話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

テッサイ 〜青き春の左ミドルキック〜

進藤jr和彦

放課後

「久島君大丈夫!?」

 小山の蹴りを受けて呻いた久島に、住之江も声をあげて近づいた。しかし、久島自身は確かに痛みこそあれど、ジムで何人も、何回も腕を蹴られた経験があったので、痛みに対して慣れもあり、しっかり防御もできたのでダメージは皆無だった。

「平気、平気だから……」

 左腕上腕に残る少しの痛み、それを右手で少しブレザーを払って久島は誤魔化しながら、この場に居る皆に平気だと伝えた。

「うへぇ、久島凄いな……あのコヤマンゲリオンの本気の蹴りを受けて平気とかぁっ!?」

 後ろに隠れ、久島に守られた意味も無く、水本は小山からの拳骨を脳天に食らった。これまた鈍い音を響かせて、水島は脳天を押さえてその場に屈んだ。

「おっ!?ごっ!……ぉぉあああっっ!?小山おまっ、マジ殴りとかフザけ……ごぉおおお!」

「先にからかい始めたのはそっちよね水本ぉ、ゴメンね久島君……平気だった?」

 本来蹴るはずの相手とは違う人を蹴り、小山はその堂々たる佇まいとは裏腹に、女性らしくおどおどとして久島を心配した。しかし距離が近いなと、少し後ろに下がりつつ、目を合わせるのもなんだか違うと感じて、久島は目線と顔を外した。

「平気だ、平気だから……あぁ、そうだ、掃除も終わったから日誌とか僕が渡してくるからさ、皆んな帰っていいよ!」

 気まずい雰囲気に、この場から逃げてしまいたいと思った久島は、教卓の日誌を見るや、それの受け渡しを口実に教室から逃げようとした。久島は、受け渡しを皆に言い渡して日誌をひっ掴み、出来るだけ笑顔をと慣れぬ笑顔を作り上げて見せ、早足に教室を去って見せた。

「あぁちょっと!久島君!!」

 しかし、蹴った張本人、守られた張本人、傍観者の三名からすれば、この様子は別の意味で取られてしまっておかしくなかった。呼び止めた小山は特に、足を止めてしまい、顔面を青白く染め上げている。

「どうしよう……あれ、絶対怒ってるよね、顔が引きつってたし、やっぱり痛かったんだ……」

「久島君、大丈夫でしょうか……左腕さすってましたし……」

 住之江も、久島の素早い退散に本当は痩せ我慢し、さらに小山を怖がって逃げたのではないかて心配そうな声を出していた。

 一方、小山の拳骨をまともに喰らい、屈んでいた水本は、やっと立ち上がり、久島の出て行った教室の出口、さらに窓際の最前列にある彼の、慧学館高校指定革バッグを見てから、小山の拳骨で乱れた髪の毛を右手で弄り、セットを整えてから、はぁと息を吐いた。

「しかたねぇなぁ、久島には俺から謝っといてやるからよ……」

 水本はそう言いながら、久島の鞄を取りつつ、恩着せがましく小山に言ってからその場を去ろうとしたのだが。

「元はと言えばお前が焚きつけたからだろうが!」

「ほんぎゃあああああ!?」

 そもそもの原因はお前だと、小山の怒りを乗せた蹴りを臀部に受けて、水本京介は叫びをあげるのだった。



「それでは、失礼します……」

 日誌を届け、久島は一礼してから職員室から出た。先程の逃げる形となってしまったが、何とか上手く立ち去れただろうかと思いながら、さっさと帰ろうかとしたが、ここに来てある事に気付いた。

「うわ……鞄忘れた」

 そう、鞄だ。教室に鞄を置いたままだった。久島は、このまま戻ればまだ教室に居るだろう、小山さんに出会い、気まずくなりかねないと思い、取りに行くべきか悩んだ。

 しばらくすれば帰っているだろうし、それから回収しようかと決めた久島だったが。

「おーい、久島くーん……大丈夫かー?」

 背後より、聞き覚えのある声を聞いて久島が振り返れば、そこには先程掃除で一緒になり、小山をからかった長髪で矮躯なクラスメイト、水本京介が歩いて来ていた。その右手には、自分が忘れた学校指定の鞄が携えられていた。

「水本君……」

「小山に会いたくないんだろ?おっかねーもんなー……あ、投げるぞー?」

「おっと……」

 水本は、一度投げると断り、久島が構えてから下投げで鞄を投げ渡せば、久島もしっかりそれを受け止めた。

「別に……気まずかったからさ、小山さん大丈夫だった?」

「心配しねぇでも、あいつは大丈夫だよ、何せ進撃の女巨人、コヤマゲリオン、戦艦小山だぜ?ガサツで図太いのがあいつだからさ」

 先程から、女性に対しては明らかな侮蔑を込めたアダ名をあげる水本に、久島は少しだけ顔をしかめたが、他人から見れば余りにも細かすぎる表情の変化で、水本は気づかなかった。

「そのアダ名、まるでよく知ってるみたいだね、小山さんの事」

「中学も一緒だったからなー、同じ中学の男子はみんな、あの小山陽子を揃って呼んでたよ」

「あ、名前陽子さんて言うんだ……」

「今更すぎねぇ?久島君……」

 そういえば、小山だけ名前を聞いてなかったのを思い返し。水本から名前を聞いた久島は、水本から投げ渡されたバッグを右手に持ち直してから歩き出した。

「バッグありがとう、それじゃあね水本君……」

 バッグの礼を言い、普段通りの帰路へと足は向かう筈だった。

「え?ちょっ、久島君、そのまま帰るん?」

 だが、水本は驚いて久島を呼び止めた、これに久島も立ち止まり、不思議そうに水本の方を見る。

「帰るけど……何か?」

「いやいや、ここからさ、ハンバーガー食いに言ったりゲーセン行ったりとかさ、カラオケ行ったりしないの?」

「しないけど?」

「嘘だぁ……俺、久島君とその気満々だったんだけど?」

 水本は、本当に本気で言っているのかと、さも自分がこのまま帰路につくのが、まるで隠れキリシタンを見つけた武士の如き弾劾に近い勢いで、寄り道しない久島にそう言い放った。

 しかし、久島にとっては、ついぞさっきまで名前すら知らなかったクラスメイトより、いきなり寄り道に誘ってきた事が不思議でならなかった。何故自分なんだろうか、余りにも唐突すぎる出来事に久島の顔は驚きに強張った。

「そ、それまたなんで?」

 何故自分を誘ったか、その理由を端的に聞いた久島に、水本は……。

「えーと、コヤマンゲリオン被害者の会として?うん、そうだ、そうしよう、な?時間あるだろ、行こうぜ行こうぜ!同じ戦艦小山に撃沈された者同士としてさ!!あーたたた、さっきケツ蹴られたのがまだ痛いわ……」

 小山陽子の被害者同士という、彼女が聞いたらまた蹴られかねない理由を言って、久島の前を歩き出した。

「結局蹴られたんだ……」

 しかも、結局ケツを蹴られた事を知った久島は、勢いに押されて、歌舞伎町ホストヘアの顔立ちのいい同級生、水本京介と共に、人生初の下校からの寄り道をする事になったのだ。



 下駄箱よりスニーカーを取り出し、履き替えて校門へ向かう。隣にて揚々と歩く水本京介は、何やら先程から鼻歌をご機嫌に刻んでいた。さて、こんな時どんな会話をするのだろうかと、最早ぼっちが板についていた久島は、話題やら他人との話し方を忘れていたので、水本の横に並んで歩きながら考えた。

「そーいや久島君ってさ……結構普通に話すんだなー」

 しかし、先に水本より話を振られた久島は、その話の内容が理解できず聞き返した。普通に話すとは、どんな意味合いなのかと。

「普通……と、おっしゃいますと?」
 
「堅苦しッ、いや……まだ一年始まって数十日でさ、俺もまぁ、おないと話したりとかするけど、久島君の事よう聞くんよ、何考えてるか分からん、ガタイが良くて……」

「良くて?」

「……キモい、奴と」

 久島は空笑いするしかなかった、ただ、そう思われても仕方ないなとは重々理解はしていた。誰とも喋らず、ボーッとするか授業を受けているかで、ずっと一人でいる生徒など、気味悪がられても仕方ないのだから。的確に的を射ていると、認めざるを得なかった。

「俺はそう思ってないよ!あー、なんつーか……取っつきにくいなぁとは感じたけどさ、案外普通に喋るんだなぁって……」

「それで普通に話す……か、話し相手もいないし、話す事も無いからさ」

「いや悲しすぎない!?え、何?同じ中学居ないの、一緒に通ってる奴とか!」

「居るけど、親しく無いし……中学でもそんな感じだったからさ」

 淡々と、己のぼっちな姿を話す久島に、水本京介はあんぐりと今にも口を開けそうな、顔色に映る程の驚きを見せた。久島としては、今の今まで中学一年から現在において、ぼっち生活を送っていたので別段気にしてはいないが、一般的な交友関係を持つ者からしたら、それは特異かつ信じられない事であった。

 だから、久島秀忠は水本京介の表情やら、驚き様に対して別段反応を示す事は無かったのだが。

「悪い、ほんっとごめん久島君、俺地雷踏んだ……いや、踏み抜いてるわ」

「えっ、別に……謝る様な事言われてないけど?」

 水本からしてみれば、明らかに、触れてはならぬ事に触れてしまったと、申し訳なさそうに頭を下げた。しかし久島は、いきなり謝られたので驚くしかなく、水本をたしなめた。

「結構失礼な事言ってしまってんだけど……本当ごめんな、せっかくだし何か奢るからさ……」

「そう?じゃあ……紙パックジュースでも、缶ジュースでもいいよ」

 まだ申し訳なさそうにしている水本に、本当に大丈夫だからと言おうとしたが、これ以上は永久に問答が続きかねないと思った久島は、切り上げる意味を込めて水本の奢りを受ける事にした。



 慧学館高校から婿川駅までは近いので、学生達は退屈な授業を終えた後は駅前をうろつき、ファーストフード店やらファミレスにたむろし、駅前ショッピングモールにてウィンドウショッピングやらで時間を潰す事が多い、それは慧学館高校だけでなく婿川市内の私立高校生もまた駅前で時間を潰すので、夕方は様々な学生達の姿を伺う事ができる。

 普段こそ、ジムか自宅に一直線な久島にしてみれば、駅前の娯楽やらに向かう事自体は久々、いや、初めてと言っても過言ではなかった。しかも、そこまで知らぬクラスメイトが、突然の誘いを経てという経緯で、久島は人生初の寄り道をする事となったのだ。

 しかし、広いなと婿川駅前中央口まで到着した久島は、ジムに行く為通り過ぎはするが、あまり注視しない景色を見て、単純な感想を漏らすのだった。行き交うビジネスマンや、どこかは知らぬ学生、ガイドブックを片手にうろつく外国人観光客等、この街に住んでいながら見た事も無い景色に、戸惑うばかりであった。

「人多いなぁ、ゴミゴミしてる……」

「久島君この辺なのに、駅前で遊ばんのか?」

「遊ぶことすら無いから……まぁ、帰るか、ジム行くかだね?」

「ジム?」

 駅前で遊ばないのかと水本に聞かれた久島は、それこそ寄り道自体しないから帰るか、ジムに向かうしかないと答えた。ジムという単語に反応した水本に聞き返され、別段隠すことは無い久島は淡々と答えた。

「うん、キックボクシングのジム、中学でタイミング逃して部活入れなくて……それからずっと行ってるね、駅前近くなんだ、家も少し離れた先にあるし……」

「あー……それでか、ガタイいいの。じゃあ、マジであの時のコヤマンゲリオンの蹴りが痛くなかったわけ?」

「そんなに痛いかな……?」

 水本は、それで久島が異様に肉体が大きい事を納得すると、先ほど庇って貰った小山陽子の蹴りが本当に効かなかったのかと聞かれた。確かに重たくはあったが、プロキックボクサーの熊谷に比べたら、其れ程痛くなかったので、彼女の蹴りはそんなに痛いのだろうかと水本に聞くのだった。

「いやいやいや、あんな足で蹴られたら悶絶だってば、中学時代であいつにケツ蹴られた奴は、絶対悶絶してるから……あー、思い出したらまたぶり返して来たッ!ジンジンするわ〜」

 水本談によると、相当な蹴りらしい。確かに……あの鍛えあげた太ももの蹴りならば、普通の、特に水本京介の様な細身な男は、悶絶するのも現実的と久島は思えた。

「でな?からかった奴が蹴られる度に言うんだよ、◯◯ータイキーック!って、あの大晦日のバツゲームみたいにさ……」

「あのバツゲームね、見てるけど、あのタイ人は元ムエタイチャンピオンだから、蹴りは相当痛いよ?」

「え、そうなん!?あのタイ人ガチだったの!!それ知らんわ……え、何?じゃあ俺ら男子は、小山のムエタイチャンピオン並みの蹴りでケツシバかれてたわけ!?」

「いや、小山さんの蹴りはそんなに強くは……多分、うちのジムの人くらいかなぁ?」

「経験者並みの蹴りで俺らシバかれてんだな……」

「からかうから、蹴られるんだよ?」

 小山陽子の蹴り談義という、なんともニッチな話が展開されれば、水本京介はなんとも大袈裟に反応し、受け答える様子に、久島はそこまでこの話が面白いのだろうかと思うものの、先ほどのぎこちない会話では無くなっていて、なんとか普通に話せている自分がいる事に気付いた。

「あーそうかそうか、そりゃ効かないわな……納得したわ……つまり今度からは久島の背後に逃げれば……」

「いや、からかわなければいいんじゃない?」

「ナイスツッコミ久島君、けどなー、やっぱり面白いんだよなー、小山からかうのさぁ」

 毎回隠れられて、小山さんの蹴りを食らうのは流石にそれは御免被ると、またからかおうとする水本に釘を流石、さながらハッピーターンのハッピーパウダー中毒の如く辞められない、止まらないとばかりに水本は小山をからかうのを止めれないと言った。

 しかし、こうも小山陽子をからかう水本京介に、久島はある言葉、お約束を思い出していた。

「じゃあ、水本君は小山さんが好きなの?」

「なんで!?」

「いや、気があるからからかってしまうという……よくあるあれ?」

 好きだからこそ、ちょっかいを出すというテンプレかと思ったので、直接聞いた久島だが。

「いやいや無い無い、無いから……小山はマジ勘弁だわ、あんな暴力女さぁ……」

 それは無いと、ケタケタ笑いながら否定した。確かに、水本京介は華奢だが、顔は整い髪の毛も手入れをしていて、女性にモテそうな……いわゆるイケメンと言う奴に数えられるなと、久島は思った。

 ならば、元からタイプでは無い女性に対してはあの様にからかうだけなのも頷けてしまう。

「ふーん……つまり……水本君は、とっかえひっかえ出来るほど親しい女の子が沢山居るの?」
 
「いやなんでそうなるん!?」

 久島から放たれた心外かつ、突拍子も無い答えに水本も驚くしかなかった。

「いやだって、水本君髪の毛もカッコイイし、顔もいいし……ホストみたいだからさ、小山さんをからかえる程女性には困らないのかなぁって……」

「え!?そ、そう?いやホストかぁ〜、これビジュアル系なんだけどな〜、まさかそこまで褒められるとは……悪い気分じゃあないな……」

 しかし、まさかの真正面から髪の毛も顔もカッコイイからと、その言葉の理由に悪い気がする訳がなく、ニヤついてしまう水本京介であった。

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く