3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

序章 エイゼリーナの戦い

 ウルス暦437年10の月 呪われし大陸ゴーランドの魔神殿、
 その最深部魔神の間では今まさに死闘が繰り広げられていた。

 ガイン!! バギン!! ガキン!!

 強固な金属同士が信じられない速度、
 力を以ってぶつかり合う音が幾度と無く響き渡る。
 方や、美しき世界と言われたエイゼリーナを、
 わずか3年で荒廃とした大地に変えた、
 魔神バルビタールの持つ魔剣 バグオス。
 方や、エイゼリーナを追われ辺境ベッセルにおいて、
 初代ウルス王を中心として戦い続けた人間の、
 最後の希望、勇者ウォルフェンの持つ、
 神より授けらし聖剣 オルグォング。

 魔神バルビタールは圧倒的な力を持つ魔神であった。
 数多の魔獣、魔物、魔人を率い、
 圧倒的な力でエイゼリーナの世界を蹂躙した。
 人間も必死の抵抗を見せたが、多くの国家、都市、
 村落そのすべてが次々と討ち滅ぼされていった。
 追い詰められた人間に抵抗の力が生まれたのは辺境に追い込まれ、
 今まさにその命数が消えんとせん刻であった。
 エイゼリーナを愛する神より、
 聖剣 オルグォングを与えられた初代ウルス王が、
 魔神たちの猛攻を食い止めることに成功したのだ。
 生き残ることの出来た人間は必死に抗い続け、
 そして400年の時を経て逆撃の機会を作ることに成功する。

 勇者ウォルフェン。

 人の身でありながら超越した力を持ち、
 10歳の時に聖剣オルグォングに認められ、
 以後猛烈な速さで成長を続け、
 不倒の戦士 バイセツ、叡智の賢者 メディアスと共に、
 魔神勢の進行を退けるだけでなく、
 その領土へ深く逆撃を与えることに成功する。
 魔神配下の強力な魔獣を退け、
 四天王と呼ばれ恐怖の象徴であった魔人をも打ち破り、
 魔神の本拠地である魔神殿に攻め込んだのである。

 魔神バルビタールは対峙して悟った。
 この勇者が異質の強さを持つ人間であることを。
 過去千年に渡り自分の部下とさえ互角か、
 それ以下だった勇者とは別格の強さ、
 認めることを拒否をしているが、
 自らに匹敵する力を持つ勇者であることを感じていた。

 「おのれ!! 人間風情が我が居城まで、しかも我が前まで来るとは!!」

 勇者の持つ聖剣オルグォングは、
 払えば剣、突けば槍、撃てば斧と称される、
 変幻自在の力を持つ武器であった。
 扱う勇者の技量と相まって千差万別の攻撃が、
 四方八方から魔神に襲いかかっていた。
 ともに戦うバイセツ、メディアスも過去の勇者に比肩する実力を持ち、
 魔神と対峙する勇者を補助し余計な邪魔が入るのを防ぎ、
 そして時には魔神に攻撃を浴びせていた。
 すでに魔神が誇る軍勢は見る影もなく、
 エイゼリーナの大地の各所に打ち捨てられていた。

 「馬鹿な!? なんなのだ貴様らは!! 
 この千年の時において貴様らのようなふざけた強さの人間など、
 現れたことはなかった!!」

 「貴様らに虐げられた人間の想いが、俺らを生み出したのだ! 
 貴様は調子に乗りすぎた!!
 千年にも及ぶ我らが恨み、今この剣に乗せ貴様に叩きつけてやる!!」

 ウォルフェンの剣技は激流のごとく激しかった、
 積年の恨みを叩きつけるがごとく荒々しい、
 しかし、荒々しいがゆえに魔神の防御を打ち砕くことが、
 未だ出来ていなかった。

 「メディアス!! 周りは片付いた、拙者もウォルフェンに助太刀する!
 あのままでは魔神を討つには届くまい、
 やはり、アレを使う事になりそうだ!」

 戦士バイセツは巨躯を持つ雄々しい男であった。
 40台後半とは思えない鍛え上げられた肉体、
 想像を絶する修行の結果顔に限らず全身は傷跡だらけ、
 ただ背には一点の傷もなかった。
 黒い髪に黒い瞳。蓄えられた顎鬚のよく映える美丈夫であった。
 すでに滅ぼされ消えてしまった東の地の
 【武士モノノフ】の血を受け継いでおり、
 全身赤の甲冑に身を包み、
 新生丸シンセイマルという神代の刀を武器としていた。
 勇者の剣技を剛とするならば、バイセツの剣技は静。
 音もなく神速の剣技は圧倒的能力の差のある勇者にして、
 打ち伏せるのに難儀するほどだ。
 ただの力任せの勇者の剣技に曲がりなりにも技量を与えたのも、
 バイセツであった。
 アヤツは強すぎるゆえ技を真面目に磨かない、不肖の弟子だ。
 それがバイセツの口癖だった。

 賢者メディアスは美しき乙女であった。
 実年齢は謎に包まれているが、見た目は20代後半、
 白く透き通った肌に切れ長の目、
 美しいエメラルドグリーンの瞳。
 黄金とも称される金髪と合わせて神聖な雰囲気を持つ。
 純白のローブをまとうも、
 その体のスタイルを隠すことが出来ないほどの完成された美。
 それでいて残された人間の内政、戦闘時における知略、謀略、策略、軍略。
 無限の泉とも呼ばれる知識は脳筋勇者をこの地まで運んだ立役者であった。

 「そうね……それしかなさそうね。」

 「なんじゃ、お主のことじゃから何か策でも出してくれるかと、
 期待したんじゃがな!」

 「ごめんなさい。面前に立ってわかったわ、あの魔神は異常。
 ウォルも異常中の異常とは思っていたけど、
 それを持ってもバイセツの読み通りだと思う。」

 「フム! 覚悟は決まっておる。 
 おーい!! ウォル!! 
 これからワシがいっちょその魔神の動きを抑える、
 お主は持てる力のすべてを持って魔神を倒せ!!!」

 魔神殿に響き渡る声、その言動に秘められた覚悟を、
 魔神と撃ち合っていた勇者は正確に受け止めていた。

 「ああ!! バイセツ!! 任せた!! そして、任された!」

 うむ。
 バイセツはその言葉を胸に刻みこむようにうなずき。そして、静かに動く。

 「たかが人間風情がワシを止める!? バカも休み休み言え! 
 貴様ら虫けらがこの魔神バルビタールに触れられるとでも思うか!!」

 勇者の剣戟を受けながらなお数多の魔法を勇者の陣営に放ち続けている、
 この魔神は紛うことなき最強の魔神であった。

 「そうさの、貴様からしたら我等など虫なのであろう。
 だがな、一寸の虫にも五分の魂!
 人間の命の炎!! 貴様にかき消せると思うな!!!」

 バイセツはその激情を乗せた声とは裏腹に、静かに。あまりに静かに動き、
 魔神をしてその動きを捉えさせなかった。
 勇者と打ち合っているはずの魔神の目の前に、
 ス……とバイセツの姿がねじ込まれる。

 「な!?」

 「さらばじゃ、ウォル、我が弟子よ」

 その瞬間、バイセツは光となった。
 自らの命を媒介に行う武士の最期の技

 「乱れ雪月花」

 光の渦が魔神を包む、だがそれで終わりではない。

 「ライフバーストストリーム!!」

 メディアスはバイセツと以前に決めていたとおり、
 寸分違わぬタイミングでその魔法を発動させる。
 人の命を無理やり燃やし増幅させる魔法、禁呪である。
 バイセツの命をしても魔神を足止めする事もできないことは、
 対峙してわかっていた。
 そして、それに対抗する非情の手段も。

 「私は碌な死に方をしないでしょうね、きっと貴方とは逢えないわ。
 バイセツ。」

 増幅した生命の奔流が魔神の四肢を捉える。

 「こんなもの!!! ぬぐ!!! 
 く、こしゃくなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 「貴様ごときにバイセツの魂は千切れんさ。バルビタール。これで終わりだ」

 力任せの攻撃から一転、
 バイセツをして行使することの出来ない最強の攻撃が、
 勇者によって織りなされる。
 バイセツを送るかのように美しく、そして儚い煌めきが一筋。

 「次元断」

 奥義と呼ぶにはあまりに地味な一筋の剣筋。
 しかし、次の瞬間魔神をとらえた剣筋は力の奔流となり魔神を捉える!
 巨大な次元の歪みを生み、魔神の体を幾万に分離、破壊していく。

 「ぐぬあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ば、馬鹿な!! 
 われ、俺がこんな攻撃でぇぇえぇ!!!!」

 「諦めろ、バイセツが結び、俺が刻んだ。
 この世界の理から消えろバルビタール!」

 「馬鹿な!! ばかな!? バカナ……!」

 魔神の体は光の粒子となり消えていく、

 魔剣バグオスもその奔流に巻き込まれその身を破壊される。

 魔剣バグオス。数千年の昔から魔神とともにあり、
 その魔力を最もそばで受け続けていた魔剣。
 その魔剣が破壊される時、思いもよらぬことが起こった。
 大量の魔力の開放により、次元の裂け目が増大したのだ。
 そして、別の世界に繋がってしまうほどの強大な裂け目を作ってしまった。

 そして、さらに不幸なことは、
 その裂け目の先の異次元に、
 魔神の依代となり得る存在が存在してしまっていた……

 「な、なんだ!?」

 「コ、コレェウワァ……このケハイ……このケハァイイイィィィ!!」

 残すところ欠片となっていた魔神は、
 取り憑かれるように次元の裂け目に飛び込んだ!

 「馬鹿な、この気配は!? ウォル!! 追って!! 
 その先はまずいわ!!」

 メディアス自身もその裂け目へ飛び出していた、
 次元の裂け目を超えて別の次元へ、
 その結果がどのようなことになるのか二人は考える暇もなかった。

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