンジョンコアの後ろの小さな小さな草のベッドの上に居た。

 亀だ。 

 小さな亀はピーピーと鳴いている。
 もしかしたらゲンブの……
 そっと手を延ばす。すると小さな光が盾から亀へとフヨフヨと飛んでいき。
 亀の頭に乗る、ゆっくりと吸収されていく。
 それと同時にダンジョンコアが告げる。

 【ダンジョンマスターが帰還されました、
 ダンジョンのすべての規制を通常レベルへ移行します。
 最下層部ワープゲート起動します】

 そういうことか。

 「また来るぜ、今度は宜しくな」

 俺たち一行は最奥のワープゲートをくぐり抜けた。
 光の通路を抜けると、上層部の行き止まりだった、背後には壁しか無い。

 試合には勝ったが、勝負に負けた。

 今の俺達にはそれがピッタリの台詞だった。

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