優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

再会と再びの『好きだよ?』

あれから4年……。

優希ゆうきは、希望していた京都の大学に合格した。
中高一貫教育の学校に編入したものの、そこはお嬢さん学校のため、外部の進学校に高校は入学し、勉強に、読書に、そして嫌いではない礼儀作法や着物の着付け、茶道、華道、香道、日本舞踊、琴も楽しみつつである。
あまりの優秀さに、両親は頭を抱えたが、優希は優希らしく成長し、普通に希望通り大学に進学した。
進学したのは歴史や文学、古文漢文などを中心に学べる科。
入学が決まったときに、優希は珍しく大喜びした。

入学式に、選んだのは着物である。
選んでくれたのは従兄の紫野むらさきのの奥さんで、雛菊ひなぎく

本当はイングランドの人で、行方不明の穐斗あきとの姉である。
穐斗は優希と別れて半年もしない間にイングランドで誘拐され、行方不明なのだという。
双子の妹がいて、生まれたときから連れ去られていて、その妹の代わりに連れ去られたままなのだという。
優しくしてもらった穐斗がいなくなったのは悲しいが、双子の妹のほたる祐也ゆうやが結婚した。
従兄の醍醐だいごは、穐斗や蛍のお母さんである風遊ふゆと結婚したのだった。

風遊も蛍もとても美人で、羨ましい……。
自分は、そんなに美人ではないし、器用な性格でもない。
ただ、母の紅葉もみじと伯母の櫻子さくらこが、いつも嘆くのは、

「ほんに、娘が二人もおる言うのに、一人は本を読んでいたら幸せ……もう一人は……」

竜樹たつきは、完全なオタクと化していた。
いや、京都オタクである。
京都中を移動して、歴史の場所を調べ歩き、それをネットにあげている。
その情報は姉にも流れ、実は優希は小説を投稿していたりもする。



「あら?おとうはん、おかあはん……どうしはったんでしょう?みなはん」

優希は首をかしげる。
優希は、読書や勉強が好きで、然程べべや化粧に関心を持たなかった。
一度叔母と母に、

「基礎化粧品と日焼け止め」
「日傘だけは忘れたらあきまへん‼」

と言われたため、怠っていないが、化粧は久しぶりである。
雛菊と伯母に手伝ってもらったのだが……。

「べべ、似合いまへんでひょか?スーツの方が……でも、べべの方があては好きなんどす……」
「いやいや、ようにおうとるきに、驚いとるんや」
「そうでっしゃろか……恥ずかしいおす」

髪の毛は毎日両親が手入れを慣行。
くるくるとした肩までのウェーブの茶色の髪はふわふわ揺れる。
日傘を差し、入学式会場に向かう時にカメラのシャッター音が響く。
とっさに、

「ひっ!……」

竦み上がる優希を抱き寄せ、賢樹は、

「君は?突然何も言葉もなく娘を撮らないで戴けないかな?」
賀茂かもはんの養女でっしゃろ?4年前に……」
「個人情報を探るのは気に入らないね。君は何処のカメラマンだね?」

賢樹は厳しく誰何すいかする。
しかし、黙ったまま優希を撮ろうとするのを、つかつかと近づいてきた二人の青年が、

「止めろ‼大学の入学式に、何しに来とるんで⁉」
「ほんとに、やだね……やっ!優希久しぶり‼」
「こらぁ‼何でお前が挨拶するんだよ‼」
「やだねぇ、狭量。それよりも、あのカメラマン……」

構えようとしたのを、取り上げる。

「やめんか‼ボケが‼」
「警備員さん‼個人情報を根掘り葉掘り聞く、この人どうにかしてください‼」
「カメラに……ほら!」

やって来た警備員に、デジカメの映像を見せる。

「これ、隠し撮りって言うか、犯罪じゃないですか?」
「ありがとう、君たち‼来い‼お前‼賀茂はん失礼しました」

連れられていく男を見送り、

「ほんにありがとうございます。助かりました」

頭を下げて、にこっとわらう。
父から教わったのだが、二人の青年は硬直している。

「あ、あの……大丈夫で……あ、忘れとりました。すんまへんでした。あては賀茂優希かもゆうき言います。よろしゅうおたのもうします」

くくくっ……
と笑っているのは父。

どうしてだろう?

首をかしげると、

「優希‼忘れたんか。俺を‼」
「かずの意見に同意するのは不本意だけど、俺の事も忘れた?」
「えっ?……」

人の顔をじっと見るのは良くないが、ついまじまじと見つめ……、

「か、主李かずいくん?実里みのりくん?」

確認するように、祈るように告げる。
声は低くなったが、伯父の嵐山らんざんほどがっしりではなくバランスのよい体躯の美青年と、温厚そうなホッソリとした青年。

「そうだよ‼優希約束しただろ‼ここに入学するって。だから俺は必死に……」
「かずは危なかったんだよ~。でも絶対に優希と同じが良いって」
「お前だって‼」
「……会えた、ですね……」

涙が溢れる。

「わぁぁ‼泣くな‼優希‼ごめん‼遅くなってごめん‼本当は去年の2月にと思ってたけど、受験勉強で……」
「それにさぁ、自分がいけないからって俺にも行くなって。まぁ、学校があったんだけどさ」

渡されたハンカチで涙を拭きながら、

「会いたかった……会いたかった……。一回修学旅行にきなはられたでひょ?」
「まだ入院中で会えなかった……」
「そうそう。それに自由時間も場所が決まってて。な?」
「そう。悔しかったなぁ……」
「で……」

聞こうとした優希に、

「優希。式が近いよ。行かなければ」
「はい、おとうはん。主李くん、実里くんもいきまひょ?」



つつがなく式は進行し、終わると、

「おとうはん、おかあはん、主李くんと実里くんを家にご案内してもよろしいでひょか?」

と問いかける。
賢樹は、

「構わないよ。行こうか」



運転するのは父の賢樹。

「すごい。クラシックカーですね。大事にされてる……きれいに磨かれていて」
「おや、良く解るね。主李くん。私の愛車だよ」
「実は俺……私も、クラシックカーを。買ったのではなく譲っていただいたのですが……綺麗にすればするほど、車も喜んでくれると思って……」
「それはいいことだよ」

会話が弾む。
実は京都は車が不便である。
中心部は特に渋滞が多い。
これは観光都市であるゆえんだが、京都には名所が多く、もし壊して道を……となると、国宝、重文級の文化財が消える。
その為、バスや地下鉄、もしくは洛西らくせいに向かうには電車がいい。
しかし、優希の住む地域にはバスが多くとも迂回が多く、大学に行くためにはどうしようかと思っていた。
父に頼むのも悪い。
バスを乗り継げば……。

「おとうはん。バスの定期券は何処で買えますやろか。大学に合格が決まってしばらく、おじさまのお家にいさせてもらいましたよってに、何も……」
「はぁ?優希。今言ったじゃないか‼車があるって‼」
「えっ?毎日迎えに来てくれはるんですか?それは、あきまへん……」
「あ、忘れていたよ。優希。紹介するよ。家に下宿する守谷主李もりやかずいくんと菊池実里きくちみのりくん」
「えっ?」

硬直し、二人を見る。

「き、聞いてまへん。おとうはん、おかあはん……え、ちょ……空いているお部屋は離れですよね?」
「そうそう」
「いつの間に……」
「空いてるからいいと思ってね。ほらついた。優希。案内しておいで。離れ以外は二人ほとんど行き来していないから」
「は、はい‼」

車を降り、家というよりも屋敷を案内する。

「ここが玄関どす」
「玄関から立派‼」

感心する実里。

「あぁ、離れにも裏口が……」
「あれが裏口か‼」
「はい。竜樹が学校が近いのでつことります」
「……すごいわ」

キョロキョロ見る二人、と、

「おかえりなさい~‼あ、先輩たちも」
「あ、主李。俺、竜樹と話す。二人でどーぞ」
「じゃ、行くか」

主李は手を握り、歩き出す。
大きさは違ってしまっていてもその温もりは、あの頃と同じ……。

胸に点る思いも、切なさも、喜びも、初恋の頃のまま……。

少し歩いて、主李は振り返る。
優希の右手を取り、見つめると笑顔になる。

「……着けてて、くれたんだ……」

レインボームーンストーンの指輪。

「はい、宝物です……」
「俺も今日はここ」

胸を押さえる。

「優希。もう一度言ってもいい?」
「は、はい?」

握られた手が、熱い。
頬も赤いだろう。
それでも、見上げる。



「俺は、優希が好きだよ?」



ハッキリと丁寧に……4年前と同じ一言に胸が熱くなる。

首をかしげ、

「優希は……?返事を聞かせてほしい」
「わ、私は……」



いろいろなことがあった……。

悲しいことも、苦しいことも……。
辛くて、涙ばかりだった。
でも、近くにいて支えてくれた……。
大事な……特別な人……。

優希は息を吸い、口を開いた。



「私は、主李くんが好きです……だ、大好きです‼」



そっと、背を包み引き寄せる腕。
その温もりに、身を寄せる。



「ありがとう……これからも、好きだよ?」

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