龍と友達になった少年

榊空

少年の過去9

「いらっしゃいませ!」

入った店のなかにいたのは、女性の店員だった。日に焼け褐色になった肌を覗かせる店員に目を奪われていると、ぷくっと頬を膨らませた美樹に腕をつままれる。

「え、いたいいたい!」
「ちょ、美樹。いたいんだけど!」
「ふん! 知らない」
「な、なんだよ急に?」
「さ、さあ?」
 
ソラと海は首をかしげるが、美樹は顔をそらして明後日の方向を向いている。

「あはは、君たち? いつものスパイス買いにきたんだろ? 違うのかい?」
「あ、そ、そうです! い、いつものを買いに?」
「あ、その……、はい」
「なんかわるい。えっと、いつもの人は?」
「店長ならいるけど、今は倉庫で在庫整理かな? でも、大丈夫だよ。いつものお客さんが来たら渡しといてって言われてるから!」
「あー、それなら良かった」
「えっと、このかれぇ? に使うスパイスね」

店員の言葉に不思議そうな顔をしたソラは、海の脇腹をつつき小声で話しかける。

「(なぁ、カレーって一般的じゃないのか?)」
「(あー、兄ちゃんしか作ってる人は見てないな。あのレシピも兄ちゃんが作ったものだし)」
「(え、大知さんって料理の開発もしてるのか?!)」
「(開発っていうより、知ってる味に近づけていってる感じだったけどな)」
「(? 大知さんってすごい人だったんだな)」
「(そうだな、まぁ、とりあえず買って早く他のところに行こうぜ。もうそろそろ美樹も我慢ができなくなってるみたいだし)」

そう言って目線を美樹に移すと、臭いを我慢しているのか顔をしかめたまま離れたところで立っている。

「そのスパイスであってると思う。一応、ここにメモがあるから確認するよ」
「うん、分かった」

海が店員に手渡されたスパイスとレシピの材料を照らし合わせて確認していると、店員がソラ達の方に近付いてくる。

「そうだ、今更だけど私の名前はマーサよ。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「お姉さん。よろしく」

マーサからの自己紹介を受けたあと、確認作業を待ってる間談笑していると外から騒がしい声がする。

「なんか、慌ててるような声が聞こえる」
「そういえば、そうね。何かあったのかしら?」
「ソラ! 確認終わったし、気になるなら外に出るか?」
「そうだね。気になるし」
「私も気になるし、一緒に出ようかしらね」
「それじゃあ、皆でお外に出ようよ!」

美樹は早くでたかったからか、嬉しそうに外に走っていく。その後ろ姿を呆れた様子で追いかけていき外に出ると、先程までの賑やかさとは違う緊張感が漂う騒がしさになっている。

「なんだ? いつもと違う」
「何かあったのかな?」
「そうねー、なにかないとこうはならないでしょうし」
「お兄ちゃん、なんか怖いよー」
「あー、お前は俺たちの近くにいろよ」
「うん」

美樹は回りの雰囲気でなにかを感じ取ったのか、顔をこわばらせてソラ達の後ろに隠れる。そんなとき、急にソラ達のいるところが暗くなる。

「なんで、ここだけ影になっているんだ?」

不思議に思ったソラたちは後ろを振り向く。そこには、一体のドラゴンが立っていた。

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