優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

【エピローグ】月の石の願い事

その日から優希ゆうき主李かずい実里みのりは共に大学に通うことになった。
車は駐車場を近所で借り受け、通学する。

翌年には二人きりで通学するようになった。
そして、帰りにはちょっとしたところに行き、デートである。



ある日、夕暮れ、愛犬のかずきと3人で散歩に行くことになった。
その日は、満月。
かずきは嬉しそうにスキップしている。
10才を過ぎたのに、ヤンチャである。

ゆっくりと歩きながら告げる。

「今日がブルームーンって知ってた?」
「えっ?知りませんでした」
「やっぱり」

クスッと笑った主李は、デートの時には必ずつけている指輪と優希が指とネックレスにしている指輪を示す。

「会いたいと……絶対に優希と一緒にいるんだと願ったんだ……バラの苗……覚えてる?」
「はい‼ピンクの薔薇の花束と一緒に‼あの苗、大きくなって……」
「花言葉知ってる?」
「えっと、『夢叶う』『不可能』……?」

恐る恐る告げた恋人に、

「違うよ。その意味もあるけど、『奇跡』『神の祝福』、『mystery(神秘的)』『attaining the impossible(不可能なことを成し遂げる)』という意味があるのと……」

ポケットから、小さな箱を取り出す。
ふたを開けて、優希の誕生石のシンプルな指輪が見えた。
驚き、手を口に当て、主李と指輪を見る。

「『Love at first sight(一目惚れ)』……大学を卒業してからでいいんだ。俺と結婚してほしい……ダメかな?」

瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

「わ、私で……良いですか?」
「優希がいい。優希は?」
「……か、主李くんが、いい……」
「ありがとう……泣くなよ」
「だってうれしい……」

指に指輪をはめてもらいながら、囁く。
「な、何も持ってこなくて、ごめんなさい……あ、あの……」
「何?」

顔を近づけると、なぜかうーんと背伸びをして、額に唇を押し付ける。
突然のことと、されるとは思わなかったため、硬直する。
首をかしげ、

「あの、ほ、本当は、お別れの前日の、ブルームーンの時に、したかったんです。く、唇とか、頬は……はしたないって言われたら悲しいので……」
「……っ……」

今度は、主李が片手で顔を覆い隠す。

「あのっ、あのっ?主李くん?」
「忍耐……頑張れ、俺‼」
「?主李くん?」
「いや、何でもない。な?かずき?」

かずきは嬉しそうに尻尾を振る。

二人は手を繋いで歩き出した。



青い月は優しい月……。
その月の力を分け与えられた石は、幼い恋人達の願い事を叶える。
その柔らかな力は、悲しみに打ちのめされても、手を繋いで歩く、希望をもたらす明り……。



「月が満ちているとき、ムーンストーンを身に付けていると、未来の恋人に会える……」
「ムーンストーンに口づけをしながら願い事を祈るとそれは叶う……」



これは言い伝え。
けれど、優希と主李には大切な、長い間かけて叶えた願い事……。



2016年5月21日はブルームーン。
そして次のブルームーンは2019年2月19日……。

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