JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

聖夜に神への祈りを

12月24日。俗に言う「クリスマス・イブ」であるこの日、春田家はいつにも増して忙しい。
「理央、準備できた?」
「まだー! ヒロくん、部屋の飾り付け手伝ってー!」
–––––彼らの愉快な仲間達が集まってクリスマス・パーティを行うためだ。
理央の友達である篠原紗英しのはらさえ三嶋叶子みしまかなこと白星かのんの3人はまだ学生なので、いくらクリスマスだからといって夜中に騒ぐのは安全上問題がある。しかし春田家は裕臣という大人がいるので、彼と彼女らの家族も安心して任せられるからだ。
全寮制の学校に通っている礼央もこの日は帰省してくるので、いっそう賑やかになる。
そして今、理央と裕臣の二人はそろそろやってくる客人をもてなすための準備に追われているのだった。


百均で揃えた赤と緑のモールやオーナメントで綺麗に飾り付けられたリビングは華やかで、見ているだけでも心が躍る。普段はクローゼットに仕舞いっぱなしのツリーやリースも引っ張り出され、埃を取り除かれた状態で室内に彩りを添えている。
この日の為に夕べのうちから仕込んだビーフシチューにターキー、その他様々な料理もあと少しで出来上がる頃合いだ。宅配ピザも頼もうかという案もあったが、さすがに余してしまうだろうということで却下された。
もちろんケーキも理央が手ずから作っており冷蔵庫で冷やされている。
「……さすがにケーキは買った方が良かったんじゃないの?」
「えー、何言ってるのヒロくん、やっぱりここまで色々作ったらメインのケーキだって作らないと気が済まないよ! あー、早くみんな来ないかなぁ」
オフホワイトのニットワンピースにクロスモチーフのネックレスを下げた理央がにこにことご機嫌な笑顔で言う。天然である栗色の髪はリボンで緩く結ばれ、左手に嵌めた銀の指輪が照明を受けて輝いている。
無邪気そのものといった彼女の表情を見る度に、裕臣の心は何より満たされるのだ。ずっとこの笑顔のままでいてほしいと切に願う。彼にとっては、それが何よりのクリスマスプレゼントだ。
「理央、あとでみんなが帰ったあとにさ。……二人だけで出掛けようか」
「ヒロくんと? もちろんいいよ!やった、どこへ行くの?」
「それは、まだ内緒。きっと驚くよ」
イタズラっ子のような顔つきの彼に、理央は怪訝に思いつつも笑みを向けた。


夕方になり、辺りが暮色に染まりゆく頃。
今日の招待客である紗英、叶子、かのんに礼央の4人が揃って春田家を訪れた。ここへ来る途中に合流したとかで、礼央は彼らと初対面のはずだが既にすっかり打ち解けている。
「やっほー姉ちゃん! あと裕臣も! あ、これお土産。あとで二人で食べなよ」
元気いっぱいに第一声を上げ、片手にぶら下げていた紙袋を手渡す。
「礼央! ありがとう、これなあに?」
「へっへっへ、聞いて驚け! 博多の明太子だ!同室の奴が九州の生まれでさ、お歳暮にってくれたんだ」
「明太子か、朝食にピッタリだね! あ、今日泊まってくなら明日の朝ごはんに出すよ」
いつもはなんだかんだと口うるさい姉が上機嫌でそんなことを言うので、シスコンと自覚済の礼央だがちょっとだけ気味悪く思った。もちろん本人には絶対言わない。
「い、いやいいよ。もうホテル取ってあるしせっかくのクリスマスイブなんだから二人で過ごせば?」
「あれー? どうしたの珍しく気が利くじゃなーい! まさか、彼氏でもできた?」
ろくでもないことを言い出す理央に、一瞬彼は惚けた。
「は、はああああ?? 馬鹿言うな、そんなの絶対有り得ないからっ!!」
「だよねぇ、あんた姉馬鹿だしそんなことある訳ないかあ」
まるでコントか何かのような姉弟の会話は聞いていて面白いが、客人をいつまでも玄関に立たせるわけにもいかない。放っておけばいつまでも続けそうな二人のやり取りを無理やり切り上げさせ、裕臣は全員をリビングまで誘導した。
「いぇーい、クリスマスおめでとーう!」
「なんだよその音頭……」
妙な開始宣言と共にクリスマス・パーティはスタートした。パーティといっても基本的に飲んで食べて騒ぐだけである。
ホスト役である理央達は、食べ盛りの学生達が来るのでけっこうな量の食べ物を用意したのだが、あっという間になくなってしまった。高校生の胃袋を嘗めてたわ、と理央は愕然とする。
「失敗した、やっぱりピザ取れば良かったね」
「だな……。まさか1時間で全部平らげるとは思ってなかったよ」
うなだれる二人をよそに、ゲスト達はスマホでパーティ向けのアプリでもやっているのか大盛り上がりだ。携帯を手にゲラゲラ笑っている。
しかも一体誰が持ち込んだのか、テーブルにはチューハイの空き缶がいくつか転がっていた。もちろん理央達ではない。学生が集まるのにアルコール類を用意するわけがない。
「ってことは……。叶子おぉ!! あんた、未成年のくせに酒持って来るんじゃなーい!」
見た目の割に意外と根は真面目な紗英や基本的に優等生のかのんが酒を持ち込むことはない。礼央はそもそも寮暮らしなので酒を入手する機会自体がない。
そしてこういう時にやらかす奴はもう読めている。叶子しかいない。
礼央ですらきちんと法律を守っているというのに、と理央は思わずガックリと肩を落とした。
「もう! 来年は家に呼ばないからね、特に叶子はぜーったいに!」



一丁前に遠慮のつもりなのか、学生組は9時前には捌けていき、ついでとばかりにお土産のお菓子まで置いていった。中身は見ていないが、おそらくかのん特製クッキーだろう。彼はそういう気を利かせるタイプだ。
「楽しかったねー、またああしてみんなで集まりたいなぁ」
「何言ってんのさ、これから何度だって集まれるよ。……卒業が全ての終わりじゃないんだからさ」
年が明け、もう何ヶ月かすれば彼女は桜ノ宮学園を卒業する。4月からは志望していた大学に推薦で入学することが決まっており、そうすると今のメンバーとは離れてしまうことになる。
かのんは製菓系の専門学校、紗英は保育科のある短大、叶子は……おそらく就職だろう。彼女は現在、経済的に苦しい状況にあると聞いている。
「心配するな。……あの子達は大丈夫だよ。それは、理央が一番よく知っているだろ?」
「うん、……そうだね! 私はみんなを信じることにするよ!」
この先どうなるかはわからない。……けれども決して悲観などしなくていいと–––––、彼女はようやく、素直に思った。



子どもの時間が終われば次は大人の時間だ。
深夜、裕臣に連れられ理央はマンションを出た。向かう先は聞いていない。何度尋ねても秘密の一点張りだ。
「ねー、いい加減教えてよ。一体どこに向かってるの?」
「まあまあ。あともうちょっとで着くから……ほら、見えてきた。あそこが目的地だよ」
彼が指し示す先には、十字架を掲げた瀟洒な造りの洋館が聳えている。
「え、あれ……教会?」
「そうだよ。まさか、近所にあんな立派な教会があるって知らなかったろ?」
「うん、初めて見た!」
マンションからはそんなに移動していない。正確な時間はわからないが、たぶん歩き始めて15分は経っていないはずだ。
「……どうしても、理央と一緒に来たかったんだ。そりゃ、お祈りなんてする柄じゃないとわかっていたけどさ」
今にも泣き出しそうな表情で裕臣は囁くように言った。
ヘタレか、と思わず理央は内心で呟いたものの彼の思いが分かるだけに口にはできない。
神にでも祈らねば、二人の穏やかな日々など些細なことで弾けて消えてしまいそうで。
いつだって世界は自分達に優しくないんだということを、二人はもう幾度となく思い知らされてきたから。


礼拝堂に入ると、時間帯が遅かったからか説教は終わってしまっており、既に聖歌隊による合唱が始まっていた。
伸びやかな歌声に乗せて、賛美歌が高らかに響き渡る。キリスト教徒ではない二人にその歌の意味はわからないけれど、聞いているだけで心が洗われるようだった。
「……綺麗だね、またこうしてこの歌を聴けるかなぁ」
「……あぁ。聴けるさ。何度でも」


二人が捧げた神への祈りは届くのか、それとも–––––。

「JKは俺の嫁」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く