JKは俺の嫁

ノベルバユーザー91028

第9話 そうだ、野外に行こう②

結論から言うと、別に地獄の山登りというわけでもなかった。彼らが目指すキャンプ場のある山は、大して標高が高くないからだ。
……しかし。ここには、普段全く運動をしない人間が少なくとも二人はいる。
つまり、その二人にとっては中々にきつい道程と言えた。


「はぁ……、はぁ……。だめ、もう死ぬっ……!」
「うおえっ、やば、吐きそう……」


げっそりとした顔で、運動音痴組の裕臣とかのんは荒い息を吐いた。
白い額からは玉のような汗が転がり落ちており、頬は真っ赤に上気している。
普段はクールな雰囲気を漂わせているとは思えないほどだ。
かのんなど、女子生徒から王子様みたいと称えられている美貌は見る影もない。


ノロノロと亀の歩みで歩く二人より、もう少し先を軽快に進む瑞穂が、思いっきり高笑いした。
「ほーっほっほっほ!あははははバカみたーい!無様ねぇ、普段サッパリ動かないからそんなクタクタになるのよ!少しは理央ちゃんを見習えば?」
馬鹿にしている。
明らかに喧嘩を売っている。
悪役じみた瑞穂のニヤニヤ笑いにプッチンときた二人は、いつも仲が良くないくせにこの時ばかりはタッグを組んだ。


「……白星くん。絶対に、あいつを見返してやるぞ!」
「はい、春田さん!さすがにアレはむかつくわ。フフッ……負けてたまるか」
(くくっ、大、成、功☆さぁ、もっと近付くがいいわ!そしてオネーサンにもっとイイもの見せてちょうだい♪)
–––––まさか、自分たちが妄想のネタにされているとも知らず。
彼女の奇行をよく知る村崎は、心の中でこっそり合掌する。
(……すまん!俺にはもうどうしようもできん!二人とも、頼むから夏の有明には近付かないでくれよ……)


さて、キャンプのお楽しみといえばもちろん食べ物である。
青空の下でジュージューとバーベキューをするのも良し、みんなでカレーを作るのも良いだろう。
カレーとなるとだいたい薪の燃えかすが入って、焦げ臭くなったりするのもよくあることだ。意外とそれが美味しいのだが。
彼ら五人も例の如くカレーをメニューに決めていた。
最近のキャンプ場はとても便利で、以前のように道具や材料を持ち込まなくてもよくなっている。事前に申告すれば運営側が用意してくれるのだ。
というわけで、さっそくクッキングスタートしたのはいいのだが。


「……で、カレーってどうやって作るんだっけ?」


そう–––––カレー係をくじ引きで決めた結果、なんと料理初心者が見事に当たってしまったのである。
「男子厨房に入るべからず」を地でいく村崎、味覚音痴の瑞穂の二人が。
これはヤバイと悟った理央が急きょピンチヒッターとして仲間に入る。
「あのっ、私も混ぜてくれませんか?いつも家でやってますから……」
頼むから断るなよ!と残り二名が視線を送った。それなりに舌の肥えた彼らは、せめてまともなカレーが食べたいと切に願う。
思念テレパシーが届いたのか、不安要素の塊みたいな二人は快諾した。おそらくは自分たちの腕前に自信がなかったためだろう。
そっと見守る彼らがガッツポーズをしたのは言うまでもない。


結局、男手のいる作業をあてがわれた村崎は一人孤独に薪を拾い集める。ちなみにかまどを整えるのも彼の役目だ。
きゃっきゃと賑やかな女性陣の様子を遠目に眺め、羨ましそうに呟く。
「……べっ、別にあの中に混ざりたいなんて思ってないんだからねっ」


幸いなことに、瑞穂は味オンチではあるが料理が全くできないわけではなかった。高校の家庭科で習った技術はきちんと使える。
ただ、少し手つきが怪しいだけで。


「ああっ、危ない危ない!瑞穂さん、包丁を使うときは猫の手ですよ!左手をグーにしてくださいっ」
「おっとぉ!鍋を直に触ったら熱いですよ!ほら、ここにミトンありますから」
「あわわ、瑞穂さんコショウ入れすぎです!あんまり掛けると辛くなりますよ」


次々に繰り出される指摘の嵐に、彼女はすっかり肩を落としてしまった。
「なんか……ごめんね……。私の方が年上なのに教えられてばっかりで」
ハハ……、と乾いた笑いを浮かべる瑞穂の背中をばしん!と叩き、理央はニッコリと屈託なく微笑む。
「大丈夫ですよっ!あのね、料理は丹精込めて作れば、そのうち上手くなります。……私も、ヒロくんと一緒になる前は全然、ダメダメでした」
はにかみつつ彼女はお玉で鍋の中身をかき混ぜる。瑞穂が具材を切ったため、茶色いソースに浮かぶ野菜たちはごろごろと大きい。食べ応えはありそうだ。
ふわーんとカレー特有の良い香りが周囲に漂う。
「……そういうものなの?アタシ、あいつのためにご飯作ったことなくてね。ちょっと分からないなぁ」
「そーゆーもんですって。ていうか、多分、私よりも弟……礼央っていうんですけど、あの子の方が上手ですよ」
穏やかに告げる彼女の脳裏には、真っ黒に日焼けした顔が思い出されていた。
そういえばしばらく実家に帰っていないなぁ、と内心でこぼす。
自他共に認めるブラコンである理央は、もうすっかり弟に会いたくなっていた。
「ああ、礼央くんね。そういや、しばらく会ってないわね。今度遊びに行ってもいいかな」
「もちろんですよ!きっとあの子も喜びますっ」
火加減と煮込み具合を確かめ、そろそろいいだろうと炎を弱める。アウトドアの経験は少ないが、部活で何度も合宿している理央には容易い。
飯ごうで炊いたご飯を紙皿によそい、手際よくカレーを盛りつければ完成だ。仕上げに持参した福神漬けを乗せる。
「さっ、カレーのできあがりー!みんなお昼だよーって……あれ?」
そこでパタリと気付く。


かのんは一体何処へ行ったのだろう?
あと、他の男性陣は?




その頃。一人の少年が貞操の危機にあっていた。
とあるログハウスの中、グフフと怪しすぎる笑い声が響く。
「さぁ、ご開帳と行こうか?ねえ、白星かのん君……?」
大きな瞳に涙を溜め、彼は必死に救いを求める。


「ひっ……いや、だっ……!だ、誰か、たすっ…助けてぇ……!」


少年の運命や如何に!

「JKは俺の嫁」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く