優しい希望をもたらすものは?

ノベルバユーザー173744

主李は、必死に探すのでした。

賢樹さかきは、祐也ゆうやの家の優希ゆうきの愛犬に会いに行く。

祐也の父、朔夜さくやは、

「……何でしたら、家で引き取りましょうか?」
「いえ、優希が悲しみますわ。向こうで、きちんとしつけスクールに通わせようおもてます。私たちもちゃんとあの子に寄り添えるように致します」
「まだ、落ち着いていないので、落ち着くまではこちらで。落ち着きましたら京都にお連れします」
「えぇんですか?お忙しいのに」

朔夜は寂しげに微笑む。

「優希ちゃんの苛めや虐待は、薄々気がついてました。でも、私は獣医で、かずきくんの主治医と言うだけで手を出せませんでした……祐也のように、また助けられませんでした……」
「祐也はんでっか?」
「祐也は私の実の子じゃありません。妹の前の夫との子供です。父親の父……祐也の祖父の名は……」
「……‼」

賢樹は驚く。
脂ぎった、肥え太る政治家。
女性差別、他国での人種差別発言だの、賢樹からみれば、

「ただのバカ」

である。
罵声しか浴びせられず、バッシングを自分が偉いと思い込む。
自分が発言する段にはしどろもどろ、文章をきちんと読めない。
これが日本の政治家……この国の代表かと恥ずかしいと思っていた。

「妹は好きな男ができました。この街で育って、大学は県外で目新しかったんでしょう……遊びらしいものはしませんが、友人たちと合コンで一人の男と知り合った……国家公務員のこの男の息子です。そして子供ができた。そうすると、この男が妹を罵り、自分の息子を堕落させたと。その上、息子の子供のわけがない、下ろせ‼と。私は妹を子供は生んでもいい。でもあの男は信用できない。結婚はするなと……そう言いましたが、別れず結婚し、外交の仕事のために着いていって生まれたのが祐也でした。妹の前の夫は、その頃には自分の本性をあらわにして、『お前のせいで父が、金をくれなくなった。お前が稼いでこい‼その体で‼お前と結婚したせいで‼』と殴る蹴るをして、息子を守って何度もボロボロにされ、向こうの友人の家に駆け込んで助けを求めて離婚したんです」
「……大変でしたな……」
「いいえ、祐也は向こうが取上げ、妹は息子を取り戻すんだと働き始めました。その時に私を通じて知り合った男と恋に落ちて結婚したんです。祐也を迎えに行く。返してくれと連絡しても、会いたくないといっているとか、電話にも出さない……子供を身ごもっていた妹や妹の夫ではいけないと私が、オーストラリアに行きました。前の夫のその男の家に行くと、祐也はおらず、オーストラリア大使館に駆け込んで、警察にも頼み、探すと、首都から反対側までヒッチハイクして移動していたんですよ。人に怯え、警戒する祐也を、まずは髪を切り、お風呂にいれ、服を着替えさせて、もう、野生児でしたよ」
「あのボンがですか?」
「えぇ、あの子がですよ」

クスクス笑う。

「スラングの強い英語で、『あのおっさん嫌い‼おばはんも‼あいつらも‼殴るし蹴るし、飯くれない‼残り物を食べようとしたら殴られた。学校にも行かせてくれなくて、逃げ出したんだ‼最初にヒッチハイクしたおっちゃんが、身を守るための方法とか、獲物のさばき方とか、変な人間から襲われないように、逃げる方法とか教えてくれたんだ‼それにお金ももらった。これも、何なのかなぁ?なんかあったら出せって』って出してきたのが、あっちの国の有名なアスリートの写真とサイン。『この子は私の可愛い孫だ。誘拐や手を出してみろ、私がお前を締め上げる‼』って書いていて……祐也つれて、その方のところに行って謝罪にお礼」

名前を聞くと(  ̄- ̄)になる。
彼は、敵に出来ないだろう。

「で、事情を説明したら、彼が泣き出して、『祐也は私の孫だ‼いくらでも援助をしよう‼』と、今でも贈ってくるので、大丈夫ですよと言うんですけどね……妹のところでは萎縮するだろうと家の息子として引き取りました。他の子はあの性格ですし……」
「あぁ……4人で仲良しですね」
「それぞれがもううろうろするのを祐也がまとめて、大丈夫と思ったら妻が……」
「あら、わたしがなあに?あぁ、賀茂かもさん。ようお越しくださいました。だんだん。あ、かずき君ですが、優希ちゃんの名前を呼んでますの。来たのかと思ったのでしょうか?」
「優希を?」
「ゆぅぅ~‼あうひうう……ってウニウニ言ってますわね」



その言葉に案内されていくと、わんわん吠える犬の中で、知的な瞳の犬が、エリザベスカラーをつけていた。
エリザベスカラーは通称になるものの、エリザベス一世の時代の立った襟にそっくりな、柔らかいプラスチックなどで、動物の顔を覆っているものである。
あれは、野性時代の名残で、傷は嘗めて治す動物が、せっかく治療した傷を嘗めたり、ガーゼなどをとったりしてはいけないため、つけておくものであり、治り始めると外す。
しかし、頭にも体にも重い傷を負っているかずきにはもうしばらく必要である。

「かずき。優希ちゃんは今日は来ていないんだよ。優希ちゃんは怪我をしてね、しばらく会えないんだ」

その朔夜の声に、心底がっかりとした顔の犬。
俯き、顔を背け、ふてくされると言うよりも悲しんでいる。

「……かずき?こんにちは。賀茂賢樹かもさかきだよ。この前、会いに来たけれど、お話があるんだ」

身動きはしないが耳がピクッと動く。

「かずき。優希は実はね?竜樹たつきと一緒に、おじさんのお家に行くことになったんだ。昨日、実は優希が大怪我をしてね?こちらではなく、おじさんの家で、おじさんの娘として暮らすことになった。病院もそっちに移るんだ」
「……」
「かずきの症状を聞きに来たんだ。優希が、何度も『かずき』『かずきとおる』って言ってね?でも、優希は本当にひどい怪我で、ダメなんだ……でね?かずき。お願いがあるんだけど聞いてくれないかな?」

なに?

と言いたげに見つめる漆黒の瞳に、

「元気になったら、おじさんの家に、優希のいる家に帰ってきなさい。優希が待ってるから。ここで大丈夫って言われるまではダメだよ?かずきの家は、ここから遠いんだからね?いいね?」
「わうん?」
「ん?」
「おうーん?あうひ、ゆううううー‼」
「多分、いいの?かずきは優希ちゃんと一緒でいいんですか?みたいです」

その言葉に頷くように、賢樹を見る。

「あうひ、あうらゆぅぅ~‼」
「かずきは優希ちゃんのことがアイラブユーだそうですよ」
「それはすごい。熱烈だね。かずきは。うん、大丈夫だよ。おじさんは、毎朝森を散歩するからね、一緒に変なものがないかとか探してくれないかな?優秀なパートナーになりそうだね」
「おう!」

吠えたのではなく、そう返事をした娘の愛犬の賢さを、思い知ったのだった。



そして、主李は、

「母さん‼青い薔薇売ってるお店知らない?」
「は?青い薔薇?そんなのないわよ。主李も和真かずまもお母さんにカーネーションすら贈ってくれないのに」
「は?白いの送ったじゃん‼」

テレビを見ていた兄の和真に、拳が舞う。

「白いカーネーション、贈るアホがいますか‼親不孝もの‼」
「え?何で?」
「赤いカーネーションは普通に‼白いカーネーションは亡くなったお母さんにあげるのよ‼」
「なんだ~、だからたくさん安く残ってたのか」
「ボケ‼」

拳が見舞われる。
その横で、必死にネットで探すと、

「……え、エェェェェ‼めっちゃたっかい‼……しかも売ってない……ネットで今日は金曜日で発送が月曜日じゃ無理だ……」

愕然とすると言うよりも、落ち込む。

「どうしたの?主李」
「……優希が月曜日に京都に行くって……それで……」
「今必要なの?」
「……約束したくて……このままじゃ嫌なんだ‼せっかく、せっかく……」

唇を噛む。

「あぁ、『花言葉』ね?『奇跡』とか『夢叶う』でしょう?」
「う、うん。聞いたの……」
「でも、ダメよ~、突然高い青い薔薇何て引いちゃうわよ」
「だって、実里みのりに白い薔薇って大笑いされて……」
「深紅の薔薇は『あなたを愛しています』。つぼみは『純粋な愛に染まる』だけどちょっと大人だもの……もう、チューリップにしなさい‼チューリップ‼」

母の一言に、

「チューリップ咲いてないよ?もう、終わってるし……」
「あら、そうね……でも、今は一年中咲いてるでしょ?」
「そっか……」
「お母さんの知り合いに聞いてあげるわ」

電話を掛けると、

『ごめん、白と黄色しかないわ。花言葉は『失われた愛』、『望みのない恋』』
「……ダメね……家の主李が好きな子と別れちゃうからって最初ブルーローズを贈るって言い出して……」
『ねぇ。季節落ちで捨てられる寸前のブルーローズの苗ならあるけれど?あげるわよ。それに、ピンクローズは幸福って言う意味なの。仕入れているわよ?いつ?渡す日』
「月曜日ですって」
『あら、じゃぁ、朝作って届けるわ。お金はいくらかしら?』
「主李?お小遣いいくらだすの?」

主李は振り返り、

「全部‼貯金も崩す‼」
「……駄目だわ……ごめんなさい。おバカさんで。大体、中学生の子がはじめての彼女にプレゼントしたい程度でいいの……」
『ふふふっ。じゃぁ、苗は全部あげるわ。で、花のお金はプレゼントするわ』
「えっ!何言ってるのよ‼払わせるわよ」
『良いのよ。気持ちを贈らないとね』



花屋の友人は微笑む。
友人の息子の成長に祝福を願ったのだった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品