優しい希望をもたらすものは?
再会と再びの『好きだよ?』
あれから4年……。
優希は、希望していた京都の大学に合格した。
中高一貫教育の学校に編入したものの、そこはお嬢さん学校のため、外部の進学校に高校は入学し、勉強に、読書に、そして嫌いではない礼儀作法や着物の着付け、茶道、華道、香道、日本舞踊、琴も楽しみつつである。
あまりの優秀さに、両親は頭を抱えたが、優希は優希らしく成長し、普通に希望通り大学に進学した。
進学したのは歴史や文学、古文漢文などを中心に学べる科。
入学が決まったときに、優希は珍しく大喜びした。
入学式に、選んだのは着物である。
選んでくれたのは従兄の紫野の奥さんで、雛菊。
本当はイングランドの人で、行方不明の穐斗の姉である。
穐斗は優希と別れて半年もしない間にイングランドで誘拐され、行方不明なのだという。
双子の妹がいて、生まれたときから連れ去られていて、その妹の代わりに連れ去られたままなのだという。
優しくしてもらった穐斗がいなくなったのは悲しいが、双子の妹の蛍と祐也が結婚した。
従兄の醍醐は、穐斗や蛍のお母さんである風遊と結婚したのだった。
風遊も蛍もとても美人で、羨ましい……。
自分は、そんなに美人ではないし、器用な性格でもない。
ただ、母の紅葉と伯母の櫻子が、いつも嘆くのは、
「ほんに、娘が二人もおる言うのに、一人は本を読んでいたら幸せ……もう一人は……」
竜樹は、完全なオタクと化していた。
いや、京都オタクである。
京都中を移動して、歴史の場所を調べ歩き、それをネットにあげている。
その情報は姉にも流れ、実は優希は小説を投稿していたりもする。
「あら?おとうはん、おかあはん……どうしはったんでしょう?みなはん」
優希は首をかしげる。
優希は、読書や勉強が好きで、然程べべや化粧に関心を持たなかった。
一度叔母と母に、
「基礎化粧品と日焼け止め」
「日傘だけは忘れたらあきまへん‼」
と言われたため、怠っていないが、化粧は久しぶりである。
雛菊と伯母に手伝ってもらったのだが……。
「べべ、似合いまへんでひょか?スーツの方が……でも、べべの方があては好きなんどす……」
「いやいや、ようにおうとるきに、驚いとるんや」
「そうでっしゃろか……恥ずかしいおす」
髪の毛は毎日両親が手入れを慣行。
くるくるとした肩までのウェーブの茶色の髪はふわふわ揺れる。
日傘を差し、入学式会場に向かう時にカメラのシャッター音が響く。
とっさに、
「ひっ!……」
竦み上がる優希を抱き寄せ、賢樹は、
「君は?突然何も言葉もなく娘を撮らないで戴けないかな?」
「賀茂はんの養女でっしゃろ?4年前に……」
「個人情報を探るのは気に入らないね。君は何処のカメラマンだね?」
賢樹は厳しく誰何する。
しかし、黙ったまま優希を撮ろうとするのを、つかつかと近づいてきた二人の青年が、
「止めろ‼大学の入学式に、何しに来とるんで⁉」
「ほんとに、やだね……やっ!優希久しぶり‼」
「こらぁ‼何でお前が挨拶するんだよ‼」
「やだねぇ、狭量。それよりも、あのカメラマン……」
構えようとしたのを、取り上げる。
「やめんか‼ボケが‼」
「警備員さん‼個人情報を根掘り葉掘り聞く、この人どうにかしてください‼」
「カメラに……ほら!」
やって来た警備員に、デジカメの映像を見せる。
「これ、隠し撮りって言うか、犯罪じゃないですか?」
「ありがとう、君たち‼来い‼お前‼賀茂はん失礼しました」
連れられていく男を見送り、
「ほんにありがとうございます。助かりました」
頭を下げて、にこっとわらう。
父から教わったのだが、二人の青年は硬直している。
「あ、あの……大丈夫で……あ、忘れとりました。すんまへんでした。あては賀茂優希言います。よろしゅうおたのもうします」
くくくっ……
と笑っているのは父。
どうしてだろう?
首をかしげると、
「優希‼忘れたんか。俺を‼」
「かずの意見に同意するのは不本意だけど、俺の事も忘れた?」
「えっ?……」
人の顔をじっと見るのは良くないが、ついまじまじと見つめ……、
「か、主李くん?実里くん?」
確認するように、祈るように告げる。
声は低くなったが、伯父の嵐山ほどがっしりではなくバランスのよい体躯の美青年と、温厚そうなホッソリとした青年。
「そうだよ‼優希約束しただろ‼ここに入学するって。だから俺は必死に……」
「かずは危なかったんだよ~。でも絶対に優希と同じが良いって」
「お前だって‼」
「……会えた、ですね……」
涙が溢れる。
「わぁぁ‼泣くな‼優希‼ごめん‼遅くなってごめん‼本当は去年の2月にと思ってたけど、受験勉強で……」
「それにさぁ、自分がいけないからって俺にも行くなって。まぁ、学校があったんだけどさ」
渡されたハンカチで涙を拭きながら、
「会いたかった……会いたかった……。一回修学旅行にきなはられたでひょ?」
「まだ入院中で会えなかった……」
「そうそう。それに自由時間も場所が決まってて。な?」
「そう。悔しかったなぁ……」
「で……」
聞こうとした優希に、
「優希。式が近いよ。行かなければ」
「はい、おとうはん。主李くん、実里くんもいきまひょ?」
つつがなく式は進行し、終わると、
「おとうはん、おかあはん、主李くんと実里くんを家にご案内してもよろしいでひょか?」
と問いかける。
賢樹は、
「構わないよ。行こうか」
運転するのは父の賢樹。
「すごい。クラシックカーですね。大事にされてる……きれいに磨かれていて」
「おや、良く解るね。主李くん。私の愛車だよ」
「実は俺……私も、クラシックカーを。買ったのではなく譲っていただいたのですが……綺麗にすればするほど、車も喜んでくれると思って……」
「それはいいことだよ」
会話が弾む。
実は京都は車が不便である。
中心部は特に渋滞が多い。
これは観光都市であるゆえんだが、京都には名所が多く、もし壊して道を……となると、国宝、重文級の文化財が消える。
その為、バスや地下鉄、もしくは洛西に向かうには電車がいい。
しかし、優希の住む地域にはバスが多くとも迂回が多く、大学に行くためにはどうしようかと思っていた。
父に頼むのも悪い。
バスを乗り継げば……。
「おとうはん。バスの定期券は何処で買えますやろか。大学に合格が決まってしばらく、おじさまのお家にいさせてもらいましたよってに、何も……」
「はぁ?優希。今言ったじゃないか‼車があるって‼」
「えっ?毎日迎えに来てくれはるんですか?それは、あきまへん……」
「あ、忘れていたよ。優希。紹介するよ。家に下宿する守谷主李くんと菊池実里くん」
「えっ?」
硬直し、二人を見る。
「き、聞いてまへん。おとうはん、おかあはん……え、ちょ……空いているお部屋は離れですよね?」
「そうそう」
「いつの間に……」
「空いてるからいいと思ってね。ほらついた。優希。案内しておいで。離れ以外は二人ほとんど行き来していないから」
「は、はい‼」
車を降り、家というよりも屋敷を案内する。
「ここが玄関どす」
「玄関から立派‼」
感心する実里。
「あぁ、離れにも裏口が……」
「あれが裏口か‼」
「はい。竜樹が学校が近いのでつことります」
「……すごいわ」
キョロキョロ見る二人、と、
「おかえりなさい~‼あ、先輩たちも」
「あ、主李。俺、竜樹と話す。二人でどーぞ」
「じゃ、行くか」
主李は手を握り、歩き出す。
大きさは違ってしまっていてもその温もりは、あの頃と同じ……。
胸に点る思いも、切なさも、喜びも、初恋の頃のまま……。
少し歩いて、主李は振り返る。
優希の右手を取り、見つめると笑顔になる。
「……着けてて、くれたんだ……」
レインボームーンストーンの指輪。
「はい、宝物です……」
「俺も今日はここ」
胸を押さえる。
「優希。もう一度言ってもいい?」
「は、はい?」
握られた手が、熱い。
頬も赤いだろう。
それでも、見上げる。
「俺は、優希が好きだよ?」
ハッキリと丁寧に……4年前と同じ一言に胸が熱くなる。
首をかしげ、
「優希は……?返事を聞かせてほしい」
「わ、私は……」
いろいろなことがあった……。
悲しいことも、苦しいことも……。
辛くて、涙ばかりだった。
でも、近くにいて支えてくれた……。
大事な……特別な人……。
優希は息を吸い、口を開いた。
「私は、主李くんが好きです……だ、大好きです‼」
そっと、背を包み引き寄せる腕。
その温もりに、身を寄せる。
「ありがとう……これからも、好きだよ?」
優希は、希望していた京都の大学に合格した。
中高一貫教育の学校に編入したものの、そこはお嬢さん学校のため、外部の進学校に高校は入学し、勉強に、読書に、そして嫌いではない礼儀作法や着物の着付け、茶道、華道、香道、日本舞踊、琴も楽しみつつである。
あまりの優秀さに、両親は頭を抱えたが、優希は優希らしく成長し、普通に希望通り大学に進学した。
進学したのは歴史や文学、古文漢文などを中心に学べる科。
入学が決まったときに、優希は珍しく大喜びした。
入学式に、選んだのは着物である。
選んでくれたのは従兄の紫野の奥さんで、雛菊。
本当はイングランドの人で、行方不明の穐斗の姉である。
穐斗は優希と別れて半年もしない間にイングランドで誘拐され、行方不明なのだという。
双子の妹がいて、生まれたときから連れ去られていて、その妹の代わりに連れ去られたままなのだという。
優しくしてもらった穐斗がいなくなったのは悲しいが、双子の妹の蛍と祐也が結婚した。
従兄の醍醐は、穐斗や蛍のお母さんである風遊と結婚したのだった。
風遊も蛍もとても美人で、羨ましい……。
自分は、そんなに美人ではないし、器用な性格でもない。
ただ、母の紅葉と伯母の櫻子が、いつも嘆くのは、
「ほんに、娘が二人もおる言うのに、一人は本を読んでいたら幸せ……もう一人は……」
竜樹は、完全なオタクと化していた。
いや、京都オタクである。
京都中を移動して、歴史の場所を調べ歩き、それをネットにあげている。
その情報は姉にも流れ、実は優希は小説を投稿していたりもする。
「あら?おとうはん、おかあはん……どうしはったんでしょう?みなはん」
優希は首をかしげる。
優希は、読書や勉強が好きで、然程べべや化粧に関心を持たなかった。
一度叔母と母に、
「基礎化粧品と日焼け止め」
「日傘だけは忘れたらあきまへん‼」
と言われたため、怠っていないが、化粧は久しぶりである。
雛菊と伯母に手伝ってもらったのだが……。
「べべ、似合いまへんでひょか?スーツの方が……でも、べべの方があては好きなんどす……」
「いやいや、ようにおうとるきに、驚いとるんや」
「そうでっしゃろか……恥ずかしいおす」
髪の毛は毎日両親が手入れを慣行。
くるくるとした肩までのウェーブの茶色の髪はふわふわ揺れる。
日傘を差し、入学式会場に向かう時にカメラのシャッター音が響く。
とっさに、
「ひっ!……」
竦み上がる優希を抱き寄せ、賢樹は、
「君は?突然何も言葉もなく娘を撮らないで戴けないかな?」
「賀茂はんの養女でっしゃろ?4年前に……」
「個人情報を探るのは気に入らないね。君は何処のカメラマンだね?」
賢樹は厳しく誰何する。
しかし、黙ったまま優希を撮ろうとするのを、つかつかと近づいてきた二人の青年が、
「止めろ‼大学の入学式に、何しに来とるんで⁉」
「ほんとに、やだね……やっ!優希久しぶり‼」
「こらぁ‼何でお前が挨拶するんだよ‼」
「やだねぇ、狭量。それよりも、あのカメラマン……」
構えようとしたのを、取り上げる。
「やめんか‼ボケが‼」
「警備員さん‼個人情報を根掘り葉掘り聞く、この人どうにかしてください‼」
「カメラに……ほら!」
やって来た警備員に、デジカメの映像を見せる。
「これ、隠し撮りって言うか、犯罪じゃないですか?」
「ありがとう、君たち‼来い‼お前‼賀茂はん失礼しました」
連れられていく男を見送り、
「ほんにありがとうございます。助かりました」
頭を下げて、にこっとわらう。
父から教わったのだが、二人の青年は硬直している。
「あ、あの……大丈夫で……あ、忘れとりました。すんまへんでした。あては賀茂優希言います。よろしゅうおたのもうします」
くくくっ……
と笑っているのは父。
どうしてだろう?
首をかしげると、
「優希‼忘れたんか。俺を‼」
「かずの意見に同意するのは不本意だけど、俺の事も忘れた?」
「えっ?……」
人の顔をじっと見るのは良くないが、ついまじまじと見つめ……、
「か、主李くん?実里くん?」
確認するように、祈るように告げる。
声は低くなったが、伯父の嵐山ほどがっしりではなくバランスのよい体躯の美青年と、温厚そうなホッソリとした青年。
「そうだよ‼優希約束しただろ‼ここに入学するって。だから俺は必死に……」
「かずは危なかったんだよ~。でも絶対に優希と同じが良いって」
「お前だって‼」
「……会えた、ですね……」
涙が溢れる。
「わぁぁ‼泣くな‼優希‼ごめん‼遅くなってごめん‼本当は去年の2月にと思ってたけど、受験勉強で……」
「それにさぁ、自分がいけないからって俺にも行くなって。まぁ、学校があったんだけどさ」
渡されたハンカチで涙を拭きながら、
「会いたかった……会いたかった……。一回修学旅行にきなはられたでひょ?」
「まだ入院中で会えなかった……」
「そうそう。それに自由時間も場所が決まってて。な?」
「そう。悔しかったなぁ……」
「で……」
聞こうとした優希に、
「優希。式が近いよ。行かなければ」
「はい、おとうはん。主李くん、実里くんもいきまひょ?」
つつがなく式は進行し、終わると、
「おとうはん、おかあはん、主李くんと実里くんを家にご案内してもよろしいでひょか?」
と問いかける。
賢樹は、
「構わないよ。行こうか」
運転するのは父の賢樹。
「すごい。クラシックカーですね。大事にされてる……きれいに磨かれていて」
「おや、良く解るね。主李くん。私の愛車だよ」
「実は俺……私も、クラシックカーを。買ったのではなく譲っていただいたのですが……綺麗にすればするほど、車も喜んでくれると思って……」
「それはいいことだよ」
会話が弾む。
実は京都は車が不便である。
中心部は特に渋滞が多い。
これは観光都市であるゆえんだが、京都には名所が多く、もし壊して道を……となると、国宝、重文級の文化財が消える。
その為、バスや地下鉄、もしくは洛西に向かうには電車がいい。
しかし、優希の住む地域にはバスが多くとも迂回が多く、大学に行くためにはどうしようかと思っていた。
父に頼むのも悪い。
バスを乗り継げば……。
「おとうはん。バスの定期券は何処で買えますやろか。大学に合格が決まってしばらく、おじさまのお家にいさせてもらいましたよってに、何も……」
「はぁ?優希。今言ったじゃないか‼車があるって‼」
「えっ?毎日迎えに来てくれはるんですか?それは、あきまへん……」
「あ、忘れていたよ。優希。紹介するよ。家に下宿する守谷主李くんと菊池実里くん」
「えっ?」
硬直し、二人を見る。
「き、聞いてまへん。おとうはん、おかあはん……え、ちょ……空いているお部屋は離れですよね?」
「そうそう」
「いつの間に……」
「空いてるからいいと思ってね。ほらついた。優希。案内しておいで。離れ以外は二人ほとんど行き来していないから」
「は、はい‼」
車を降り、家というよりも屋敷を案内する。
「ここが玄関どす」
「玄関から立派‼」
感心する実里。
「あぁ、離れにも裏口が……」
「あれが裏口か‼」
「はい。竜樹が学校が近いのでつことります」
「……すごいわ」
キョロキョロ見る二人、と、
「おかえりなさい~‼あ、先輩たちも」
「あ、主李。俺、竜樹と話す。二人でどーぞ」
「じゃ、行くか」
主李は手を握り、歩き出す。
大きさは違ってしまっていてもその温もりは、あの頃と同じ……。
胸に点る思いも、切なさも、喜びも、初恋の頃のまま……。
少し歩いて、主李は振り返る。
優希の右手を取り、見つめると笑顔になる。
「……着けてて、くれたんだ……」
レインボームーンストーンの指輪。
「はい、宝物です……」
「俺も今日はここ」
胸を押さえる。
「優希。もう一度言ってもいい?」
「は、はい?」
握られた手が、熱い。
頬も赤いだろう。
それでも、見上げる。
「俺は、優希が好きだよ?」
ハッキリと丁寧に……4年前と同じ一言に胸が熱くなる。
首をかしげ、
「優希は……?返事を聞かせてほしい」
「わ、私は……」
いろいろなことがあった……。
悲しいことも、苦しいことも……。
辛くて、涙ばかりだった。
でも、近くにいて支えてくれた……。
大事な……特別な人……。
優希は息を吸い、口を開いた。
「私は、主李くんが好きです……だ、大好きです‼」
そっと、背を包み引き寄せる腕。
その温もりに、身を寄せる。
「ありがとう……これからも、好きだよ?」
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