3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

39章 侯爵の想い

 「カレン様、ワタル様ようこそおいでくださいました。旦那様がお待ちですのでどうぞこちらへ」

 侯爵邸に通されると、洗練された所作の執事とメイドがズラリと出迎えてくれた。
 カレンさんは堂々としているけど、小市民の僕はなんかオドオドしてしまう。

 「こちらで旦那様がお待ちです。旦那様カレン様とワタル様をお連れいたしました」

 扉が音もなく開く。
 立派な応接室だ、床には一面に素晴らしい装飾を施された絨毯、
 素人目にも高そうな絵画がかけられ、テーブルからソファーから僕みたいな人間が一生触れることもなさそうなオーラを発している。
 奥のソファーの脇に少しふくよかだが品のある優しそうな男性が待っている。
 こどものように目を輝かせニコニコしている。
 この人がライス=ニコル=ノイエンシュタット侯爵だろう。

 「ようこそいらしてくれたカレン殿、ワタル殿。お呼び立てして申し訳ない。
 ささ、先ずはお掛けくだされ、今お茶と菓子を用意する」

 貴族ってもっとこう、アレだと思ってたけど、見た目通りすごく丁寧で優しそう。

 「ライス侯爵、要件を聞こう」

 ソファーに腰掛けるとすぐにカレンが切り出す。ちょっとカレンさん感じ悪いよ!

 「あ、ああ、そうじゃなカレン殿のお時間を無駄にしてはいかんな」

 ほら、なんかしょんぼりしちゃったじゃないか。実際見ると可哀想になる。

 「実は我街のダンジョンにモグリが出ておるのだが、どうやらかの有名な【黒衣の死神】がその正体という情報が入ってきたのじゃ」

 「黒衣の死神?」

 カレンさんの目つきが厳しくなる。

 「ウェスティアの大陸で一度やりあったことがある。手強い相手だった」

 「おお! カレン殿は実際に黒衣の死神と退治したことがあるのですか!? 
 それならばわかると思いますが、彼奴らはその実力はA~S級に匹敵する。
 それでいて行動は、なんというか唯我独尊。自分たちが面白いと思ったら好きな様に振る舞う。
 たとえその結果人が死のうが関係ないのじゃ、昨日も残念ながら3名の冒険者が犠牲になってしまった。
 けが人も含めると10人程被害を出してしまった。儂が不甲斐ないばかりに……」

 「いえ、侯爵様のせいではありませんよ」

 「カレン殿……そのお言葉だけで救われるのじゃが、それでも儂はこの街の領主。
 この街で起こる被害の責任の一端は儂にある」

 めっちゃ立派だ。この人ホントに立派な人だ。

 「しかし、あいつらが絡んでるとなると、厄介ですね。まず理由が読みにくい、
 理由がわからなければ対策も取りにくい。あいつらはなんとなく面白いと思った、
 そんなふざけた理由で好き勝手振る舞いますからね」

 真面目モードのカレンさんはステキだなぁ。

 「儂は冒険者の方々に返しても返しきれぬ恩がある。その冒険者の方々を危険にさらす奴らを許せんのじゃ! カレン殿、無理は承知でお願い致す! どうか、どうか黒衣の死神を倒してくれ!!」

 「わかりました!」

 「ワタル様!?」

 思わず返事してしまった。

 「ワタル様がそうおっしゃるのなら微力を尽くさせていただきます」

 「おおおお!! ありがとう、ありがとうカレン殿、ワタル殿!! この恩には必ず報います!!」

 「それでしたら最初に一人呼んでいただきたい人が居ます」

 「なんなりとおっしゃってください、出来る限りのことはします!」

 「魔法食いのバッツを呼んでいただきたい」




 公爵邸からの帰り道、僕たちは馬車に揺られていた。

 「ごめんカレンさん、侯爵様の力になりたくて……」

 「いいのですよワタル様、カレンはワタル様の忠実な僕。ワタル様がお決めになったのならこの身命をとして使命を果たします」

 「危ない目に合わせちゃうよね……僕達も手伝うから、無理しないでね」

 「ああ・・・・・・ワタル様にそのように言われてしまうと、私はわたしはァァァァァ」

 「ストップストップ! ところでカレンさん魔法食いのバッツさんってどんな人なの?」

 「ああ、ワタル様以前に申し上げたとおりどうか私めのことはカレンと呼び捨てになさってください、
 なんなら豚でもゴミでもお前でも構いませんはぁはぁ」

 「落ち着いてカレン、質問の答を」

 「カレン!? ハァハァなんと淫靡な響き……おっと、バッツでしたね。
 以前パーティを組んだことがあるのですが、ちょっと変わってはいるものの、
 その能力は今回のクエストには大変有益と判断しました。
 名前の通り、魔法を喰うのです。魔力と言ったほうがいいかもしれません。
 魔剣ソウルイーターに取り憑かれてそういう体質になってしまったという話です。」

 「の、呪われているの? 大丈夫なのその人?」

 「大丈夫なような、大丈夫じゃないような、戦闘能力は非常に高く、冒険者としてもそこまで問題があるわけじゃないのですが……説明するよりも会ったほうが早いと思います」

 「なるほど・・・・・・」


 バッツさんが見つかったという報告は翌日には家へと届けられた。

 「首都サウソレスにいてくれたとは幸運ですね。飛竜を飛ばしてくれるそうですからたぶん明日にはギルドへ到着すると思います」

 「カレンさん、バッツさんっていうのは魔法を喰らうんですよね?」

 「魔法ってうまいのかな?」

 「水魔法の水は味がなくて美味しくない」

 「敵味方関係なく周囲の魔法を喰らいます。バッツとPTとを組む場合は直接攻撃でしか戦えません。
 さらに回復魔法も使えないのでポーションなどは大量に用意した方がいいです、
 すでに手配しておりますので、各人アイテムボックスへ充分な物資を備えてください」

 「魔剣を持ち、魔法を喰らう。戦闘能力も高い。怖そうな人だねバッツさん」

 「そうですね、ある意味恐怖ですね、悪い人では無いのですが……」

 この時のカレンのなんとも言えない表情の正体を翌日呼び出されたギルドで思い知ることになる。


 「ま、まさか・・・・・・あの人……?」

 僕は一目見てその人がバッツさんであることを悟った。
 そしてなぜカレンさんがあんな表情をしていたのか、

 「そう、彼が魔法食いのバッツだ」

 そこに立っていたのは、巨大な剣を背中に携えた大男であった。

 髪型は金髪の縦巻きロール。顔は塗りたくった肌が白粉のように白く、つぶらな瞳。
 チークを使いすぎて頬は真っ赤、口にもぬらぬらとどぎつい真っ赤な口紅。
 首から下は黒々と日焼けした肌、はちきれんばかりの筋肉、そこら中傷だらけだ。
 それでいて、服装は……真っ黒なミニスカゴスロリだった……

 「あらーーーーーーーーー!!カレンちゃんご無沙汰ー!!
 もーーーーこっちから連絡してもなかなか連絡してくれないんだもーん!
 バッティ寂しい(´・ω・`)
 あら、その子たちなにー? キャーかわいい~~~~(*´∀`*)
 いいわねー、お肌ぴっちぴち!!
 水弾いちゃいそう! 3人共キャラ立ち半端なくなーい(´ε` ) ずるーい! 
 バッティ地味だから霞んじゃうー(´;ω;`)
 あら、そっちの男の子……」

 舐めるような視線が足から頭の先までねちっこくつきまとう。
 ゾクリ、と、まるで捕食者に見つめられた獲物のような気分になる。
 バッツさんはぺろりと唇を舐めるとボソリと 「いいじゃない」 とつぶやいた。
 小声でカレンさんが「だから嫌だったんだ」ってつぶやいたのが恐ろしい。

 これが僕とバッシュさんとの最初の出会いだった。

 

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