3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

38章 ケインとアベル

 「アベル!? 目を覚ましたかアベル!! 俺は、俺は……」

 助けたPT、紅きイカズチのリーダー、ケインさんは涙をこらえて神官服姿の男の肩を抱いていた。

 「い、痛いよケイン! せっかく治してもらったのにまた怪我しちゃうよ」

 腹を切り裂かれていた白い神官服の男はアベルさん。ケインさんとは同じ村出身の幼なじみだって。
 少し垂れている細めの優しそうな目と真っ黒い髪が印象的。
 ケインさんはキラキラとした目が印象的、なんとなく柴犬を思い出したよ。

 腕と足を折られていたのは剣士のサーリーさん、褐色の肌を持つアジアンな美人さんだ。
 武器の剣も少し変わっていて反ったシミターって武器を使う。
 ケインさんはやはりナイトだそうだ。
 深緑の髪と瞳を持つ無口な男性魔法使いのジンさん、
 アッシュがかった不思議な髪の色をもつフードで目をいつも隠している女性、精霊使いのサルッソーさん、
 金髪のポニーテールと引き締まった鍛えられた肉体に目が行く女性、棒術を使う格闘家のエヌラさん、
 以上の6人がPTのメンバーだ。

 それにしてもケインさんよっぽど心配だったんだな、まだアベルさんにしがみついて泣いている。
 気のせいかサーリーさんが二人を見る目が冷たい。
 サルッソーさんとエヌラさんがまぁまぁと取り繕っている。
 なかなか複雑なPTのようだね。うん。
 自分も瀕死だったサーリーさんが釈然としないだけだよね。
 アベルさんがケインさんの頭をヨシヨシしているのを、
 憎々しげに見つめているのも深い意味は無いよね。



 「お、お見苦しいところをお見せした、アベルトは小さい頃からずっと一緒だったので、
 取り乱してしまった」

 「ケインは昔っから僕の後をついて回っていたからねぇ……」

 「い、今では前に出てお前を守る盾になっているだろ、そもそもお前が俺をかばったりするから」

 ケインさんがまた涙目になってる。サーリーさーん? 怖いよ? 笑顔笑顔!

 「はは、ゴメンゴメン。ついつい身体が動いちゃったんだ」

 「アベル……」

 ケインさーん僕達居ますよー見つめ合わないでー。

 「ま、まぁ何よりみんなを助けられて良かったです」

 「私達の命を救っていただき感謝の言葉もありません」

 みんな再び頭を下げてくる。

 「ところで、何が起きたんですか? いくらなんでも敵の数が多かった気がしますが」

 カレンさんが質問する。

 「そうだ!! あいつらぜってー許せねー!!」

 サーリーさんが思い出したように怒りを露わにする。
 その後なだめながら話を聞くと、黒いローブを纏ったPTにトレイン行為をされたことがわかった。

 もともとあの場で3体のサイクロプスと戦っていた、A級PTである紅き雷にとっては堅実に立ち回れば充分に勝算は立っていた。
 しかし、その背後をそのPTが下層の方へ走り抜けていったらしい。
 それだけでも無言で通りぬけはマナー違反らしいけど、
 さらに酷いのがそいつらが立ち去ってしばらくすると、
 大量のグリズリーやワーウルフなどのモンスターが大量に部屋になだれ込んできた。
 サイクロプスを相手にしていて死角から襲われたケインさんをアベルさんがかばって、
 後は必死に守っていたけど多勢に無勢であの状態になってしまった。という話だった。

 なんかそういう話を聞くと今日下層へチャレンジという気持ちは萎えてしまった。
 紅き雷の皆さんを出口まで連れて行く事で纏まった。

 「重ね重ね本当にありがとう」

 なんどもお礼を言ってくるケインさん。その気持は充分に伝わりました。

 「大丈夫かアベル? キツイなら言えよ?」

 帰り道、少しでも段差や坂があるとアベルさんを心配するケインさん。

 「ケインは心配症だなぁ、もう怪我も治してもらって大丈夫だよ?」

 ケインさーん、その隣で、あー足折られた後遺症かなー? なんか引きずっちゃてるんだけどなーあたし、ってアピールしてるサーリーさんも見てあげてー。
 サルッソーさんとエヌラさんが肩をポンポンと叩いて首を振っている。
 これはもうお約束なんだろうねこのPTの。
 途中何体かのモンスターを倒して上層へ戻ってきた。

 「それにしても、カレン氏は当然としても皆尋常じゃない強さだな」

 紅き雷のメンツで一番レベルの高いエヌラさんにそう言われる、レベルは50だそうだ。
 ホントのレベルを伝えるといろいろとまずそうなので、

 「カレンさんに鍛えてもらいましたから」

 と、ごまかしておく。あとは女神の盾でアイテムボックスも説明がつく。
 A級PTである紅き雷からしてもアイテムボックス持ちは羨ましそうだった。
 基本冒険者なんて危ない職業につかなくても引く手数多なスキルですからね。

 「やはりアイテムボックスは便利だな、輸送量がまるで違う、
 あそこで食べた食事もあのような場所で温かいものが食べられるとは……」

 無口なジンさんも食事には並々ならぬ情熱を持つタイプのようだ。
 上層へ出てからは敵を蹴散らしながらあっという間に出口まで辿りつけた。

 「おお、出口だ!」

 ダンジョンから外に出る、なんか様子が変だ、妙に兵士と人が多い。

 「おお! 君たちは無事か!?」

 誰だっけ? と思っているとカイが、この街の入り口であったパーンさんですよ、隊長の。
 と耳打ちしてくれた。

 「何かあったんですか?」

 「実は悪質な冒険者がいるらしく、今日だけでも何件もトレインや、
 横取りの被害に遭っているそうなんだ」

 パーンさんは苦々しくそう教えてくれた。

 「実は、ダンジョンへ進入する登録もしてないモグリだそうなんですよ」

 ギルドの職員もそう続ける。
 こういうダンジョンへ正規の手続きを取らずに入り込む奴らをモグリって言うらしいです。
 内部で冒険者を襲ったり、今回みたいな悪徳行為ををするから冒険者からも嫌われているんだって。
 大体ダンジョンからの脱出は転移陣を使用するみたいでなかなか捕まえられないらしく、
 一部では深刻な問題になっている。

 その後ケインさんたちは事情聴取を受けることになった。
 しかし、そんな危ない奴らがいるならうかうかと冒険も出来ないな。
 これはケインさんたちに出会えて幸運だったな。
 あのまま下層へ行っていたら自分たちがあの状態へなっていたかもしれない。

 ケインさんたちと別れてから家へ帰る。
 サイクロプス達の素材をギルドへ預けてきた。
 ケインさんたちはいらないって言ってたけど、
 もともと倒されてたモンスターの素材はケインさんたちにきちんと渡した。

 食事の後はブリーフィング。
 議題は当然モグリについてだ。

 「正直対策はありません。だいたいしばらくするとねぐらを変えるのでそれまで探索を待つぐらいしか自衛の方法はないと言ってもいいと思います」

 「ダンジョン入口に扉とかつけて入場を制限するとかで対応できないのかね?」

 「モグリをする輩というやつは、無駄に実力があるのです。短距離の転移でダンジョンへ入られておしまいでしょうね」

 厄介だな。

 「どうやら下層へ入れるほどの実力の持ち主のようですからね」

 さらにそう付け加える。
 確かにそうだ。どうやら黒いフードで姿も隠しているし、登録もしてないから誰かもわからない。
 好き放題ダンジョンを荒らしながら標的を待っている。
 さらに下層へ行けるほどの実力者。
 一寸先は闇なダンジョン内でそいつらの相手をするのは当然命がけ、
 いや、命をかけてもなんのメリットもない。

 「しばらくこの件が落ち着くまで待機しかないかなぁ……」

 コンコン、扉がノックされる。

 「失礼します。侯爵様からの使いがカレン様へ」

 ケイナスさんが取り次いでくれる。

 あー、そりゃそうだよね……

 侯爵様がお呼びなので明日の朝侯爵亭へ来て欲しいという要請だった。
 カレンさんにお受けするようお願いして、
 詳しい話を知りたかったので僕もカレンさんに同行させてもらうことにする。

 

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